第199話 アシステッドトレーニング
「桃井先生お疲れさまです。顔面から引きずられていましたけど大丈夫ですか? ヒール!」
「ちょっと蒼月君? 痛いに決まっているでしょぉ? 大丈夫か聞く前にヒールしてよぉ」
俺はダンジョンの12階層で、今宵にトレーニングの一環で引きずられていた桃井先生に声をかけてヒールした。
俺たちは昨日学校の訓練場で、大きな傷や痛みを受けた時の状態を経験してまた一つ成長をしたのだが、そのときに監督をしてくれていた桃井先生が、攻略道でアシステッドトレーニングという練習方法を取り入れましょうという話があった。
アシステッドトレーニングとはどういうものかというと、桃井先生の話ではスポーツ科学の一種で自分の限界を超えたスピードを経験させて、
人はそれまでに知覚経験した対象の形や大きさ、重さや手足の位置や運動、筋収縮にいたるまで、過去の経験によって脳が判断をして体を動かしているのでそれにゆがみを生じさせようというものだ。
もっと簡単に言うと、例えば重いものを持った時にそれより少し軽いものを持つと、
そしてそのアシステッドトレーニングを応用して、スピードや筋力を上げようと今宵たちを伴って俺たちはダンジョンの12階層で訓練をしていた。
スピードと言えば今宵だし、キィちゃんは剛力でオークジェネラルクラスの攻撃の重さを再現、そしてさっちゃんのスタミナポーションで疲れても回復ができて効果的な訓練効果が望めるという完璧な作戦である。
「でも、桃井先生が生徒に負けるわけにはいかないから厳しくしてって言いましたよね?」
さきほどは桃井先生が、今宵にゴムひものようなもので括られて引っ張られて走っていたのだが、今宵の速度に耐え切れずに顔面からダイブして、少しの間引きずられてしまったのを俺が回復した形だ。
「違うでしょぉ? 私が言っているのはそのことじゃなくて、あんな速度で引きずられたんだから瀕死ダメージなのぉ! 訓練の強さじゃなくてすぐに回復してって話なのよぉ」
でも桃井先生は昨日、「痛みに耐えるのも重要よぉ」とか言っていたんだよなぁ。
東三条さんの一言から始まったデストレーニングだったけど、そのとき桃井先生はめちゃくちゃいい笑顔で俺たちを激励していた。
「桃井先生。痛みに耐えるのも訓練ですよ!(にこにこ」
桃井先生は俺の言葉を受けて絶望した表情をする。
「桃井せんせー、次は桃井せんせーの番ですよ!」
重い攻撃を受ける訓練を担当しているキィちゃんがハルバードを肩に乗せながら桃井先生を呼びに来た。
「そ、そうねぇ。私が考えた訓練メニューだものぉ。頑張るわよぉ!」
桃井先生はそう言うと、キィちゃんと訓練をするために移動した。
そうなのだ。
今俺たちは多くがそれぞれに分かれて訓練をしているのだが、それらは桃井先生が訓練メニューを決めて効率を重視したメニューとなっていた。
例えば、今宵のスピード訓練をした後はキィちゃんの攻撃の重さの訓練、そして休憩をかねた魔力操作や魔法の練習をしたり、近くの魔物を間引きにいったりというルーティンとなっている。
「蒼月。パンチスピードを上げたいから、突きの練習で後ろから腕を押してほしい」
「了解。でもサンドバッグがないからどうする?」
「それなら私が水戸君の拳を掌で受けてあげる!」
「は、葉月さんそれ本当に大丈夫?」
「うんうん任せて! 攻撃を受ける訓練にもなるしね!」
まずは水戸君が俺の補助なしで葉月さんに突きを放つと、パンッという音とともに葉月さんはそれを掌で受け止めた。
次に、俺が水戸君の攻撃の動作に合わせて、水戸君の前足の股関節を軸にして全ての重量を瞬発的に回転力を活かして乗せるように補助をする。
すると、パァァンという音とともに威力が上がって、攻撃を受けた葉月さんは少し地面に後を残して受けることに成功をしていた。
「うぉ? 思った以上にパンチ力が上がってないか?」
「耐えるのに苦労した!」
「今のは軸を体の中心や頭じゃなくて、水戸君の前足の股関節にしたからだね。何でも右手で殴る時は左肩を引く状態になるけど、軸が頭や体の中心にあると全ての重量がパンチに乗らないらしいんだよ。矜侍さんがここが重要だぞって体術の訓練の時に言っていたやつ」
「へ~! さすが矜侍様!」
「そう言えば蒼月はあの矜侍さんに指導を受けたんだったか」
これは今宵のように体術系のスキルをはじめから持っていれば、勝手に体がそれらを補正して動くそうなのだが、俺が体術スキルを覚える時に矜侍さんに教えてもらった話だったりする。
「疲れた~。あおっちそろそろお昼ご飯にしようよ。あまちーが剣術の訓練で容赦なくてさぁ」
「強くなりたいと言ったのは里香さんでしょう? それに昨日よりは痛みはないわけですし」
「そうだけどぉ」
猪瀬さんの言葉をきっかけに、みんなが訓練を止めて集まってくる。
「それなら昼休憩にしようか」
「あ、お兄ちゃん。今宵の土遁を見てよ!」
今宵がフェレット状態のコジロウを頭に
コジロウは、今宵の額に前足をだらけさせていて、後ろ足を後頭部に伸ばしお腹を頭に乗せてリラックスしているような状態だ。
毛玉状態とフェレット状態にはどうやらすぐに変わることができるらしい。
「行っくよー! ムムムッ 土遁・休憩所っぽいの!」
今宵がそう言って魔力を込めると、ゆっくりと倉庫のようなものが出来上がる。
まあ俺たちには気配察知や魔力感知があるから、外が見渡せなくとも大丈夫か。
「今宵ちゃん、コジロウに触ってもいいー?」
「あ、
「ななみんが撫でるならあたしも!」
七海さんがコジロウに触っても良いかと聞いたことを皮切りに、猪瀬さんや他のメンバーもコジロウを撫でようと並んでいる。
「そう言えば蒼月君ー? 陽菜たちとパンチスピードが上がる訓練をしていたみたいだけど、剣速や威力は上がらないかなー?」
コジロウを撫で終えた七海さんが俺に剣は無理なのかと聞いてくる。
剣か……。
剣を振り下ろす所を後ろから腕を押してみるか?
「突きならできそうだけど、振り下ろす場合は地面が少し近すぎるかな?」
「あ、じゃあお兄ちゃん、お互いがジャンプしてから振り下ろしてみるとか? 空中での態勢維持だとか難しくて良い訓練になるかも!」
「それいいかもー」
「じゃあ僕が下でその攻撃をシールドで受けようか?」
「水戸君お願いー」
「もちろん」
俺たちは昼食後も自分たちの限界を超えるそれらの訓練をして、充実した一日を過ごすのだった。
「だからなんですぐに回復してくれないのよぉ~!」
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