第200話 バトルベア
アシステッドトレーニングをした次の日。
俺たちは前回、24階層でオークの軍勢と戦ったメンバーからマコトを除いたメンツで25階層へとやって来ていた。
今回、マコトがなぜ俺たちと一緒に来ていないかというと、父さんたちと他の攻略道のメンバーの合同チームで、25階層まで経験をして移動できるようにしておこうという話が桃井先生から提案されたからだ。
なんでも桃井先生によれば、25階層まで到達できる高校生はほんの一握りらしいのだが、俺の両親がいれば危険度が少なく訓練をかねて攻略ができて一石二鳥らしいのだ。
そこで念のために、ポーションを使わなくとも回復ができるマコトがそちらに随行することとなった。
「何かを学ぶときは一つだけでなく二つ、三つの効果を狙えば人より差をつけられるのよぉ」と、どや顔で桃井先生は語っていた。
でもそれって、二兎を追う者は一兎も得ずとも言いますよね?
ほんとに大丈夫!?
「で、なんで合同でダンジョン攻略を提案した桃井先生がこっちに来ているんですか? 教師が指導を放棄してウチの両親に任せるっておかしくないですか?」
「あ、蒼月君。なんでそんなに私を軽蔑した目で見るのぉ? 先生ドキドキしちゃうわよぉ?」
「お兄ちゃん今宵がその理由を知ってるよ! なんか桃井先生がお父さんに色目を使ってたとかでお母さんが激怒してた! それで桃井先生はお母さんが怖くってマコトちゃんが抜けたからパーティメンバーに空きがあるよねって。しかも何かボソッとお兄ちゃんとの年齢差が7~8才だからまだイケるのでは? とか言ってたよ!」
「なんで今宵ちゃんは妹は見た! みたいな報告をするのぉ? 蒼月君にお姉さんの魅力が伝わらなくなるでしょぉ? 後、なんでみんな少し後ずさって……この人……みたいな目で見るの? ねぇ、もっと近寄りましょうよ」
桃井先生は冴木先生との飲み会はどうなったのだろう?
でもまあ母さんが怒ると怖いから、こっちに来たくなる気持ちもわかる。
というか、桃井先生は美人というか可愛らしい感じだし、しかも有名国公立の教師で探索者。
どう考えてもモテる要素を兼ね備えているのに、ダメそうな相手ばかりにちょっかいを出すのはなぜなのだろう。
「私様からすれば、教師が同行して下さるのは心強いですが……」
「さすが1年生の首席ね! 教員に対する配慮が良く出来ているわぁ」
配慮とかの問題か?
「でもこっちに混ざったのは、生徒に負けたくないからみたいなことも言ってたよ! それにお兄ちゃんがいたら
暴露マシーン今宵によって、桃井先生に少しだけ近づいていた東三条さんがもう一度後ずさる。
「それは仕方ないでしょぉ? だってシュテルンだし、しかも未知のオークロードまで一対一で倒したと聞けばそう思わない方がおかしいのよぉ」
「す、すごい。桃井せんせーがあっさりと認めてる」
「桃井先生って背もあんまり高くないからなんか友達みたいだよね」
キィちゃんとさっちゃんが桃井先生を年上認定から仲間認定したようだ。
たしかに桃井先生は今宵たちとは気が合いそうな性格な気がしないでもない。
「それよりも早く行きましょぉ。バトルベアを見るのも久々だから楽しみなのぉ。あの筋肉!」
「上腕二頭筋と大腿四頭筋ですわね。私様たちと遭遇したA級パーティ『存在の証明』が25階層のバトルベアの
東三条さんの言葉を聞いて、なぜか桃井先生がボディビルダーがやるポージングをとり始める。
桃井先生はまったく筋肉質ではなく、しかも小柄で胸が大きいので筋肉よりお胸様を強調しているかのポーズに見えて、俺はついつい引き寄せられてしまった。
「お兄ちゃん?」
少し桃井先生を見ていただけで、今宵から冷たい声をかけられたので俺は誤魔化すように話し出す。
「よし! じゃあバトルベアを倒しに行くか」
「そうですわね!」
今宵とキィちゃん、さっちゃんは白けた目線で、桃井先生は私のポージングを見ないの? という表情で、東三条さんだけが俺の言葉に返答をしてすぐについて来てくれるのだった。
「あ、あれがバトルベア。たしかに凄い筋肉ですわ。ですがやはり上腕二頭筋と大腿四頭筋、ハムストリングあたりだけが毛に覆われていないのは不思議ですわね」
「あれが良いのよぉ」
上腕二頭筋を東三条さんが二の腕と言わないのはまだわかる。
たしか腕の表側が上腕二頭筋で裏側が上腕三頭筋だったかな?
でも見えてる箇所が表なだけで裏も毛で覆われてなさそうなんだよなぁ。
表も裏も毛で覆われてないなら、それってもう二の腕だよね。
しかも大腿四頭筋(4つもしくは5つの筋の総称)とハムストリング(3つの筋の総称)は、太ももを形成している筋肉群だから、そこまで言うならもう完全に太ももと言えば良くないか!?
