第237.2話 進撃の今宵③
「ダンジョン6階層の仕返しの件で来たのなら……あそこまでするつもりではなかった。ちょっとした嫌がらせを頼ん――」
急に九頭さんが訳の分からないことを私に言うので、私は手を前に出して会話に待ったをかけ言葉を遮る。
「ごめんなさい。もう時間が12:15分を回ってて……。お兄ちゃんとご飯も食べたいし、先に対戦を終えたみんなも待っていると思うので、すぐに始めてもらっていいですか?」
「……そうか、兄の件は水に流してくれると言うことか。わかった。審判、お願いします」
え? お兄ちゃんに関わることを話していたの!?
水に流すってことなら、先の二年生二人のようにお兄ちゃんに嫌がらせでもしたのかもしれない。
6階層で思い当たるのは、MeTuberのイオリさんと……オオカミさん大量発生……。
そう言えば仕組まれた可能性の話をしてたっけ。
あの時は一緒に野営をする相手が気になりすぎちゃって、結局は確認しに行っちゃったんだよね。
それに、あれはたしか私やマコトちゃんたちを襲ったトワイライトのせいだって聞いたし……と考えていると、お兄ちゃんがそのクランマスターに刺されたことを思い出して気分がムカムカしてきた。
冷静にならないと!
……ふぅ。
でもまあ今は時間もないし、後でお兄ちゃんに聞けばいっか。
ここで倒しておけば、何かあってもやり返したことになると思うしね!
兄への嫌がらせは、妹がしっかりとわからせておくからねっ!
「それでは午前の部、最後の試合です。
お兄ちゃんが昼食を既に食べ始めているかもしれないと焦った私は、開始の合図と共にフェイントを入れながら近づき、速攻で勝負を決めようと剣を振るう。
「パリィ!」
兄の元へ急ぐため、今日一番の動きで相手に迫った私の剣は、その声と共に弾かれる。
「ソニックスラッシュ」
私が剣を弾かれて態勢を崩したところに、ここぞとばかりに音速の斬撃が複数展開された。
「
思考加速の中で、私は出来得るなら使いたくなかったスキル……
万が一を考えて、私たちは自分たちが実力を出してもバレないように、使えるスキルと似た別のスキルを申告している(偽装ステータス上でも一応表示)。
至近距離で攻撃を受けたのでなければ、もっといろいろ対応することはできたけど、攻撃を弾かれて態勢を崩された上での複数の音速攻撃、しかもおそらく衝撃波も付随していたことだろう。
咄嗟にスキルを使わずに防ぐ場合は、彼と同じような攻撃を放つか体内魔力を相手の威力以上に高めて防御をするしかない状況だった。
その行為は……スキルの効果で躱すよりも、私の異常性に気がつかれてしまうだろう。
「パリィ……。時々お兄ちゃんが使っているけど、良い効果だよ……ねっ!」
私は九頭さんの攻撃を躱した後で話しかけ、話し終える間際に踏み込んで剣を振るう。
「……これでも剣術部のエースと
私たちは剣戟を行いながら、会話をする。
観客席はここまでの多くの対戦で、どちらかが一方的に勝つ内容ばかりだったためなのか、連勝中の私と国立校上位の戦いへの興奮なのかどこまでもボルテージを上げた歓声が聞こえる。
一部、『犯罪者の息子!』だとか『四肢切りのロリ』と言うような罵倒もあるけどね!
しかし困ったな。
はじめの音速の攻撃レベルがかなり高かったので、あれ以上の攻撃があるとも思えない。
だから、接近して連続攻撃をすることでそのスキルの発動を抑えているんだけど……、剣術の熟練度は明らかに相手の方が高くて、私はステータスでそれを補っている状況だ。
一気に決めたくとも、偽装ステータスにないようなスキルや魔法は使えない。
偽装した構成は戦闘に特化したものではあるけれど、攻撃に関してはゴリ押しで行けるだろうと考えていた。
特に、
後は……お父さんがレベル6を超えた時に取得した生活魔法が、ダンジョン攻略には使えないと馬鹿にされ身体強化を取得することが推奨された話を聞いて、私は今回の枠の一つに生活魔法を入れている。
戦闘でも生活魔法が役に立つとわかれば、野営を含めて誰か一人は取得しておく必須の魔法になることだろう。
私は剣を切り結びながら東校の現状を変えるついでに、生活魔法の価値上昇を考えて、状況打開に生活魔法を使うことに決めた。
思い立ったら即行動!
私は打ち合う剣に力を込めて九頭さんを後ろに押し出し、距離が少し空いたことを確認すると、
「疾風迅雷」
影残を使用して九頭さんの頭上へとジャンプする。
一度つかって見せちゃってるし何度使っても問題ないよね!
