第233話 学園祭二日目

 朝起きてリビングへと向かう。

 学園祭一日目は、学生にのみ解放であったので、午前10時からの開始であったが、二日目は一般客に向けた催しも多くなっていて、午前9時開始となっている。


 「あ、お兄ちゃんおはよ」


 「ああ、おはようってキィちゃんとさっちゃんはもう来てたのか」


 「「おはようございまーす」」


 「父さんたちは?」


 「なんかー最近は会社が好調らしくて、朝早くからサーバルキャットの毛皮を取りに向かったよー」


 日本または世界における毛皮の売買は、消費者の倫理的意識の高まりや団体の活動によって、ダンジョンが出現する前までは毛皮の消費量も大幅な減少を余儀なくされていた。

 しかしながら、ダンジョンの出現により魔物からの毛皮入手が可能となり、防寒素材としての価値が再認識された。

 また、柔らかな触感や手触り、さらにスタンピード魔物氾濫防止の需要もあり、高級防寒着や防具として人気が高まっている。


 「企業から直接に大量の注文を受けたりして、父さんたちも大変だな」


 アイテムボックスに魔法陣転移で輸送費、社長父さんや社員が自ら戦い魔物を倒すことで依頼費が発生しないうちの会社は、原価が他より圧倒的に安く品質も最高なので、企業から引く手あまたであることは想像難くない。


 「それよりも、矜お兄さん! 演劇の方はどうだったんですか?」


 さっちゃんは未来のウチの従業員幹部だと言うのに、会社のことよりも演劇のことが気になるようだ。

 ご聖水スタミナポーション事業部をよろしく頼むよ!


 「おお、上手くいったぞー。午前の方は客入りはイマイチだったけど、午後はかなりの観客が来てくれて盛り上がってた。俺の見せ場もあるし、ファンができたらどうしよう」


 「あ、矜一お兄さんのそう言うのは良いんで」


 俺のファンができるかもという話をすると、キィちゃんに一刀両断される。

 まあ、実際に盛り上がったのは、七海さんの魔法が一度に三発も撃てていたことと、七海さんの衣装のエロさから大人気になっていたことが一番の原因だったので、七海さん様様なんだけどね。さす部さすが、部長


 俺はその後も朝食のパンを食べながら、昨日の出来事を話し俺のアドリブがいかに素晴らしかったかを語る。

 ちなみに、妹……家族には昨日の夜にも似たような話をしているので、その時には「それで? それで?」と続きを促し反応の良かった今宵も、今は大人しく聞いていた。


 「そろそろ俺は先に行くか。とりあえずこれ、チケット五人分。それと一人3000円分の学内で使えるチケットな。マコト達が来たら渡してやってよ」


 「おー! 矜一お兄さん太っ腹! もう痩せてるけど! よ! モテ大臣!」


 「……」


 俺が昨日の公演で頑張った所を話した時には反応が薄かったキィちゃんが、学園祭で使えるギフト券を渡すと急に俺を持ち上げ始める。

 俺はやはり札束が正義かと思いながら、家を出るのだった。




☆ -蒼月今宵視点-


 お兄ちゃんが家を出るのを見送っていると、キィちゃんとさっちゃんがリビングで話している。


 「矜一お兄さんの良さなんて、後から幾らでも今宵ちゃんが教えてくれるんだから自分で語られてもなー」


 「あはは。でも、自分でアピールしてくるところなんて、年上なのに可愛いかなって少しだけ思っちゃった。いつもは自己肯定感が低いのに、あの感じだとかなり『ヒーローショー』は上手くいったみたいだよねー」


 「なになに? そんなにお兄ちゃんの話が聞きたいの? 変身シーンのポーズがカッコいいみたいだから、みんなで応援しようよ! こうシュバババッってポーズとるんだって!」


 私がお兄ちゃんに見せてもらった変身シーンの決めポーズをやって見せると、キィちゃんは「ブラコンだー」と言って逃げるので、追いかける。

 しばらく三人で遊んでいると、チャイムが鳴った。


 ピンポーン


 「はーい」


 私は玄関に向かい、ドアを開ける。


 「あ、今宵ちゃんおはよう」


 「マコトちゃんおはよー! 桃香ちゃんも聡君も。とりあえず上がって!」


 「「「おじゃましまーす」」」


 学園祭で一緒に回る六人が集まったので、今日の予定と作戦をみんなで話し合う。

 東校の学園祭の二日目には、一日目にはなかった高校生以下かギルドランクC級以下であれば、東校のランカーと闘技場で戦える有名なイベントがあって、私たちはそれに参加をすることに決めていた。


 「アタイたちほんとに勝てるかな?」


 「お兄ちゃんに聞く限りでは大丈夫なんだけどなー。相手の強さがどの程度か調べるために、今宵が一番に出ても良いけど、対戦方式がどうなっているかが問題かな。一度対戦したら終わりだと、お母さんのお弁当を馬鹿にした人達を倒せないし」


 「あ、あの! 本当に対戦中や対戦後にあ、相手を僕も煽るの?」


 「聡君には期待だよっ! 同年代で最強だと思っている東校のランカーを一般中学のしかも二年生が倒す……。お兄ちゃんから聞いた話だと、高校から入学した外部生は5組にまとめられてカーストのような格差があるらしいから下克上だね!」


 「今宵ちゃんからしたら、矜お兄さんが学校改革なんかして、有名になりすぎちゃうと困るから、先に上級生のプライドをズタズタにして潰しちゃおうって話な気がする」


 私の下克上宣言に、なぜかさっちゃんが黒い思惑が私にあると言う。

 考えすぎだよ!


