第235話 殴りたいこの笑顔


 ☆ -今宵視点-


 モニターからキィちゃんの声が聞こえる。

 インタビュアーにマイクを向けられ、カメラマンがカメラを構えている。

 この控室のモニターはドローン撮影なのかな? 観客席の歓声やキィちゃんの声も明瞭に聞こえるのは謎だが、闘技場の端に移動しているにもかかわらず、キィちゃんとテレビ関係者をしっかりと中心に映していた。


 「綾瀬季依あやせきいさん、登録情報では中学3年生とのことですが、国立第一東校でこの対戦イベントが始まってから東校側に三連勝は一位タイの記録です。また、その時の記録保持者が他校の国立高校の一年生と言うことですので、最年少記録の樹立となりました! 今のお気持ちをお聞かせください」


 「え~? 最年少記録なんですかぁ~? 私は東校に入学するために努力をしてきています。それで自分の力が通用するかなって友達と来てみたんですけどぉ~、努力し過ぎちゃったみたいですね(テヘ」


 東校は能力至上主義で差別的と言う話だったので、私たちは学校を煽ると言うことに決めていたけれど、私にあのキィちゃんの感じが出せるかな?

 親友の私が聞いても、イラっとさせてくるように声色を変えて、煽ることに天性の才能があるように思える。


 「そ、そうですか。対戦相手が弱かったと……。ですが、過去の対戦記録を考えますと、対戦相手が弱いと言うよりも綾瀬さんが天才的と思えるのですが?」


 「え~? 私が天才ですかぁ~? 私は(今宵組)最弱! ククク、私ごときに負けていたらこの後で全敗すると思いまーす」


 キィちゃんが最弱! と言った時に、シュバババっと今朝、私が見せたお兄ちゃんが演劇でする決めポーズをとりながら、負けフラグの四天王のようなことを言っている。


 『な、なぁ。このノリってアステルじゃね?』 『あ! 年齢的にもそうかも!』


 『それならこの強さも納得』 『可愛い ハァハァ』


 ……観客席からキィちゃんが私だと言う声が聞こえる。

 えぇ~? 私ってこんな感じに見えているの?

 アステリズムチャンネル(カメラ)は、矜侍さんの謎技術で正体がわからなくなるように設定されていて、特に本人だとバレそうな場合には、逆に違和感(別人のように)を感じるようになっていると聞いている。

 キィちゃんは シン だとわからないようになっているため、逆に私と思われている!?


 「な 仲間と参戦されていると言うことですね!? それはもしかすると、残りは男性一人カメラマンに女性三人と言うことでしょうか!?」


 「え? あ~…………私を含めて全員で六人です。男性は一人いますけど、中学二年生なので思っている方達とは違いますね。と言うより、彼女たちがこの程度のわけがないですし」


 キィちゃんがこれはまずいと正気に戻り、声色を戻して普通に対応している。


 「ちゅ、中学二年生!? 綾瀬さんはその中で最弱!? そ、それはこの後の戦いも期待できますね」


 「はい。私は(今宵組)最弱でーす。東校は~中学生の時から切磋琢磨してきてぇ~、そうではない一般中学・高校生では勝てないと聞いてキィていたんですけどぉ、季依には余裕でした!」


 「はい、最年少記録を樹立した綾瀬季依さんでした! 現場からは以上です」


 キィちゃんの渾身のギャグがインタビューの時間を圧迫したのかスルーされて、終了した。

 

 「次は私ですね。矜一さんと悪の道ナンパに同行した佐々木さんと鏡さんは絶対に倒します!」


 次に出場するマコトちゃんが、お兄ちゃんに悪影響を及ぼしそうな二人は絶対に倒すと意気込んでいる。

 そして時間になり、マコトちゃんは闘技場へと移動していく。


 マコトちゃんはガントレットを使い始めてから、無手素手で戦闘をすることも多くなっていて、この学園祭でも武器を持たずに戦闘をするようだ。




 マコトちゃんの戦いは無手での戦闘であったのだが、初戦の鏡戦をキィちゃんより早く倒すと、次戦の佐々木戦は開幕後に一直線で向かうと「天誅!」と言いながら殴り飛ばして勝負を決めた。

 佐々木さんは鏡さんに人数合わせで合コンに誘われたと聞いているけど、私たちからすればそれは関係ないからね。

 そしてインタビューでは、マコトちゃんは剣道三倍段の話を重点的に聞かれていた。

 剣道三倍段とは、武器を持っている剣道に対して、無手の空手や柔道などの武道をしているものが相対する時は、段位としては三倍の技量が必要というものだ。

 

 まあ、お兄ちゃんが言うには、剣道三倍段の本当の意味は、得物が長い槍術(または薙刀)を相手にするために剣術の使い手は三倍の技量が必要と言う意味らしいので、無手で武器持ちに対して戦闘をする場合は何倍差が必要なのだろうか?

 

 また、マコトちゃんは二戦で対戦をやめた理由を、朝食を食べていないのでお腹が空いたし、これ以上戦っても負けそうにないからとインタビュアーに答え東校を煽っている。

 まあ、この煽りは、キィちゃんの台本なんだけどね。


 マコトちゃんの後は聡君が出場し佐々木さんに勝利すると、一戦で対戦を終了させる。

 聡君がインタビュアーさんに語った「中二でも名門の東校生に勝てました!」は名言ではないだろうか?


