第204話 札束で頬は叩くものだからっ

 鏡君と対戦の約束をした二日後。

 俺は朝からダンジョンの25階層で攻略道のメンバーの熊胆狩りに付き合って、荷物持ちをやっていた。

 昨日まで父さんのスパルタ訓練を受けながら、二日をかけて25階層に到着をした攻略道のメンバーは、その日はダンジョンに潜ることもなくマジックバッグを買いに行っていた桃井先生に、俺とダンジョンに行ったらマジックバッグが買えちゃった♪ と攻略道のグループチャットで自慢をしたらしかった。

 スパルタ訓練で疲労困憊だった攻略道の皆は、その自慢げな桃井先生のチャットに怒り心頭で……、俺はその苦情を一身で受けることになってしまった。

 そして今日を迎えたと言う訳だ。


 ってかグループチャットって何? と水戸君に聞いたら、なんでも俺と東三条さんは別行動が多いために、俺たち二人を除いた攻略道のグループチャットがあるらしかった。

 集合時間や持って行く荷物などのやり取りを、俺たちに見せても仕方がないという判断からだそうなんだが、クラスが違うと東三条さんが嘆くのと同じく俺もしっかりとハブられていた。


 たしかに、あんまり皆とダンジョン攻略ができていないのは申し訳がないけど、気遣いのポイントがなんか違うよ!

 実際にはダンジョンパーティのメンバー数の問題もあってそれが効率的とは思うけど、自分のいないグループチャットがあると言うのはなぜか、かなc。


 一応副部長なので、ちゃんと活動内容とかは先に教えてもらっているし、それを聞いて別行動をとっているので自業自得と言えなくもないが……。

 この件をダシにして東三条さんとツーマンセルのグループチャットを組もうと言えばリア充への道が開けるだろうか?

 でも二人だけって、普通にメッセのやり取りをしているだけだからグループの意味はゼロ。

 ここを突っ込まれてしまうと俺の下心がバレかねない。


 「あおっち、そんな難しい顔をして考え込んでどうしたん? あ、はいこれ、くまたん。収納よろしくー」


 東三条さんとペアを組んでバトルベアの狩りをしていた猪瀬さんが、自分たちで倒した熊胆ゆうたんを俺へと持ってきた。

 熊胆をわざとくまたんと猪瀬さんは呼んでいるんだけど、くまたんって言うだけで可愛くなるのは何故だろう?

 くまタンならくまモンみたいになるからか?

 一体まるまるだとくまタン……ってそんなことはどうでも良いか。


 「ん? いや俺と東三条さん以外でグループチャットがあるんでしょ? だからそれに対抗して東三条さんと二人でグループチャットを作ればもっと仲良くできるかなって……」


 俺は猪瀬さんから熊胆を受け取りながら、つい考えていたことをそのまま猪瀬さんにポロっと話してしまった。


 「あ、あまちー! あおっちが、あおっちがあぁ!」


 俺の言葉を聞いた猪瀬さんは、少し離れたところで剣の確認をしていた東三条さんのもとへと走っていく。

 そして何かを東三条さんに伝えると、東三条さんもこちらへとやって来た。


 「あ、蒼月君。ま、まだ早いですわ。や、やぶさかではありませんが、二人で付きあ……、付きあ……」


 俺の近くへとやってきた東三条さんは、なぜか赤い顔でモゴモゴとしていた。


 「あ、東三条さん。普通に1対1と同じなのに二人だけでグループチャットってやっぱり意味ないよね」


 「グ、グループチャット!? 里香さん私様に言った話と食い違いが――」


 「え? いや、あおっちの目的は最終的にはそれだと思うし?」


 「もう! そんな訳がないでしょう。私様を揶揄って! 里香さんはまだ一人でバトルベアを倒せないのですから、行きますわよ!」


 どうやら俺の発言を勘違いした猪瀬さんが、あることないこと東三条さんに吹き込んだらしく、猪瀬さんは東三条さんに引きずられて行く。


 「それにしても蒼月君はマジックバッグを買ってくれるって話を覚えてくれてたんだねー」


 「そうそう、私たちが戦って集めてはいるけど、結局これって蒼月君がいないと集められないから同じ事だよね!」


 猪瀬さんたちがいなくなると、今度は七海さんと葉月さんが俺の元へと熊胆を持ってやって来る。

 マジックバッグを買う話って、攻略道の全員にオーク錬金で買うって話を野営の時にしたやつか?

