第167話 決着!?

 ☆ ―蒼月今宵視点―



 短距離転移を繰り返し魔力感知でお兄ちゃんを発見した私は、兄が戦っているであろう敵も感知する。

 そしてその異常性に恐怖し足を止めそうになるが、対峙している兄を思うとその恐怖に蓋をした。

 その瞬間、兄がこちらに気が付いたと感じた私は、敵の真後ろへと転移をして攻撃を仕掛ける。


 「Ninpō 奈落!」


 兄と対峙をして何かを気にするそぶりを見せていた敵の背後からいきなり振るった攻撃は、まさに死角からの一撃。

 どのように強い敵でも防ぐことはできないのではないかと思うほどのタイミングだ。


 「小賢しい!」


 完全な死角からの攻撃と思われたそれは、敵のフルートのような武器によって弾かれた。

 その刹那、こちらへと意識を移した敵に兄が右手で剣を振り下ろしながら、左手で魔法を放つ。

 私は兄と視線を交わしそれだけで会話をすると、こちらも敵に向かって切りかかった。


 ガンッという音と共に兄の剣は笛で防がれ、魔法は威圧で掻き消える。

 そして私の攻撃はと言えば……敵の片手で防がれていて、その腕に刃が食い込むことさえしていない。


 「今宵、全ての攻撃で魔力を纏わせろ!」


 「わかった!」


 兄の声に私は答えると、蹴りを放つ。

 そして兄は兄で剣を振るうが笛で防がれていた。

 私たち二人の攻撃はどちらも片手でいなされてしまっている。


 ただ、こうやって2対1で戦っていると、兄の剣だけは敵の持つ笛で防いでいて明らかに気を使っていた。

 それに気が付いた私は、自分でダメージを与えるのではなく兄の剣が当たるようにフェイントを入れながら立ち回る。

 こちらの攻撃もダメージを与えることはできていないが、相手も防戦一方という展開にイラついたのか、兄に攻撃魔法と見間違うような威圧を放つと、兄はそれを防ぐために魔法を使って相殺しようとした。


 そしてその隙をついて、敵はまず私を排除すると決めたようだった。

 

 (まずい、影残!)


 !?


 「うっ……」


 回避をしようと使ったスキルを超えたスピードで迫られて殴られた私は、相手の武器によって追撃を受ける。


 (影空蝉)


 なんとかスキルを使い追撃を避けるが、同じスキルでは次は防げそうにない予感を覚える。


 ――やられる


 「パリィ!」


 私が攻撃が躱せないとそう思った瞬間に、兄が転移で割って入って攻撃を防いでくれた。

 お兄ちゃんがいれば、まだまだやれる! 私はそう思って兄の背中を見ると、なんだか兄が消えてしまいそうなそんな間際の最期の一瞬の煌きのような――


 信じたくなくてもわかってしまう。

 零れ落ちる兄の生命いのちの輝きをどうしても止めたくて私は兄の背中に手を伸ばす。

 今度こそはと兄の窮地に駆けつけるつもりでいた。

 でも……結局はまた足を引っ張ってしまった。

 私がここに来なければ、兄は逃げられていたかもしれない。

 どんなに思っても、願ってもその背中に手は届かず、ましてや自分のせいで失おうとしている。


 ふいに、なにかが頭の中ではじける音が聞こえた。

 そして先ほどより一層に兄が命を燃やして戦っていることを理解する。

 自分の中の全ての感覚が研ぎ澄まされて行くのを感じる。

 兄の煌きが零れ落ちる前に、敵を倒す。

 私は……それだけを深く深くイメージして敵の後ろへと転移した。



 ☆ ―蒼月矜一視点―


 

 今宵が戦闘に参加してから純粋に手数が増えたこともあり、いまだカルラに有効打を与えることはできてはいないが、一人で戦闘をするよりも圧倒的に楽になった。

 特に声に出さずともこちらが意図することを理解したこの連携を続けていれば、隙をつく事も可能かもしれない。

 現に、カルラは俺の剣は明確に避けたり己の武器で対処をしていて、それに気が付いた今宵は俺の剣が当たるように動いてくれている。


 カルラが俺たちの攻撃を防戦一方で受けはじめて俺たち二人の息がますます合い始めたちょうどその時、急にカルラから濃密な魔力の塊が俺へと放たれる。

 ただ魔力を凝縮しただけに思えるソレに、俺の攻撃魔法以上の力を感じて俺はその魔力と同等魔力を込めた風魔法でソレを相殺する。


 グラリ


 魔法を放った瞬間に俺は魔力が枯渇し、態勢を崩してしまった。

 ここに来るまでとカルラと対戦を始めてからも常に全力で魔力を使用していたために、ついに魔力限界を迎えてしまった。

 休憩をすれば回復するものではあるが、動きに大幅な制限がかかってしまうので、この状態で追撃を受ける訳には行かない……、そう思い必死に意識を失わないようにカルラを見ると、最初から決めてたのか俺ではなく先に今宵の排除を狙ったようだった。


 二人ならやれる、そう思った矢先のこの窮状。

 今宵が殴られて声をあげている状況を見ながら、俺は自分が今宵に連絡をしたせいで今宵が来てしまったのではないかと考えた。

 大切なものを守りにきて、さらに大切なものを失ってしまう。

 魔力が枯渇し魔法を使うこともできなくなった現状で、俺は必死に自分にできることを探す。


 そもそもの話……魔力とは一体なんだろうか?

