第226話 激辛

 次の日、学校に登校すると朝のホームルームは、学園祭に向けての役割を決める時間にするようだった。

 どうやら椿が『ヒーローショー』の脚本を書き上げたらしく、出番が既に決まっている人たち以外の出演者や衣装作り、大道具、小道具の役割分担を決めたいと朝早くから学校に登校をして冴木先生の許可をもらったらしい。


 「よし、十六夜と一ノ瀬は前に出て――「冴木先生、ちょっと待ってもらって良いですか?」


 冴木先生が椿と一ノ瀬さんを役割分担を決める司会として前に呼ぼうとした瞬間、九条君が手を挙げて冴木先生の言葉を遮る。


 「ん? 九条、どうした?」


 九条君は冴木先生に名前を呼ばれると、席を立ち青木君の方を向いた。

 九条君に見られた青木君は席を立つ。


 「みんな、今回の騒動は悪かった。クラスに不和をもたらそうとしたわけじゃなかったんだ」


 青木君はそう言うと、少しだけ頭を下げて席に座った。

 不本意そうではあったが、プライドの高い青木君がクラスのみんなの前で謝ったことに俺は驚く。

 まあ、青木君からしてみれば、俺の悪い噂を流したとしても九条君や椿が、俺の味方をするとは思っていなかったのだろう。

 事実として、入学当初であれば、九条君たちは俺に対して無関心だった。


 だが、俺だってこの半年間――何も努力をしてこなかったわけでもない。

 レベルが上がらないという理不尽を乗り越えられた後も頑張ってきたし、九条君たちとの野営での経験やクラスでの俺の立ち位置の変化からも少しは自信を持って良いはずだ。

 まあ、なによりも俺自身が少しは自信を持っても良いかもしれないと思ったのは、昨日の七海さんに俺は努力しているという言葉をもらったことやその後に葉月さんや猪瀬さんも同意してくれたことが大きいんだけどね。


 「なんだ? お前ら。イジメか何かか? 俺の担当するクラスで何かあるなら指導する。物理でな!」


 「せんせー! 体罰は時代遅れで問題になると思いまーす」


 青木君の言葉で何かを感じ取った冴木先生が、クラス内で揉め事があるなら力で対処をすると言うと、クラスの女子生徒が体罰は問題だと声をあげた。


 「大丈夫だ。問題ない。回復魔法もポーションもある。それにこの学校はカウンセリングもしっかりしている。お前たちは安心して教育的指導を受けられるからな」


 「「「あはは」」」


 冴木先生は少しおちゃらけた感じで肉体的にも精神的にも回復ができるから問題はないと言うと、クラスからは笑い声とともに『コエー』だとか『マジか』というクラスメイトの声が聞こえクラスの雰囲気が明るくなった。


 「よし、じゃあ十六夜と一ノ瀬は前に出て学園祭の役割分担を決めてくれ」


 「「はい」」


 冴木先生はクラスの雰囲気が変わると、当初の予定通りに椿と一ノ瀬さんの名前を呼んで学園祭での役割分担の進行を任せるのだった。





 午前の授業が終わり攻略道のみんなと食堂に集まる。

 今日の俺は弁当ではなく、学食の肉ぶっかけうどんを選択した。


 「そういえば僕と蒼月のヒーロー色は、十六夜さんに言われていた通りにイエローとレッドだったけど、ブルー予定だったはずの九条はシルバーになってたね」


 水戸君が朝のホームルームでの話をする。

 ちなみにブルーが葉月さんでピンクが一ノ瀬さんの配役に決定していた。


 「なんでも椿が言うには、九条君のイメージがブルーよりシルバーで、ブルーは葉月さんが合いそうな気がすると思ったらしく急遽変更したみたいだよ」


 「そうそう! 急にホームルームでブルーをお願いされるから困っちゃった!」


 葉月さんだけは事前にヒーロー役を打診されていなかったようで、配役を決める時に直接お願いをされていた。


 「衣装は私たちが他のクラスメイトのみんなとしっかりと作るから任せてね!」


 衣装作りを担当する茅野さんが声をあげ、同じく衣装作りの松戸さんもその横で頷いた。

 攻略道の他のメンバーで言えば、今は学食を買いに行っていてここにはいない猪瀬さんも衣装作りを担当する一人となっている。

 七海さんにいたっては、何と敵の幹部役だ。


 「なになに? 衣装の話? ヒーローだとピッチリタイツだろうし任せておいて! あ。はい、ミトミト。これカレー。あたしの奢りね」


 猪瀬さんはそう言うと、お盆からカレーを水戸君の前に置いた。


 「え? 里香ちゃんも買ってきちゃったのー? はい、水戸君。私からもカレー」


 そして少し後に戻って来た七海さんも水戸君にカレーを渡した。

 まさか、イエローだからカレーなの!?


