第231話 学園祭③

 午前の公演が終わり控室に戻った俺たちは、本番での出来を話し合う。


 「いや~、大うけやったな! 最初はなんやウザい上級生がおったけど、最後は何も言えんくらいに悔しそうにしとったで!」


 「ホント何なのあの人たち! 始まる前から妨害してくるなんて!」


 「まぁまぁ、葉月さん。抑えて抑えて。僕ももうダメかと思ったけど、椿の機転に助けられたよ」


 「ありがとうレン。始まる前に二人でデートをした話を聞いていたからなんとかなったよ」


 「「で、デートじゃ!!」」


 「はいはい、おつかれさん。登下校も二人でしてるらしいやん? 隠しててもわれてるんやで」


 「くそ、なんでコイツが。同じモブとは言え戦闘員の俺の方が……!」


 「おい、青木! お前がそんなだから俺もセットでモテないんだよ!」


 「はぁ? 張本がもっと上手く立ち回らないから、第二東校の二人だって水戸と蒼月にとられたんだろ!」


 「青木、張本うるさいぞ!」


 堂島君の言葉で『ヒーローショー』と関係ないそれた話が収まる。

 てか、第二東校の二人は水戸君ラブ? だから、俺には一切関係ないんだよなぁ。

 ダンジョンの6階層で助けたのは俺もいたし、なんなら俺が目立っていたはずなのに……。

 合コンの時だって、ギャルの麻里奈さんは水戸君にばかり話しかけていたから、優しそうな聡美さんなら相手をしてくれるだろうと思って俺が話しかけると、宵闇さんが怖いからとか言って会話をすることさえできず、彼女は俺から逃げるように水戸君に話しかけていた。

 俺もその宵闇さんが怖くて助けを求めて話しかけたんだよ!


 「しかし台本を書いた私が言うのもおかしいが、今回のアドリブ全開の方が観客の反応から盛り上がると思うんだがどうだろう」


 「今日、見に来てくれている人たちは戦闘のエキスパートだから、その人たちのウケが良かったのは成功だと僕も思う」


 「今回の演技はアドリブが多くなったけどー、今までの流れの中からの派生だし次もできると思う。十六夜さんに問題がなければだけどねー。あ、でもヒーローショーなのに、ヒーローのカッコいい決めポーズの名乗りシーンが無くなっちゃったから、そこはいれた方がいいかもー?」


 「確かに」


 どうやら椿は自分の書いた脚本を変更しても問題がないようで、九条君と七海さんの意見を聞いて午後からの公演をどうするか考えているようだ。


 ガチャリ


 「みんな良かったよ! イエーイ!」


 猪瀬さんは控室にやって来ると、出演者とハイタッチをして回っている。


 

「あおっちも面白かった! でもオッス! おらレッド! みたいなのは、別の王道ヒーローになっちゃうことない!?」


 猪瀬さんは「みんな良かった」と言いながら、出演者たちとハイタッチをして回る。

 そして俺の所にもやってきたので、俺はハイタッチしようと手を挙げたのだが、猪瀬さんは手を挙げることなく感想を言う。

 この俺の挙げた手はどうすれば? と戸惑っていると、猪瀬さんと一緒に控室にやって来ていた茅野さんと松戸さんが、控えめに顔の前あたりに両手を出してくれたので、俺は二人とハイタッチをした。優しい。


 「なら、首相も国会で使った必殺技、全集中を最後のボス戦で使おうかな?」


 国のトップが国会で使うほどの技なんだから学園祭で使ってもいいよね? と思い俺は提案する。


 「「「それはダメ!!」」」


 お、おかしいな……、ゆっくりと呼吸をして酸素を多く取り込めば、肺に取り込まれる酸素量も増えて全身の血流量も増える。

 そうなれば、全身の細胞の活性化に繋がる訳で、必殺技として使うにはもってこいだと思ったのだが、声を揃えてみんなにダメだと言われてしまった。


 「まあ、矜一の話は置いておいて、今回の公演で他に気になった所や意見がある人は教えてほしい。台本を書き直そうと思う。それ以外は……学園祭を見て回ったり、食事・休憩にしてくれ。ただし、いくつか変更をするから、午後公演の1時間前にはここに戻るように」