「ウォーター、疾風迅雷」
そこで生活魔法のウオーターを使って、九頭さんの顔面へシャワーのように水を噴射すると、私は影残をもう一度使って背後に回り込んだ。
「ペッ、も、漏らした!?」
「誰が漏らすかっ!」
九頭さんは私が使ったウォーターを私のおしっこと勘違いする。
戦闘中に飛びあがって漏らしたらそんなの病気だよね!?
いくらなんでも酷い風評被害に私は怒り……隙を見せた九頭さんの胴体へと剣を振るった。
「グハッ」
九頭さんの防御が思いのほか高くて胴体を切断することはできなかったが、4分の3まで切り込んだ剣を私は引き抜く。
脳内に血液が残っている間は意識があるようで、私に九頭さんは攻撃をしようとするが、胴体の殆どを剣で切断されている状況では腕を動かせるわけもなく……九頭さんは倒れ込んだ。
「勝者、蒼月今宵! ……まさか5連勝をこの目で見るなんて」
審判員は私に勝ち名乗りを挙げた後で、小さく私が5連勝したことの驚きを呟く。
この審判員は、私たちが無駄口を叩いていても審判の役割を果たしていた。
それでも自校のランカーが全滅するという状況は信じられなかったのかもしれない。
闘技場を出ようと移動していると、テレビで時々見かけるインタビュアーさんがやってきた
「蒼月今宵さん! どうもNH〇の有働由紀子です。今日は綾瀬さん、琴坂さんがこのイベントが始まって以来の最年少記録を塗り替えたところでした。そこから半時もかからないうちに、他の国立校でも起きたことがない出場登録されたメンバー全員……五人全員の撃破という歴史的……今日は歴史的と言う言葉を何度も使ってしまっているのですが、史上かつてない記録を打ち立てました! 今のお気持ちをお聞かせ下さい」
興奮を隠せないと言ったテンションで、私にマイクを向ける。
「うーん、他のみんなも時間が許せば到達できた記録だと思いますし……、こんなものではないでしょうか」
「じ、時間が許せば勝てた……確かに桐島桃香さん以外は無傷で対戦を終えられていますが……。時間が許せばとはどういう事でしょうか?」
「この闘技場の特性であれば傷は回復するので、桃香ちゃんも連勝したと思いますよ? 時間が許せばと言うのは、この後でおに……兄の……1-5の演劇をみんなで見る予定になっているので、対戦数を今宵以外は少なくしてました」
九頭さんはかなり強かったので全員が倒せるわけではないけど、みんな負けてないし、来年の今頃なら今日の九頭さんは勝てるだろうからちょっとくらい盛った話をしても問題ないよね!
「な、なるほど。お兄さんもこの学校に通われていたのですね。それが強さの秘訣ですか」
「いえっ! 兄が強さの秘訣は間違いではないんですけど、東校に通っているからではないですよ。それは今日の対戦結果を見ていただければわかると思います」
「さ、最後に一言お願いします」
「今日一緒にここへ来た……、きぃちゃん、マコトちゃん、桃香ちゃん、聡君、さっちゃんは、東校を受験するつもりでーす! 先輩方よろしくねっ!」
私は私たちが対戦をしている途中から、闘技場の観客席に東校の制服を着た人たちの多くが、満員で席に座れず立ち見の観戦をしにきていたことに気が付いていたので、彼ら彼女たちに向かって満面の笑みを浮かべて手を振った。
来年行くから、
「はい、前例のない記録を打ち立てた、蒼月今宵さんでした。現場からは以上です」
インタビューを終えた私は、私を待っているであろうみんなの所へと急ぐのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
本文外。
これにて、第六章『カーストの先へ』完結です(たぶん)。
キィちゃん(偽装ステータス)、今宵(偽装ステータス)、九頭和茂のステータスを載せておきます。
九頭君は父親が指名手配されるまでは、剣術部のエースとして期待されていましたが、父親が犯罪者として逃亡してからは、実力は変わっていないにもかかわらず、それまで調子に乗っていたことと合わせて、不都合なことには触れないかのようにエースだとは言われなくなっています。
その後、剣術は裏切らないと熟練度をあげて(6だと達人級)ソニックスラッシュを手に入れました。
<名前>:綾瀬 季依(ステータス偽装中)
<job> :戦士
<ステータス>
LV : 21
力 :B
魔力 :D
耐久 :D
敏捷 :C
知力 :C
運 :D
魔法 :なし
スキル:身体強化 剛力 俊足 危険察知
<名前>:蒼月 今宵(ステータス偽装中)
<job> :剣士
<ステータス>
LV : 21
力 :C
魔力 :C
耐久 :C
敏捷 :B
知力 :C
運 :B
魔法 :生活魔法5
スキル:武術全般3 身体強化 疾風迅雷 直感
<名前>:九頭 和茂
<job> :剣士
<ステータス>
LV : 24
力 :C
魔力 :D
耐久 :C
敏捷 :C
知力 :C
運 :D
魔法 :なし
スキル:早熟 剣術6 身体強化 身軽 見切り
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます