第211話 仮入部
小烏丸さんと七海さん、葉月さんとの対戦を見終えた俺たちは、落ち込んでトボトボと歩く小烏丸さんを鏡君に任せみんなで部室へと戻る。
「うーん、ランキングが最初に発表された時にたくさんの申し込みを断っておいてよかったー。今回は私の実力が知られていなかったから勝てた感じだし、あの時からかなり強くなっていたつもりだったのになー」
「それね! 私たちも蒼月君に追いつくために対戦のペースと対戦相手のクラスも上げていこうと思っていた所だったから、調子に乗って挑んで負けてからそれに気が付くところだった!」
「あなた達、最近は緊張感が無くなってきているからぁ、
「いや、先生は途中で『バトルベアと戦えるのに何で接戦してるのぉ? これで負けたら私のせいじゃないのよぉ』って対戦中に言ってましたよね? 俺は読唇術でわかるんですよ」
七海さんと葉月さんが今回の対戦を振り返り、なぜか桃井先生が私のお陰で今の実力がわかったでしょ! と言っていたので、俺は審判をしながら焦っていた桃井先生が呟いていた言葉をばらす。
「それは仕方がないでしょぉ? だってバトルベアと戦っている子たちが2クラス生とはいえ、あんなぶざm……激戦をするなんて思わないじゃない!」
いや無様って。
教師として、その言葉のチョイスはどうなの?
最後まで言わずに言い直してもダメだと思いますよ!
「アニキたちはもう25階層で戦っているのか!? だったら俺があんなに簡単に負けたのも納得だ。むしろ
「そ、そうかしら? 真一が言うなら、まあそうなんでしょうね!」
鏡君はたぶん俺たちがチームで25階層で戦えていると思って言っているんだろうが、桃井先生が言っているのはタイマンで戦えているのにって話なんだよなぁ。
でも、勘違いをしてくれたならそれでいいか。
てか小烏丸さんは、鏡君に任せておけば何とかなりそうかな?
ただ、桃井先生の発言は小声で注意はしておくけど。
「先生、口が滑ってます。何かの拍子に芋づる式にバレたら、俺たちは大丈夫ですけど東三条さんの護衛とか危ないですよ。矜侍さん自身が、彼らにはかなりきつい条件で魔法をかけたって言ってましたから。最悪の場合は、矜侍さんの意思とは関係なく魔法が行使されて死ぬかもしれないです」
桃井先生はアッという顔をして、東三条さんをチラ見して目線で謝る。
「はぁ~、マジであたしだけ来年はクラスが違う気がする~。ななみんとはづきちでアレとか激萎えぽよ」
猪瀬さんが今回の対戦を見てへこんでいた。
まあ、猪瀬さんだったら小烏丸さんには負けていたのは間違いない。
七海さんと葉月さんより、まだ一段落ちるからね。
いや、4クラスとの対戦で腕を切り落とされても耐えて戦っていたから対人戦だと猪瀬さんは強いということもあり得るか?