 「あ、悪女」


 「誰が悪女か!」


 「「「あはは」」」


 桃香ちゃんがさっちゃんの推論を聞いて、私を悪女とののしる。

 私が否定すると、笑いが起きた。

 皆、さっちゃんの言葉は冗談だとわかっていたようで安心だね!


 「矜一さんの邪魔になりませんか?」


 「マコトちゃんは心配性だなー。ランカーになる人なんて5クラス生をどうせ馬鹿にしてるんだから、お兄ちゃんの敵だよ。倒すときっと喜ぶよ!」


 「「さすが今宵ちゃんブラコン!」」


 私はキィちゃんとさっちゃんの称賛を受けて、それほどでもないよと胸を張った。

 桃香ちゃんがダメだこいつ等みたいな目で私たちを見ている。

 私は、桃香ちゃんにも活躍してもらうよとニコリと微笑んだ。

 そして私たちはいくつかの確認を済ませると、東校へと向かうのだった。





 「ここが矜一さんの通う東校なんですね」


 「ふふふ、人がゴミのようだ!」


 「パルス!」


 マコトちゃんは感慨深く、キィちゃんは人混みでごった返す校内を見て、多くの人が言ってみたいセリフの上位に来そうな言葉を言った。

 そしてさっちゃんは呪文を唱える。


 「さっちゃんのその呪文ははくとか衝撃電流です」


 「えへへ、そのままだとダメかなって」


 マコトちゃんの指摘にさっちゃんは照れながら答えた。


 「ほらほら、入場で並んだせいで時間も押してるんだから。東校マスターの今宵について来て!」


 「「「おー!!」」」


 制服を買いに来た時に一度東校には来ているのだが、私は入場時に貰ったパンフレット兼マップを手に持ち、確認をしながら皆を案内する。


 「あ! あそこが受付かな?」


 私たちは対戦の受付をするところを発見しそこへ向かう。


 「すみません、東校のランカーと対戦したいんですけど、受付はここで合っていますか?」


 「はい、こちらで受け付けています。こちらの用紙にご記入ください」


 私は用紙に、名前やレベル、所持している魔法・スキルを記入しながら、受付のお姉さんにいろいろ質問する。

 結果、わかったことは、対戦相手は指名が出来ること、勝った・・・場合は10分の休憩を挟んで連続5回まで対戦可能ということを教えてもらう。


 「うーん、これだと今宵が一番手はまずいかな?」


 「今宵ちゃんだと勝ち抜いちゃって、その後に対戦する私たちのインパクトが少なくなりそう」


 「それにしても10分の休憩を挟むだけで、連続で対戦しないといけないのはあまりに挑戦者にとって不利ですね」


 「あはは、その通りなんだけど、東校側が負けると高校の価値ブランドが下がるから……。このイベントが開始された初期の頃には、他の国立高校のランカーが挑戦してくることがあってね。三連勝されたことがあって、今のルールになったらしいのよね。でも国立高校同士の交流戦が始まって挑戦者も来なくなっているわね。だから、ここ五年は東校側が負けてないし、連戦する人もいないから……。あ、ごめんなさいね、あなた達が絶対に勝てないと言っている訳じゃないから」


 私たちが挑戦者側が不利だと話していると、受付にいたお姉さんが理由を教えてくれた。

 ホームで負けたらカッコ悪いみたいな感じで、地元有利にしてるってことかな?


 「はいはーい! それなら一番手は私がするー! ここ五年で負けてない相手に中三が勝つって凄くない!?」


 話を聞いて、キィちゃんが一番手の名乗りを上げた。

 そして順番を決めた私たちは、その順番通りに受付用紙を渡す。


 「え? 全員中学生でレベル21……!? ウチのランカーの上位レベル!? それにスキルも魔法もこんなに優秀。年齢的に対戦相手の制限もできない。でも、記入するだけなら嘘も書けるから……、レベルが全員同じでスキルも優秀なんてありえないわよね」


 受付のお姉さんは後半は声が小さくて聞き取りにくかったけれど、今宵たちのレベルやスキルがハッタリだと考えているようだ。

 それでも偽装してるんだけどね。

 対戦相手の制限も、ギルドランクがC級(プラス19歳以上)なら東校の上位ランカーと対戦することになるようだけど、私たちはまだ中学生。

 しかも、年代最強を謳う高校の一つなので高校生以下の年齢ならば、東校側の出場予定の人なら誰を選んでも良いことになっている。


 「私たち、来年は外部生としてここを受けるのでよろしくでーす」


 キィちゃんが受付のお姉さんが驚いた所で、ウキウキで来年受験することを告げている。


 「キィちゃんって、こういう時に負けそう」


 「う゛ 気を付ける」


 さっちゃんの言葉でキィちゃんは気合を入れた。


 「それでは控室の場所をお教えしますので、開始する時間前までに入場ください」


 お姉さんはそういうと、別の案内用の地図を取り出して控室までの道のりをマーカーでわかりやすく説明すると、その地図をくれたのだった。


 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ガンマぷらすでコミカライズ2話後半も更新されてます。

 連載作品一覧から、ジャンルの『学園』か『バトル・アクション』『コミカライズ』『新連載』にあります。

 ジャンルでファンタジーの中の現代ファンタジーにはないので注意してね!

 (先ほど確認するとそこにはなかった笑)

 よろしくお願いします!

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