第189話 オーク三昧


 丘の上からオークが投石攻撃を始めてからは、俺たちに近接攻撃をしようとしていたオークたちは俺たちを囲いながらも距離をとっている。

 それにより俺たちは一方的に投石の攻撃にさらされてしまっていた。


 キィちゃんを救出した時点で言えば、相手が圧倒的な数であろうとも6階層の野営時にウルフに襲われた時とは違い、今いるメンバーは俺の両親を除けば実力上位のメンバーだ。

 だから時間をかければ殲滅できると考えていた。

 でも……、上からの絶え間のない遠距離攻撃が加わることで一気に状況が悪化している。


 俺たちは円のようになって戦っているから、投石を避ければ後ろの味方に背後から攻撃が行くことになるし、剣で弾くとその石はどこに飛ぶかわからず、さらには割れて散弾のように味方に当たる。

 小さければ当たってもダメージはあまりないが、欠片によっては尖っていたりナイフのようになっている。


 さらに、倒したオークは巨体でそれがそこら中に転がっている状態だ。

 俺たちの円より内側に死体はないが、外側に円周のようにあるために回避行動に支障をきたすのだ。


 「どうなさいますの?」


 東三条さんがみんなを代表して俺に作戦を聞いてくる。

 全員、投石の対処をしながら俺へ注目していることを感じる。

 この状況を打破する作戦はいくつか思い浮かぶが……。

 まずは、こちらが石を避けたり弾いたりすることで味方に被害が出る状況の緩和を試みて、そこから突破口を探すことにする。

 

 俺はヴリトラの攻撃を受ける事には成功したが、その威力で弾き飛ばされてから使用をしていなかったバリスティック・シールドをアイテムボックスから取り出して装備した。

 これで俺の後ろにいるさっちゃんが俺が投石を避けて後ろにそらしてしまった時の後方警戒をしなくて良い様になった。

 さらに盾によって防がれた投石は前方に落ちるために、俺の左右にいる東三条さんとマコトも俺側の側面を警戒する必要がなくなる。

 もっと言えば、俺側へ東三条さんとマコトが石を弾いても俺は盾で守られているために問題がなくなるのだ。

 まあ……、マコトと東三条さん、そして前方からの投石が同時に俺に来ると多少……体の向きや盾の位置を変えるだけでは防ぎにくいが、俺ならば対処できる。


 「稲光!」


 俺が盾を装備したことによって、仲間の半数の状況が好転したことを確認した今宵が、遠距離スキルで投石をして来るオークを攻撃した。

 周囲から投石を受けても、今宵と俺はみんなより少しだけ余裕があったのだが、他のメンバーが認識外からの跳弾によって被害を受けそうな時に、俺たちは対処をしていたせいで攻撃にうつる事ができていなかった。


 「遠距離攻撃! キィちゃんとマコトは攻撃に移ったメンバーが狙われた時にその対処を!」


 「「了解!」」


 状況打開の作戦の一つでもあった遠距離攻撃ができるメンバーで攻撃を始める。

 遠距離攻撃ができるのは俺たちの中では、俺、今宵、東三条さん、さっちゃんの四人なのだが、今宵は俺がシールドを装備した時点でそれを理解して動いていた。

 東三条さんとさっちゃんも遠距離攻撃! というだけで多くを語らなくとも動いてくれている。


 「フリーズ!」


 「ファイヤーボール!」


 他にも俺と今宵が分散をして、投石オークの中に短距離転移で突入して蹂躙するという方法も考えてはいたのだが、戦略的に追い込まれている状態で、分散するという行為にリスクがある可能性を考えてこちらを選択している。



 「お兄ちゃん、これ巻き込めても3体くらいだから、オークの数が多すぎて厳しくない?」


 少しの間、キィちゃんのハルバードとマコトの不壊のガントレット、俺の盾で防御をして遠距離攻撃ができるメンバーで攻撃を続けていたのだが、今宵からこのままではよくないと提言を受ける。

