第183話 困った時はダンジョンへ

 水戸君たちとサバゲーに行った翌日、俺はダンジョン攻略を進めることにした。

 と言うのも、昨日の夜の食事中に父さんから蒼月家の全員がレベル25から1ヵ月以上も上がってないということで相談を受けたのだ。

 この話は先に母さんにしていたみたいで、自分たちだけで考えるのではなく家族をまず頼ろうということになったらしい。

 俺の中で父さんは何でもできるので頼りになり尊敬しているのだが、ここへきて俺……リビングでの食事中の話だったので、俺と今宵も少しは両親に認められたのかなと思うと妙に嬉しかった。

 

 え? それって今宵に相談して俺はついでなんじゃないかって? 俺の内なるリトル矜一がそんなことを投げかけてくる。

 ま、まさかそんなことはないよね!?

 今宵なら自由な発想で困難を切り開きそうだけども!


 ただ、頼られたことに感動を受けたと言っても、冷静な俺はたった1ヵ月上がっていないだけでは? と言う思いもあって、焦り過ぎではないかと言う話を父さんにした。

 焦り過ぎと言う話は、母さんも父さんにしていたみたいなんだけどね。

 だいたい、俺なんて3年間レベル1から上がらなかったからね!

 それ自体は理由があったし、婚約契約指輪を破壊したことで近くにいた今宵も呪いのことを知ってしまったので、そのことは両親にも話している。


 父さんの懸念はそのことも原因の一つのようで、人外と今後も遭遇するならやはりレベルが上がっていた方が良いのは間違いないという。

 もちろんそれはそうなんだけど、ここ数ヶ月が急に上がりはじめただけで、現状でも東校と言う枠内で見ても間違いなく上昇率は異常だと思う。

 大半の人がレベル11の壁を超えられずにレベル10以下だし、レベル5で頭打ちの人さえ世の中には多いのだ。


 そして結局、前にも人外の話をした後に、ダンジョン攻略を進めてレベルを上げようという話になったことがあったのだが、今回もその話に落ち着いた。

 これは根拠がまったくないわけではなく、自分のレベルより上の階層は家族全員の体感としてレベルが上がりやすいということと、ダンジョンに潜る機会の多いダンジョン学校や企業、探索者の平均レベルが高いことがその根拠となっている。


 そして家族会議とも言える夕食は、「死なないためにレベ上げをするけど、ダンジョン内で死ぬ確率が一番高いよね!」と言う今宵のどや顔発言で終了した。

 ちなみにこれは全員が理解していることであったが、父さんたちは既に仕事にしているし、俺もダンジョン探索を行う高校に通学中なので、今宵も理解しての発言である。

 もちろん安全には配慮しながらの話なのだが、危険と判断をして俺たちがダンジョン探索をやめた場合でも、もし攻略道の仲間たちや椿が窮地に陥れば俺は何度だって駆けつけるだろう。

 そうなると結局、今宵も俺を助けに来るし、もちろん両親も来てしまう。

 もう……ダンジョンと俺たちは切っても切れない関係性になってしまったのだ。

 相思相愛だね!



 俺はダンジョンに潜る用意を確認して部屋からでてリビングへと向かう。


 「お兄ちゃん遅かったけど、何してたの?」


 「ホントですよ、矜一お兄さん! 女の子をこんなに待たせて! もしかしてナニしてたとか!?」


 「キィちゃん、ウチのお父さんみたいな変なこと言わないで。矜お兄さんがナニするわけがないよ」


 遅いって部屋に入って用意をして、考え事をしていた時間なんて5分くらいだぞ?  だいたいナニってなんだよ。

 今宵の時間間隔はおかしいし、キィちゃんの女の子を待たせてってこういう場面で使う言葉か? そもそもナニってなんだよ。

 あと、さっちゃんのお父さんって親父ギャグとか言うのかな? ウチの父さんもたまにボソッと言うけど、年をとると言っちゃうものなの?


 「いや、遅くはないだろ。用意をするのに5分って早い部類じゃないか?」


 「ねぇキィちゃん。ナニって何? さっちゃんもわかるの?」


 今宵も俺と同様にナニの意味が解らなかったようだ。

 てかキィちゃんも本当に解ってるのか? テレビとかで見聞きして使ってるだけじゃないの?

