第208話 来いよ”高み”へ
「それでは、はじめ!」
審判員の合図とともに俺は鏡君へ挨拶代わりの一撃を放つ。
「「スラッシュ」」
どうやら鏡君も同じことを考えていたようで、お互いの技がぶつかり合って消滅した。
俺はスラッシュを放つと同時に、時計回りに移動しながら鏡君を観察する。
鏡君は剣を持ち俺と同じようなオーソドックスな戦闘スタイルに見える。
戦闘前に確認をした鏡君のデータはレベルが18で特に気になるようなスキルや魔法も持っていなかった。
いや……一つだけ気になるとすれば
後の先というスキルを今宵が取得していたので今宵から聞いた話から類推すれば、俺の動作から俺が動き出すその前に機先を制してくるものだろう。
相手が動く前に攻撃をするってそれが可能なら最強じゃないか?
俺は相手のスキルに注意をしながら、鏡君の側面から斬りかかった。
しかしそれはガンッという音とともに弾かれる。
鏡君は俺の剣を弾くと、俺の態勢が少し崩れている所へとスキルを放った。
「スラッシュ!」
俺はその攻撃を紙一重でかわすと一旦距離をとる。
「クッ まさかお前も他の総合ランカーと同じように俺の先の先が通用しない!?」
……もしかして俺が一番気にしているスキルを鏡君はすでに使っている?
いや、こういった言葉さえもフェイントの可能性もある。
念のため鏡君の言っていることがわからないふりをして相手の反応をみてみるか。
「先の先? 通用しないと言われても、それがどんなスキルかわからない俺には……」
「ハッ 先の先は相手の機先を制するスキルだ。俺は一撃で決めるつもりで最初から使っているが……今も使ってそれを対応しておいて何を言う。どうせ俺の対策をしっかりと練ってきてたんだろう」
親切さんかな?
自分のスキルの詳細と、いつそのスキルを使ったのかまで鏡君は教えてくれる。
なるほど、先の先は鏡君が使ったスラッシュ二回でどちらにも使っていたと。
そうなると……もしかして俺が警戒する必要はもうないのでは!?
鏡君が攻撃を仕掛けてくるそれを俺はいなしながら、この決着をどのようにつけるかを考える。
今まで俺は1-4クラスと東三条さんに勝ってはいても、上位クラスや上の学年からしてみれば恐らく1-3クラス程度の実力で、運よく東三条さんに勝てたと思われているのだろう。
これは対戦前に鏡君が俺をラッキーで東三条さんに勝てたと言ったことからも明白だ。
であるならば、ここは余裕のある勝ち方をして強さを示しておく必要がある。
ただ……その場合でも鏡君は1年のランキングでは2位ではあったが、総合ランクでは47位と東校全体でみるとそこまでの強さではない。
まあ、450人中50位以上と考えれば上位ではあるが……何と言っても現状で東三条さんは総合ランキング1位だからね。
「さすがにこの一戦では……相手が鏡君ということもあって、実力を認めさせることができるのは1年生だけかな」
「俺の連撃に耐えられなくなったか? まあ、お前はそれなりに粘ったよ」
俺が小声でこぼした声に鏡君は反応するが、俺が何を言っていたかまでは聞こえていなかったようだ。
というよりも先ほどからずっと鏡君の攻撃を俺はいなしていて、戦闘を継続しているせいで鏡君の息はすでに荒い。
俺は思考加速を使っているので、この戦闘をどう決着をつけるかを考えながらも鏡君の動きはしっかりとみていた。
そして稀にこちらの動きに合わせて鏡君の対応が早くなることを確認している。
おそらくあれが先の先スキルなのだろう。
そしてそれが鏡君より上のランカーに効かない理由も理解した。
そもそもの話、スキルは未知の要素も多いためにありえないことではないが、もし機先を制するという状態がスキルによって絶対的な場合であれば、どんなに能力差があっても通用することになるだろう。
だけど、鏡君のスキルは俺に通用していないことから、俺の動き出しはとらえて機先を制しようと動いても……俺は偽装しているだけで、ステータス値が圧倒的に鏡君より高いのだ。
しかも身体強化のレベルも上がっている。
だから上位者に対して動き出しがわかっても通用しないスキルになってしまっている。
今宵は先の先なんて言うスキルが取得できる状態にあったという話はしていないことから、スキルで持っていなくとも感覚的に使っている状態なのでは? と思う。
だって首狩り族だから。
一撃必殺ってつまり完全に機先を制してるよね。
だから今宵の場合は、すでに持っている判定でカウンターが可能な後の先というスキルが出現したのではないだろうか。
「だんまりか。いや、ハァ……息が上がって答えられないだけか」
「スラッシュ」
俺は鏡君が言葉を発したと同時にスラッシュと声に出す。
「!? スラッ……グファ」
俺のその声を聞いて鏡君は俺と同じくスラッシュで相殺を狙って来ようとしたが、俺はスラッシュを口に出しただけで技を使ったわけではなかった。
俺のその言葉に反応をして鏡君が応戦しようとしたその瞬間に、俺は一気に間合いを詰めると鏡君の腹を思い切り殴る。