 倒しても倒しても数が減らないのだ。

 まあ、投石側も味方の死体が邪魔をしてそれをどけたりしているので、現状でどちらが有利かといえば俺たちなのだが、この状況がずっと続けば俺と今宵はともかく、東三条さんとさっちゃんの魔力は限界になるだろう。


 「もう、完全に一チームVS軍隊なんだよな。個の力では勝っていてもぐん……指揮者のいる軍が相手となるとどうするか」


 「一チームでこれだけの数と戦っている時点で異常ですわよ? 野営の時にも思いましたけれど、トラップ部屋やゴーストで集団戦の訓練をしていなければ、即時撤退をするのが一番の作戦だと思いますわ」


 「ゴースト&レイス無間地獄だね! あそこは死体が残らずに魔石だけになるから、わんこそばみたいで楽しいんだよね!」


 わんこそばを食べたことのないはずの今宵が、わんこそばを例にだして16階層の話をする。

 てかコイツ余裕あるな。

 そう言えば、俺はカルラ戦で魔力が尽きたけど、今宵の魔力切れは見たことがない。


 「この場所が不利の原因の一つだから、坂になっている所まで一度撤退をして態勢を立て直すか? いや……、これだけの戦略を練って伏兵まで配置をしているのに、後方に兵を送らないなんてミスを犯さないかな?」


 俺は気配察知で来た道を確認するが、周りに敵が多すぎるせいなのか、隠ぺいをされているのかイマイチ気配が読み切れない。


 「うーん? なんでかわかりにくいけど、回り込まれてるっぽい?」


 今宵の魔力感知でもわかりにくいのか?

 これが人相手なら何かアイテムかスキルを使っているのだろうと考える所だが、オーク……。

 ここまで戦略的なら、オークがアイテムやスキルを使っている可能性も視野に入れないとダメか。


 「まあ囲んでくるか。ただ撤退する場合は蹴散らして戻れば進むよりも確実に楽……」


 回り込まれて逃げ道がないとはいえ、背後にいるであろうオークの集団だけなら正直に言って蹴散らせることができるだろう。

 オークだって本拠地を守ることに重点を置いているはずだし、本拠地を手薄にして背後に戦力を集中させることはただの愚行になるのでさすがにしないはずだ。


 「それなんだけど、今宵がオークの集団に転移をして倒してくるんじゃダメなの? お兄ちゃんならむしろここを今宵たちに任せて、自分でそれをするかと思ったんだけど? 椿ちゃんたちを守った野営の時に一人でそれをしてたよね! いい所を見せようとして!!」


 なぜか俺や椿がウルフの集団に襲われていた時の話を、今宵が追及するかのように言ってくる。

 いや、あの時はどう考えてもあれがベストだったろ。

 椿たちのピンチは想定外だったけど、攻略道のメンバーが残っていたからウルフ程度でどうにかなるとは思わなかったし。

 ちょーっとだけ……数百匹……くらい……数が多くて想定外だっただけだし!

 いや、魔物寄せ器であんなに数が集まるとは思わないじゃん!?

 

 想定以上に九条君のパーティは崩壊をしかけて窮地だったと聞いたけど、俺自身はその場面は見ていないし、むしろ今宵がアステル姿でウルフの蹂躙をしていた。

 あれだって水戸君に聞いた限りだと、今宵が来ていなければ俺が颯爽と九条君のパーティを助けてヒーローになれたようなタイミングだ。

 まあ……、俺が戻った時は本当にギリギリの状態で、正体がバレてしまうから今宵が来てくれて助かったけども!