 椿の言葉で青木君たちを含む何人かが退出していく。

 俺はどうしようかなと水戸君を見ると、水戸君は榎本君から戦闘シーンの話をふられていて、榎本君は俺と青木君の戦闘シーンに触発されたのか戦闘の絡みを増やす提案をしていた。

 ヒーローと敵の幹部&ボスの強さを際立たせるために、やられ役の戦闘員がいるのにそれが強かったらダメだろ、時間の問題もあるし椿も苦労するなと思いながら見渡すと、みんなそれぞれで話し合っていた。


 さすがに一人で学校内を回るのは悲しいので、俺も話し合いに混ざるかと動いた所で葉月さんと目が合う。


 「蒼月君も手持ち無沙汰な感じ? 由愛は忙しそうにしてるけど、私はアドリブの場面がほとんどないから聞くだけしか出来なくて。良かったら一緒に回らない?」


 キター! 俺がかつてボッチだった頃でも食事に誘ってくれた二大天使の一人、葉月さんのお誘いを受けて俺の脳内にはファンファーレがなっている!

 しかもタイミングよくお互いにすることがないので二人きり!


 「はい、よろこんで!」


 俺は即座に返答すると、ドアの近くまで移動してドアを開けた。

 そして、葉月さんの気が変わらないように、左手を斜め下にして手のひらをドアに向けて移動を促す。

 俺の頭の中では、執事が馬車のドアを開けてドアの前でしているような紳士な仕草をイメージしている。

 椿が俺のその行動を見て、「え? なんで?」という表情をしていた。

 まあ、レッドが話し合いに参加をせずに抜け出すなんて普通は思わないし、台本を書いている椿からすれば許せない行動かもしれないが、俺にこんなチャンスが巡ってくることはもうないかもしれないのだから仕方がない。

 俺は葉月さんが部屋を出たのを確認すると、呼び止められないように急いで自分も退室した。



 「どこから回る? 蒼月君は何かみたい所とかないの?」


 「1-1と1-2は行きたいよね。あとは……、2-5?」


 「1組は東三条さんと鏡君、2組は小烏丸さんがいるからわかるけど、2-5って?」


 「食堂で感じも悪くなかったし、ランク戦の時にも2-5の人たちは何人か応援してくれたから見てみたいかなって」


 「なるほど。じゃあ、まずは2-5から行ってみよう!」


 俺たちは会話をしながら2-5へと向かう。

 てか、2階にはアリーナ体育館から近かった2-1クラス側から上がったのだが、俺たちを見ると舌打ちをする人達が結構いて雰囲気があまり良くない。

 はじめは美人と二人で歩いていることへの嫉妬かと思っていたのだが、たまに聞こえる言葉から俺たちが5クラス生であることが問題らしかった。


 「面白そうな出し物があっても、これじゃ入りにくいね」


 「学年が上がっても5クラスってだけで差別されているみたいだし、俺たちが卒業するまでには無くしたい所だよ」


 「うーん、それじゃダメじゃないかな? 蒼月君はランキングも高いしテスト成績も良いから、2年になるとクラスが変わるでしょ。そうしたら、蒼月君が何かをしても5クラス生じゃなくなってるから別の扱いになる気がする!」


 「そう言われると確かに……」


 高校からの外部入学ということは変わらないので、そこの差別は残りそうな気もするが、外部生でも凄いやつがいると分けられてしまって、俺たちがその差別をなくそうとしても5クラスへの差別はなくならないのか。

 

 「蒼月君一人に頼るんじゃなくて、私たちも強くなっているし、十六夜さんたちもいる。だから、私たちの多くが上のクラスへ上がれば、内部生が5クラスに落ちることになるから、その人数が多ければ多いほど差別もなくなっていくんじゃないかな」


 「そうなると、クラス全体で学力とレベルを同時にあげる必要が――」


 「お、蒼月! 来てくれたのか? 客が少ないから、すぐに出来立てが食べられるよ」


 葉月さんと話をしていると、名前は知らないが、顔は知っている2-5の人に声を掛けられる。

 その掛け声で、葉月さんが「2つで!」と注文している。


 「はいよ、熱いから気を付けて」


 そしてすぐに船の形をした容器に入れられた大玉のたこ焼きが、俺と葉月さんに渡される。

 俺はたこ焼き二つ分の会計をしようと財布を出すと、2年の人にもう払ってもらったよと教えられる。

 何時の間に!?


