第230話 学園祭②

 レッド(矜一):『お前たちは何者だ! 町の平和を脅かす者たちはこの俺が許さない!』


 俺は市民(クラスメイト二人)を守るため、悪の構成員と女幹部の前に勢いよく飛び出して構えをとった。

 それを見た悪の戦闘員たちは俺へ襲い掛かる。

 ここは俺のこの演劇におけるはじめの見せ場で、襲い掛かって来る戦闘員の攻撃を華麗に躱して瞬殺し、ヒーローは強いということをを観客に見せつける場面となっている。


 戦闘員B・C(張本・榎本)の攻撃を躱した俺は、すぐさま反撃に転じて一撃で倒す。

 そして残りの戦闘員A(青木)を豪快に投げ飛ばそうと懐に入り込もうとした瞬間、脚本にはない……顔面パンチを右手で俺に向かって放ってきた。

 しかもその攻撃は青木君の全力とも思えるスピードだ。

 まさか本番で俺にやり返そうとしているのか?

 しかし、その場合は、青木君はみんなの前でクラスに協力すると言った発言が嘘だったことになるし、『ヒーローショー』も失敗に終わってしまうことになる。


 ただし、俺からすれば、青木君のパンチはたとえ全力であっても避けることは簡単だ。

 だから俺はそのパンチを躱して、青木君の突き出た腕を抱えて台本通りに投げ飛ばそうと考えた。

 問題はその投げ飛ばす行為は、青木君が意識を失わずその後に行動できる必要がある。


 そして、俺は青木君に合わせたスピードで動こうとしたせいで、投げ飛ばす前に青木君の左手が動く。

 俺はこの青木君の状態で投げ飛ばせば、彼は受け身をとることができないと判断し左手のパンチも避けることにした。

 そこからは青木君がラッシュをかけてきたせいで、俺はボクサーのように上半身をスウェーさせてその攻撃を躱した。


 序盤から完全に台本にない戦闘が行われているせいで、今後このスピードが基準に見られてしまうことになる。

 雑魚キャラのはずの戦闘員がこれでは、幹部やボスは一体どれ程に強いのかと思われることだろう。

 俺はどうするつもりだと青木君を睨んだ。


 青木君は俺の睨みを受けて頷くと小声で「あの二人、演劇の稽古で仲が深まって中野ブロードウェイに行ったらしい」と呟いた。

 いやいや、リア充死すべし、慈悲はないってそういう事!?

 だから椿もそれを知っていて、アドリブでナレーションができたのか?

 話している感じからバス停の二人のことだとわかるが、それとこの全力攻撃に関連があるのだろうか?


 俺は青木君のラッシュを避けながら、小声で「それとこの攻撃に何か関係が?」と聞いた。

 すると青木君は「お前も女子と仲良くしやがって!」とさらに力を入れて俺を攻撃し始める。

 完全に私怨じゃねーか! 仲良くしてると言われても、観光するようなところに俺は誰かと遊びで行ったりできてないんですけど!?


 青木君の行動理由もわかったし少しイラっとさせられたので、俺は威力だけは抑えて、青木君には全く対応できないスピードで肺を殴った。


 「グハッ」


 俺は青木君が、ラッシュ時に無呼吸連打をすることでスピードを高めていたことに気がついていたので、さらに追い打ちで肺を殴ったことで青木君の動きを一瞬だけ完全に止めることに成功する。

 俺はそれを確認すると、青木君の懐に入り込んで投げ飛ばした。

 