 「その作戦は俺も考えたんだけど、これだけ戦略的な行動をとるオークたちだぞ? 戦力の分散はダメかと思って控えていたんだけど……。東三条さんはどう思う?」


 「わ、私様ですの? ……ただ、このままですと私様は魔力が尽きる可能性がありますから……。蒼月君と今宵ちゃんであれば、たしかに個で戦局を打開できるように思いますわ。私様たちに……もっと力があればいいのですけれど」


 俺は東三条さんの『直感』スキルの判断を期待して東三条さんに意見を求めたのだが、スキルではなく普通に戦局打開の言葉を返される。

 しかも、自分で返答をしているはずなのに、その自分の言葉に精神的ダメージを受けてしまっている。

 聞きたいことはそうじゃないのに! スキルはどうなの? 危険なの? 危険じゃないの?


 ちなみに俺の危険察知のスキルも特に警鐘をならしてはいない。

 でもこの危険察知スキルは、俺が危険な時だけなのか周りも含むのかがいまだにわからないからな……。

 まあ、スキルのことを東三条さんが言わないということなら、危険という警鐘は出ていないということだろう。


 「今宵、やってみてくれるか? 俺も同時に別の場所に行っても良いけど、オークの知能が気になるから……。片側だけでも倒したら今宵が戻って今度は俺が逆側に行く作戦でどうだ?」


 「わかったぁ! 今宵に任せて!」


 今宵はその言葉を発すると同時に、短距離転移を使ってオークの投石をしている集団の中へ移動して攻撃を始めた。

 投石をしていた片側のオークの集団からひっ迫した声が上がり、悲鳴にも似た鳴き声の中……。

 かすかに、『You are money!あなたはお金! Thank you for the moneyお金をありがとう~♪』という声が聞こえる。

 まあ……持ち帰りはしないけどオークだしな……。

 俺はこの状況でそれを口ずさむ妹に狂気を感じながら、現在の状況が打開できそうで安堵していた。

 


 「ブヒィィィィ!!」


 今宵の蹂躙で何とかなりそうだともう片方からの投石を防いていた俺たちは、俺たちから距離をとっていた近接集団の中の大声を聞いてそちらに目を向ける。


 「あ、あれはオークジェネラルですわ! この状況に我慢ができなくて出てきたのかもしれません!」


 東三条さんが叫び声をあげたオークが敵の大将のオークジェネラルだと断言をしている。

 今宵の行動が相手の焦りを生んだのか?

 それなら、敵の大将と言えるこのオークジェネラルを倒せば後は烏合の衆になり下がるのでは?

 俺たちを警戒して少しオークの近接集団とは距離があるが……、俺ならその距離はないのと同じだ。


 「俺が行く! 今宵側も自分の対処で精いっぱいのようだから、俺がオークジェネラルを対処している間に皆は俺に続いてくれ!」


 「わかりましたわ!」


 「「了解」」


 俺はその返答を聞くと、オークジェネラルへ目掛けて短距離転移をして攻撃を加えた。


 「ブヒィィ!」


 俺の剣とオークジェネラルの持っている剣がかち合う。

 攻撃を防がれた?

 さすがにこの集団の大将だけはあるのか?

 俺はそう思いながらも2撃、3撃と加えるが……、そのすべてを剣で対処される。

 それでも地力で言えば俺の方が有利そうな印象ではあるが……、倒しきるには少し時間がかかりそうだった。


 俺が切り結んでいると、東三条さんが俺たちの所まで辿り着いて魔法を放つ。


 「フリーズ!」


 「ブヒィィ!」


 東三条さんの氷結魔法に対してオークジェネラルはそれを剣でかき消した。

 え? 

 俺はそれを見て、このオークジェネラルが俺と今宵は対処をできるレベルではあるが、他のメンバーでは厳しいのかもしれないと理解する。


 俺へ援護をくれた東三条さんだったが、他のマコトやキィちゃん、さっちゃんと同じようにオークの集団に阻まれてそれの対応を始めた。


 「さすがにこれだけの集団をまとめているだけの大将か。それでも早めに倒して援護にいかなきゃな」


 俺がそう独り言をこぼした瞬間、


 「ブヒィィィィ!!」


 今宵が蹂躙をしていたはずの場所から叫び声が上がり……、チラリと見えたその姿が俺が対峙しているオークジェネラルと同一であることを確認したのだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る