 あれはあれで俺が言いくるめられて全員に買わされそうになったやつ!


 「しかも蒼月君は収納をするだけだから、タダであげる訳でもないって所がすごい気遣いだよねー」


 なんかいい方向に話が転がっているけど、これってもしかして俺がサクッと全員分のマジックバッグ分を稼いで買った方がポイント高かったんじゃないか?

 あの時はオークをかなり倒さないといけなかったし、アイテムボックスの容量的にも厳しかったが、熊胆は小さいしなんならお湯に付ければもっと縮むのでいくらでも収納して一攫千金状態だ。


 ミドルレンジのマジックバッグで3500万くらいだから、それを奢られたら……たいていの女性は……いや、クズな考えは止めておくか。

 今宵にお金の使い方を説いているのに、その俺がクズになってしまっては本末転倒だろう。


 「みんなの実力だよ。でも1年生でマジックバッグを持ってたりすると犯罪に巻き込まれるかもしれないから気をつけないと」


 「「たしかにー(!)」」


 俺たちがワイワイと会話をしていると、桃井・水戸組が熊胆を手に入れてやってきたようだ。


 「あ、七海さんと葉月さん、どっちか僕のペアになってバトルベア狩りしてくれないか? 桃井先生は僕にだけ任せて……指導をしてくれるけど、僕だけこのままだとマジックバッグを買う量を集められないかもしれない……」


 「ちょっとぉ! これは水戸君の為でしょぉ?」


 「でも先生、シールドがあるから負けはしないと言っても、攻撃力の面で倒すのに時間がかかって……」


 「変わってあげたいけどー。桃井先生は私たちに自慢しすぎてたから、桃井先生と二人で狩りをするのはねー」


 「うんうん、自慢がうっとおしかったし! 蒼月君に~、蒼月君に~って自慢ばっかり!」


 「ほ、ほらねぇ? この二人もこう言っていることだし、熊の胆を渡したらすぐに次に行くわよぉ!」


 桃井先生はよほど自慢をしてしまったのか、七海さんと葉月さんに嫌味を言われてビクリとすると水戸君を連れて移動する。

 水戸君はあんまり主張しないからね……。

 それでも交代をしてほしいって頼むくらいだから、桃井先生が一人で激闘をしていたような感じで水戸君はしごかれているようだった。


 「もう、桃井先生は調子良いんだからー」


 「後、風魔法が使えるようになったって!」


 ああ、桃井先生なら自慢してそう!


 「なんか私たちにアドバイスないかなー?」


 二人にアドバイスか……。

 七海さんは水魔法が使えて、たしか魔法攻撃力上昇というスキルを持っていた。

 葉月さんは生活魔法を覚えていたはずだから……。


 「七海さんは水魔法を先天的に持っているから、魔力操作が慣れているよね? だからその延長線上で生活魔法の練習かな? 基本属性が使えれば生活魔法を覚えるのは生活魔法から属性魔法を覚えるより簡単と思う。葉月さんは生活魔法のレベル上げを――」


 俺が二人に説明をしていると、二人は興奮して俺の両脇にやってきて至近距離で真剣に話を聞いてくれている。

 

 「例えば魔力を流す要領でこう……ってごめん」


 魔力操作の練習を今宵とする時のように、つい七海さんの手をとってしまい俺は謝る。


 「え? 説明だけを聞くよりわかりやすいからそのままでいいよー」


 「ちょっと由愛ばっかり!」


 葉月さんが俺と七海さんのやり取りを俺を挟んで苦情するせいで……。

 ち、近いし当たってるから!

 二人は真剣に教えてもらおうとしているけど、俺は別のことが気になって気が気ではない。


 「東三条さんの家に行くまでにはまだまだ時間があるから順番に教えるからっ」


 今日は8月31日金曜日。

 俺たちは、今日のダンジョン攻略後に東三条家で集まってお疲れ会をすることになっていた。

 しかも、今宵が俺の缶詰料理を見てからあれなら自分にも作れると言い出し、東三条家で今宵と東三条さんが手料理を作ってくれることになったのだ。


 ちなみにどちらも料理を作ったことがなく……、味の方も心配だったりするのだがそれはまた別の話である。


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