第188話 魔物の知能
俺たちはオークの集落にある魔法陣へ向かって移動をしているが、時折2~3体のオークが襲ってくるだけで、階層の難易度が下がったのではないかと思えてしまうような状況になっていた。
「お兄ちゃん、本当にこっちであってるの? 集落のオークは何年も倒されてないって話ならこの数の少なさはおかしくない?」
「いや、合ってるはずだぞ。場所的にはまだまだ先だし、12階層だってそこまで魔物がいるって感じじゃなかったろ。フィールドタイプなら敵が分散するからこういうこともあるんじゃないか?」
「オークが出ないのはありがたいかも~。地味に
「キィちゃん、私のポーション飲む?」
「まだ我慢する!」
キィちゃんが言うように、俺たちはずっと坂道をのぼっているような感じで移動していた。
ビッグロックみたいな山のような場所をのぼるのではなく、階層自体が勾配していると言って良いような状態だ。
まあ、上高地のような場所に集落があるのなら、そこに到達するまでにのぼるというのはわかるのだけど、見渡す限りに傾斜がついているのは想像外だった。
「でもまあハーピーの時みたいに空から来るわけでもないし、オーク自体はピュートーンと比べても弱いから体力的な問題ではなくて、キィちゃんの疲れは精神的なもんじゃないか?」
今日移動した距離だけで言えば多いわけでもなく、まだ昼前にもなっていないのでどちらかといえば移動距離は少ない部類に入るだろう。
それでもキィちゃんが疲れたと言うなら、それは体力的な問題ではなくて坂が続いていて同じような景色が続いていること、敵がオークでいまさら感が強いという心理的問題ではないかと思う。
当然のことながら、息切れなどは一切していない。
「逆に動いたらいいんじゃない? ほら、こうやって!」
今宵がジャンプをしたかと思うと、自転車を漕ぐように空中で高速に足を動かす。
そしてそれを繰り返していると……反復横跳びで残像を作る縦バージョンなのか、ゆっくりと前に進んでいるかのように足が見える遊びをしていた。
「空中に止まっているように見えます」
「私は逆回転? 後ろ向きに足が動いてるようにみえるかも!」
マコトは止まって見えてさっちゃんは逆回転をしているように見えるようだ。
ストロボ効果か? 走っている車のホイール、扇風機や飛行機のプロペラを見た時にそう見える現象が確かそう言った気がする。
残像効果とストロボ効果は原理は違った気がするけど、結局は脳が処理をしきれていなかったり、今宵の動きに眼球が追い付いていないことが原因だろう。
俺の場合は、集中すれば高速回転させていることが見えるけど、集中していない場合は目で追い切れていないせいでゆっくり進んでいるように見えるのかもしれない。
「今宵ちゃん凄い! 私もやってみる!」
俺たちは立ち止まってキィちゃんが今宵の真似をするのを見ているが……、キィちゃんは数分経ってもいっこうに俺たちに残像を見せることは出来なかった。
「どう? できてる?」
キィちゃんは自分で見えないので聞いてくるが、普通に空中で素早く足を動かしているようにしか見えないのでそれを指摘しづらい。
「キィちゃんのはなんか普通に足を動かしているだけで今宵ちゃんのと違う……」
ついにさっちゃんが言ってしまった。
「え~? こんなに素早く足を動かしてるのに!」
基本的なスピードが今宵と違うからな……。
でもこれって俺たちには普通に見えるけど、探索者でもないレベルが低い人が見たら、今宵がやったのと同じように見えているのだろう。
「今宵とキィちゃんではスピードが違いすぎるな」
「私が肉体的に疲労しただけだった!?」
「「あはは」」
「少しずつオークと遭遇する回数が増えてきたか?」
「7階層辺りでオークと遭遇するくらいの頻度にはなっている気はしますわね」
「でもこれだとフィールドが広いだけで、なんだか普通ですね」
遭遇率が上がったので、その話をすると東三条さんから見ると7階層辺りの遭遇率と同じに感じるらしかったが、マコトが代表して皆の意見を代弁するかのように、普通という話をする。
坂道を既に1時間以上も移動しているので、かなりの距離を進んでいる。
そろそろ集落についても良さそうなものなんだが……。
「痛っ。え? 石を当てられた? って、うわっ」
オークを確認してからも、ある程度まで相手が近づいてから対処をしていた俺たちは、今回も全員がオークを確認をしていたが、すぐに倒しに行くことはせずに成り行きに任せていた。
その最中にどうやらオークがこちらに投石をして、それにキィちゃんが当たったようだ。
さらに3体のオークがその場でとどまってこちらに石を投げて来ていた。
「豚肉のくせに!」
キィちゃんは投石でダメージを受けたことに怒り、石を投げて来ているオークに単身向かって行く。
てかオークが投石? 俺はオークの急なその行動に戸惑う。
オークと言えば直接的な攻撃や行動が目立ち、考えなしに攻撃をしてくる印象だ。
それが投石?
キィちゃんが3体のオークを目掛けて移動をし始めると、投石を行っていたオークはその行動をピタリと止めて逃げ出した。
「逃げるな! 待て!」
俺は不意に嫌な予感がして東三条さんをチラリとみる。
直感で何か感じていないかを知りたかったからだ。
だが東三条さんは俺の目線に気が付いてこちらを見ると、『何かありまして?』というような表情を俺に向けた。
気のせいなのか? 今まで知能を感じさせなかったオークが投石をして、さらに好戦的なはずが逃げ出す状況……。
ただ、東三条さんは特に危機を感じている様子もない。
その表情を見て俺も落ち着きを取り戻す。
もし、オークが多少の知恵をつけていたからと言ってキィちゃんや俺たちにピンチになるかと問われると、オークジェネラルでもいない限りはそうはならないだろう。
「蒼月君? どうかなさいました?」
「お兄ちゃん?」
東三条さんを少し見すぎたのか、東三条さんと今宵から何かあったの? というような声がかかる。
「きゃ! 罠だった!!」
俺が二人に話をしようとした瞬間、キィちゃんが悲鳴を上げて罠だったと叫んでいる。
その声を聞いたと同時に今宵が俺の近くから消える。
短距離転移か?
「稲光!!」
は? オークに稲光?
今宵の自身最大とも言える技を聞いて俺は急いで坂を上ると、オーク3体がいたあたりから上り坂は終わり、逆にそこからは少し下り坂になってそして窪地のようになっていた。
上り坂を終えたところから数百メートル先には、キィちゃんと今宵が何百体いるかわからないほどのオークに囲まれている。
「キィちゃん、今宵! ウインドカッター! シャインレイ! 皆、今宵たちが囲まれている。援護を!」
俺の声を聞いて東三条さん、さっちゃん、マコトも直ぐに今宵たちの援護に入る。
オーク数百体は脅威だし、罠に嵌められたことは事実ではあるが、今の俺たちは全力を出しても問題がない状況とあって、後は時間をかけて倒していけば問題はないはずだ。
俺か今宵以外の誰か一人だけなら負けもあり得た状況だが、キィちゃんの声を聞いて今宵がすぐに助けに入ったことで悲劇的な結末になることはなく、キィちゃんはハルバードを振り回して多くのオークを倒していた。
「ふう、オークがまさか戦略を練ってくるとは。今宵がすぐに向かってくれて助かったよ」
「罠って声が聞こえたからね」
俺たち六人は円のようになってオークを倒し圧倒することで、俺たちの周囲には空きができて余裕ができる。
「オークジェネラルは見当たらないようですけれど、指揮官がいないと出来ない動きですわね……」
東三条さんの声を聞いて、俺はそれもそうだと思い周囲を見渡す。
指示をしているようなそぶりを見せているハイオークが幾らかいるが、あれが指揮官か?
「指揮官っぽいハイオークが所々にいるな。みんなそれを優先的に!」
俺が指示を出したと同じくらいで、周囲の高台からさらに多くのオークが姿を現した。
「この窪地に誘い込んだことも戦略の一つか!」
投石で怒らせて、それに釣られた敵を囲むことがオークの戦略と考えていたが、窪地という地理的状況も考えての行動であるなら、ここのオークたちはかなり知能が高いのかもしれない。
高台から俺たち六人を見下ろす形となっているオークの集団は、俺たちの周囲にちょうど味方がいないことを確認をすると一斉に俺たちに向かって投石を始めた。
「これは……」
俺たちは投げられた石を躱したり剣で砕いたりしているが、躱すと後ろの仲間に当たりそうになったり、剣で砕くとその割れた破片が味方に当たる。
「まずいですわね」
俺たちは戦略的に追い込まれていたことを全員が認識するのだった。
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