第180話 かしら かしら ご存じかしら
「お兄ちゃん、今日はダンジョンに行かないの?」
「ああ、水戸君が遊びに行こうって言うから二人で遊びに行く予定。今宵は? キィちゃんとさっちゃんがいつもなら来てる時間なのに来てないよね」
「今日は日曜日でさっちゃんが家族でおじいちゃん家に行くっていうから、キィちゃんも折角だから家族サービスするんだって。うちでお泊りを何日してもいいようにご機嫌取りするって言ってた。だからお兄ちゃんとダンジョンに行こうと思ってたのにー」
今宵は親友の悪だくみを俺に暴露しながら、ダンジョンに一緒に行く予定だったのにと頬を膨らませる。
「というかお兄ちゃんが友人と遊びに行くって珍しいね。小学校以来? 最近ではだいぶ変わって来てたけど、それでも野営の
今宵が俺の中学時代のボッチの過去を悪気なくえぐりながら、俺が遊びに行くのは珍しいという。
ああ、そうだよ! 男友達に誘われて遊びに行くなんていつ以来か覚えてないくらいだよ!
小学校の時に確かあったはずだけど、普段は遊びに行くと言えば椿か今宵と行った記憶ばかりで、男友達とはあまり……。
あれ? おかしいな目の前がなぜかぼやけて……ぐすん。
「なんでも水戸君が中学時代の友人からサバゲーに誘われたらしくて、俺にも来てほしいってさ」
水戸君が言うには、地元の友人が夏休みで東京へサバゲーをしにやって来ているそうで、せっかくだから水戸君も誘われたみたいだったのだ。
「サバゲー!? 今宵も行く!」
「ん? まあ水戸君に聞いてから……って連絡が来た。水戸君かな?」
今宵と話をしていると、端末に連絡があったので水戸君だろうと思って確認をすると『もうすぐ着きますわ』と一言だけ東三条さんからメッセージが届いていた。
「あれ? 東三条さんからだった。もうすぐ着くって。今宵、なんか約束してたか?」
「え? 天音ちゃん? 約束はしてないよー」
まあもうすぐ着くって話だし、水戸君が来るまでなら問題はないか。
しかし思い当たることがない。
しいていうなら、ダンジョン攻略のお誘いとかか?
これが一番確率が高いだろう。
でも今日は無理なんだよな……。
「ピンポーン」
「え? まさかまだ1分だぞ」
すぐ着くって言っても早すぎない? しかも俺が返信もしていないので、家にいるかどうかもわからない状態でのチャイムだ。
ドア開けなくて良いかな?
「お兄ちゃん? ドアを開けないの?」
「いや、不審者が……」
「もーぅ。なにを悪戯してるの。この魔力は天音ちゃんでしょ!」
魔力感知で東三条さんを感知した今宵が俺を押しのけてドアを開けた。
「ごきげんよう。蒼月君に今宵ちゃん。おーっほっほ、アステリズムに輝く一番星! エトワールとは私様のことですのよ! ちょ、ちょっと蒼月君なんで私様を押してるんですの?」
バタンッ
ふう。
俺は不審者の肩を持って下がらせると、ドアを閉めてから額の汗を腕で拭いた。
「いや、お兄ちゃん。まあ確かに天音ちゃんの恰好には驚いたけど。その一回閉める演技を天音ちゃん理解するかなぁ?」
「ちょ、ちょっと蒼月君!? どうなさいましたの? エトワールが来ましたわよ! アステリズムの一番星ですわ!」
ひぃぃ。
ドアを開けた時に黒塗りの車が見えたから運転手がいるだろうに、アステリズムの一番星とか言っちゃってるよ。
というか、この衣装で車に乗ってたの?
俺は急いでドアを開けてウチの中に東三条さんを引き入れた。
「こ、今度は急に……そんな強引には困りますわ 優しくして下さいまし」
「まぁまぁ、いいから、いいから。上がって」
「蒼月? っと……東三条さん!? え? ついにデビューするの?」
「あ! ミトミト、おはよー! 今宵もサバゲーに連れてって!」
「ああ、今宵ちゃんおはよう。いや、それは良いけどこの状況は?」
ってか、今宵も水戸君をミトミト呼びしてるの!? それならもう、キィさちも呼んでそうだな!?
