第184話 ついに出た

 俺たちはダンジョンに入り20階層のボス部屋に飛んだ。

 その瞬間、隣にいた今宵が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間にはボス……ヴァンパイアの首が落とされていたのだった。

 美人な容姿だったと思われる女性ヴァンパイアが、肌色の多い恰好をしていて、男の探索者が戦う場合は躊躇をするかもしれないと思わせるような状態だ。

 でも今宵にはそれは一切の効果がなかったようだった。


 今宵の動きは早すぎるから、気を抜いていると完全には見切れないんだよね。

 そして今宵はこちらを一度見ると、ヴァンパイアが消滅していく姿をワクワクした様子で見つめていた。

 でもどうせ宝箱はでないんだよ。

 この今宵の状態は20階層で今宵と何度も経験をしていて、毎回この後に少し落ち込む今宵に元気を出させるのが日課になりつつあった。

 

 「で、出たー!」


 少し目を離した隙に宝箱が出現をしたようで、そちらに目を向けると今宵は既に宝箱を開けている。

 はやっ! ってか一応は罠を警戒して宝箱の後ろに回ってから開けているようだけど、11階層のトラップ部屋のような部屋全体に罠が広がるタイプだと全滅だからな!?

 まあ、調べた限りではボスから出る宝箱に罠はないみたいだけども。


 「ほ、本当に宝箱が!? ガチャって凄いですわ!」


 ガチャではないけど、驚きの言葉を発して宝箱に駆け寄る東三条さんにツッコミをするのはやめておこう。

 他の三人も中身を早くみたいのか駆け出している。


 「今宵ちゃん、中身はなんだったの?」

 

 「気になる~」


 今宵は一人で宝箱を開けて既に中のアイテムを取り出しているようだ。

 まあ一人で倒したしな?

 これが普通のパーティならグチグチいう人も出ちゃいますよ今宵さん!

 え? 俺が言ってるって?

 キィちゃんとさっちゃんの中身は何だったのかという質問に、今宵はそれを装備して見せた。


 いや……、呪いの装備とかだったりしたらさぁ。

 口に出すと、細かいことを気にしすぎと言われそうだし、罠と同じく呪いの装備もボス戦後の宝箱からは出たっていう話は一切ネットになかったけどさぁ。

 もしもってのがね? 気になるじゃん。


 「じゃーん、ガントレットー!」


 「おー! でも色が白黒? 色合いが微妙かな?」


 「今宵ちゃん装備してどんな感じ? 力がわいてくるとかある?」


 「白黒……でもこういう柄は陰陽師のマークで見ることもありますわ」


 キィさち東三条さんがそれぞれ今宵の装備したガントレットに反応している。


 「まーこれは鑑定して効果が良ければ、マコトちゃんの装備だね!」


 「わ、私ですか?」


 「うんうん。だってアレと似合ってるし」


 だからアレって何なの? 主語がない会話はアメリカ……いや英語のテストでは減点されるぞ!


 「まてまて、俺らは良いけど今回のパーティは東三条さんもいるから、分配は平等にしないといけないだろ」


 俺は気になったことを注意する。

 俺たちだけなら今宵の好きなようにさせるのだが、ここには東三条さんがいるからね。


 「何を言っているのお兄ちゃん。天音ちゃんとは既に話はついているんだよ!」


 「いや、そういう会話は一切なかっただろ?」


 「もーぅ。天音ちゃんがパーティに入りたいってダンジョン前で話した時に、今宵が箱ガチャの話をしたでしょ! あれで天音ちゃんは頷いたんだからOKってことなの!」


 !?!?


 久々に今宵語こよいごが兄の俺にも理解できない。

 確かに、『とりあえず箱ガチャだよ!』『20階層のボスですわね。それなら問題ないですわ』みたいな会話はしてたね。

 うん、それでどうして宝箱のアイテム分配の話がついていることになるんだ?


 「はぁ。お兄ちゃんは理解していないようだから天音ちゃん説明してあげて。今宵が説明をしたのにわかっていないみたいだし」


 いやお前の説明は箱ガチャ……20階層のボスをまず倒しに行くよって話に東三条さんは了解しただけだから――


 「蒼月君、私様が今回のパーティに飛び入り参加をするのに、今宵ちゃんが20階層の箱ガチャ……宝箱の話を出したのは、もし宝箱が出てもそれは私様が参加する前のメンバーに権利があるけど良い? って聞かれたので、私様は良いですわと了承したのです」


 今宵語を東三条さんは理解していた件。

 いやいや、主語どころか内容をすっ飛ばして会話しちゃってるじゃん。

 え? これ俺以外みんなわかってたの?