 血液と同じように体内を回り、それを認識をしたり動かすことで魔法の能力を上げたりすることができた。

 休めば回復するのはなぜ? それは外から取り入れているのだろうか?

 確かに生物や魔石には魔力が宿っているし、空気のように漂っているのも魔力感知で見ることはできる。

 それならば、外から魔力を取り入れれば無限に魔法が使うことができるのでは?

 その可能性は試してみる価値はあるかもしれないが、それは今スグにできるとは思えない。


 もう一度、『休めば魔力は回復する』 という所に着眼点を戻してみる。

 休憩している時に、外から魔力を取り入れているというような感覚はない。

 では身体の中から回復していることになるのではないだろうか?

 思考加速は今の状態でも使えているがこれはなぜだろうか?

 精神と肉体は一体化しているとよく言われる。

 であるなら、今の俺のこの魔力枯渇の状態は単に生命維持のために制限がかかっていて身体を休めようとしているだけなのでは?


 わかれば 簡単な話だった。

 すでに俺は決意をしてこの場所に立っている。

 俺は……魔力代わりに生命――命を燃やして――


 「パリィ!」


 俺が今宵に追撃をかけるカルラの攻撃を弾くと、その瞬間に今宵から存在値とでも言うのだろうか? それが大きく跳ね上がったことを感じる。

 そして……意識を共有しているような、体はこの場所にあるのに精神は別にあるような……不思議な感覚で今宵のカルラへの攻撃へ俺も合わせるのだった。



 俺は今宵と共にほぼ同時にカルラへと攻撃を仕掛ける。

 カルラは今宵の攻撃を左腕で払い蹴りを放つと、今宵はそのまま吹き飛ばされた。

 俺はその隙をついて袈裟斬りに剣を振り下すが、それも右手の笛の神具によって受け止められてしまう。

 その瞬間、”左”へ吹き飛ばされたはずの今宵が右から現れて、そのままカルラの頭部に鋭い飛び膝蹴りを決める。


 ついに……ついにカルラへと有効打を与えた。

 飛び膝蹴りをカルラに加えた今宵は俺と目線を交差させる。

 俺はその目線にニヤリとすると、今宵が頷いた。


 「ミーティア流星!」 「稲光!」


 俺たちはこれで決めるつもりで、単体で使うよりも圧倒的に威力が上がることを確認した合わせ技をカルラへと放つ!

 爆音と砂煙が立ち込め、落雷のせいか地面に電気が走る中で徐々にカルラの姿が現れる。

 カルラは煤けてダメージを負ってはいるが、その眼の戦意はいささかも衰えることなくこちらを睨みつけていた。


 「オン・ハキシャ・ソワカ」


 これは転移――瞬時に共有した意識の中で俺は今宵に伝え、どこに現れても対処できるように構えていると、カルラはなんと俺の正面へと転移をして神具を下から上へ居合でもするかのように振るう。

 俺はそれに対して、剣を上から下へ振り下ろす。


 ガキンッ


 振り下ろした有利なはずの俺の剣は上空に弾き飛ばされて、カルラの神具を持っていない左手で殴られる。

 腹を殴られ、前屈みになった俺をカルラは神具で上から……攻撃を加えようとする前に上空に転移をした今宵が、弾き飛ばされた俺の剣をキャッチすると、そのままカルラへ振り下ろして神具と剣がかちあった。


 俺はその隙にお返しとばかりにカルラにローキックを見舞う。

 それによりカルラの態勢を崩すと、それを見た今宵は俺に向かって剣を手放し、上からカルラに向かって蹴り込むがそれはカルラに防がれて、今宵は足を掴まれると、投げ飛ばされてしまった。


 俺は受け取った剣を、今宵が投げ飛ばされた瞬間にカルラに向かって振り下ろす。

 カルラはガキンという音と共に剣を神具で防ぐと一旦大きく距離を取り――


 「迦楼――クッ……また、なんだというのだこのプレッ――」


 カルラの魔力が一気に高まると、必殺技でも使うかのように口から何かを吐き出しそうになったその瞬間、またもや信じられないような隙をカルラが見せた。

 俺は絶対にここは逃せないと判断をして、深く集中すると命を燃やして自分の最大の技を使った。


 「月輪がちりん!」


 黒い太陽を思わせるそれは、周りにバチバチと青白い雷撃をスパークさせながらカルラの隙をついて直撃する。


 「グ、グァァ……」


 黒い月輪が悲鳴をあげるカルラを覆った瞬間に一瞬そこの空間が歪んだかのように見えて、俺は構えるが……、月輪が消え地面を抉った跡を残したままカルラの存在は消えていて周囲を探索してもそれらしき反応はなかった。


 「か、勝ったのか?」


 「やったね、お兄ちゃん!」


 今宵が俺に抱き着いて来たことで勝利を実感した俺は今宵を抱き留めながら、張っていた気を脱力する。


 「はっ、椿の元へいかないと!」


 俺が椿の方向を確認すると、そばには残っていたもう一人の男もいて無事のようだった。

 全ての力を使い果たした俺がヨロヨロとそこへ向かおうとした瞬間、今宵が何もないはずの上空へ手を振ったかと思うと、何事もなかったかのように疲れ果てた俺を支えながら椿の元へと向かうのだった。

 




 


 

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