第236話 進撃のDJ今宵
☆ -今宵視点-
私は闘技場に向かいながら、チラリと時間を確認する。
11時45分……。
キィちゃんの対戦が終了した後に、さっちゃんが気が付いてくれたことだけど、このままではお兄ちゃんの午後の演劇に間に合わないのでは? と言う話になった。
しかもパンフレットによれば、昼休憩も30分と短いながらあると書かれている。
キィちゃんの三戦だけでも30分以上を費やしていたため、私以外は全員が1戦予定より少ない対戦にすることに決めた。
そうしていなければ、私の対戦は間違いなく12時を超えていたので休憩時間に突入して、お兄ちゃんの演劇を見に来たはずなのに私だけ見られずに帰ることになっていたかもしれない。
「よ、
時間を気にしながら闘技場中央へと向かっていると、前方から驚きの声が上がった。
合コンの自己紹介では、お兄ちゃん以外を相手にするつもりがなかったので、年齢や学校のことは言わなかったけど、たしかに私以外が第二東校の女生徒ならそう思われるのも仕方がないのかもしれない。
と言うか、お兄ちゃんへの当てつけで考えた名前だったけど、こう面と向かって言われると厨二っぽくて恥ずかしい。
「はぁ……。マコトちゃんに天誅されたのにまだ矯正されてないなんて」
「いやいや、さっき初対面の子に、天誅! って殴られたけど、俺は何もしてないよね!?」
会話をする時間が惜しいので、私は佐々木さんをスルーすると、審判員へと目を向ける。
佐々木さんはこちらに会話をする気がないと気が付いたのか構えをとった。
「それでは、
私は審判員のコールを聞くと、持っていた剣を前方へ放物線を描くように投げつける。
佐々木さんはその行動を見て、なぜ? と言う表情をした後で、私の投げた剣の軌道を見るために上方へと目線を動かす。
「
私はその隙を見逃さずに一瞬で近づくと、つい天誅と言う時の
佐々木さんはその一撃で意識を失い前のめりに倒れた。
そして倒れたと同時に、私が投げておいた剣が佐々木さんに刺さりそうな軌道で落ちて来たので、私はそれを佐々木さんに刺さる前に取ると、剣先を佐々木さんへ向けた。
「勝者、蒼月今宵!」
私の勝ち名乗りを受けて、静まり返っていた観客は大歓声をあげる。
ふっふっふ、私もこれは決まった! と思える勝ち方だからねっ!
私は嬉しくなって観客席に手を振った。
佐々木さんは肉体的なダメージは消えているはずだが、意識を取り戻さないため、担架で運ばれて退場していく。
「次の対戦はどうしますか?」
私が観客へ手を振って一緒に盛り上がっていると、審判をしていた人が次戦のことを聞いてきた。
私は勝った場合は連続で戦うことと、その対戦相手の順番を伝えると、審判員は連勝する気でいるの!? と言う表情を浮かべた後で、ボソリと「既に何人も連勝してるか……」と言いながらイヤホンマイクで運営側に伝えているようだ。
「あ! 疲れてないので、すぐに次の対戦をしても良いですか? 午後から見たい演劇があるので間に合わないと困ります! 今宵が勝ったら、毎回すぐに次の対戦をしたいです!」
「ま、待ってくれ。こちらにも用意が――」
「え、えー!? 東校側が勝った時はすぐに次戦に移っていたのに?」
私の言葉で運営にインターバルなしの話を聞いてくれた審判は、許可が下りたと教えてくれる。
そして、観客は10分休憩があると思って行動しているはずだから、アナウンスさせてほしいと言うと、マイクを持って観客にインターバルなしを伝えてくれた。
まあ、この行動の間に時間が結構経っているので、問題はないと思う。
しばらくすると鏡さんがやってきた。
「イブさんがどうして……」
いきなり名前呼び(偽名の)とか女性慣れをしてそうで、この人はお兄ちゃんに良くない影響をあたえると思った私は、「今すぐ矯正したい。つらいあなたの性格を」と鎮痛剤のテレビCMを連想してしまう。
「お兄ちゃんを惑わす愚物が攻略道にいるなんて。お弁当の
「弁当の仇? いや、それよりお兄ちゃん……。もしかしてアニキの!?」
兄貴呼びをしていいのは妹の特権だけのはずが、まさかお兄ちゃんは同級生に兄貴呼びをされているの?