 そもそも東三条さんが今宵語を理解しているのが、一番せない。

 たまに突飛なことを言う同士、分かり合えちゃってるの?

 キィちゃんとさっちゃんなら、まあわかっているかもしれない。


 そこで俺はハッと気付く。

 マコトなら気がついていないはずだ!


 「マコトは今宵と東三条さんのやり取りの意味を理解できてた?」


 「え? 私ですか? うーん、さっきの話のようなのは気にしてませんでしたから……。でも今宵ちゃんが決めたらそれはもう確定ですよね?」


 ……うーむ。

 まあ……、今宵が決めるイコール決定は間違いではないが、すべてではない! 『≒』……限りなく等しいかもしれないが、、

 そうそう、『≒』ってニアリーイコールって読むって知ってた? 意味は限りなく近いイコール等しいって意味なんだって。


 「そんなことよりも! 来たばっかりだけど、このガントレットを鑑定してもらいにギルドに行こうよ!」


 今宵のこの発言により、俺たちはこのアイテムを鑑定するためにギルドに行くことになるのだった。

 効果がショボかったら鑑定とその証明書だけで8万だけど、宝箱から出たアイテムを鑑定しないって言うのも野暮というものか。



 「こちらのアイテムの鑑定が出ました。こちらが証明書になってます」


 俺たちはギルドに向かいアイテムを鑑定してもらった。

 鑑定を依頼する前に今宵が職員さんに、鑑定をする人だけにアイテムを見せてそれ以外はどういうアイテムだったかわからないようにできないの? と質問をしていた。


 すると、そういう依頼というか、いわくつきのものを持ち込んだり、どういったものを持ち込んだかがバレてしまうと、窃盗や強盗がありえるようなアイテムの場合もあるので、箱にアイテムを入れて職員は何が入れられたかはわからず、鑑定をする人は誰が持ち込んだかがわからない状態にして鑑定もできるということが判明する。

 その場合のお値段なんと15万円。

 

 普通に鑑定をする値段の倍くらいになっているのだが、これは守秘義務みたいなことも含んでいるのか?

 俺はガントレット一つにそんな鑑定方法は必要はないだろうと思ったのだが、なぜか今宵はそのシークレット鑑定を選び自分でお金を支払っていた。



 そして、今は20階層のボス部屋に戻って来た所である。

 ボスは既に先ほど倒していて、5時間近くは安全になるので休憩にはもってこいだね。


 「では鑑定結果の発表です!」


 「「わー、パチパチッ」」


 キィさちが今宵の言葉にノリよく答えて拍手をする。


 「なんと! この白くまガントレットさんの効果は~、ジャジャン! 『不壊ふえ! 壊れないんだって凄いね!』


 ふえ? 笛が壊れない? んん……壊れない……『ふかい……不壊』か?


 「それって不壊(ふかい)ってことか? 凄いなそれは」


 俺がそう言うと、今宵がアチャーという顔をした。


 「お兄ちゃん、お兄ちゃんの言うフカイ・・・と今宵の言うフエ・・をスマホか端末に文字を書いて変換してみて」


 ? 俺は今宵の言葉を聞いて端末を取り出し、フカイを変換するが……おかしいな、ないぞ。

 そしてフエで変換をすると出た……。

 マジかー。

 普通に読み間違えてたよ。

 いや、フエなんて普通は読まないだろ?


 「初めて知った。不壊ってフエって読むんだな。なぜか変換できなくてビックリしたよ」


 「それですわ! その言葉は掲示板で見ましたわ! ふいんき(雰囲気)←なぜか変換できないとか すくつ(巣窟)←なぜか変換できない とか言うやつですわね! なるほど、こういう時に使って話題を広がらせるのですか。歴史の授業で出てくる三宝絵詞さんぼうえことばの中に金剛不壊こんごうふえという言葉がありますから、蒼月君が知らないはずありませんものね」


 やばいな。

 これが1-1クラス1位……入学時も主席の頭脳なのか。

 途中までは俗世まみれの掲示板の話題を出していたのに、歴史の教科書の三宝絵詞ってなんだよ?

