第239話 地獄の公爵

 今宵の矜侍さんの配信が始まったと言う声を聞いて、俺は今宵に見せてくれと頼んだ。


 「もー、仕方ないなー」


 今宵はソファーに寝そべりながら見ていたノートパソコンを手に持つと、テーブルにノートパソコンを置いて俺の隣に座る。

 俺たちが稼げるようになる前までは、ノートパソコンなんて高価なものは持っていなかったのだが、今では家族全員が1台ずつ持っていてアイテムボックスに入れている。

 

 ちなみに今宵のノートパソコンはなぜかゲームもしないのに最新のグラフィックボードが搭載されていて超高性能なものだったりする。

 俺のノートパソコンはそれより二段階ほどレベルが落ち……それでもハイスペックなのだが、アステリズム関係の配信で編集をしたりするのは基本的に俺で……やるせない気持ちになるのは何故だろう。


 さらに、今宵のクラフトスキルで装備……剣や盾が新品状態に保てることが判明し、ノートパソコンなどの電子機器も常に新品状態になることがわかった。


 「俺も最新のグラボグラフィックボードが搭載されたノーパソを買えばよかった!」


 「えぇ……? 急にどうしたのお兄ちゃん。お兄ちゃんは時間があれば最近はダンジョンに行くんだから、最新のゲームなんてしないし必要ないでしょ?」


 お前もな!

 いや、常にクラフトスキルで新品同様になるなら、良いものを買えはずっとそれを使える。

 コスパコスト対費用で高性能なものほどお得になるじゃん!


 「てか矜侍さんの配信が始まったってまだ配信前の待機画面じゃん」


 今画面に映っている映像は、広大な……ダンジョン? 東京ダンジョンで言うなら洞窟タイプではなく、空と地面がある6階層とか12階層みたいなところが映っている。


 「矜侍さんの配信が始まる前はいつもこんな感じみたいだよー。海外の検証ニキって人が言うには、どこかのダンジョン内だろうって話だよ」


 今宵は理解して言っているのかわからないが、検証ニキって検証する人ってことだろ? たぶん個人のことじゃないぞ。

 あと検証ってことは実際に調べているはずだけど……調べられているとは思えないからそれ検証してなくないか?


 「検証って実際に調べたってことだぞ? 海外の有名な探索者だったとして、矜侍さんの検証は無理じゃないか?」


 「なんでお兄ちゃんはそんな些細なことを気にするの! あ! なんか竜っぽいのがカメラに近づいてくる!」


 今宵の声を聞いて画面を見ると、ドラゴンっぽい……いや悪魔? 3つの首を持つとんでもなく強そうな何かがカメラに向かってやって来ていた。


 「なんだアレ。ヴリトラは双頭だったけど、それの倍以上の大きさで三頭龍……ヒュドラか? いやヒュドラが三頭というのは小説で書かれているくらいで、実際は九頭だっけ? なら三頭で有名どころはズメイかアジ・ダカーハか? でも頭の一つが人間ぽくて悪魔にもみえるんだよな」


 「クズさんなら学園祭で成敗したよ!」


 そいつじゃねぇよ!

 それ二年生の九頭くとう先輩じゃん。

 お前はわかって言ってるだろ?

 学園祭の後で知っている人? って聞かれたから、6階層でウルフに襲われた時の黒幕かもって教えたじゃん。

 ちなみに今宵のその時の反応は、『高校二年生が黒幕ってたいしたことなさそう』だった。

 いやまあ、本当の黒幕は九頭先輩の父親・九頭夜浪くとうよるなみだろうけどな?


 「と言うかお兄ちゃん。この怪物さん私たち二人でも勝てそうになくない?」


 「画面越しなのにヤバさがこれでもかってぐらいには感じるな。待機画面の他の人たちのチャットでも見たことがないドラゴンみたいな感じで書かれてるし」


 「矜侍さんの配信は海外からでも日本語に翻訳されてチャットが流れるのが良いよね」


 「いや、俺たちの配信も結構前からそうなってるぞ? 矜侍さんが改良してくれた」


 「えぇ……。海外からのコメントがないから、人気がまだまだだと思ってたのに!」

 

 俺たちがそんな感じで話していると、三頭竜がまさに目の前と言う所まで来ていて、カメラ越しなのに威圧感が物凄い。

 チャットでは悲鳴だけが書き込まれ続けている。

 てか書き込める時点で……、画面越しだから実は大丈夫と思ってそう。

 俺がそんなことを思ったその瞬間、三頭が同時に斬り落とされたかと思うと、炎が上がりその三頭竜は消滅した。


 『まさかブネ・・が復活しているとは。驚かせたみたいで悪いな。で、今日は報告があってLIVE配信をすることにした。見に来てくれてありがとう』


 三頭竜が消滅した後に、転移でカメラ前に現れた矜侍さんが何事もなかったように挨拶し会話を始めた。


 ”ブネってまさか地獄の公爵の一柱ひとはしら、ソロモン72柱のブネ!?”