 ドンッ


 と大きな音が響くが、青木君は練習初日のような状態にはならず、しっかりと受け身をとった後で舞台袖に消えて行く。


 「えっ 攻撃が当たる音と胸の辺りが少し凹んだからわかるけど、殴ったの?」


 「た、たぶん? 早すぎて見えなかったんだと思う。凄い!」


 観戦していた付属中学の女の子二人が、俺の打撃が見えなかったと騒いでいる。

 今日、観戦に来ている子たちは中学生でも内部生なのでエリートだ。

 学年がわからないので何とも言えないが、その彼女たちで見えなかったのなら少し早くしすぎたか。

 俺がそんなことを考えていると、七海さんが優雅で存在感を出しながら俺の元へとやってきた。


 と言うか台本では、俺が「お前たちは何者だ!」と言った後に、即座に戦闘員を倒し、その後に七海さんが悪の幹部として名乗りをあげることになっていた。

 それが、青木君との戦闘が長引いたせいで、この状態から七海さんが名乗りをあげるのは少し不自然になるようなタイミングになってしまっている。

 

 ここは俺がもう一度たずねるべきか?

 だけどもう一度、何者だと同じセリフで聞く訳には……。

 そうだ! 七海さんの口上はロケ〇ト団に通じるものがあったから、その前のセリフを俺が言えば繋がるのでは!?

 俺はとっさに閃いて七海さんにパスを送る。


 レッド:『なぜ、こんなひどいことをする? お、お前たち……一体なんなんだ!?』


 悪の幹部(七海):『お前たちは 一体なんだと聞かれたら 答えてあげるのが悪の華道 世界の平和を防ぐため 成して見せよう世界征服! 我が名はダークナイトブリガード暗黒騎士団の紅一点 レイヴェナ・ノクター 』


 七海さんが名乗った所で、舞台袖のクラスメイトからカンペが掲示される。

 なになに、『時間×、パトカーなし、戦闘を続けて』ってことは時間が押しているから、場面を短縮して次の戦闘場面にいけってことか?

 俺が七海さんを見ると七海さんが頷く。

 どうやら、七海さんも俺とは逆側からカンペが掲示されているらしい。


 レッド:『町の平和は守って見せる!』


 俺は帯剣していたライトサーベルを抜いて赤く光らせると、七海さんへ斬りかかる。

 七海さんはそれを紫のライトサーベルで防いだ。

 俺たちは激しく剣を交えて戦う。

 お互いが攻撃を防ぎ、鍔迫り合いとなった所で戦闘員が俺たちの戦いに割って入る。


 悪の戦闘員(A~E):『イーッッ!!!』


 ここは殺陣の最大の見せ場!


 俺は五人の戦闘員の攻撃を躱したり剣で受けたりしながら、ステージ上を縦横無尽に駆け回る。

 青木君と張本君が同時に斬りかかって来た所で、俺は先に張本君を蹴り飛ばす。

 そして、態勢を崩したと見せかけたところで青木君の剣を躱すと、青木君は剣を振り下ろしているために右肩が下がっている。


 俺はその下がった肩に向かい、三角飛びの要領で肩を蹴ってバク宙でステージ中央へ戻ろうと――その時、背後から気配を感じ俺はバク宙に捻りを加えた。

 捻りを加えたことで見た光景は、どうやら榎本君が空中の俺へ剣で攻撃をしてきていたようだった。

 榎本君は「なんで躱せるん!?」と言うような唖然とした表情を見せている。

 いや、今のは俺じゃないと躱せないだろ……。

 俺はそう思いながらも表情を変えず着地し、そして目線を動かさず背後の七海さんからの攻撃を剣で防いだ。

 

 この背後を見ずに剣で防ぐところは、殺陣の見せ場の一つであるので台本通りなのだが、その前の空中で攻撃を受けていた場合は俺は斬られたことになる。

 切られている場合は、無傷のように演技をしてはおかしく……ってまさか、九条君に主役交代させようとしたとか!?

