第190話 聞いてないよ

 俺と今宵がオークジェネラルと対戦し抑えられていることで、戦いは完全に膠着こうちゃくしていた。

 そもそも、俺は勘違いをしていたのかもしれない。

 俺はヴリトラ戦で自分より上という警鐘を危険察知で受けたが、このオークジェネラルは強いとは感じるがヴリトラほど強く感じてはいなかったので、最終的には問題がないと判断をしていた。


 でも、俺が初めてミノタウロスと戦った時は倒すことには成功したが、時間が結構かかったし一撃も最後に受けてしまっていた。

 基本的にダンジョンの魔物は一撃で倒しているから気にしてはいなかったが、今思えば矜侍さんがミノタウロスはその当時の俺で勝てると言っていたように、総合的には差があったのだ。


 当時は負ける可能性も考えたほどの相手ではあったのだが、実際には攻撃力が不足していた以外は圧倒していたと言えなくもない。

 ミノタウロス戦をこのオークジェネラルに当てはめてみるとどうだろう。

 総合的に俺の方が強いなら、道中の魔物と同じく少し手こずっても最終的に問題がないと判断をしていたのだが、本当にそうだろうか?

 

 そもそも、東三条さんの魔法攻撃を掻き消すって、よく考えれば俺や今宵で確実にできるかと言われると……。

 少なくとも、キィちゃんやさっちゃん、マコトでは不可能だ。

 今宵とオークジェネラルとの戦闘を見ても、俺よりスピードがある今宵が決めきれていない。

 それに……、こちらより今宵の相手をしているオークの集団の方が戦略的に動いているように感じる。


 今宵が一人で戦っているという弱点をついて、オークジェネラルと連携をしてハイオークたちが今宵を追い込んでいるのだ。

 こちらは東三条さんとマコト、キィちゃんとさっちゃんたちがいるから、今宵にしている戦法が使えないのだろう。


 そうとわかれば、やはり少し有利なこちら側から状況を打開するしかない。

 俺は一対一でオークジェネラルと対戦をして倒すつもりでいたが、今宵を他のオークと連携して追い込むオークジェネラルの作戦のように、一対一で戦う必要なんてどこにもなかった。

 

 最初の東三条さんの一撃以来は俺に援護はなかったが、それは絶対に出来ないと言う訳ではない。

 俺が窮地に陥る状況になっていないから、阻んできたオークたちの対処を他の四人は優先的にして総数を減らす行動をとってくれているわけだ。

 俺は四人に援護をもらいこちらを先に片付けて、今宵と合流をしようと声を上げようとした瞬間――


 「ブヒィィィィ!」


 今宵側からオークの叫び声が聞こえたと同時に、今宵が吹き飛ばされていた。


 「「今宵ちゃん!」」


 吹き飛ばされた今宵側を見ると、オークジェネラルがもう一体出現していた。

 今宵はもう一体のオークジェネラルに攻撃を受けて吹き飛ばされたようだった。

 そしてそれを見たキィちゃんとさっちゃんが声をあげて今宵の援護に向かう。


 「二人とも待て! っくそ……、ウインドカッター!」


 今宵が完全に狙われていて吹き飛ばされダメージを受けたことは確かだが、オークジェネラル2体はキツいと言っても、俺たちがこちらを倒して駆けつけるまでに今宵はあの程度で負けたりはしない。

 カルラ戦を見ているか見ていないかの差か?

 キィちゃんとさっちゃんからすれば、今宵が吹き飛ばされるのを見ること自体がはじめてですぐに助けに向かってしまったのだろう。

 呼び止めても二人が止まらないことを察知した俺は、少しでも早く二人が今宵に辿り着けるように魔法を使ってキィちゃんたちに側面から襲い掛かろうとしているオークを倒す。


 「マコト! 東三条さん! 援護をしてくれ! こっちのジェネラルを先に倒して今宵たちと合流する!」


 「はい!」


 「かしこまりましたわ!」


 俺の言葉を受けてマコトが『ドンッ』という音とともにハイオークを吹き飛ばし、東三条さんも魔剣と魔法で近くのオークを二体倒すと、すぐにこちらに駆けつけようとしてくれているようだ。


 「「ブヒィィィィ!」」


 !?