また一つ、鏡さんを処す理由が増えてしまった。
「二人とも中央へ。……それでは第二戦目、鏡真一 VS 蒼月今宵 対戦……はじめ!」
鏡さんがやって来る時に離れた位置から声をかけて来ていたので、審判員に中央へ移動するように言われてしまう。
そして、審判のはじめ! と言う声と共に振り下ろされた手が試合開始の合図だとわかる。
その合図の直後に、ゴブリンの一つ覚えで鏡さんはスキルを
対戦前までは、鏡さんの「先の先」スキルに対して、私の「
でも、偽装したステータスに後の先スキルは載せていないし、そもそもすでに
さらには……躱す必要もなく、剣を振りかぶった瞬間に私の方が先に攻撃を仕掛けることができるので、一瞬で肉薄すると先手をとれるスキルが発動しているはずの鏡さんより先に私は剣で斬りつけた。
「これは桃香ちゃんの分!」
私はそう言うと、桃香ちゃんが斬り飛ばされた左手と同じ場所を斬り飛ばす。
「馬――」
馬鹿な? かな? 私は鏡さんの言葉を聞くこともなく、斬り飛ばした腕が地面につくより先に鏡さんを蹴り飛ばした。
「これは、
鏡さんは腕を切り飛ばされて驚愕の表情を浮かべていたが、それでも態勢を整えようと今までより素早く次の行動に移ろうとはしていた。
でも私……素早さには自信があるんだよね!
私は鏡さんが態勢を整えるより早く少しだけ半歩下がって溜を作ると、吹き飛ぶように蹴りを放つ。
鏡さんはそれを受けて吹き飛び、闘技場に落ちるとヤ〇チャのような態勢でピクリとも動かない。
「しょ、勝者、蒼月今宵!」
勝ち名乗りを受け、観客席に手を振りながら私は鏡さんの元へと向かう。
今日は鏡さん一人で攻略道の名声を大幅に下げてしまっているので、攻略道に恥じない強さくらいは手に入れてもらいたい。
私が近づくと、鏡さんは意識を取り戻したようでこちらを見上げている。
「先の先スキル……。たしかに良いスキルだし、そこに勝負を賭けようと思うのはわかるよ。でも、何度も攻略されたなら、通じなかった時のことも考えなきゃ。必殺のスキルとして使用するんじゃなくて、相手を崩すために使うとかだよ」
そもそも、先の先スキルって相手が動く前から、事前にこちらの動きがわかるスキルだとして、わかっているのにできていないならそれはわかっていないよね。
相手の方が動きが早い場合や身体能力が高い場合には使えないはずが、鏡さんのスキルは発動している。
スキルが絶対と考えているから、鏡さんは分別を欠く行動をとってしまっている。
でも、そのスキルの常識を私は壊せると知っている。
だいたい、お兄ちゃんくらいになれば、相手にこう動くと思わせて……スキルさえも絶対ではないと知っているから、惑わせることだってできると思うのだ。
年下に助言を受けたことが悔しいのか、鏡さんはプルプルして……、
「アネキ! もっと俺に助言してくれ!」
急にガバっと私の足に縋りついてくる。
そして私を見上げようとして――
ちょ、見えちゃう、見えちゃう!
私は咄嗟に鏡さんを踏みつけた。
「もっと踏んでくれてもいい!」
ヒィィ! もうダメだこの人。
「セクハラぁ!」
バスッ
私は身を躱すと同時に鏡さんに手刀を加えた。
「グハッ……。つい興奮して……すまない」
バタリ
ま、まあ私くらいになると躱せるし、そもそも興奮した相手に近づいている時点でこうなるよね。
でも、こういう時って既に対戦は終わっているのだから、管理運営……ここだと審判員がしっかりとガードして私たちを離すべきなのでは?
私は結局、倒れて動かなくなった鏡さんが担架で運ばれて行くのを見ながら、下着が見られる位置まで近寄った自分を反省するのだった。
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コミカライズ 3.1話 公開中です。
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