 いや、さすがにみんなで力を合わせて協力をしている時にそれはないか。

 一ノ瀬さんがヒーロー側で回復魔法を使う見せ場があるので、恐らくそれを見越してのことだろう。


 俺はしゃがみながら回転し、背後の七海さんへ足払いを仕掛ける。

 七海さんはそれをジャンプして躱した。

 俺はそこで空中の彼女を見て、空中では動けないだろと誘導をしたような表情を見せると、赤色に光る剣を下から上へと振り上げようとした瞬間、


 レイヴィナ(七海):『水波乱舞すいはらんぶ(ウォーターカッター×3)

 』


 は? いやいや、そこは水流刃すいりゅうじんという技名を言いながら、ウオーターカッター一発のとこだよね!?

 俺はとっさに首、胴体、アソコへと放たれたウォーターカッターに対して、七海さんが放った攻撃の魔力以上を練って無効化しようとする。

 そこでウォーターカッター一撃の場合は胴への攻撃を無効化しつつ、ダメージを負う演技をする必要があることを思いだし……胴体の魔力割合を下半身へと集中させた。


 レッド:『グハァ(いや、痛い。ミスしてマジで肩から斜めに腰まで斬られたんだが!?)』


 俺はマジもんの血をまき散らしながら、後ろへ吹き飛ばされる。

 その時、七海さんは俺が本当にダメージを受けたことで表情を取り乱していた。

 俺はそれを見て、こっそりとヒールを使い、さらには飛び散った血に魔力波をぶつけて蒸発させる。

 結界が張られてなければ、俺の実力が疑われる所ではあったが、バレることはないだろう。

 俺は心の中で、アソコを狙われて魔力割合をしくじってしまったこの惨状を誤魔化すために、力強く七海さんの目を見ながら頷いて大丈夫だと目で語った。

 まあ……、ウォーターカッター3発じゃなければ、そもそもこんな事にはなってないんだけどね。


 「魔法を一度に三発!? 蒼月だけではなく、それ以外の5クラス生が熟練の魔法使いと同じだと……?」


 俺と七海さんが目線で会話をしていると(俺は吹き飛ばされている最中)、俺たちを馬鹿にしていた上級生の一人が七海さんの魔法に驚愕していた。

 あ~……東校生はエリートと言っても、魔法の多重起動は熟練の探索者と言われる、最低でもB級の実力が必要でそれを東校で当てはめるなら、東校の総合ランカーでも上位クラスの実力が必要になるだろう。

 それなのに七海さんは、水魔法をはじめから覚えているとはいえ、5クラス生で放ってしまった。

 今の七海さんが、東校のランカーに勝てるかと言われると……小烏丸さんにギリギリで勝てはしたが、彼女は1-2クラスで1年の上位とはいえ正直微妙だ。


 まあ、闘技場(死んでも生き返る)では、ダンジョン内であれば取れない戦術も取ることができるし、対人と魔物の戦いの違いから、七海さんは小烏丸さんにあの時に辛勝しただけで、実際の実力では圧倒しているんだけどね。


 シルバー(九条):『レッド、大丈夫か!? すぐに回復を!』


 ブルー(葉月):『やぁ!!』


 九条君と一ノ瀬さんが俺の近くへやってくると、一ノ瀬さんは俺の回復、九条君は俺へ迫りくる悪の戦闘員を倒す。

 葉月さんは、七海さんへと攻撃をしかけた。


 ピンク(一ノ瀬):『了解! レッド、もう少しだけ(痛みを)我慢して』


 イエロー(水戸):『ホワイトはブルーと一緒に、その雰囲気のあるやつを頼む! こいつ等(戦闘員)は僕に任して!』


 シルバー:『わかった! ブルー、合わせて。ダブルスラッシュ!!』


 ブルー:『スラッシュ!』


 レイヴィナ:『水波乱舞(ウォーターカッター×3)』


 九条君&葉月さんと七海さんが戦い、水戸君が五人の戦闘員を相手する。

 そして一ノ瀬さんは俺を回復。

 水戸君の相手をする戦闘員は最大で五人だが、やられると舞台袖の上手かみて(客目線)へと移動して下手しもて(客目線)から裏側を通って現れるために、戦闘員の人数は無限にいるように演出されている。

 また、お客からみて、ヒーローは上手側からしか出現しないようにされているので、出現する位置で悪役側かヒーロー側という形で上手く分けられていた。


 九条君と葉月さんに七海さんが追い込まれると、ドライアイスの煙や音響とともに堂島君がやってきた。


 オミニウス Omnious堂島ボスキャラ):『レイヴィナ! これはどうなっておる! 我らはこのような所で足踏みをする訳にはいかぬ!』


 レイヴィナ:『これはオミニウスさま、申し訳ありません。思った以上に、わらわの手にあまり…‥』


 オミニウス:『なんと情けない。仕方がない、この三人は我が仕留めることにしよう。レイヴィナはその二人を何とかするのだ!』


 レイヴィナ:『ハッ!』


 堂島君のセリフによって、九条&葉月VS七海、俺&一ノ瀬&水戸VS堂島 という形となって俺たちは相対した。


 オミニウス:『ブリザードストライク(アイスブレット)』


 堂島君はそう言って氷魔法を唱えると一ノ瀬さんを攻撃し、一ノ瀬さんはこの攻撃を受けて吹き飛ばされ(退場)ていく。


 レッド&イエロー『ピンク!!』


 オミニウス:『フッ、力ない者が我の前に姿を見せるなど不敬である! フロストリーパー Frost Reaper!(アイスソード)お前たちはこの凍てつく死神の刃で消え去るが良い! 』


 迫りくる堂島君に対して、水戸君が一歩踏み出す。


 イエロー:『サンライトガーディアン 《Sunlight Guardian》(プロテクション)!』


 水戸君の防御魔法に堂島君の攻撃が当り、大きな音と光がアリーナを包むと、水戸君は膝をついた。

 

 オミニウス:『我が死神の氷鎌を、命を失わず堪えるとは。しかし、もはやお前たちにうてる手はない!』


 堂島君のセリフが終わると、そのすぐ後で九条君&葉月さん(協力技)と七海さん(必殺技)がぶつかり合った。

 そして、お互いの攻撃で瀕死状態となって横たわる。


 レッド:『俺たちは……俺たちはこんなことでは屈しない。みんな、すまない。ほんのちょっとずつだけ、元気を分けてくれ!』


 俺の言葉で、退場していたはずの一ノ瀬さんが現れると、倒れ込んでいた九条君、葉月さん、水戸君そして一ノ瀬さんが俺に手をかざす。

 見えないパワーが……俺に……(たぶん)集まっている!


 レッド:『いくぞ、スピリットバーストSpirit Burst 行けえぇぇ!』


 オミニウス:『小癪な……!フリージングデスブレイド !(アイスカッター) 』


 ドーン!!


 [音響で大きな音とBGM]


 ヒーローたち:『レッド!!!』


 レッド:『や、やったのか!?』


 椿(ナレーション):”町を守り死線を潜り抜けたヒーローたちは、町を守ることに成功した。彼らはこの日々の幸せを噛みしめ、そしてこの平和を守ると誓うのだった。彼らはフラグが立ったことをしら……いや、今はこの幸せを……共に分かち合うのだった”


 椿のナレーションが終わると、同時にステージ上に残っている俺たちは整列すると、観客席に向かってお辞儀する。

 そして俺たちが腰を90度曲げたと同時に幕が下りて、俺たちの『ヒーローショー』も幕を閉じたのだった。


 「あおっち、カッコよかった! 一人称でオラとか最後に『またな』とか言いそうだったよ!」


 大きな拍手の中で、猪瀬さんの言葉が俺の耳に届く。

 

 俺はその猪瀬さんの声を聞いてつい「バイバイみんな!」と幕が閉じているにも関わらず声を出してしまい……。


 「「それ、シェンロンストーンドラゴン玉!」」


 と、茅野さんと松戸さんのツッコミが拍手と共に響くのだった。

 


 

 

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