「ちょっと不審者がね。とりあえず上がって」
「誰が不審者ですか! 私様は一番星のエトワールですのよ!」
「ああ、それはいいから、はい上がって上がって」
エトワールってフランス語だから連呼されると革命を起こしそうなんだよね。
絶対・運命・
まあそれは革命ってだけでフランスは関係ないけど。
え? 古い? なんなら ラ・セーヌの……恰好が東三条さん。
ペカチュウだけど。
俺がわかるのも父さんがCS放送を契約しちゃってるせいで再放送がね。
しかもエトワールって星の意味もあるけど、人気者って意味もあるし、パリのオペラ座だと最高位のダンサーのことだったりする。
え? 主役のダンサーはプリンシバルだろって? そのなかでも特別に任命された花形ダンサーがエトワール。
一番星とか言っちゃっているからそれも理解してそうなんだよな。
宝塚だと歌唱力が高くて独唱する人をそう呼ぶけど、主役とか一番星、そこに歌唱力って今宵と張り合うつもりなのか!?
今宵の俗世にまみれた鼻歌……
「それで蒼月君。これでどうかしら。私様も『ですわ』を言わなければ出演できると思いますのよ!」
あ~。
キィちゃんのアレね。
東三条さん気にしてたんだ……。
でもさぁ、そこよりもっとダメなとこあるよね。
「私様って言っちゃってるからダメ―!」
いや、そんなバカな! ありえませんわ!? みたいな顔されても、こっちがビックリだよ?
ですわ ならまだお嬢様学校で挨拶として使われているようだし、むしろアステリズムでキャラ付けとして面白いけど私様はダメでしょ!
「と言うか、その格好で車に乗っちゃってたの? 運転手は仙道さん? 俺たちの正体がバレたら護衛さんたち矜侍さんに
「え? 仙道さん? どうするお兄ちゃん。処す? 処す? 結構面白い人だったのになー」
いや、俺は処さないけど矜侍さんはどうかな……。
大丈夫だとは思うけど、矜侍さんの周りからの評価は冷徹に思われてるんだよなぁ。
今宵だけは仲の良いお兄さんみたいにやり取りしてるけど。
「き、きっと大丈夫ですわ! たしかに着替えを
いや、それもうアウトだろ……。
マジで矜侍さん案件か?
東三条家の財力なんかを考えると、今の俺の契約魔法レベル1では微妙な気がするんだよね。
無効化の魔道具とか装備してそう。
とりあえず、この間に矜侍さんに俺の契約魔法では足りないと思うんだけどってどういう状況か送っておくか。
俺は今宵が処すつもりもないのに遊んで、東三条さんが何故かそれに本気で弁明している間に矜侍さんに端末でメッセージを送った。
「坐間さんとか花ちゃんも良い人だったのになー……」
今宵よ、熨斗さんと芽里さんは大丈夫と思ってるのがばれちゃってるぞ。
まあ俺もその二人は口が硬そうで、色々理解してそうだから大丈夫と思うけど。
花さんも大丈夫じゃないか? 結構おしゃべりだったりするのだろうか?
「ちょっと仙道を連れてきますわ。お待ちくださいまし!」
慌ただしく東三条さんは車に戻り仙道さんを連れて戻って来た。
そして色々と話した結果……、俺が護衛五人と戦って負けなかったこととか東三条さんの恰好と何故か仲がよさそうに画面に語りかけてた東三条さんの態度から、やはり護衛の五人にはバレちゃっているようだった。
「仙道さん……魔力回しがちょっと面白かったけど、ドナド……サヨナラバイバイされちゃうんだね。坐間さんも霊が見えても自分が除霊されるなんて……。花さんも東三条家の噂をいっぱい教えてくれたしダメかなー」
「ちょ、今宵様!? お、お嬢様なんとか言って下さい!」
「仙道……私様のせいで……申し訳ありませんわ」
「え? いや本当に? 蒼月様?」
仙道さんはいつも強気で周りを威圧しているのに、東三条さんが割と本気で俺たちの正体がバレていたことにへこんでいて、いつもの感じがない。
『矜持様はゆるしてくれないかもしれませんわ』とかボソッと言ってるし。
矜侍さんは怪しいけどさすがに防具屋とかよりは悪いようにしないだろ!?
今宵のダメかなーも絶対演技だろ!
ここは俺もその演技に乗っておくか?
