第209話 ファミレス

 鏡君と対戦をしてから4日後。

 今日は月曜日なのだが、秋分の日の振り替え休日で俺は朝から攻略道と今宵たちの九人でレイドを組んでダンジョンの25階層を探索していた。

 そして昼食を食べにダンジョンからファミレスへみんなとやってきているのだが……、そこで俺は非常に困惑する事態に陥っている。

 まあ、みんなと言っても、今宵たちは一度ギルドに寄ってから来るそうなので今は六人なんだけどね。


 一体何を俺が困惑しているのかと言うと、ファミレスのソファー席……四人席で、今は六人がギュウギュウになって座っているのだ。

 水戸君なんて隣の猪瀬さん(通路側)と触れないようにしているのか、俺にすごく密着している。

 わかるよ、女子に触れると何か言われそうで怖いよね。


 しかもメニュー表が二つしかないから、みんなで見ようとすると選びにくいし。

 隣のソファー席(四人席)も空いていたから、一番に入店をした俺がここに座ったんだが、俺、水戸君、七海さん、葉月さんが座って、猪瀬さんと東三条さんは隣のソファー席に座るのかと思ったら、俺たちと同じ所に入ってきてこの状態と言う訳だ。


 カランコロン


 入店の音が聞こえたので見ると、今宵たちだったので俺は手を挙げて今宵にここだぞとアピールする。


 「ちょっとお兄ちゃん、ちゃんと店員さんに人数言った? それでここなの?」


 「いや、言ってないけど? まあそれよりそっちあいてるぞ」


 「たしかに空いてるけど、今宵たちは合計で九人でしょ! 普通に座ったら一人だけ余っちゃうじゃん。しかも離れて座ったら、話ができないくらい離れて区切られてるし。入店した時に店員さんに人数を言って案内してもらえばよかったのに」


 ああ、それで猪瀬さんと東三条さんはここに無理やり座っているのか。

 入店時に人数を言って案内してもらうって何だろ。

 え? まさか店員さんに案内されるのが普通なの?

 最近まで俺はボッチで友人とファミレスなんて来たことないし、外食なんて家族としか行かないから、いつもは両親が入った後について行くだけ。

 だからそんなのわからないよ。


 俺がそんなことを考えていると、今宵はハァ~というため息をはいた。

 めっちゃ可哀そうな子を見る目で……妹に見られる兄って。

 しかもキィちゃんもさっちゃんも「マジかー、このお兄さん」みたいな半眼で見るの止めてくれる?

 そう言う視線にゾクゾクするように目覚めちゃったらどうするの?


 「あ、店員さーん。九人なんですけど、あっちの六人席でパーティションで区切られてなくて全員が近くに座れる席って空いてますか?」


 「あ、少々お待ちください。先ほど退席をされたお客様の食器がまだ残っておりますので、片付けてまいります」


 今宵が近くを通りかかった店員を呼び止めて別の席の話を聞いている。

 不出来な兄でごめんよ……。

 こんな事なら率先してファミレスに入るんじゃなくて、東三条さん……は俺でも知ってるドリンクバーを知らなさそうだから……、猪瀬さんに一番に入ってもらうんだった。

 見かけ判断だけだけど、むちゃくちゃファミレス慣れしてそう!

 「もう家みたいなもんだし~」とか言いそう。


 「お待たせしました、お客様。こちらへどうぞ」


 客の食べ終わった食器を片付けた店員さんが俺たちを呼びにくる。


 「ってか六人席って珍しくない?」


 「それはここがダンジョンに近いので、パーティ全員で座れるように特別に変更しているんですよ」


 俺は水戸君に話しかけたつもりで水戸君もこちらを向きかけていたのに、店員さんは自分が話しかけられたと思ったのか答えてくれた。


 「どうりで……。初めて来ましたから、あの窮屈さがファミリーレストランの特徴かと思っておりましたわ」


 東三条さんがあのキツキツの状態でも特に何も言わなかったのは、あれが普通と思っていたからか。

 まあ、向うは女子が三人だったから、みんなスタイルも良いし、多少窮屈と感じるくらいだったのかもしれない。

 誰か一人大食いがいた時点でテーブルに置くところがなくなりそうだけど。


 「こちらです。ではお決まりになられましたら、そちらのボタンでお呼びください」


 俺たちは案内された席に座るが、結局先ほどと同じ組み合わせで座ることになった。

 今宵たちはすぐに話せる位置にはいるが、別の机で高校生と中学生組にわかれた感じになっている。


 「うーん、今宵は何にしよっかなー。ハンバーグにするか日替わりランチも美味しそう。キィちゃんとさっちゃんは何にする?」


 「私はコレにする」


 「私はこれ」


 今宵たちはワイワイと話し合ってそして即座に呼び出しボタンを押した。

 いや、決めるのはっや。


 「そう言えばあまちーってファミレスにきたことあるん?」


 「ファミリーレストランは今日が初めてですわ。こんな値段でこのクオリティはほんとでしょうか」


 「あー、メニューの写真とくる料理はかなり違いがあるからー。東三条さんだとビックリしちゃいそう」


 「だね! あと、ドリンクバーと言うのがあって――」


 こちらでは猪瀬さんが東三条さんにファミレスに来たことがあるかと聞いて、七海さんと葉月さんがファミレスがどういうものかを話している。

 人数が多いとあちこちで会話が発生するが、どこにも割り込めない俺と水戸君。

 俺たちは無言でページをめくりながらメニューをみていた。




 俺たちは全員の注文が決まってドリンクバーを取りに行った後に、またワイワイと会話を始める。


 「そう言えばあおっち、鏡君はどうするんー? ここ三日は学校が休みだったから何もなかったけど、対戦した後の次の日なんて休み時間に毎回きて弟子にしてくれって言ってたけど」


