第181話 水戸君の趣味が判明!?

 東三条家の高級車に乗っての移動は、夏休みに入ってから何度も送り迎えをしてもらっているのでさすがに慣れてきた。

 今宵なんて車に乗ってすぐに、東三条さんに飲み物を飲んで良いか聞いて了承を得ると、自分で車内に設置されている冷蔵庫を開けて取り出し飲み始めていた。


 俺目線で見ると、それって人のウチの冷蔵庫を勝手に開けているのと同じじゃないの? と思うが、東三条さんに了承は得ていたし車の中で東三条さんに給仕きゅうじをしてもらって、使用人のようになるのも違うような気がする。

 俺が初めて東三条さんに車に乗せられて連れ去られた時は、東三条さん自らがお茶を入れてくれたけど……。

 給仕をさせないと考えれば、今宵の行動はマナー的に問題はないのか?

 まあ東三条さん自体が一切気にしていないから、この場では問題がないのは確定か。


 「なに、お兄ちゃん。そんなに今宵のグラスを見て。飲みたいの? 仕方ないなぁ」


 「天音ちゃん、お兄ちゃんたちのも良い? あ、天音ちゃんは何にする?」


 「もちろん良いですわよ。私様はお茶をお願いいたしますわ」


 俺が今宵のグラスを見ていたせいで、飲み物を要求したようになってしまった。

 今宵はまたもや東三条さんの了承をとると、東三条さんには東三条さんが良く飲んでいるお茶、俺には今宵と同じスポーツドリンクのようなもの、水戸君にはコーラを持って来て車内にある俺たちの目の前のテーブルに置いた。

 こう見ると、今宵がしっかりと俺たちに気を使っていて逆にマナーが良いみたいに思えてくる。


 「いや、俺は今宵の飲み物を見てたから同じにしたのかもしれないけど、水戸君は何でコーラ? 水戸君には聞いてないよね?」


 「え? ミトミトはコーラ好きだし、顔がコーラって言ってたよ? コーラで良かったよね?」


 「ちょうど飲みたかった。ありがとう」


 顔がコーラってなんだってばよ!?

 しかも水戸君も飲みたかったとか言っているから当たってるの!?


 しばらく車に乗って話をしていると端末に矜侍さんからの連絡があった。

 どうやら、正体がバレていたのは護衛の五人だけだったらしく、そこはかなりきつい契約にしたそうだ。

 ついでに、東三条家にいる人たちにも相手にはわからないように契約魔法で縛り、東三条さんのご両親には直接合って、契約魔法を使ったらしい。

 俺の想定通り、外部からの精神魔法を受け付けない魔道具を当主は使っていたらしく、そのせいでそれを超えるために護衛の五人よりは低いが少し重い契約になってしまったそうだった。


 さらに何故か『矜一君には天音は渡さん!』とか意味不明に興奮をしたらしく、うっとうしいから、東三条家グループの会社の株式を株式公開買付TOBで買い占めるぞ! と脅したら黙ったとか書かれてる。

 って、TOBって敵対的買収のことでは? M&A戦略の一つで企業を実質的に支配する時にやるやつだよね!?

 矜侍さんは魔道具の会社とか持っていたけど、東三条家を経済的にも買収しちゃえるの!?

 色々やってそうだし、もしかして経済でも裏で牛耳っているとか……? まさかね。

 そもそもなんで俺の話が出たんだろう……。



 「では着替えてきますから少しお待ちくださいな。ところでこの後はサバゲーと言いますが、どこに向かうのでしょう?」


 「ああ、都内の-BRAVE FIELD-っていう所で集合することになってる。近くに装備のレンタル屋と買えるお店もあるから集合時間までにそこで蒼月と……今宵ちゃんや東三条さんもそこで揃えたらどうだろう?」


 水戸君が東三条さんの言葉に答える。


 「ではそこまでは車で行きましょうか。着替えてくるまでここか……勉強に使用した部屋で待っていてくださいまし」


  俺は今宵たちを見渡して、正直矜侍さんが契約魔法を使った後の東三条家に入りたくはなかったので車の中にいると答えることにする。

 大体、東三条さんのお父さんは頭がちょっとおかしくなっているみたいだし、もし会うとめんどくさそう。


 「俺たちは車の中で待ってるよ」


 「わかりましたわ」


 東三条さんはそう言うと、車を降りて着替えに向かった。

 車の中は運転手席とキッチリと分けられているので、オラオラさんが運転手でも気にする必要はないのでゆっくりとできるのだ。


 「装備欲しいなぁ。やっぱり買うと高いよねぇ でもレンタルかぁ」


 「レンタルは行く前に調べた感じだとこの店だと、エアガン(+BB弾)2500円、ゴーグル(+フェイスマスク)500円、迷彩服1000円だったかな? あ、でも迷彩服よりグローブの方がBB弾から手を守るのに重要だからこれはレンタルがなくて安いものなら1000円くらいだね。まあ……今の僕たちにBB弾のダメージが通るかどうかと言われると……効かないと思うけど。あ、そうだお金は誘った僕が出そうかと思ってたから大丈夫だよ」


