第225話 レッド
学園祭でのクラスの出し物が『ヒーローショー』に決まってから一週間が経った。
学園祭から逆算して2~3週間で仕上げなければならないにもかかわらず、決まってから数日間は俺たちは特にすることが何もなかった。
ただ、『ヒーローショー』の提案をした椿……九条君たちだけは、場所の確保やシナリオをどうするかでずっと忙しそうにしていた。
そのため……俺たちが出し物の提案で敗れたせいで、俺が攻略道のみんなに指示を出して九条君たちを手伝わず、足を引っ張っているという噂が流れていた。
どうやら、俺というか攻略道のみんなも誰も知らない所で、九条君たちのパーティとクラスカーストの争いが勃発していたらしい。
まあ、青木君がその噂の根源のようなのだが、大人しくしていた彼がなぜ? と思いクラスの噂に詳しい? 茅野さんと松戸さんに話を聞いた所、どうやら第二東校の女の子とした合コンの話を青木君が聞きつけて俺のことを恨んでいるらしかった。
合コンをするまでは口どめしていたけど、その後は特に何も言っていなかったせいで、鏡君の知人の佐々木君(合コン参加)から話が漏れたようだった。
しかも俺はそこでカップル成立していたらしい。
ずっと二人きりの空間を作ってイチャイチャしていたって言われても、その相手って妹なんだよなぁ。
不機嫌な妹をずっと宥めていただけなのに、なぜかカップル成立しちゃってた件。
そしてどういうわけか東三条さんも、俺なら小規模と言えど社交パーティに出席するのは当たり前だとイッチョ噛みした発言をしたらしく、1年の雑談掲示板で話題になっていたそうだ。
あれか? 東三条さんは合コンなんて参加しないだろうから、合コンを上流階級が参加する社交に例えちゃったの?
ただ、そんな対立の噂は、椿を筆頭に九条君もキッパリと否定をしてくれたことで一気になくなった。
逆に嘘の噂を広めたとして、青木君は1-5のクラスメイトたちから嘲笑や悪口を言われるようになり、友人だった張本君からも距離を置かれ始めるようになっていた。
「最下位のくせにくだらねー噂を流してんじゃねぇよ!」
俺がトイレにでも行くかと教室内を移動していると、近くでドンッと机を蹴る音とともにそんな声が聞こえる。
どうやら、クラスメイトの男子に、青木君が机を蹴られて罵声を浴びせられている所に遭遇してしまったようだ。
俺はその光景をみて、それ俺も青木君にされたことがあるやつ! となぜかちょっとだけ嬉しくなる。
そして俺はその瞬間になにが嬉しかったのだろうと考えた。
青木君がいじめる側から、いじめられる側になりつつあるかもしれないと思ったから?
もしそうなら、俺も結局は立場が変わると傍観するクズなのでは? と気が付いて一気に落ち込む。
俺はその気付きから、すぐに青木君たちの元へ赴いた。
「足を引っ張っているっていう噂にはビックリしたけど、クラスのみんなも指示待ちで動いていなかったし、信じる人もいないと思うから気にしてないよ。それにその噂のお陰で、指示待ちするだけじゃなくて、積極的に手伝えることを椿たちに聞こうと思えたし」
俺は机を蹴ったクラスメイトと青木君の間に割って入る。
「ま、まあ蒼月がそう言うなら別にいいけどよ」
青木君の机を蹴飛ばした男子は、俺の言葉を聞いて青木君への追及を止めると俺がそう言うなら良いかと言って移動していく。
青木君は拳を握りしめて下を向いていたので、俺は話しかける必要もないかとそのままトイレへと向かった。
たった半年で自分の状況と青木君の立場が逆転するということに怖さも感じる。
「蒼月君どうしたのー?」
トイレから戻りそんなことを考えていると、俺の表情が優れなかったせいなのか隣席の七海さんが心配した声色で俺を気にしてくれたようだ。
「それが俺たちと九条君たちとの噂の話で、さっき青木君が責められてたんだよ。それでそのまま通り過ぎようとしたんだけど、それだと自分がされた時には周りを傍観者って言ったのに俺もそれと同じじゃないかって思ってね。だから、一応声をかけて止めたんだけど……。それに立場や状況が短期間でこんなに簡単に変わっちゃうのって怖いなって」
「あー、あの噂か~。でもそう言う時って難しいよねー。ほら、電車でマナー違反の人を注意したら、注意された相手がキレちゃって注意した人が大けがを負った事件とかあったじゃない。それに蒼月君はそうやって考えられているから同じではないんじゃないかなー。立場の変化だってそれは蒼月君が努力した結果だよー」
「そうそう、あおっちが気にすることなんてないし! あっきーが腕力で勝てなくなったから、今度は無い知恵を絞って自分じゃなくて対抗ができそうなくじ丸を使った
俺が七海さんと話していると、猪瀬さんがワントーン大きな声で青木君をボロカスに言い始めた。
まあ、チョッセーの意味はイマイチよくわからないけど、そのすぐ後のダサ男って言葉からそれを強調しているか
てか、ギャルってなんで声が大きいの?
