第234話 学祭二日目②
☆ -今宵視点-
闘技場の控室に入ると、先に登録を済ませた人が何人かいるようだ。
「ん? 嬢ちゃんたちも参加するのか?」
その中でも一番雰囲気があるおじさんが、私たちに話しかけてきた。
「控室に来てるんだから、当たり前だよおじさん!」
「はは、これでもまだ29歳だ。おじさんは勘弁してくれ。この年齢でC級ってことで、結構有名なんだぞ?」
「へ~。C級なんだ~」
「高校生相手に腕試しは悩んだんだがな、C級以下には負けないと豪語していて、実際に他の国立に通っているやつ以外にはここの生徒は過去に負けたことがないみたいだからな。俺が初めて倒すことになる。腕がなるぜ」
過去にC級が挑戦してないなんて考えられないので、その挑戦者は負けたことになるはずだけど、勝てるのかな?
もし勝たれてしまうと、私が倒してもインパクトがなくなるかもしれない。
でもまあ、一番の目的はお母さんのお弁当を馬鹿にした二人だし……関係ないか。
「すごーい! レベルは幾つなんですか~? あ、筋肉に触ってみても良いですか~?」
キィちゃんが気持ち悪い声を出しておじさんに話しかけている。
「はは、若い子にそう言われるのは嬉しいけど、君は若すぎるな。レベルは21だ。惚れても相手に出来ないから許せ」
「キモッ……」
「ん?」
「あ! 結婚相手とか羨ましいなーって」
キィちゃんって最後まで相手をしないのに、話を合わせる癖は止めた方が良いと思う!
「ははは、彼女は募集中だ。いや待てよ、高校生ならありなのか?」
「私たち中学生でーす!」
キィちゃんは即座に中学生だと言って、話を打ち切った。
29歳と高校生。
アリかナシかであれば、まあナシよりのアリだと私は考えるが、なんだか気持ち悪くなってC級のおじさんを視界から消去する。
この人は何しにここに来たのだろう? その程度の意気込みで勝てるのだろうか。
どうやら、この気持ち悪いおじさんをキィちゃんとさっちゃんが相手してる間に、私たちより先に登録している他の五人のうち、二人と
「今宵ちゃん、どうやらあの男の人は第二東校の1-1クラスの人みたい。しかも1年生の中の1位なんだって」
「あっちの女性も第二東校1-1クラスで、その男の人の話があったので、会話から2位のようです」
桃香ちゃんとマコトちゃんがどうやら情報を集めて来てくれたようだ。
なるほど、第一東校(国立)のランカーを第二東校(公立)が倒しに来たという構図ってことなのかな。
もう二人ほど私たちより早めに登録している人はいるけど、雰囲気的に第二東校の人たちより弱いように思える。
「時間になりました。初戦に参加する方は準備のほどをお願いします。また、こちらでの試合観戦はそちらのモニターで見られます」
控室に実行委員という腕章を腕につけた女性がやってくる。
実行委員の説明によると、対戦後には10分の休憩があり次戦となるようだ。
対戦に勝ち連戦をしない場合には、TVカメラのインタビューもあることが告げられる。
「NH〇! う、ウチの院長は受信料を払っているか心配」
「ぶっ壊ーす!」
桃香ちゃんがインタビューと聞いて養護施設の院長へ不審を募らせ、キィちゃんは物騒なことを言い始めた。
桃香ちゃん、院長先生を信じてあげて!
そしてキィちゃん! 口先で期待させるだけさせて出来ないことは言わないで!
壊していいのはお母さんのお弁当を馬鹿にした二人だよ!
しばらくすると、第一戦目が始まるらしく控室から男性が闘技場へと向かって行く。
モニターで確認すると、どうやら対戦相手は鏡さんのようだった。
「今宵ちゃん、あの対戦相手の人って攻略道なんだよね? でもこの紹介を見ると、今は総合ランク落ちしていて1年生の3位みたいだけどここに出られるんだね」
「お兄ちゃんが成敗したみたい。そこから攻略道に加入って聞いたよ。出場は一度でも総合ランカー入りをしていれば出られるみたいだね。負けるとペナルティですぐに上に挑戦できないらしいから、総合ランク入りしてなくても警戒しないと」
「鏡先輩はレベル21……。あと、このもう一人の佐々木先輩……レベル18の人も矜一さんと合コンに来てた人ですよね。矜一さんに悪影響を与える人は排除しないといけません」
さっちゃんの言葉で鏡さんの事を考える。
鏡さんのレベルが思っていたより高い。
お兄ちゃんに聞いた時だと、確かレベルが18で4回目の壁は超えていなかったはずだ。
桃井先生が彼らを指導していると聞いていたけど、鏡さんの成長を顧みると、話しているとダメ教師みたいな発言は演技だったの?
たしかにお兄ちゃんは桃井先生を信頼しているようなことは言っていた。
そしてマコトちゃんは、鏡さんと佐々木さんがお兄ちゃんと一緒に合コンに参加していた二人ということで黒い笑みを浮かべている。
私も同じ気持ちだからわかるよ!
「あ、始まります」
聡君が声をあげた瞬間、「勝者、鏡!」というコールが響く。
会場からの大歓声が、モニターと壁を超えて控室まで聞こえてくる。
そこから休憩を挟んで、二戦目(勝者:佐々木)、三戦目(勝者:鏡)、四戦目(勝者:鏡)が終了した。
ここまでで約一時間。
二戦目の対佐々木戦(10分)以外は鏡さんが対戦相手を瞬殺している。
特に、三戦目は第二東校1位、四戦目が第二東校2位の二人で、まずはランク落ちしている鏡さんを倒してから、佐々木さんと対戦する予定だと出場前に話していたけれど、佐々木さんと対戦する前に一瞬で敗れてしまった。
「先の先か」
お兄ちゃんから聞いていた先の先スキルのことを思いだし、私は呟く。
第二東校の二人は弱くはなかった。
ただ、相性の問題で、ステータスが負けている場合には、先の先と言うスキルは残虐なスキルと言える。
なぜなら、鏡さんの先制攻撃を、ある程度に防ぐことができなければ、それは致命的なダメージを最初の一撃で受けてしまうと同義なのだ。
「鏡先輩の方が佐々木先輩より弱いという格付けですが、明らかに逆ですよね? ガントレットを持って来ていた方が良かったかな」
マコトが宝箱産の
「さすがにアレはダメだよー。マコトちゃんは
私たちの中で、鏡さんと対戦予定なのは、私とキィちゃん、マコトちゃん、桃香ちゃんとなっている。
正直……、偽装がほとんど関係のない桃香ちゃんでは、鏡さんは厳しいかもしれない。
桃香ちゃんが弱いと言う訳ではない。
ただ、桃香ちゃんたち三人は、どちらかと言えばお父さんたちの仕事を何時も手伝ってくれているので、戦闘の技術よりも解体や剥ぎ取りの技術を伸ばしているために、戦闘特化とは言い難い。
鏡さんとの戦闘前に、それぞれにあった対戦の仕方をアドバイスしておこう。
「ヤレヤレ。ここまでは挑戦者側の全敗か。まあでも、それもここまでだな。おう、嬢ちゃん達! よく見ておけよ、若くしてC級に
私が鏡さんの事を考えていると、おじ……お兄さんが意気揚々と私たちへ声をあげた。
「頑張ってくださいー(棒」
「若くしてC級! 凄いです! 29歳で……ぷぷっ」
さっちゃんとキィちゃんがおじさんの言葉に反応して応援をしている。
こう言う発言で、キィちゃんはいつか
少なくとも、私やキィちゃん、さっちゃん、マコトちゃんより彼は確実に弱いと感じるからだ。
そして対戦がはじまる。
C級おじさんの対戦相手は
第一東校総合ランク4位の相手で、今回対戦できる一番上位のランカーだ。
オリンピックで言えば、ギリギリメダルがない順位、恐らく1位から3位が出場しなくとも勝てると言う学校側のやり口だと思う。
と言うより、九頭和茂……お兄ちゃんに聞いたことがあるようなないような……。
九頭和茂は終始、C級のおじさんを圧倒して戦闘が終了した。
なるほど、これが東校4位。
たしかに鏡さんより強いと感じた。
でも、勝ったにもかかわらず、「犯罪者の息子は引っ込め」と言うような観客席からの罵倒が多いのは何故だろう?
容姿もお兄ちゃんには全く勝てていないものの、優れているように思える。
「ふう。ついに私の出番かー。よし、行ってくる!」
キィちゃんは両頬を叩くと、闘技場へと移動する。
キィちゃんは合計で三戦を予定していて、一戦目に鏡さん、二戦目に佐々木さん、そして三戦目に2年生でお母さんのお弁当を馬鹿にした一人、
現状で挑戦者相手に三連勝中の鏡さんとキィちゃんの対戦が始まる。
鏡さんは、当然のごとく先の先スキルを使ったようだが、キィちゃんはそれをものともせずに突き進む。
今日は代名詞と言える、ハルバードを持って来てはいないが、鏡さんの剣を躱すと、スラッシュを放ち鏡さんにダメージを与えた。
先の先で先手を取られたとしても、これで躱せるということは判明した。
まあ、ステータスで恐らくキィちゃんが上回っていることからできる芸当だとは思うが、私たちからすれば参考になる戦い方だろう。
そこからは鏡さんは防戦一方となり……キィちゃんは勝利した。
さらに二戦目も完勝、三戦目は鏡さんの戦闘と同じくらいの時間はかかっていたが勝利した。
観衆は挑戦者が三連勝した事実を前に大声援を送る一方で、東校側は沈黙している。
そしてこの渦の中心人物はと言えば、カメラに向かって仁王立ちをすると、左手は腰に、右手は軽く前面に押し出すようにピースサインの恰好をしていた。
「うぇーい! 来年、東校を受験してクラブは攻略道に入りまーす!」
モニターからは、キィちゃんの浮かれた声が響くのだった。
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本文外。
29歳でC級なのが有名→(一般から探索者になった中では)有名。
探索者系の学校、特に東校などの国立校に通い探索者になっている場合は、早いうちからC級はもちろんいます。
ギルドランクがD級で食べていけるレベル、C級がプロレベル、B級がその中でも上位のトップくらいの世間の認識です。
おじさんはレベル21になっているので、B級も見据えるかなり有望……ではあります。
ちなみにB級に上がっているとトッププロの意識が出るので、学園祭に乗り込んでくることはまずないです(負けると名声が低下するから)
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