まあ、筋力をアップさせる訓練の時に、どこかを重点的に鍛える場合には、個別の筋肉を鍛えるから俺も多少名前を知ってはいたが……。
体を鍛えたりしない人にはほとんど通じないんじゃないの!?
いや、ストレッチとかを紹介するテレビ番組で時々聞くから大丈夫なのかな?
「パワー系と言えば私ですね!」
キィちゃんはハルバードを構えるとバトルベアに突撃していく。
パーティでの独断専行は危険だぞ!
まあ……敵が一体だから突撃したんだろうけども。
俺たちはゆっくりとキィちゃんとバトルベアの元へ向かうが、近くまで到着してもキィちゃんはまだバトルベアと激戦を繰り広げていた。
「や、やぁー! ……ふぅ。所詮はパワーだけのようだね!」
キィちゃんが一分ぐらい激闘をして倒したバトルベアは切り傷と最後に串刺しにした傷で酷い状態となっている。
かわいい女の子が蛮族っぽいからすごくシュールなんだよな。
「ちょと、きぃちゃん? これじゃあ
そう言えばそうだった。
ここに来る前に調べた限りだと、乾燥させたバトルベアの
1頭あたり20グラムの熊胆が手に入る計算でいくと、なんと160万円だ。
これ、もう父さんがここに来るようになったら、オーク肉の取引止めちゃうんじゃ。
バトルベアの肉は筋肉質で物凄く硬いそうなんだけど、豚や牛よりも赤みが強く甘みと旨味が強いと書かれていた。
ただ、臭みもかなり強いらしくて柔らかくすることとその臭みをとることにかなりの下ごしらえが必要でもあるらしかった。
ただ、その手間を考えても肉と熊胆、さらに爪や牙といったバトルベア一頭で200万前後になるから、ハイオークの4倍くらいとなっている。
「これはぁ、完全に胆嚢が潰れちゃっているわねぇ。
「そ、そんなこと言っても初めてだったんだから! 次は上手くやるもん」
「まあ別にもう25階層なんて何時でも来れるんだし、いくらでも倒せるんだから熊胆とかは気にせずに一人ずつ訓練して行けばいいんじゃない?」
「そうですわ。まずは安全が大事ですわよ」
「アナタ達といると常識が通用しないのよねぇ。片方は簡単にやって来ることができて倒せるというし、もう片方はお金持ちだからこの一頭の価値が……。そもそもみんなでじっくりと倒す魔物なのよねぇ」
桃井先生が何やら首を振りながら呟いてはいるが、それこそ俺たち一人一人がバトルベアを綺麗に倒せるようになれば、いくらでも稼ぐことはできるだろう。
「じゃあ次は今宵ね!」
今宵はそう言うと、魔力感知でバトルベアを探しにさっちゃんを伴って移動する。
そして数分後、アイテムボックスから首のないバトルベアを俺の前へと取り出すのだった。
「お、おお。なんかいつも通りだな」
「うん。特に変わった事はなかったかなー。シュパッって感じ。それよりお兄ちゃん、熊の胆の取り方を教えてよ」
もちろん俺はやり方を調べて来ているが、ここで聞くのは桃井先生じゃないの?
ほら、教えたそうにそわそわしてるじゃん。
でもまあ、俺が頼むとどうせ「仕方がないわねぇ」とかしぶしぶやる感じでするだろうから、ササッと俺がやっちゃうか。
俺はそう考えて……、
「たしか胃のすぐそばにあるから、胃とその周りの臓器も一緒に取り出すんだったかな? っとこんな感じで……、後はこの胆嚢の上の部分を糸で縛ってと」
胆嚢の袋を切ったり、破ったりしないように、俺は細心の注意を払いながら熊の胆を取り出して行く。
「んで、この取り出した胆嚢は、80度のお湯に数秒いれるとほらこの通り小さく縮むから、あとは乾燥させるだけだな」
俺はアイテムボックスから取り出した鍋セットでお湯を沸かして胆嚢をつけた。
「ふぉぉ。お兄ちゃん物知り!」
「さす矜おにいさん」
さっちゃんのさす矜お兄さんってなんだよ!?
「ねぇねぇ、先生の見せ場はどこにいったのぉ?」
「大丈夫ですよ先生。ほら、バトルベアです。どうぞ倒して俺たちに先生の見せ場をみせつけてください!」
「え、えぇ……? バトルベアはまだ私には一人じゃ無理じゃないかなぁ?」
「大丈夫大丈夫」
「桃井先生頑張って下さいまし!」
「鬼! 悪魔! 怪我をしたら恭也さんに言いつけてやるんだからぁ」
桃井先生は俺たちの応援を受けてバトルベアに向かい……死闘を繰り返す。
ムチャクチャ怪我してるけど……、後で治すから問題ないよね!
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ついに200話到達です!(実際には203話)
そしてなんと! 今日でカクヨムに投稿を始めて丸1年が経過しました。
これもひとえに皆様の応援のお陰です。
フォローや☆は励みになります。ありがとうございます。
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