 「グハッ……」


 「マコト!?」


 「アイスシールド!」


 こちらに駆けつけようとしてくれていた二人にさらにもう一体のオークジェネラルが急襲し、マコトが殴られて地面に叩きつけられた。

 不壊のガントレットで防御をして殴られた箇所はダメージを受けなかったようだが、地面に叩きつけられた衝撃の方でダメージを受けている。

 そのままマコトへ連撃を加えようとしたオークジェネラルの攻撃を、東三条さんが氷結魔法で防御する。

 マコトはその防御を利用して態勢を立て直し、ポーションをゴクリと飲んだ。


 そしてもう一方のキィちゃんとさっちゃんにも今宵に辿り着く前に、オークジェネラルが急襲し交戦状態となっていた。

 オークジェネラルが5体?

 2体目が現れただけでも、集落には一体のボスという東三条さんから聞いたギルドで出されている情報とは異なっていたというのに……。


 戦力の分散が起きないように気を付けていたのに、気がつけば俺たち六人は4つに分散させられてしまっている。

 キィちゃんとさっちゃんの状況は確認できないが、東三条さんとマコトは既にオークジェネラルの攻撃を避けたりするのに泥にまみれていた。

 この二人でこうなら、恐らくキィちゃんとさっちゃんも似たような状況だろう。


 それにしても……と俺は思う。

 今宵が不壊のガントレットをマコトに渡した判断がここにきて活きている。

 マコトは父さんたちと仕事をしながらレベルを上げて急成長を遂げていたけど、それでも技術的な問題で攻略道のメンバーとの差がない状況だった。

 父さんと母さんの教え方が上手いと言っても、ダンジョン探索をするために通う高校の授業とはやはり差があるのだ。

 いや……、もしかしたら桃井先生が直接攻略道に教えてくれていることが一番大きいのかもしれない。


 マコト達の弱点は指導をするために教育を受けた先生から教えを受けていないという技術的な問題があったが、不壊のガントレットはその技術の差を攻撃と防御の両方で埋めるだけのポテンシャルを備えていた。

 そしてマコトはそれを使いこなせるだけの実践の訓練を受けていた。

 多少、危機的状況になってしまってはいるが、まだ大丈夫。


 オークジェネラルは1体という情報だったところが既に5体も出現している。

 それならばここで打ち止めだとも限らないし、この5体を倒してもまだ何百というオークの集団は残っている。

 そう、やることは変わらない。

 俺が今戦っている目の前のこのジェネラルを倒し、それ以外も全て殲滅すればいいだけだ。


 そうと決まれば後は実行するだけだと思い、俺は無意識に長期戦を覚悟してしまっていて、知らず知らずに魔力を温存してしまっていたことに気が付いた。

 俺はその意識を長期戦から短期決戦へと切り替える。


 「アビリティライズ身体強化、シャドウ」


 俺は身体強化を使い能力を引き上げると、生活魔法のシャドウ(闇属性)を使って影を作り出し、シャドウにオークジェネラルの意識が向いた事を確認する。


 「影残、ダブルスラッシュ!」

 

 「ブヒィィ!」


 オークジェネラルの意識がそれた瞬間に、俺は影残を使い後ろに回り込んでスキルを放つが、それはオークジェネラルの超反応によってダメージを与える事には成功したが決めきることはできなかった。


 「まあ、これで決まるならもっと早く決着がついているしな」


 俺は特に気落ちすることもなく、こういった攻撃を繰り返せば勝負は決まると考えて、次の行動を起こそうとするが――

 ふいに危険察知のスキルが大きく反応をしたことで、俺はすぐに転移し距離をとった。


 ドーン!


 その瞬間に、俺がいた場所から大きな音と砂煙が上がる。


 そして、その砂煙が晴れた後にそこにいたのは、オークジェネラルよりも二回りは大きなオークだった。


 「……オークロード」


 俺は矜侍さんの『諸行無常チャンネル』で見たことのある魔物、オークロードの名前を呟く。

 

 オークロードは世界各国、どこのダンジョンでもまだ未確認の魔物である。

 それはすなわち、日本なら攻略されている最高階層の38階層より上の魔物を意味していた。

 さらに、そのオークロードがオークジェネラルと共闘する態勢をとっている。


 「蒼月君!」


 「矜一さん!」


 明らかにオークジェネラルより上の魔物の出現に、東三条さんとマコトから声がかかる。


 「二人ともごめん。そっちに援護はすぐにはいけないみたいだ。悪いけどジェネラル1体は任せて良いかな?」


 「!? もちろんですわ! むしろこちらがすぐに援護に行きますから期待をしていてくださいな!」


 「負けない!」


 東三条さんとマコトから頼もしい一言を聞いた俺は、目の前の二体に意識を集中させるのだった。

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る