 

 「え? ダースベイターゴッコとかしてそうだよね」


 「うんうん、昨日の話を聞いたばかりだから」


 「お兄ちゃんならたしかにポーズの練習とかしかねないかも」


 ……なんか別のことを想像した俺は心が……汚れていたのかもしれない。


 俺は今宵たち三人を伴ってダンジョン近くの倉庫……その中にある星月夜starry night、ウチの会社の事務所に向かう。

 ウチの会社って言葉、なんか凄いな。

 でも一応俺も株式を持った役員だから……きっと言っていいはずだ。

 家族経営だからだけど。


 倉庫の中なのにそこそこ立派な2階のユニットハウス(プレハブ建築の一つ)があって、そこには事務所や休憩室などの部屋がいくつかある。

 そこに今日はマコトが待っていて、俺たちと一緒に探索をすることになっている。


 ちなみにクラン名は『星空の騎士starry knight』だけど、決めた時はノリで会社名とギルド名が韻を踏んでいて良い! とか思ったけど、あまりに似すぎていて混乱してしまうのは秘密である。

 まあどっちも父さんが作っているしクランメンバーもマコト達なのでいずれ会社にも就職してくれる可能性を考えれば、同じようなものなのか?


 今回はなんでこういった編成になったかと言うと、マコトを含めた俺たち五人は空間魔法を覚えているので、キイちゃんとさっちゃん、マコトのレベルを上げて空間魔法のレベルがついでに上がれば良いという判断でこうなっている。

 空間魔法は便利でレベルが上がるとアイテムボックスの容量もアップするからね。

 今宵は従魔の指輪が作りたくて空間魔法をあげたがっているし、一石三鳥ねらいである。


 父さんたちは仕事をしながら、椿のレベルも上げるそうで今日は16階層のゴースト・レイス無間地獄(今宵発案名)で桃香と聡とともに訓練をするようだった。

 まだ椿は俺たちについて来れないので仕方がない。


 

 「あ、矜一さん」


 「マコトおはよう、父さんたちは?」


 「ハイオークを狩ってから16階層に行くそうで、椿さんや桃香たちと先に行きました」


 しかし桃香たちは中学生で、今は夏休みなのに仕事をするって……自分たちの意思でいくらでも休めるってことにしているはずなのに、父さん曰く休む気配が全くないから強制的に休ませるべきか悩んでいると言っていた。


 「マコトちゃん、アレ持って来た?」


 「はい、アイテムボックスに入れてます」


 今宵とマコトが何やら話しているがアレってなんだ? と思ったがどうせたいしたことではないだろうと思いスルーする。


 「じゃあ行くぞ」


 「ほーい」




 俺たちが五人揃ってダンジョンゲート前に到着すると、見知った顔があった。


 「ほら、熨斗のし、私様が言った通りでしょう。直感がささやいたのです」


 「東三条さんごきげんよう」


 「蒼月君ごきげんよう。待っていましたわ! 私様も行きましてよ!」


 俺はチラリと一緒に来ていた熨斗さんを見ると、頷くのでまあ良いかと了承する。


 「えー! 『ですわ』は空間魔法を持ってないですわよ」


 キィちゃん……。

 前だったらアウトの発言だけど、熨斗さんはもう契約を結んでいるから大丈夫なのか。

 でも言葉遣いはアウトだけど。

 キィちゃんとさっちゃん……まあ今宵も含めてだけど、マジで怖いもの知らずだよね。

 東校で東三条さんにそんな口が利ける人なんていない……いや、猪瀬さん……攻略道のメンバーは割と緩い気がしないではないが、熨斗さんは温厚だけどオラオラさんがいたら……ってこれもキィちゃんなら問題ないのか。

 あれ? キィちゃんって強くなるとダメな子では? 強さを傘にダメなことしちゃう子じゃ!?


 「ま、まさか、私様を仲間外れにすると言いますの!?」


 「大丈夫だよ天音ちゃん! キィちゃんはいつもこんな感じだし。でも今日は最初はとりあえず箱ガチャだよ」


 「そ、それなら良かったですわ。箱ガチャ……。20階層のボスですわね。もちろん問題ないですわ。熨斗、では行ってまいります」


 「はい、お嬢様。お気をつけて」


 とりあえず生!なま! と居酒屋でビールの注文をするような今宵の発言に、東三条さんも宝箱ドロップ狙いと理解をして返答している。

 俺たちは東三条さんをパーティに加えてダンジョンゲートをくぐるのだった。



 

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