しかし今回の結果は、考えさせられるところも多かった。
俺自身は箱庭で矜侍さんと一対一の訓練も多くしていたが、攻略道のみんなは対人戦に慣れていないことが一番の問題のように思う。
桃井先生なら、外部生から東校の教員にまで
担任になれず副担任にされた挙句に外部上がりってことで1年目から職員室に席がなく、準備室に即左遷されていたことは置いておいても、教師が生徒に負けたくないって理由で対人戦を教えてくれないんだよね。
まあ、担任になれなかったのは、冴木先生がパーティメンバーの都合でたまたま暇をしていたからだろうけど。
対人と言えば、ダンジョンが出来たばかりの頃に、スキルや魔法を手に入れて強くなった人たちが調子に乗って事件も多く起きていたらしい。
それらの暴徒を制圧していた警察や国防軍は今でも伝統的に対人が強いことで有名だ。
国防軍のレンジャー部隊なんて、少人数の1パーティ……六人でダンジョン奥深くまで潜ったり、暴徒が立て籠ったビルの中に潜入して制圧したりと昔は憧れていたっけ。
部室に到着すると、とりあえず鏡君、
鏡君と小烏丸さんの実力はわかったが、部員同士の交流で今日はこの後で七海さん、葉月さんと一緒にダンジョンに行くようだ。
小烏丸さんも対戦をしたことで初めの棘が無くなっているし、七海さんと葉月さんの実力もわかったことで四人で行動することに何か言うこともなかった。
桃井先生と東三条さんの二人は、猪瀬さんが一人だけ別クラスになる発言をしたことで、どうやら鍛えるために三人で行動をするようだ。
「良いかしらぁ? パーティなんだから、猪瀬さんが倒しても三分割よぉ」
桃井先生は注意をしたから主語を抜いて話しているけど、これ絶対に魔道具で25階層に飛んでバトルベアと猪瀬さんを戦わせる気だろ。
そして俺はと言うと、鏡君と小烏丸さんの実力はわかったが、茅野さんと松戸さんがどれくらいの実力かわからないので、水戸君を含めてこれからダンジョンに向かう予定となっている。
装備を置いている所が仮入部の四人はギルドの貸しロッカーに置いていたり、教室に置いていたりと色々なので、俺たちはダンジョンにそれぞれ分かれて向かうことになった。
まあ、桃井先生が階層移動の魔道具を使いたいからというのが……、別々に行動する一番の理由かもしれないけどね。
俺たち四人はダンジョン内を軽く走りながら、今回目指す場所を決める。
二人の実力を見ると言っても、さすがにゴブリンでは多数を相手にしないと簡単に倒せてしまうし、それより上のコボルト、スケルトンなんかは単体での出現が多く微妙だ。
でも18時に探索を終了させるなら、残り二時間弱しかないので4階層くらいまでが限界に思える。
魔法陣転移が使えないのは本当に不便すぎる。
「往復の時間を考えたら18時までに戻るなら4階層辺りが良いかな?」
4階層のコボルトでは簡単すぎる……と思うが、そう言えば俺は彼女たちのレベルを聞いていなかった。
水戸君でさえ入部前はレベル5で1つ目の壁を超えていなかったから、もしかすると彼女たちもまだレベル5の可能性があるか?
その場合だとコボルトはちょうど良い相手ということになる。
「え? そんなに早く戻らなくても大丈夫だよ。普段は夜の8時くらいにダンジョンから出るくらいだし、遅くなら夜の10時くらいまでかな?」
……椿たちも探索時間は22時くらいまでがデフォみたいな話をしていたけど、晩ご飯はどうしてるのだろう。
「夜の10時までの探索は攻略道ではまずしないから、今日は夜8時までにしようか。って二人のレベルって幾つなの?」
「えへへ、聞いてよ! 私たち二人とも夏休みに頑張ってレベル6になって、壁を超えられたんだよー!」
「私たち頑張った!」
「6の壁は高かったよね。超えられた時は僕も嬉しかったなぁ」
そう言えば、水戸君と猪瀬さんがレベル6の壁を超えた後に食堂で喜んでいたっけ。
「それなら今日は6階層で戦って戻ろうか。少し移動のスピードをあげよう」
「「はーい」」
6階層で戦うなら実力の判断ができるので、遅くまで探索できるというのはありがたい。
なにせ撮影をしながらではあったが、一人だとC級のイオリさんでさえ死にかけていたし。
イオリさんのMeTube放送はたまに見ているけど、今は『女子一人! ソロでもここまで頑張れます~』シリーズがバズっていて人気だ。
俺たちは移動速度を上げて6階層を目指す。
この移動速度を上げて階層を進むだけでも、ある程度の実力は判断できるので無理なく走れる速度がどのくらいかを確かめて、6階層での敵の数を調整しようと思っている。
1時間30分ほどの時間をかけて6階層へと到着をした俺たちは少し休憩を挟むと、ウルフを探して移動を開始した。
「それにしても蒼月君も水戸君もさすが上位って感じ! コボルトもスケルトンも一瞬だった!」
「うんうん、ドカッとやってザクッみたいな」
「あはは、茅野さんも松戸さんも今宵ちゃんたちと話が合いそう」
「「今宵ちゃん?」」
茅野さんと松戸さんが道中の話をしていると、その感覚的な感じが今宵たちと合いそうだと水戸君が発言をしたことで、今宵のことを知らない二人がその名前に反応する。
ちなみに、俺と水戸君を勝手にカップリングしている茅野さんがメガネをかけて図書委員をしていそうな大人しそうな感じの豊満さんで、なぜか椿と俺をくっつけようとしてくる松戸さんが、いつもサイドテールにしていて胸はそこそこある優しい印象の子だ。
え? そんな情報いらないって?