ダメージを与え、鏡君の剣を持つ手が緩んだ事を確認すると、俺は鏡君の剣を自分の剣で弾き飛ばした。
さらに無手になった鏡君を俺は蹴り飛ばす。
騒がしかった闘技場の歓声は一瞬静まりかえり、そして爆発した。
「剣……拾うと良いよ」
俺の蹴りで吹き飛ばされた鏡君に、俺は剣を拾うように発言する。
「クソッ 舐めやがって。後悔するなよ!」
「いや、舐めていたのは鏡君だろ? 俺はこの通り息も乱れていない。それなのに勝手に自分が息切れをしているからとこちらはもっと疲れていると自己判断する。先の先スキル……良いスキルだよ。それが通用しない、それはすなわち実力差が明白って事実が簡単にわかるのだから」
「蒼月ィ――!」
剣を拾った鏡君がなんの戦術もないような状態で激情して斬りかかってくる。
俺はそれを見てここまでかなと判断をすると、攻撃を躱して鏡君の左足を切り飛ばす。
片足になった鏡君はそれでも諦めずに俺に向かって剣を投げつけるが、俺はそれも躱すと彼の右腕も切り落とした。
そして地面に這いつくばっている鏡君の顔面に剣先を突きつける。
切り飛ばした足と腕から血が流れ血だまりを形成していく。
俺は姿勢を崩さず、これ以上動けば首を刎ね飛ばすという意思を持って鏡君の言葉を待った。
「こ……降参する」
「勝者、1-5クラス蒼月!」
審判が俺の勝ち名乗りをあげるとともに、闘技場にビーンという音が響き渡った。
すると手足を無くしていたはずの鏡君が元の状態へと復元する。
闘技場の機能かな?
ビーンという音の後は歓声が闘技場を包んでいる。
「あおっち、あおっち!」とひときわ大きな声で歓声を送ってくれている猪瀬さんに目を向けると……俺の勝利でなぜか泣き腫らして化粧がぐちゃぐちゃになって……。
いやそれ前も見たな!?
俺はそっと猪瀬さんから目を離すと、こちらに声援を送ってくれている攻略道のメンバーと九条君たち、さらに他の1-5クラスの皆に向かって手を挙げた。
「おい、鏡。大丈夫か?」
俺がみんなに手を振って答えていると、風紀委員の先輩が鏡君を心配している声が聞こえたので俺はそちらをチラリと確認する。
すると傷はすでに無くなっているはずの鏡君はブツブツと何かを呟きながら、俺に倒された状態のまま立ち上がってもいなかった。
さすがに完全に負けを認めさせる形で降参させたのは鏡君のプライド的に良くなかったか? と俺は考えて焦る。
闘技場での戦闘は死んでも生き返ることから、最後までお互いが諦めずどちらかの生死で決着がつくことも多いと東三条さんからも聞いている。
降参を宣言する場合は、勝てないと自分自身が判断した状態だから、鏡君には少し酷だったかもしれない。
俺はそう思い、鏡君に声をかけるために近寄る。
その瞬間、
「ア、アニキ! 俺を弟子にしてくれぇ!!」
「え? お断りします」
俺の足元へと物凄い速度でやって来た彼は……おかしなことを口走った。
咄嗟に断りの言葉を言ってしまったが問題はないだろう。
精神が壊れた場合って回復魔法で治るのかな。
俺は断ったにもかかわらず、壊れたラジオのように足元に縋りつき、何度も何度も弟子にしてくれと俺に懇願する鏡君を見て困惑するのだった。
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1年校内ランキング
1位 1-1 東三条 天音 18戦17勝1敗 730P(総合ランキング1位)
2位 1-5 蒼月 矜一 45戦45勝0敗 233P(総合ランキング47位)UP
3位 1-1 鏡 真一 13戦7勝6敗 210P(防衛失敗 総合ランク外へ)
4位 1-1 豊崎 亜希 10戦10勝0敗 185P(総合ランキング48位)
4位 1-1 佐々木 亮 11戦8勝3敗 185P(総合ランキング49位)
6位 1-1 皆川 春斗 14戦10勝4敗 160P
7位 1-1 青山 佳乃 9戦8勝1敗 150P(総合ランキング50位)
<名前>:鏡 真一
<job> :剣士
<ステータス>
LV : 18
力 :C
魔力 :D
耐久 :C
敏捷 :C
知力 :C
運 :C
魔法 :
スキル:先の先、身体強化、見切り、暗視
※ステータス説明(成り上がれ投稿前からの裏設定)
ステータスがDやCと表示されていても内部ではD(100~200)、C(201~500)といった差があります。
同じCと表示されていても201と500では……強さが全く違います。
体調などでも強さは上下しますが、ステータスはあくまで目安です。
探索者協会などでは、内部の数値のことは知らないけれど経験則から差があることは認識しています。
いまさらな説明なんですが、書いておいた方が良いかなと思い書いています。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
それでは皆様、良い新年を迎えられますようお祈り申し上げます。
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