第210話 小烏丸 麗華

 三連休の後のだるい授業を終えて俺は部室へと向かう。

 と言うか、夏休みに予習をシッカリとしすぎたせいで、授業が復習のようになってしまっている。

 教科書の何ページに何が書いているかすら覚えている状態だ。

 

 しかも稀に一般的には常識とされていることでも、矜侍さんの教えを受けた俺からすれば、それ実は違うんだよなぁということもあって、点を取る場合には間違った答えを書いて正解にしなきゃいけないと言うことがあるのだ。


 一応攻略道のメンバーにはそういう所の話は実はこれは間違いで~と話してはいるんだが、最後に矜侍さんが言ってた! というだけであら不思議、誰も疑うことがなくなる。

 もし俺が座学でミスをするなら、ウッカリ本当は正解の方を書いてしまって、間違いにされる場合じゃないだろうか。


 ただ、この状態でも東三条さんとは良くて同じくらいだろうし、今宵は俺がわからない所をついてくる。

 だから授業中に寝ることもできない。

 まあ、席が一番前だからそんな勇気もないけど。


 部室のドアを開けると、東三条さんと鏡君、そしてなぜか知らない女性も一人すでに来ているようだった。

 鏡君には一限目の終りの休み時間に、また1-5クラスに突撃をされたので、放課後に部室で部活動の話をすると言っておいたのだ。

 ってか、休みの間はTPOを守って端末でのメッセージを送ってくることもなかったのに、学校ではグイグイ来るのはなぜなのだろう。


 「アニキ! 本当はドアの前で待つべきだったのに先に失礼しています!」


 ……鏡君の俺へ対するしゃべり方や態度が変わり過ぎてて怖い。


 「真一さんが外で蒼月君を待つと言って入らないから苦労をしましたわ」

 

 ガチャリ


 「あ、ほら! あおっちはやっぱり先にきてたし」


 「蒼月君ー? 教室に一人だけいないから探したよー」


 水戸君に攻略道へ入りたいと言った茅野かやのさんと松戸まつどさんの所にみんなで集まっていたから、俺まで行く必要はないだろうと俺は部室に一人でやって来ていた。

 攻略道に入部の話は部室ですることになるし、それ以外だと俺がいても……と思ったのだ。


 「ごめんごめん、どうせ部室で話すから先にと思って」

 

 「蒼月、立場が逆だったら僕もたぶん一人で部室にきているだろうけど、男女のバランスを考えてよ。まあ自分もしそうと思うから強く言えないけどさ」


 水戸君は直に彼女たちに攻略道に入りたいと相談を受けていたから教室に残っていた。

 たしかに俺が二人に相談を受けていたのなら、俺が教室に残って水戸君は先に行っていたのだろう。

 レベルが上がり、強くはなってもコミュ障は積極的に自分から話題を振るのが苦手なのだ。

 水戸君はそのお陰で九条君のパーティに入らず、俺と友人になってくれているから、俺としてはありがたいけど。


 「これこれ! こういう絡みが見たかったの。幸せ~」


 茅野さんがめちゃくちゃ近くによってきて俺と水戸君を見ていた。

 

 「ちょっと愛! 自重して。部活に入れなくなったらどうするの!? それに蒼月君には十六夜さんがいるでしょ!」


 松戸さんが茅野さんに自重を促すが、椿はここにいないし、君も自重ができてないからね!?

 俺の前だけでならまだいいけど、椿の前でそれを言うと気まずくなるやつだから!


 「ほらほら、とりあえずドアの前に固まってないで中に入ろう!」


 葉月さんがみんなを部室の奥へ入るように促す。


 「真一、ほんとにこの部活にはいるの? 天音さんとそこの蒼月は強いのはわかったけど、他は今のやり取りだけでも5クラス生って感じよ」


 俺が入る前に部室にいた知らない女性が、急に5クラスのみんなを見下したような発言をしたことで、彼女に注目が集まる。


 「というかあなたは誰なのかなー。ここはダンジョン攻略道の部室なんだけどー」


 七海さんが俺の聞きたかったことを聞いてくれた。


 「あなた私のことをしらないの!? 信じらんっない。私は真一のパーティメンバー、1-2クラス小烏丸 麗華こがらすまる れいかよ!」


 なんか名前だけは東三条さんっぽい人だったー!

