第六章 カーストの先へ

第206話 部室での一幕

 夏休みが終わり、二学期が始まってから2週間。

 鏡君と俺はまだ対戦をしていなかった。

 どうやら鏡君が俺と対戦をするという話が彼のパーティメンバーからほうぼう方々に広まりそれが学校側に伝わった結果、俺へ対戦を申し込まないと言う話が反故にされそうということで、どうやらまた教員会議が開かれたそうなのだ。


 いくらなんでも学校に見せている力はそこまでではないのに、警戒をされすぎじゃないか? と思って俺はそのことを部室で話題にあげた。

 攻略道のメンバーはどうして警戒をされているかわからないと言った様子だったのだが、桃井先生が「たぶんだけどぉ」という感じで警戒されている理由を話し始める。


 桃井先生の話によると、東三条さんが対戦相手を倒した後に、「蒼月君はこんなものではありませんでしたわ」と毎回それに近い捨て台詞を勝った後に言うらしく……、二年1位の九頭戦にいたっては「私様に勝てないと言うことは、蒼月君は二年生の中でもトップですわね! 次は三年生を私様が露払いしておきましょうか」と言ったことが多くの観戦者に聞かれていて5クラス生に負けるなんてことがあってはならないと言う話になっているようだった。


 「そ、それはたしかに言いましたけれど、私様に勝った蒼月君が弱いと思われるのはどうしても嫌なのですわ!」


 東三条さんが俺の名前を対戦に勝利した理由を顔を赤くして言っている。

 知らない所で俺は全校で有名になっていた?

 そのせいで通常は東三条さんに向くヘイトがすべて俺に向かって来ている状況か。

 だから九頭竜王子ゾンビに絡まれたの!?


 そう言えば、七海さんたちが東三条さんの試合を観戦した時に何か言ってたような気がしないでもない。

 思えばタンジョン探索部との部活動を賭けた対戦の前に、生徒会室に行った時にも東三条さんを使って俺が工作をしているみたいに生徒会長が言っていたような……。

 俺が指示をしていたわけではなく、東三条さんが勝手にしていたことでそう思われていたんだね。グスン。


 「まあたしかにー。自分が言われるなら良いけど、蒼月君がバカにされると腹は立つよねー」


 「うんうん! 何も知らないくせにって思っちゃう!」


 七海さんと葉月さんが東三条さんに同意をしているけど、知らない間に有名になる俺のことも考えよ?


 「でも職員会議では、鏡君に対戦を申し込まないように他の先生方が勧告をしたそうなんだけどぉ、『俺から対戦を申し込んだのにそんなことはできない』って突っぱねたそうだからそろそろ対戦の申し込みがあるんじゃないかしらぁ? 先生方も引き延ばせなくなってきていて頭を抱えていたわよぉ」


 まあ実際には口約束なので鏡君が俺との対戦を取りやめても、俺が対戦できなくなるだけだ。

 少し前までの俺なら、対戦をしたくなかったのでむしろ先生方の動きは嬉しいまであったが、1クラス入りをしたい今だと問題だ。

 いや、まてよ? 1~3クラスの人たち全員に対戦を申し込んでいくのはどうだろう?

 総合ランク入りはしないけど、謎の5クラス生が圧倒的勝率とポイント! みたいな陰の実力者ムーブができるのでは!?


 「あおっちは対戦をしていなくても、まだ1年生ランキングでは上位だから良いし、ななみんとはづきちは3クラスに二勝。あたしはこの二週間で4クラスに二勝しただけ……。あまちーは一人だけクラスが違うって言ってたけど、このままだとあたしだけが取り残されそう」


 「いや猪瀬さん。僕もまだ4クラス生に二勝しただけだよ。猪瀬さんは1-5クラスと1-4クラスで戦った時に一勝してるから、攻略道で一番ポイントが低いのは僕なんだけど」


 「え? でもミトミトは絶対上にいくじゃん! それともあたしに合わしてくれるん?」


 猪瀬さんは自分だけ今度はクラスが違うことになりそうだと、水戸君をウルウルさせた目で見上げる。

 水戸君はそれまでみんなと普通に話していたのに、猪瀬さんから目線を外して固まると、微動だにしなくなってしまった。

 どうやら女子の瞳ウルウル攻撃に負けてしまったようだ。


 「里香さんも頑張れば良いだけでしょう? そこまで気になさるなら放課後に私様が一緒に訓練を――」


 「い、いやぁ! あまちーと訓練するとバトルベアと一対一をさせられちゃう!」


 猪瀬さんはそう言うと、俺の後ろに回って身をかがめて東三条さんから身を隠した。


 「攻略道で闘技場が使えたら訓練できるのにねー。部長として申請はしてみたけど、だめだった。実績が足りないんだってー」


 「実績って例えばどんなことを言うのかな? 過去に何かの大会に出て良い成績をだしているとかだと、新規の部活だと無理だよね」


 俺は実績が何かが気になって、桃井先生を見ながら疑問点を口にした。


 「んー。大会成績もあるとは思うけど、ランキングやクラスの問題じゃないかしらぁ? クラス自体は今は変えようがないから、メンバー全員がランカーになればぁ、『列強』や『生徒会』みたいに優遇されるのではないかしらぁ?」


 「なるほど。でもそれだと結局5クラスってことで使わせてもらえない気がします」


 「そこは地道に実力を認めさせて行くしかない気がするわねぇ。でも認めさせないと弱いと思われてこのまま差別をされたままよぉ」


 結局は対戦をしないとダメってことか。


 「猪瀬さんや水戸君がポイントを増やすのって、基本的に対戦は週一? くらいの暗黙の了解を無視して対戦しまくればいいんじゃない?」


 この二週間で攻略道のメンバーは俺以外は対戦を申し込んで二戦しているのだが、なんでも対戦は週一回くらいが普通らしく、体は回復しても精神的に疲労がたまるために学校からも週一戦闘が推奨されているらしかった。

 


 「そこは疲労度や強さの問題ねぇ。現に蒼月君の総対戦数はいまだに異常だし、東三条さんも蒼月君を除いたら2番目の対戦数よぉ」


 「あおっちやあまちーには簡単かもしれないけど、あたしなんか対戦の前日から緊張しっぱなしだから精神的にキツイかも」


 「それならやはり連戦ができるだけの強さと体力が必要ですから、訓練ですわね」


 「ヒィィ!」


 「「あはは」」


 猪瀬さんは25階層のバトルベア戦がトラウマなのか本気で東三条さんの訓練から逃げ出すのだった。

 水戸君も桃井先生に一対一をさせられてトラウマみたいになっていたけど、そういう面では似たもの同士なのかな?

 武器を持っていないが、バトルベアは動きも早いので対人戦闘の訓練にはもってこいなのかもしれない。


 マコト達はどの階層の敵でも、父さんの1対1で勝てるようになれという訓練をこなして強くなっているし、攻略道のみんなも父さんの指導を受けたらどうだろう。

 俺は東三条さんと猪瀬さんのコントを見ながらそう思うのだった。

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