 聡君の後はさっちゃん。

 さっちゃんは、鏡さん、佐々木さんを倒すと、二年生の西町博之にしまちひろゆきさんを指名した。

 西町さんは里香猪瀬ちゃんから聞いていた気配があやふやになるスキルを使ったが、さっちゃんはそれに動じることなく、ファイヤーボールを瞬時に3つ発動した。

 気配が多少あやふやになろうとも、同時に三ヵ所の攻撃を受け……西町さんは熱い……熱い……と言いながら炭化して行く。

 テレビや動画で、ダンジョン内で撮影された映像や過去のスタンピードで起きた凄惨な魔物による災害の場面を見たことがあった私でも、引いてしまうくらいには衝撃映像だったように思う。


 ただ、観客は大盛り上がりで声がかれるんじゃないかと言うほどの大声援だ。

 昔は公開処刑が娯楽の一つと言われた時代もあったようだから、それと同じ感覚なのかもしれない。

 そう考えていると、私は人相手だから心配になっていたが、ゴブリンやオーク相手と考えれば似たようなことを探索者はしていることに気が付いて、そういうものかと思い直した。

 闘技場なら復活できるしね!


 「琴坂佐知ことさかさちさん、綾瀬さんと同じく連勝のタイ記録を樹立しました。今のお気持ちを聞かせてください」


 「特には……。この後みんなと学園祭を回る予定なので、これ以上の連戦をするのは時間の問題で切り上げた感じですかね? ただ、勝てたのは応援のおかげだと思います」


 さっちゃんは勝てた理由を応援のおかげだと言うと、微笑みながら観客席に手をふった。

 それを見た観客は、より一層の声援を送る。


 「三戦目の魔法を瞬時に三発同時に発動させたことは、既にその年齢で熟練の魔法使いの域に達していると思うのですが、初手にその魔法を選択した理由を教えてください」


 「三発同時は相手が気配をあやふやにするスキルを使用したので、その対応として三方向から逃げられないようにするためと面での攻撃をするためです。熟練……今日の午後から見に行く予定の演劇でも三発同時の魔法は使われていると聞いているので、東校では普通のことではないのでしょうか」

 

 「な、長年このイベントを放送してきた私たちからすれば、三連勝を見るのもその年齢での魔法の同時行使も歴史的瞬間なんですが……。ひ、控えめな所が、琴坂さんの強さの秘訣かもしれませんね。では、ありがとうございました!」


 冷静に淡々と答えるさっちゃんと歴史的瞬間というインタビュアーさんとの温度差が凄い。

 そしてさっちゃんはインタビュアーに見せていた顔と違い、大声援を送ってくれる観客には照れながら手を振って退場して行った。



 「ついにアタイの番か。勝てるかな」


 「桃香ちゃん、マコトちゃんもさっちゃんも狙ってやっていたけど、鏡さんは初手でスキルを対応されると次の攻撃への対応が遅れるから――」


 私は桃香ちゃんに鏡さんの弱点と言える先の先スキルを使用された後の隙の話や、攻撃を受けても対戦後は無傷で回復する話をアドバイスすると、闘技場に向かう桃香ちゃんを見送った。

 私が試合後に回復すると言う話をしたのは、きっと無傷ではこの戦いは終わらないから。

 桃香ちゃんがその意味に気が付いてくれていたらいいんだけど。



 「それでは、始め!」


 審判の掛け声とともに桃香ちゃんと鏡さんの試合が始まる。

 鏡さんはゴブリンの一つ覚えとでも言うように、十八番おはこの先の先スキルを使った。

 もちろん、通用すればそこで勝負が一瞬で決まるほどの有用なスキルなので、多用することは理解できる。

 でも、お兄ちゃんを含め既に何人にも攻略をされているなら、通用しない相手への対応も考える必要はあるのではないだろうか?

 さらには今回のように――


 桃香ちゃんは、鏡さんの先の先を躱しきれずに左腕を切り飛ばされて声を挙げたが、意識をしっかりと保ったまま剣を振りきった直後の鏡さんに自分の剣を突き刺した。

 そう、今回のような肉を切らせて骨を断つ作戦にも鏡さんは隙を作ることになってしまうのだ。


 もちろん、それは大きな隙ではないし、腕を切り飛ばすという圧倒的アドバンテージがあるので、通常では攻撃を受けた方がそれより大きな隙を作っているだろう。

 でも、それを最初から狙っていたら?

 少しの時間をおいて、大きく内臓まで傷つけられた鏡さんの死亡判定で桃香ちゃんは勝利した。

 

 痛みで泣き腫らしていた顔も、腕が治ると同時に綺麗にはなったが、インタビューを受けている最中でも気になるのか切られた場所を触っていた。

 お兄ちゃんから聞いてはいたが、死に慣れている東校生と私たちの一番の違いがこれだろう。

 

 「アタイだけが負けるわけにはいかなかった。あの時……ダンジョンで死にかけた時から……ごめんなさい」


 あの時……。

 桃香ちゃんはインタビューであの時を思い出したのか、泣きそうな顔でインタビューを自分から打ち切った。

 ダンジョン内で死にかけ、お兄ちゃんに助けられたあの時を私も思い出す。


 私はお兄ちゃんに少しでも近づけただろうか?

 私は一度目を瞑り集中をし直すと、闘技場へと向かうのだった。

 

 

 

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この時点で、テレビ放送されていて、そこでは試合の解説がされていたり、学校側は事態を重く見てランキング1位に出場を依頼と裏ではいろいろとあるのですが、一人称視点だと入れにくく…書かれてません。申し訳ないです。


 ○○「今から闘技場イベントに出場してほしい? なるほど。聞く限りの情報では参加をしているのは、私様の友であり、未来の攻略道のメンバーです。出場するわけがないですわ!(ばーん」

 

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