 今宵のレンタルという話に水戸君が値段を交えて教えてくれる。

 ちなみに銃などの現代兵器はダンジョン内の敵を倒すには魔力が重要なので、剣などは魔力を持った人が扱うために攻撃が通りやすくなっている。

 銃の場合は弾丸が小さいので、その分すぐに魔力が拡散してしまって大きく威力を落としてしまう。

 また、弾丸が人体から離れていると判定をされるようで弾を込めた後は、どんどん威力低下していくようだった。

 戦闘機なんかから発射されるミサイルなんかは大きいが、人が触れてから発射されるまでに時間がかかることと、大きなものを触った程度では魔力が行き渡らないので効果が薄くなっている。


 トワイライトの佐藤さんは弓を使っていたが、弓矢は弾丸よりもかなり長さがあることや放つ直前まで触っていたり、マジックアローなどのスキルもあってダンジョン攻略でも使われている。

 銃の職業も無い訳ではないようだが、ほぼ出現することがなくレア職業で、さらにスキルもなぜかあまりないようでトップ層にはいないようだった。

 

 てか武器マスタリーの九条君なら銃で二丁拳銃とかやって主人公みたいな活躍ができるのでは?

 それに銃の銃弾も、俺が魔力の性質変化でプールを作ったように、この世界の常識を変革すれば強力な武器になるのではないかと考えているのだが、社会的影響を考えるとそれもバレない方が良いように思う。


 「レンタルは臭そうだしなぁ。買うといくらくらいー? 今宵もお兄ちゃんも毎日ハイオークは狩ってるから……お金は大丈夫だよ」


 今宵の成金発言……。


 「レンタルは臭くはないよ。風評被害になるから、今宵ちゃん、お店で言っちゃダメだからね。装備の購入はピンキリだから何とも言えないけど、安くても数万円はかかっちゃうかな」


 「はーい。じゃあ買おっかなー」


 「そう言えば水戸君が今持ってるバッグにはサバゲー用の装備が入っているの?」


 俺は水戸君が家に来た時から持っていたバッグが気になって聞いてみる。


 「そうそう、エアガンとかかな」


 「え! みたい!」


 今宵がせがんで水戸君はバッグを開ける。


 「これが僕の愛用してるやつで、ハイキャパ5.3 シルバーモデル 電動ブローバック フルオートのハンドガンで、こっちがAKB48 TYPE-5のアサルトライフルだね」


 「ふおおおおぉぉぉぉ! カッコいいね!」


 「今宵ちゃんにもわかる? このハイキャパ5.3はシルバーとブラックのコントラストが効いたボディに発射時にスライドが後退するブローバックを再現しててね。自動的に次弾の装填をしてくれるんだ。実銃に極めて近い操作感で、リコイルショックって言うんだけど、手首に響く激しい反動が特徴なんだよね。こっちのAKB48 TYPE-5もトリガーを引くことで発射と同時にボルトが作動して、さらに本体内部で発生した強烈な反動が全身に伝わるからリコイルが強いと―――――」


 いや、水戸君がめっちゃしゃべるやん!?

 そう言えば最近放送していたアニメ、リコリコのリコイル反動の意味まで水戸君の説明で理解できちゃったよ!?


 「み、水戸君。もしかして銃がかなり好きだったり?」


 水戸君の熱い説明を聞いて顔をポカンとさせている今宵を見ながら、俺は水戸君の新たな一面を知ってしまう。


 「あ、ちょっと興奮してたかな? 僕の中学の時の趣味がサバゲーでね。当時はスリルとか銃の反動が楽しくて。まあ……今は本当の命を懸けてダンジョンに挑んでいるからヒリヒリした感じはダンジョンの方が圧倒的なんだけど思い出しちゃって、ちょっと熱くなっちゃったよ」


 「ミトミトがこれだけハマってるなら、今宵は装備を一式買って揃えるよ!」


 水戸君の熱さに感化された今宵が自分の装備を整えると言っている。

 まあ、ぶっちゃけ俺も水戸君の説明を聞いていると欲しくなったけどね。

 今水戸君が履いている軍隊用のブーツなんかもカッコいいし。



 「ふう。お待たせしましたわ。お父様がなぜか『蒼月君なら許すけど、変な趣味を持って強制されそうなら逃げ帰るんだぞ、会社が無くなっても守ってやるからな』とか言って……疲れましたわ」


 良かった、車の中にいて。

 俺なら許すって何をだよ? 出かけるってことだったら、もう結構出かけてるよね!?

 俺の変な趣味って何だろう……アステリズムでのコスプレか? ダースベイター卿はたしかにヤバかった気はするけど、東三条さんはペカチュウを着てやる気満々だからね! OKはまだしないけど。

 俺たちは車内でワイワイと話しながら、車に乗ってサバゲーができる-BRAVE FIELD-へと向かうのだった。





 

 

 

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