 ”ソロモン72柱!? 知ってるのはバアルとアモンくらいだわ”


 ”ルシファーは?”


 ”それは王だから72柱ではない”


 ”ハエの王・ベルゼブブなら知ってる。あれ? 七大罪の暴食ベルゼブブだっけ?


 ”ベルゼブブ=バアルな”


 ”ほえー 物知りニキ助かる”


 矜侍さんのブネと言う発言でチャットが盛り上がる。

 えぇ……。ソロモン72柱の地獄の公爵を瞬殺しちゃったの?


 『ん? 何だお前ら、俺の報告よりブネの方が気になるのか? 魔界ってそもそもダンジョンが派生したようなものだぞ。だからあいつ等は殺しても時間経過でリスポーン復活するだろ』

 

 ”衝撃の新事実。魔界はダンジョンの階層の一つだった”


 ”ってことは矜侍さまは魔界に今いると言うことですか!?”


 『んー? 今いる所はダンジョンだな。説明すると難しいんだが、この階層は魔界の一角を切り取った亜空間……ブネがフィールドボスとして30くらいの軍団を率いてる。まあ、ルシファーが堕天ダンジョンマスターして……ってこんな話はどうでもいいか』


 ”いや、そこ重要!”


 ”堕天したらダンジョンマスターになるの? そしたら矜侍様は……”


 世界的な新事実がサラッと言われてサラッとどうでも良いことのように切り上げられた。

 ブネと言う悪魔は知らなかったが、矜侍さんの口から出たルシファーは老若男女誰でも知っているようなメジャーな名前だ。

 チャットではもっと魔界のことを話してほしいと書かれているが、書き込む人も一気に増えて目で追えなくなってきた。


 『よし、人も増えて来たな。それじゃあ今回配信を始めた理由を話すぞ。ロ〇アから回収したダンジョン内でもLIVE配信できるカメラを使いたい人を募集していたんだがな、問い合わせが多すぎて争奪戦をしてもらうことにした』


 ”争奪戦?”


 ”カメラをめぐってバトルロイヤル?”


 『あー、それともう一つ。海外からの問い合わせも多かったが、今回は日本国内限定だ。ちなみに俺の独断と偏見で参加者は招待していて既に日程と参加の可否は確認している。招待したなかで一人と言うか一チームだな。Axis Clanアクシズ クラン(枢軸になる集団)のトップに参加を打診したんだが、あのクズヤロウ九頭夜浪はトワイライトが解散してからNO.2に格上げされたクランのチームを参加させたいと言ってきやがった。まあ面白いから参加させたがな。それじゃ、その争奪戦に参加するチームを発表する』


 矜侍さんはそう言うと、10チームの発表を始めた。

 どうやら出場チームには、政府のトップチームと探索者協会のチーム、国立校の代表から国立第一北(玄武)と国立第一東(蒼龍)が選ばれていた。

 これは歴代の卒業メンバーでも教員であっても、そこに所属をしたことがあればOKらしい。

 さらには、TV局の代理チームが2つ、国内探索者のトップチームが2つ、Axis Clanから1つ。

 

 『次で最後だな。視聴者も知りたいだろう。コイツらの実力を! アステリズムチーム!』


 ……は!? 聞いてないんですけど!?

 矜侍さんは参加の可否は確認したと言っていたのに!


 「わー! まさか今宵たちも参加ができるなんて。楽しみだね、お兄ちゃん!」


 その後の配信で、東京ダンジョンの25階層からスタートして3日間での到達階層や矜侍さんが隠したカードにそれぞれポイントがあり、一番ポイントをとったチームが優勝でダンジョン内でLIVE配信ができるカメラを優勝賞品の一つとするらしかった。


 いや、俺たちはもう持っているんだが。

 それにしてもメンバーが六人までOKらしいから、後の二人は父さんと母さんか?

 実力的には父さんと母さんで決まりなんだが参加をしてくれるだろうか?


 トゥルルル


 「あ、キィちゃん。そうそう今宵もビックリ! さっちゃんにも通話を繋げようよ」


 俺がメンバーのことを考えているとキィちゃんから今宵に電話がかかり、どうやらさっちゃんも含めて三者間で通話するようだ。


 「ん? 俺にもメール? って矜侍さんからだ」


 矜侍さんからのメールには、今宵たちがリアルで有名になりすぎているようだからもっと強いやつがいると言うことがわかればそう言った熱も下がると言うことだった。

 同年代はお前たち自身が自分たちより強いやつがいると知らしめろと書かれている。

 そしてなぜかメンバーの一人に椿を入れろと言うことが書かれて終わっていた。

 いや、25階層からって椿にはまだ無理じゃないか?

 俺は困惑しながらも三人で通話をしている今宵たちに矜侍さんからのメールの話をするのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 今回は最後の参加メンバーで悩み、変更があるかもしれないです。

 いくつかあるルートの案(キャラが行動した場合)の一つです。

 ただ、矜侍は自分の与えたアイテムで不備(マイナスの感情増幅)があったことに納得していないです。


 


 

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