 急に偏差値をあげられたらわかんないよ。

 難しすぎるよ。


 まあ……金剛不壊はゲームとかの技で出てくるからそっちで説明をしてくれれば俺も理解できるのに。

 金剛不壊ならたしかにフエ・・と俺もそう読むな……。

 しかも掲示板でネタで書いているのではなく俺は本気でわからなかったのだが、お嬢様は会話を広げるためにこうやって使うのかなんて言っている。

 いや、(そうくつ)を(すくつ)と読んで変換できないとかはリアルで話している時には使わないよ!?

 掲示板ならではのネタじゃないの!?

 なにごとにも学習をする姿勢が東三条さんが頭が良い原因の一つなんだね。


 「まあ、お兄ちゃんの漢字の読みが残念だったのは置いておいて、とりあえず今宵たちは着替えるから、あっちに土魔法で更衣室になるように壁を作って~。あと、はい。これはマコトちゃんのだよ」


 今宵がマコトにガントレットを渡す。

 俺は今宵に言われるがままに三方向に壁を作った部屋のようなものを作った。

 そしてなぜか俺を残して全員が入って行くと、アステリズムの恰好をして出てきたのだった。


 「マコトのそれって……前に今宵に話していたパンダのフードマントか?」


 「は、はい。似合いますか?」


 うーん。

 俺のクマと被るからってフード耳が白黒なんだよね。

 そしてアレってこれの衣装のことだったのかを理解した。

 しかも宝箱からでた白黒のガントレットを装備している。

 いや、似合うんだけどさぁ、君らアイドル活動でもする気なのん?


 「あ、ああ。似合ってるね。そのガントレットもその衣装なら違和感がないし」


 「ありがとうございます! あ、今宵ちゃん私が貰うんだったら鑑定のお金……ハイ!」


 今宵が支払っていた鑑定代をマコトが今宵に渡している。

 リヤカーを買うお金もなかったあのマコトが……。

 下衆な話になるけど、今宵が鑑定のお金を自分で払ったようにお金関係って自分の成長を表すものの一つかもしれない。

 だって俺らって今宵も俺もビッグマウスめちゃウマ! 大金持ちになれちゃうじゃんってダンジョンの1階層で狩りをしてたのを思い出すとさぁ。

 あの頃はポーション一つ買うのにも何週間もかかって……。

 俺が遠い目をしながら5月ごろのことを思い出していると、東三条さんも着替え終わったようで戻ってきた。


 「やはり配信をする気だったのですわね! 私の直感の通り準備をしてきて良かったですわ!」


 いや、配信はしないけど?

 その直感は微妙にズレてますよ。

 恐らく衣装を皆で合わせようみたいなことを今宵が話していたのを感じ取ったのかもしれないし、私様わたくしさまと言わずバレないように努力している感じで会話をしているけど、配信はしないから!

 そもそも配信をするとして、今は言い直せていたとしてもずっと私様って言うのを直せるのだろうか。


 「ってか東三条さん、目のマスク変えた?」


 「あ、わかりまして? 座間が今宵ちゃんにウケるからこれにしろって言ってくれたのですわ。新エルコンドルパサーガチャも始まったし、エルコンドルパサーが付けているマスクだからって」


 東三条さんはそう言うと、どうですかと言わんばかりに胸をはって今宵を見た。


 「エルコンドルパサーのマスク? ガチャ?」


 理解をしていない今宵に東三条さんは、『おかしいですわ、座間の策が通じていない!?』とか呟いている。

 今宵の評価をあげて、なし崩し的に配信に加わるつもりだったの!?

 っていうか、ウ〇娘のガチャとかエルコンドルパサーが付けてるマスクと言われても普通はわかんないでしょ。

 いや、アニメもしてるし大人気だから知ってる可能性も高いのか?

 まあ、実際の競馬の方のエルコンドルパサーはマスクは付けてなかったけどね。


 「それよりも矜一お兄さんは皆が変身をしているのにそのままなんですか~?」


 キィちゃんがニヤニヤと俺を煽って来るので、俺はそれならばとチェンジで変身するのだった。



 シュゴー!





 

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