「いや、どうだろう? とりあえず矜侍さんには既に連絡をしておいたから、後から何かあると思うよ」
「そ、そうか……。お嬢様! 俺は……最後の一時までお嬢様の護衛をします!」
「仙道! 私様が至らなかったばっかりに……。申し訳ありませんでしたわ」
……。
今宵たちなら演技って思うけど、東三条さんだと本気っぽいんだよね。
しかもあの仙道さんがこんな感じで冗談でするとも思えない。
イオリさんもそうだったけど、矜侍さんってマジでなんなん?
「はぁ……、矜一。契約魔法のレベルが上がらないのはどうすれば上がるかわからないからか? まあ契約魔法を使いまくる訳にもいかないか。前にステータス偽装を覚えるために使った魔石をやっただろう? あれは特別に俺が魔法を掛けているからアレに契約魔法を使えば熟練することができる」
「「矜持様!」」
俺の横に急に現れて契約魔法の訓練の仕方を教えてくれた矜侍さんを見て、仙道さんと東三条さんが土下座する。
俺はそれを見て視線を下にしたせいで、気づいてはいけないことに気が付いてしまった。
てか矜侍さんって土足でウチのリビングに転移してきたのでは!?
俺はさすがにそれなら注意をしないといけないと思って矜侍さんの足元を見た。
「いや、そんな目で見られてもな。土足で部屋に上がる訳がないだろ」
俺の視線で言いたいことを理解した矜侍さんは、しっかりと靴を脱いで靴下姿だった。
気遣いが凄い。
「とりあえずちゃっちゃと済ませるか。とりあえずコイツだな」
矜侍さんはそう言うと、部屋に大きな魔法陣が展開された。
あれ? これって周りは見えないはずじゃ?
「ああ、わざと見せたんだ。とりあえずコイツは裏切ったら死ぬ……契約にしておいた。今死ぬよりはいいだろ?」
「は、はい。矜侍様にはお手数をおかけして申し訳ありませんわ。私様にもどうかよろしくお願いいたします」
「ここで生き延びられるだけでありがてぇ。本当に感謝する」
東三条さんと仙道さんが土下座したまま顔をあげて矜侍さんに話しかけている。
矜侍さんは俺をチラリとみると、東三条さんに向かって話をする。
「んー、お前は問題ない。とりあえずは他の四人にも契約をしてくるか。いや、また面倒なことになっても困るから、当主と東三条家の者たちにもそれぞれで契約の強さは変えるが強制的に使っておくか」
「あ! 矜侍さん! 今宵に従魔の指輪ください!」
今宵が会話をぶった切ってメッセージでダメだと言われた従魔の指輪のことを矜侍さんに直接お願いする。
お前、この雰囲気で凄いな。
仙道さんはどうでもいいけど、東三条さんまで土下座中だぞ。
「わ、私様もほしいですわ!」
こっちにも凄い人いた!
「いや、やらねーよ? 妹ちゃんは付与があるから契約魔法と……空間魔法のレベルが上がると時空魔法を覚えられるから空間魔法と時空魔法、それに契約魔法を合わせて付与をすれば自力で作れるぞ」
「え? ほんと!? がんばる!」
いやそれってメチャクチャ熟練度高いんじゃないの?
絶対簡単には覚えられないやつだろ!?
「じゃあ俺は面倒だけど東三条家で強制的に契約をしてくるぞ。じゃあな」
矜侍さんはそう言うと、転移して東三条家へ向かったようだ。
「仙道……私様のせいでこんな事になってしまいましたが、命があって良かったですわ」
「はい。今後とも尽くさせていただきます」
おちゃらけた感じもなく、二人のやりとりを見ていると水戸君が目に入る。
水戸君が完全に置いてけぼりになっている。
「あ、水戸君ごめん。色々あったけど行こうか」
「ああ、まあ蒼月といればこのくらいはね」
何がこのくらいなのかはわからないが、気にしていないようで良かった。
今現在で同年齢の唯一の男友達を失うわけにはいかないからね。
「そう言えば、水戸君はどうして蒼月君のお家に?」
「今宵たちはサバゲーに行くんだよー」
東三条さんは水戸君に聞いたはずなのに今宵が答える。
「サバゲー? では私様もご一緒いたしますわ! とりあえず着替えに戻らないといけませんから、皆さん車にお乗りになって下さいな」
問答無用で東三条さんが俺たちのサバゲーに参加すると決まって、俺たちは車に乗って東三条家へ向かう。
今頃は矜侍さんが契約魔法を使いまくってるはずだけど大丈夫かな?
俺は一抹の不安を感じながら、車に揺られて東三条家へと向かうのだった。
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