 しかも自分のことを有名人みたく言っている。

 東三条さんは入学式の時にも1年生代表として見たことがあるけど、この人は……。

 いや待てよ? そう言えばどこかで見た気がするような、しないような。

 どこだっけ。


 「麗華も攻略道に入部するために剣術部を辞めてまで来ているんだから、そんな言い方じゃ……。しかも俺と一緒にパーティまで抜けて、入れなかったらどうするんだ!?」


 「そうは言うけど、天音さんと蒼月が強いだけで新参だからって5クラスには舐められないわ! それに入部できなかったら真一と二人でパーティも悪くないわね」


 鏡君が小烏丸さんをたしなめているが、この態度で入部希望なの!?

 どこかで見たことがあると思ったけど、ギルドで鏡君と会った時にパーティーメンバーとして後ろにいたからか。

 しかもこれ絶対、鏡君狙いの子だろ。

 俺はさすがに一瞬驚いてしまったが、仲間を悪く言う人を攻略道に入れるつもりはない。

 だから彼女の腕を持つと部室から連れ出そうとした。


 「なるほど。ではお帰り下さい」


 そもそも、5クラスのみんなが他に入れないからと立ち上げた部活動だからね。

 エリートの2クラス生が入る部活じゃないからね。

 ってか、こんなに自信満々で1クラスじゃないとか……。


 「ちょっと、離しなさい。セクハラ! セクハラよ! 私が可愛いからって。ドントタッチミー!」


 俺はその声を聞いて、バッと手を離す。

 そして俺はそんなつもりじゃないよ!? 信じてよ! という目でみんなを見渡す。

 女子こえぇぇ。

 ちなみにその声を聞いて水戸君も一歩下がっていた。


 「アニキ、違うんだ! 麗華は口は悪いがここに来るまでに所属していた剣術部も辞めていて、俺と一緒にパーティも脱退しているから行くところがないんだ。入れてやってくれないか!?」


 入れてもらう態度ではないんだよなぁ。

 そもそも同じ部活内で誰かを見下すようなら、加入はしてほしくない。

 もちろん、それは鏡君に対しても同じだ。


 「でもこれから同じ部活をする相手に対する態度じゃないよね? これは鏡君にも言えることだけど、誰が上か下かなんて考えながら部活をするのなら悪いけど――」


 「ここの部長と葉月って子は、初めのランキング公開で30位にいて不正だって騒がれていたじゃない。真一だって知っているでしょう?」


 1-5クラス生が三人も1年生ランキング上位に載っていれば、たしかにそう思う人もいるかもしれない。

 これは七海さんと葉月さんが殺到する対戦依頼を断ったことも関係があるのかな?


 「不正ねぇ。じゃあ小烏丸さん。七海さんと葉月さんと戦ってみるっていうのはどうかしらぁ? そうすれば不正かどうかはわかると思うわぁ」


 奥の部屋から桃井先生がやってきて、対戦をして解決しなさいと言っている。

 いや、誰が上か下かを決めるようなのはですね……。

 俺の発言も聞いていたでしょ! と俺は桃井先生に非難の目を向ける。


 「こう言う子は結局、言葉だけじゃ伝わらないのよぉ。さっき調べてみたけどぉ、対戦をする場合に審判員権限で与えられている一角に空きがあるから、今から対戦で30分の予約をしておいてあげたわよぉ。それに二人はポイントも増えてちょうど良いじゃない」


 「私が負けるような言い方ね! 良いでしょう。2クラスの実力、見せてあげるわ!」





 ~30分後~


 七海さんと葉月さんの二人に負けた小烏丸さんは、_| ̄|○ ガックリ と絵文字のような状態となっている。

 いや、実際はムチャクチャいい勝負をしていたんだけどね。

 俺としてはむしろ小烏丸さんは口先だけと思っていたのに、七海さんと葉月さんのどちらに対しても勝っていてもおかしくない戦闘をしていたことにビックリだった。

 2クラス生って強いんだね。


 そして小烏丸さんは鏡君に連れられて、七海さんと葉月さんに不正でランクインしたと言う発言を謝り、俺たちにも5クラス生と侮ったことを謝罪した。

 実際、初戦の七海戦は初めから全力なら七海さんが負けていた可能性も高かった。

 そして二戦目は一戦目の負けを精神的に引き摺っていたことが見てとれた。


 「ほらぁ 万事解決でしょぉ!」


 俺たちはしっかりと風魔法で髪をなびかせて、締めの言葉を言い放つ桃井先生のドヤ声を聞くと、部室へと戻るのだった。





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 現在、なんと「ダンジョンに成り上がれ!」のコミカライズ企画が進行中です。

 まだまだネーム段階でどうなるかはわかりませんが、応援してもらえると嬉しいです!

 

 


 

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