 鏡君のことは忘れようとしていたのに、猪瀬さんのせいで思い出してしまった。

 そうなのだ。

 鏡君は対戦をした翌日(金曜日)の休み時間に、毎回1-5クラスを訪れては俺のことをアニキと呼んで弟子にしてくれと付きまとってきていた。


 そしてそれを東三条さんが聞きつけて彼を連れ帰ろうとしたら、今度はそれなら攻略道に入れてくれと言い始めた。

部活に入れば、実質弟子入りしたのと同じ! とか完全に精神を病んでしまっている。


 「弟子にするつもりはないけど、部活はどうしよう? ステータス偽装がバレるのも困るよね」


「じゃあ鏡君が勝った時の賭けの条件はあったけど、蒼月君が勝った時の条件は聞かれないまま勝負しているんだから、勝利条件を持ち出してもう俺に関わるな! って言っちゃう? 勝手に押し付けられた賭けで勝利したのに、その対応が報酬ってのもおかしいけど!」

 

 葉月さんが対戦時の賭けで、俺の方の条件を俺に関わるなにしたら? と言う。

 賭けとしては成立していないけど、、いや、鏡君は前にも何度か1-5クラスに来た時にクラスで周りを威圧をしたり迷惑をかけているから、攻略道のメンバーに金輪際近づかないようにっていう条件ならどうだ?

 それなら俺も平和になるし、なにより東三条さんと鏡君は話が出来なくなる。

 鏡君は東三条さんのことが好きなんだから、近づくことが禁止となると物凄い罰になるのでは?

 うーん、でもなぁ……、


 「それだと大切な仲間の東三条さんを賭けにしているみたいでなんか嫌だな」


 鏡君は東三条さんを『列強』に取り戻すために賭けの対象にしたけど、仲間を賭けるって言う考えが俺には合わなくて、つい思った言葉が漏れてしまった。

 そして俺がその一言を言った瞬間、周りのメンバーや今宵たちでさえ、時が止まったかのように静まりかえる。

 東三条さんは下を向いてうつむいてるし……、あれ? 俺なんかおかしなこと言っちゃいました?

 たった数秒のはずの無言が重い。


 ガタリ


 「ジュースとってくる」


 こういう時に一番に場を温めてくれる今宵が、この雰囲気を放置したままドリンクバーの所へ行ってしまった。

 えぇ……?


 「ま、まぁ、賭けの話は置いておいてー。攻略道のことなんだけどー。私たちの秘密がバレるのは良くないけど、攻略道を作った時の目的って5クラス生が差別されていて部活動に入れなかったからだよねー? それなのに、加入希望者を拒否していたらなんか違うくないかなー?」


 たしかに。

 ダンジョン探索部もそうだったけど、5クラス生を完全に見下していて俺たちが部活をしても強くなんてなれないみたいに差別をしていた。

 ただ、俺たちが異常な速度でレベルが上がっているのもまた事実。

 空間魔法持ちが使う魔法陣転移や今宵の階層移動の魔道具を使って加入者全員がレベ上げをしたら、そのことから俺たちの秘密がバレて契約魔法に引っかかる人も出てくるんじゃないだろうか?

 でも加入希望を拒否すると、俺たちもいけ好かない他の部活動の連中と同じになってしまう。


 「あー、他の人も加入できるなら、僕も希望は伝えられているんだけど……。ウチのクラスの茅野 愛かやの あいさんと松戸 春まつど はるさん。彼女たちが攻略道に加入したいんだって。僕たちを近くでよく見たいとかなんかよく分からない理由だったから、そのままにしてたんだけど」


 茅野愛さんが俺と水戸君のカップリングの話をした子で、松戸春さんが椿推しの子だな……。

 さすがに対戦の時も応援に来てくれていたので名前は完全に覚えたよ。

 水戸たちをよく見たいってまさかね?


 「まあ、攻略道を作った経緯を考えれば、断ることはできないか」


 俺たちがそんなことを話していると、ジュースを両手に今宵が戻ってきたようだ。


 「天音ちゃん、ハイこれ。たぶん美味しいよ」


 「? ありがとうございますわ。――ゴフェ」


 「うわっ。東三条さん!?」


 うつむいていた東三条さんに今宵がコーラ? を美味しいよと言って渡す。

 そして東三条さんはそれを受け取り、一口飲んだところで水戸君に向かって吐き出した。


 「コーラにオレンジとメロン、さらに抹茶を加えたらダメだったか……」


 コーラで色を黒くして、ファミレスあるあるのジュースミックスを今宵はなぜ今このタイミングでしちゃったの!?

 東三条さんがまさかの口から飲み物を吐き出すと言う事態に、俺たちは慌てるのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る