 「ごめん、葉月さん。払うよ」


 「いいよいいよ。それに蒼月君、学園祭で使えるチケットを買ってなかったよね? 私はチケットで払ったから、使い切らないと払い戻しはされないやつだから」


 葉月さんはそう言うと、500円と書かれた紙のチケットが何枚も繋がっている回数券のようなものを見せてくれた。


 「そう言えば、ホームルームで何か言ってたような……」


 「水戸君なんて明日来る第二東校の二人に、幾ら分を渡そうか悩んでたけど、今宵ちゃんには渡さなくて良いの?」


 「……」


 今宵には何か言われても問題はないが、キィちゃんにすごいダメ出しされそう。

 後で買っておくか。


 「蒼月も戦闘では強くとも――(彼女に良い所を見せられないなんて、そう言う所はまだまだだな)」


 俺は二年の人に首に腕を絡ませられると、後半は葉月さんに聞かれないように耳元でそんなことを囁かれる。


 「今の時代は割り勘なんですよ!」


 俺は二年の先輩を振り払うと、時代錯誤だと叫ぶ。


 「はは、割り勘せずに全額、払われてるけどな! 水もあるし座れるから、中で食べて行ってくれ」


 言い合いに敗れた俺は、これ以上の失態を葉月さんに見せないためにも言われたとおりに2-5の教室に入ると、客用に仕切られたスペースへと座った。


 「ビックリたこ焼きだって! かなりの大玉だから、ビックリなのかな!」


 葉月さんは俺と二年生のやり取りを仲が良いと思ったようで気にすることはなく、楽しそうにたこ焼きの話をしている。

 食欲をそそる匂いと、たこ焼きの上に乗っているかつおぶしが揺らめいて、とても美味しそうだ。

 見た目と匂いからは絶対に美味しいと思えるのだが、ビックリたこ焼きという名前が不穏だ。

 もしかしたら、一つくらい唐辛子でも入っているのかもしれないと考えて、先ほど言い負かされたこともあり、そうだったなら文句の一つでも言ってやろうと俺はたこ焼きを頬張った。


 「え? タコがデカい? って言うか、足じゃない所も入ってる!?」


 「ホントだね! もしかしてイイダコ!?」


 俺たちが騒いでいると、先ほどの二年生がやって来る。


 「そうそう、イイダコ丸ごと入り。ビックリしたろ? と言うか良く分かったな? あと、一つだけタコじゃなくてヒイカも丸ごと入っているけど当てられるかな? 大玉、イイダコ、ヒイカの三重ビックリよ!」


 先輩は自信満々に言い放つ。


 「味も美味しいし、発想も凄いのにどうして客は……」


 「ああ、それは一日目は5クラスはどこもこうじゃないか? 演劇は観客いたの? 一般客も来る二日目はムチャクチャ忙しくなるから、俺たちにとっての本番は二日目だな。明日は大人のために、ハイボールがキメられるように学校に交渉してOKをもらっているし、腕がなるぜ」


 「俺たちのヒーローショーにはそれなりに観客はいたかな? 多くが中学生だったけど」


 「中学生かー。それならもう少し後の昼飯時に期待かな」


 俺たちはたこ焼きの味の感想や、東校の学園祭の一日目と二日目の違いの話を聞いたりしながら、学園祭を楽しむのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 学園祭編はもう少し続きます……。

 今回は東三条さんの出番まで書くつもりだったのですが、文字数が多くなりすぎたので書き止めました。(悩んでいて先ほど書いたので……誤字脱字などあるかも)

 東三条さんの所は文字数が少なくなると書かれない可能性もあります。(一話……毎日更新の場合1500文字、週一の場合3000文字以上にならない場合)

 その後、学園祭二日目の今宵襲来です。

 作者的には楽しんで書いているのですが、日常編は好き嫌いがわかれそうなので、気になってしまい後書きです。


 また、コミカライズ第二話前半が公開されています!

 天使である七海&葉月さんが山珠彩貴先生の解釈の元、登場します。そちらもよろしくお願いします。


 

 


 


 

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