第198話 登校日
今日はオークロード戦から6日後の8月27日月曜日。
俺は今、朝食後の自室で夏休み2回目の登校日の用意をしていた。
今日までの6日間に俺たちが何をしていたかというと、実はダンジョンの24階層以上には行けていない。
オークロードの話をギルドへ報告して長時間拘束され帰宅した俺たちは、次の日は25階層から探索をする予定でいた。
結局、その予定は両親が家に戻った時に、ギルドから24階層の調査団に加わってほしいという依頼があり中止することとなる。
両親はその依頼を初めは断ろうと思ったそうなのだが、ギルド嬢の間宮さんからその階層で戦える人材の人数を集めたいと懇願されたことと、アステリズムからの報告で調査をする必要になったという話を聞いて承諾をしたらしい。
俺たちが魔法陣転移で一瞬で移動できる階層も、ギルドでは片道2日をかけて移動をするらしく、そうなると
そこで名ばかりの役員である俺と今宵が、会社の業務を両親の代わりに4日間引き継ぐことになったのだ。
キィちゃんとさっちゃんはその連絡をするとレベルが上がらないと騒いでいたが、最終的にはウチの業務を手伝ったり、なぜか東三条さんとサバゲーのアイテムを買いに行ったりしていた。
椿も両親が依頼を受けた翌日から、パーティ活動を再開するという連絡が九条君からきたらしく、俺たちと入れ替わりになっていた。
そして両親が戻ってきた後の二日間はオークロード戦を振り返り、レベル上げも重要だけど、魔力操作などの訓練もしっかりしないと効果的な使い方ができないことが判明したので、桃井先生を含む攻略道のメンバーとそれらの訓練をしていた。
ちなみに桃井先生は生活魔法が訓練で使えるようになって、次は属性魔法だと意気込んでいた。
「そろそろ時間だから行くか。は~、今宵は登校日がないし、最近ではない学校の方が多いのに……」
元々登校日って教師の給料日に、給料が手渡しだから始まったとか聞いたことがあるけど、(7月25日と8月25日)今は銀行振り込みなんだし時代遅れだろ……。
まあ、冴木先生曰く、気を抜いてダンジョンで死なないようにだとかいろいろ登校日の理由は言ってた気がしないでもないけどね。
それに今の時代に登校日は殆どの学校でないなんて言い始めると、夏休みや冬休みは暑いから寒いから学業に差し障るという理由での休みだった気がするので、エアコンが教室にあるから長期休暇はなしにします! なんて言われそうだし怖いところだ。
学校に到着して教室に入ると、黄色い歓声があがる。
「きゃー! 蒼月君が来たわよ!」
教室が一気に騒がしくなり、しかも俺の名前が呼ばれたことから、俺は呼ばれた方を見ると、クラスメイトの女の子と目が合った。
「蒼月君、十六夜さんとはどうなったの? 十六夜さんに聞いても要領を得なくて~~」
ああ……、そう言えばこの子は1回目の登校日で俺が椿の名前を呼んで窓から飛び出した後に、今までの謝罪と飛び出した後の話を端末で聞いてきてた子か……。
椿の名前を呼んで、しかも窓から飛び出した事を思い出し俺は赤面する。
「私は水戸君とのカプ推し! でも十六夜さんとの話も気になる~」
別の女の子が会話に参加する。
いや、水戸君とのカプ推しって男同士なんだが!?
端末でも書かれていた気がするし、それを書いていたのはこの子か?
名前と顔が一致しない人もまだ多いからイマイチわからない。
「い、いや、あの時は急に椿に何か良くないことが起きてるような気がして飛び出して探したんだけど、そのときは会えなかったんだ。それは端末でも話したよね?」
俺はシュテルンということを伏せる必要があるので、探しには行ったけど会えなかったという話をする。
「え~? でも十六夜さんはそんな感じじゃなかったよー? 聞いてもなんだか蒼月君との関係性を誤魔化す感じでアヤシイの!」
それは椿が俺の正体をしゃべれないからじゃ?
それに誤魔化すって……、少し前までは嫌われていたから……。
椿の感情が流れ込んできたときで考えれば、そりゃ誤魔化すよね。
「椿と俺は……、友達に戻れた感じかな?」
「キャー! って、え? と、友達? 付き合ってるのじゃなく?」
「うん」
「そ、そうなんだ。でも十六夜さんの感じだと頬を染めてたのに……」
俺は彼女たちとの会話がひと段落したかなと自分の席に向かう。
「あおっちおはー」
「猪瀬さんおはよう」
「きょ、矜一おはよう」
「椿もおはよう」
「矜一、私はと、友達じゃなくても……」
え? イヤイヤ元通りじゃ? 最近バイブレーション椿になっていたのは嫌われたままだったからなの?
嫌すぎて震えちゃってた?
「ちょっと、蒼月君ー?」
七海さんが何かを言っているようだが、俺は椿の衝撃のカミングアウトで耳に入ってこなかった。
「ハッ……そうだよな、あの時は(キスできそうな)良い雰囲気だったし聞き間違いか」
「蒼月? ホームルームも終わってもう帰るだけだけど、この後部活はどうするの?」
「え? 水戸君? ホームルームが終わった??」
「冴木先生の注意事項とか聞いてなかったの? まあ普通のことしか言ってなかったけどね」
どうやらボーっとしていた間にロングホームルームは終了していて、帰っても良い時間になっているようだった。
「蒼月君! 朝に東三条さんに聞いたんだけど、学校の訓練場が使えるんだって! あの死んでも死なないやつ!」
葉月さんが興奮して話しかけてくる。
死んでも死なないって訓練施設の横でリポップするからか。
「えぇ? でも俺たち5クラスは簡単に使用許可が下りないとこだよね?」
「なんでも東三条さんが場所をとってくれたみたいよー」
「さすがあまちーだし!」
「里香ちゃんも陽菜も興奮しすぎー」
七海さんと猪瀬さんも会話に混ざったことで、1-5の攻略道のメンツが集合する。
まあ、席はもともとめっちゃ近いけど。
「それなら結構ギリギリまで追い込んだ訓練ができるかな?」
「たしかに。対人の練習もしておこうか。ダンジョン内は何があるかわからないしね」
俺はチラリと九条君たちに一度目をやって対人訓練の話をする。
そのチラリと九条君を見た時に、そこで彼らと話していた椿と俺は目が合い、椿が小さくこちらに手を振っていた。
「やっぱりさっきのは夢だったか」
「え? 何が?」
「いや、何でもない。それじゃあとりあえず部室に(桃井先生の所へ)行こうか」
「だね! せっかくだから、桃井先生を含めた攻略道VS蒼月君をしようよ!」
「陽菜ちゃんそれいいかもだし!」
「私たちの訓練成果を蒼月君に見せる時だねー。蒼月君はダンジョンで私たちの所にあんまり来てくれないしね。副部長なのにー(ぼそっ」
「蒼月、胸を借りるから」
((キャー!))
なぜかクラスメイトから水戸君が言った俺の胸を借りるという発言で歓声があがる。
いやだからおかしいよね?
そして七海さん、こっそり毒を吐くのやめよ?
俺はそう思いながらみんなで部室に向かい、その後ムチャクチャ訓練をした。
死んでも大丈夫とわかっていても、最初はみんな死ぬような攻撃は控えていたのだが、東三条さんが「痛みに耐える訓練も必要ですわよ」という話をすると、そのギリギリを超える訓練となりはじめて、最終的に俺は死ななかった場合の治療係として奮闘することになるのだった。
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