でも、猪瀬さんの感じだと俺や水戸君は話しかけられないけど、彼女たち二人なら話しかけられそうな雰囲気があるのは重要じゃない?
だから水戸君も二人と話せたんだろうし。
「ああ、今宵は俺の妹で探索者になっているから、今度また紹介するね――ってウルフに囲まれて危なそうなパーティがいるかも!? 念のために近くまで移動しよう!」
俺はしゃべりながらも魔物がいる場所を気配察知で探していると、12匹のウルフに囲まれた四人パーティを発見した。
その四人は男女二人ずつのパーティなんだが、動きの感じからして女性二人の方が実力が高いにも関わらず、男性二人が前にでて動きが噛み合っていない。
最終的には倒せるとは思うが、念のため近くまで移動をしておいて助けを求められたら介入できる位置に移動しておく方がいいだろう。
俺の発言で一気に真剣な表情になった三人は黙って俺について来てくれる。
「ああ、良かった! 援護をお願いします!」
俺たちはその女性の声を聞いて、すぐに行動を開始する。
気配察知で確認をした時にはウルフは12匹だったが、どうやら2匹はすでに倒しているようだ。
俺は水戸君と目を合わせ倒す数を確認すると、茅野さんと松戸さんに声をかける。
「茅野さんと松戸さんは1匹ずつお願い! 水戸君やるよ!」
俺のその声で一気に水戸君は前に出て、ブラックウルフを4匹斬り伏せると俺もそれと同時にフォレストウルフを4匹瞬時に倒す。
チラリと茅野さんと松戸さんを見ると、彼女たちも一拍遅れではあるが、問題なく対処をして倒したようだ。
うん、道中のゴブリンとスケルトンの相手で少し実力を見てはいたけど、ここに来るまでの移動速度も茅野さんと松戸さんは問題がなかった。
実力的には部活動に入る前の水戸君くらいの力はあるようだと俺は判断する。
「ありがとう。私たちポーションを持って来ていなかったから、これ以上は怪我人が増えると危なかったの!」
「テメェ……。選りにもよって、なんで蒼月なんかに援護を求めやがった!」
助けに入る時に気が付いてはいたんだが、右腕をウルフに噛まれたのか血を流しながらも叫ぶ青木君を尻目に、俺は茅野さんと松戸さんの先ほどの動き出しを褒めるのだった。
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キャラが多くなってきたのでもう一度、本文外で名前紹介。
・
毛先が斜めのラインを描く前髪で……アシメバング……前髪斜めパッツン。
・
・
(古いキャラ)
・青木君……序盤で矜一がダンジョン内で後ろから誰かに石を投げられてゴブリンの前で膝をついた所を写真にとられ掲示板に貼られたことで、1-5クラスの恥さらしと矜一の机を蹴った子。
そして4クラス戦の時になぜか矜一を倒そうとして負けた子。
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