 「ええ……? どちらか片方は食べられると思うけど、さすがに自分のを合わせて三食はキツイ」


 「……じゃあ、あおっちが食べても良いよ」


 二食分なら食べられるけど三食分はさすがに……という水戸君の言葉で、猪瀬さんは自分が渡したカレーを俺に食べてよいと言う。

 てか、なんでその一瞬迷った表情で、その後ニヤニヤして俺に薦めたの?

 俺にくれたとしても俺はもうぶっかけ肉うどん買ってるから!

 そう思いながらも、さすがに水戸君に三食分は厳しいだろうと思う。

 俺はそこで少し色が黒い猪瀬さんのカレーではなく、七海さんが持ってきたカレーを確保して水戸君に話しかける。


 「少し足りないと思っていたから、カレー貰っても良い? あ、こっちのって七海さんのだよね。七海さんも水戸君へのカレーだけど俺が食べても良いかな?」


 「え? レッドにカレー? でも三食かー。うーん。いいよー」


 「あ、それならあたしのカレーの方がレッドに合うかも?」


 「お、蒼月が食べてくれるなら助かる」


 てか、七海さんの言葉から、やっぱりイエローだからカレーを水戸君に買ってきたんかい!

 あと、猪瀬さんが自分のカレーはレッドに合うっていうのはなんだろう?

 俺はそう思いながらも、猪瀬さんの発言をスルーして七海さんのカレーをもらうのだった。


 俺はぶっかけ肉うどんをかけこみ、カレーを食べ始める。

 うん、うどんだけよりもう少しだけ食べたかったから、二食目のカレーもかなり美味しく感じる。

 俺が食べ終わりそうになる頃、水戸君も自分が買った学食を食べ終わり、猪瀬さんが持ってきたカレーに手に付ける。


 てかさぁ、猪瀬さんがめっちゃソワソワと気にして水戸君が食べる所をみているんだよね。

 色が俺が食べた七海さんのカレーより濃いのが本当に気にかかる。

 俺は猪瀬さんと同じくらい水戸君がカレーを食べる一口目を気にかけ、それを見守る。


 「!? んん” ゴッ……んん”」


 水戸君は一口目を食べた瞬間に咳き込もうとして手を口に当て涙目になっている。


 「ミトミト、どう!? 50倍の辛口カレー!」


 猪瀬さんは我慢できないという風に、水戸君にカレーの感想を聞いている。

 ……色が違ったしね。

 俺自身は回避できてよかったと思う反面、これはないだろうと水戸君を見て思う。

 ギャルのノリ怖い。

 水戸君は猪瀬さんの言葉を無視して水を手に取り一気に喉を潤した。

 水戸君の表情や状態をみて、周りで喋っていた他のみんなも何があったかを察している。


 「ゴホッ……。舌と喉が痛い。え? 何で猪瀬さんは僕にこんなことを……?」


 割とマジギレしている水戸君を見て、猪瀬さんは怯んだ。


 「お、面白いかなーなんて。イエローだし……。辛さを変えられるって言うからさぁ。……50倍にしてって頼んでみたんだよね。ミトミト怒った?」


 「怒るとか以前にこれは普通しなくない? ……いや、こよ……きぃちゃんあたりならするかもしれないし、されてもノリで笑いそうだけど、僕は違うって言うか」


 水戸君はそう言いながらも奢ってもらったカレーを無言で食べ始めた。


 「ミトミト、無理は……」


 「残すわけにもいかないから」


 「ぎゅ、牛乳買ってくるし!」


 俺はカレーを口にしては水を飲む水戸君と急いで牛乳を買いに席を立つ猪瀬さんを見ながら、七海さんのカレーを選んでよかったと思う反面、水戸君に申し訳なさを感じるのだった。




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