第187話 オクラホマ・ミクサー

 次の日。

 俺たちは今日も昨日のメンバーで早朝からダンジョンにやってきていた。

 ちなみに今日の俺はシュテルンの恰好に着替えている。


 「1日たってもみんな普通にピュートーンは一対一で倒せるみたいだから、24階層に行っても大丈夫か。俺はキィちゃんが昨日のことを忘れてミスをすると思って、すぐに動けるように態勢を整えていたのに」


 俺はキィちゃんを見ながら、そんなことを言ってみる。


 「どうせ私だけレイスの時もピュートーンの時もしくじってますよーだ。でも一度覚えたら忘れませーん。べぇーだ!」


 キィちゃんが俺に舌を出して答える。


 「ベーダ……ま、まさか! それは今日も俺にダースベイタ―卿になれっていう示唆だったり? あの恰好は俺も楽しいからやぶさかではないが?」


 「ち、違いますよ! 矜一お兄さんは楽しくても、近くにいる私たちは恥ずかしいんだから止めて!」


 酷いな……。

 マコトはカッコいいと言ってくれたのに。

 だいたい全員、目元も隠れてリアルバレしないんだから、恥ずかしくなんてないだろ。

 それに人に会うこと自体がこの階層ならほぼB級以上しかこないので少ない。

 日本の探索者ランクB級以上の人数って現役だけだと1500人くらいしかいないから、そうそう出くわすこともない。

 C級でもこれないこともないようだけど、上を目指すパーティ以外は実入りが多く、ダンジョン内で過ごす日数も少ない20階層以下で稼ぐことが多いようだった。

 

 「ここくらいの階層だともうほぼBランク以上しか来ないから、人に会うこと自体が少ないだろ。まあ……昨日は出くわしちゃったけど、それでもたった6人だし、日本の現役探索者でBランク以上の人なんて1500人くらいしかいないんだから出会う機会自体があんまりないぞ」


 「1500人もいるじゃないですか!」


 「キィちゃん、そうは言うけど、東大の卒業生なんて毎年3000人くらいだから、3年で1万人くらいになるんだぞ。日本で総数が1500人ってムチャクチャ少ないからな? サッカーの日本人選手……プロサッカー選手がそのくらいだし。だいたい東大卒業生が毎年3000人もいてもほぼ会わないだろ? プロのサッカー選手なんてもっといないし」


 それにコスプレって言うなら全員がそうだろ?

 可愛ければ許されて、俺だとダメとかズルすぎない?


 「東三条家のグループでは東大卒の方は多いですわよ? 東大生と略せる大学で限定をするなら、東京工業大学、東北大学、東京大学はそれぞれ優れていますし、そもそも私様たちが通う高校の上……国立第一東大学が東大と略せる中では一番偏差値が高くて――」


 「ちょ……、ごめんごめん。就職先によっては高確率で出会うよね! 探索者ギルドでBランクに会うみたいな話だったよ」


 東三条さんの話はさらに、『第一東が高いと言っても文武両道ですから、東京大学の文科一類から三類、理科三類なんかはそれより高くて――』とか難しい話が続いたが、キィちゃんの『ですわ、話が長いですわ!』という言葉で東三条さんはハッとして恥ずかしそうに「つい知ってる事を話してしまいましたわ」と言って謝っていた。

 もしかしてこの二人って良いコンビなのか?

 でもまあ、B級以上の総数が少ないと言ってもダンジョン内はその人たちの仕事場で会う確率は高いから、例としては良くなかった。

 

 「まあ、俺の格好の話は良いから、24階層にもう行くぞ」


 「24階層ってフィールドタイプだよね? 楽しみ!」


 今宵が次の階層を楽しみだと言っているが、お前は自分で情報収集するようにならないといけないぞ?

 ゲームで説明書を読まないタイプだよね、絶対。





 「ここが24階層! ってなんか人がいない、景色の良い田舎って感じ」


 「入口は普通に草原だけど、24階層は絶景ポイントが結構あるみたいだぞ? 日本の観光地で言うと、長野県の上高地とか埼玉県の嵐山渓谷らんざんけいこくっぽい感じ」


 「え? そんな超有名スポットみたいな絶景があるの? 早くみたい!」


 「景色の良いスポットはオークの集団に襲われて絶景を楽しむ余裕なんてないようですわよ? 最終的に一帯が戦闘で血に染まるとか調べると書かれていましたわ」


 さすがに東三条さんはちゃんと調べてきてるっぽいな。


 「ええ~!? でもオークかぁ。景色が良くてもいるだけで景観を壊しそう」


 「でも今宵ちゃん、嵐山渓谷のような所なら川とかあるはずだから、オーク肉でバーベキューし放題だよ! どんなに食べてもお代わり自由!」


 さっちゃんがとんでもないことを言いだした。

 実際に想像をしながら言ってないよね。

 さっちゃんの中で、もうオークは雑魚=豚肉ってイメージで言っちゃってるよね。

 襲い来るオークを倒して、その場で捌いて焼肉とか実際にすると狂気の沙汰だぞ。

 しかも今宵の場合だと確実に首狙いだから……。

 戦国時代の将兵ってそういう中で食事をしてたのだろうか。

 やっぱり平和が一番だね!


 「想像をしましたら、いくら高級なお肉でも食べられなくなりそうですわ……」


 「わ、私はクランでオークは良く倒したり出荷をしているので食べるだけなら……」


 マコトは食べられるのか。

 魚を裁いたり料理ができる人なら、規模がちょっと大きくなって動物を丸ごとみたいな感じになるのか?

 日本だとなじみはないけど、アメリカだとサンクスギビングっていう感謝祭で七面鳥(ターキー)の丸焼きが定番らしく、冷凍ターキーを煮えたぎる鍋の中に入れて水蒸気爆発が起きて毎年恒例で火災が発生するらしいし。

 毎年消防署が完全に解凍してから! という注意喚起をしても発生するって凄いね。

 ターキー感謝災!


 まあ、マコトの場合は父さんたちが基本的にオークとかバイソンの肉を狙うから、そういう状況になれてしまっているというのが一番大きいのだろう。

 最近では角とか皮の素材も集めてるみたいではあるけど、美味しいお肉って確実に需要があるから数さえ揃えられて品質もしっかりしていれば、取引先には困りそうにはない。


 「ここはオークジェネラルに率いられたオークやハイオークの集団の村や町がいくつかあって縄張り争いをしているみたいだから、景色を楽しむ余裕もないし、ましてバーベキューなんて無理っぽいぞ」


 「さっちゃんのバーベキューは行き過ぎだとしても、オークなら私たちなら余裕じゃ? 今度こそ私のハルバードが活躍しますよ!」


 「25階層に移動する魔法陣がこの24階層では2つあって、片方はオークの集落の中にあるから、今回は遭遇が少ない方に行こうと思っているからそこまで戦闘はないかも?」


 「ほとんどの探索者は集落の方は行かないようですし、放置をされて何年もたっているという話ですから……、それが良いですわね。倒す期間があけばあくほど、オーク同士の戦闘で学習をしてその集団は強くなるようですから、その集落のオークはかなり強くなっている可能性がありますわ」


 「でもみんなが避けて通るなら、強くなり過ぎちゃう可能性があるんだよね? スタンピードがどういう条件で起きるかわからないけど、期間が多く空いているなら倒せる今宵たちが倒しておいた方がいいんじゃない?」


 「それは……。たしかにその考え方にも一理ありますわね……」


 「このパーティはレベル上げが目的だし、敵が集団なら上がりやすいんじゃないんですか?」


 今宵のスタンピードの話に東三条さんは考える表情を見せ、さっちゃんはレベル上げをするなら集団戦が良いのではという話をする。

 どちらも結構重要な気がしないでもないが……、オークジェネラルは別としてもオークやハイオークって15階層辺りと同じなら経験値的な意味で言うと少ないのでは?

 ただまあ今の俺たちはアステリズムに変身をしているから、集団戦で魔法を使いまくれば良いか。


 「じゃあ集落の中にある魔法陣を目指そうか」


 俺たちはオークジェネラルが率いる集落にある魔法陣を目指して進むことに決めたのだった。


 

 

 


 

 


 

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