第237.1話 進撃の今宵②

 ☆ -今宵視点―


 「1年を倒したからって調子に乗るなよ!」


 「その1年生と変わらない順位の潮田しおださんですよね?」


 鏡さんが担架で運ばれるのを見送り、しばらくすると剣に小楯を装備したオーソドックスなスタイルの潮田武志しおだたけしさんがやってきた。

 言動と肩幅の広い体格から、私はこの人をジャイアンと名付ける。

 どうやら、この人はお兄ちゃんに負けて、お兄ちゃんの順位までランキングが落ちているみたいだった。


 「女だから、中学生だから手加減されるとでも? 前の二人はそうだったかもしれないが、悪いが俺は手加減をするつもりが一切ない!」


 ……たしかに、実力に差がなければ、力量を判断するのは難しいかもしれない。

 でもそれは、鏡さんと実力が変わらないジャイアンのことであって、それを簡単に倒した相手の力量さえ分からないものだろうか?

 気配や内包する魔力、雰囲気と言った通常では目に見えないものから、自分自身の動きと相手の動きの比較などと言ったように、力量をはかすべは幾つもあるのだ。


 「是非、全力でお願いします。1分以上あなたが立っていられるのなら、鏡さんより強いでしょう。でも、見た感じだと戦えば負けると思うよ!」


 「ふざけたことを!」


 勝手に怒って私に文句を言ってきたのに、言い返すとさらに怒るってどうすればいいの?

 あ、負けてあげましょうか? おほほ とか口に手を当てて言った方が良かったのかなぁ。

 そこからの~~瞬殺! みたいな?

 結局の所、何を言っても怒るのだから、理不尽だなと思っていると審判員が近づいてくる。

 


 「これより潮田武志しおだたけし VS 蒼月今宵 の第三試合を開始します。両者かまえて……はじめ!」


 試合開始の合図と共に、私はスキルを使うことなくジャイアンの横へと到達すると、まず両足を剣で斬り飛ばし、その後に両腕も切り落とした。

 その間に、ジャイアンが動けたのは目線をこちらに送るだけ。

 私の1戦目と2戦目を見ていなかったのかな? この反応速度(目線だけ)だと、1・2戦の動きも見えてないはずなんだけどな、と私は考える。

 動きが見えていないのに自分の方が強い宣言をさすがにしないだろうと思い直して、反応できないだけで見えてはいたのかもしれない。

 実際に対戦してみると、体がついていけなかったパターンなのかな。

 

 さすがに4ヵ所からの出血では、止血をしなければ1分もかからずに死亡判定になるようだ。

 特に右手の上腕動脈辺りからの出血がひどいことになっている。

 攻撃した私でドン引きなのに、聞こえる大音量の声援が凄い。

 四肢から吹き出る血を見て、私は首まで落とさなくて良かったと安堵した。


 「勝者、蒼月今宵!」


 対戦後のビーッという音と共に、闘技場にあった血だまりは消えるし、切断された四肢も元通りになるので、エンターテインメントとして楽しまれているのだろう。


 「鏡さんより決着がつくのが早かったですねっ! 兄妹きょうだいに揃って敗れる気持ちはどうですかっ?」


 ジャイアンが立ち上がり退場していく時にこちらを忌々しそうに見ていたので、私はトトトっと近づくと、少しだけ前屈みになり上目遣いで鏡さんより弱いと言う事実を突きつける。

 心の友、キィちゃんが今の私には宿っている! ででん。

 潮田さんは私を一度殴ろうと構えるが、兄妹と言う言葉に反応した。

 

 「蒼月ってお前まさか……、アイツの妹なのか!?」


 なんだかみんなが驚くから、お兄ちゃんの妹ですってバラすのが楽しい。

 ジャイアンは悔しそうに蒼月のせいでとか言って、私と対戦する人のヘイトがお兄ちゃんに向かっている気がするけど、東校の悪習を変えて行こうとしているんだからしょうがないよね!


 そして、ジャイアンは次の対戦相手……西町さんに何か伝えて去って行く。

 入れ替わりで私の前にやってきた西町さんが、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で呟く。


 「くそっ、このイベントで勝ちまくって、1年に敗れて失った名声を取り戻すつもりでいたのに。なんでこんなことに」


 「心のこもったお弁当をけなした報いです」


 「そんなことで兄妹揃って!?」


 そんなことでなんてとんでもないよ!

 食べ物と家族を馬鹿にした恨みはダンジョン最深部よりも私にとっては深いのだ。

 私たちがそんな感じでキャットファイトをしていると、審判員がずいっと前に出て西町さんと私を一度ずつ確認して目で語る。

 私たちは、その行為に無言で黙れと言う圧を感じそれに従った。

 


 「それではこれより、西町博之にしまちひろゆき VS 蒼月今宵 の第4戦目を行います。勝負……はじめ!」


 開始の合図と共に西町さんはスキルを使って気配をあやふやにすると、私の横へと周り込み……剣で斬りつけながら、逆の手で素早く懐から何かを取り出して私に投げつける。

 私の注意が剣に向いているなら、この暗器攻撃に気が付かずダメージを受けるのかもしれないし、もし暗器……針攻撃に気が付いて、そちらを対処しようとすれば剣で斬られる。

 ほぼ同時に私へと到達するだろうその攻撃は理に適っているように思える。

 でも……、


 「不意打ちなんて効かないよ!」


 私は自ら一歩踏み出し、先に自分の攻撃範囲へと持ち込むと、投げられた針を剣で打ち返す。

 そしてそれは西町さんの眉間へ突き刺さり……西町さんは目を見開いたまま倒れていく。


 「なんだろう、不意打ちを返されて驚愕するのをやめてもらっていいですか?」


 私は西町さんに話しかけるが、西町さんはすでに息絶えていたようだ。

 

 「勝者、蒼月今宵!」


 ワーッという歓声を聞きながら、私は勝ち名乗りを受ける。

 しかし、西町さんは、結果以上に手ごわかったように思える。

 気配を不確かにするスキル効果については、私には魔力感知があるので効果はなかったけど、剣と暗器での同時攻撃は、もし同じくらいの強さの相手であればどうなっていたかわからない。

 スピードには自信があるけど、そこで差がついていないようだと……短距離転移か影空蝉……あれ? 思ったより対応できる?

 空間魔法にNINJAスキルは効果が頭抜けているかなと思い直して、私は他のやり方で先の対戦をお兄ちゃんが使ってくると想定して――

 

 そんなことを考えていると、最後の対戦相手の九頭さんが、闘技場中央へとやって来たのだった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 次話は水曜日あたりを予定しています。

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