俺は青木君の反応が気になって、青木君の席を見てしまう。
青木君の近くに座っている女子もこちらの声に反応して青木君を見ていたことから、最低でも青木君のすぐそばまでは猪瀬さんの声は届いていたらしい。
ただ、青木君は机に突っ伏して寝ているようだったので、猪瀬さんの声は聞こえてなさそうでホッとする。
これが昔の俺の状態なら、教室ですることもなく話す友人もいなかったので、自分の席で寝たふりをしている可能性も考えられるが、青木君はそう言うキャラでもないだろう。
「きょ、矜一。私が配役やシナリオを書くのが遅かったせいで、矜一たちが何もしてないなんて噂がでちゃってごめん」
俺たちの会話を聞いて、椿たちもこちらに注目して会話に参加する。
「や、『ヒーローショー』をやるって決まって、そんなすぐにシナリオが書けたりする訳がないのはわかってるから。むしろ俺の方から手伝うべきだった。何でも協力するから、手伝えることがあったら言ってよ」
「ホント!? じゃ、じゃあ戦隊モノだからレッドの役割してくれない? あ、水戸君はイエローをお願いしたいんだけど……」
椿は俺が手伝うよと言うと、ヒーローのレッドを担当してほしいと手を前で合わせながら上目遣いで見つめてくる。
くっ……、手伝うと言った瞬間に断ることは良くないし、そんな上目遣いで見られたら……。
俺が返答に葛藤していると、水戸君が俺たちの所まで来たのを見た椿は、水戸君にも出演を依頼する。
「え? 僕も? って言うか、い、十六夜さんにそんな風に見られたら断れないし……。僕で良ければ」
水戸君は椿の振り返り上目遣いに一瞬でノックアウトされてしまった。
「手伝うって言った傍から俺も断らないけど、レッドは九条君で名前的にも俺はブルーじゃない?」
「矜一はレッドかブラックじゃないと! それで妄想……じゃなくて、シナリオを考えちゃってるからレッドでお願いできないかな。それにもうレンにはブルーをしてもらうことを了承してもらってるんだ」
レッドは戦隊モノのリーダーって言う印象があったので、少し抵抗してみたが九条君の配役が既に決まっているのなら無理は言えない。
「わかった。俺でいいなら」
「良かった! 今日中にはシナリオもできると思うからよろしくね」
俺が了解すると、椿はポニーテールを揺らして嬉しそうに笑った。
「良かったね椿! 放課後に蒼月君がこの怪人を倒して~とかもうそ……シナリオ練ってたもんね」
配役を気にしていたのか一ノ瀬さんも椿に良かったねと言って笑う。
そしてお互い笑顔でなぜか肘をつつき合っていた。
俺たちが仲良くしていることで、クラスの雰囲気も明るいような気がする。
こちらの様子をうかがっていた松戸さんは、十六夜さんが監督で蒼月君が主役……アリだね! だとか、茅野さんはレッドとイエローはどっちが攻めなのかなと言う話をして盛り上がっている。
「よし、それなら僕が後で青木君と話してくるよ。せっかくのクラスの出し物で団結したいし」
俺たちがみんなと盛り上がっていると、堂島君と話していた九条君がクラスで欠けたピースが出ないように青木君と話しをするという。
その瞬間に俺の脳裏には今宵がカットインする。
『お兄ちゃんに足りないのはこういうとこだよ!』
なるほど。
俺は九条君のその行動と妹の幻視を見てこれがイケメン! と恐れおののくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます