第165話 巡り合わせ
☆☆☆
矜一は七海との電話の次の日から仲間たちと2回目の野営をしたり、シュテルンとなって13階層から18階層の配信をしたりと忙しくして夏休み最初の登校日を向かえた。
「みんな、おはよう」
「あ、あおっちおはー」 「「おはよー(!)」」 「蒼月、おはよう」
ガヤガヤと騒がしい教室を横切って、矜一は窓際の最前列にある自分の席へ移動すると、攻略道のメンバーに挨拶をする。
「ねぇねぇ、あおっち。2回目の野営楽しかったね。あたし達やマコトちゃん達もいて、しかもあおっちのご両親もいたから蒼月一家見参! みたいな感じだったし」
「いや、そんな極道みたいな感じはなかったでしょ」
猪瀬さんが仲間で集まって行った二度目の野営を、どこぞの極道の集会かとでも言うような独特の言い回しで話に花を咲かせる。
「極道って言えば、東三条さんの護衛の人達でしょ! なんで野営に黒スーツにグラサンなのよ! あの人達だけ空気ピリッピリで警戒してたし!」
「たしかに。でも僕たちも制服だったし、付与がかかってるのかも」
「東三条家ならありそう!」
葉月さんと水戸君は極道と言えば東三条家の護衛だよねと話しているけど、冗談じゃなく熨斗さんたちの恰好は見た目がもう……怖いからね。
仲間内でワイワイと話していると、自分たちの周りの密度が低いことに気が付く。
「あれ? 九条君や一ノ瀬さんたちが誰も来ていない?」
矜一は攻略道のメンバーは勢ぞろいしているのに、九条君たちのパーティメンバーがまだ誰も登校をしていないことに気がついて話題にする。
「あ、たしか昨日からA級の人たちと今日まで野営をしてるみたいだから休みじゃないかなー? 私たちとの野営は取りやめたのにゴメンって九条君から連絡があったよー」
「え? それって端末で? それとも電話!?」
「ちょ、あおっちそんなに鼻息荒くして、ななみんにくじ丸からの連絡方法を聞くとかウケるし!」
矜一は七海から電話がかかって来た時に、遊びに誘おうとして失敗したことを思い出し、つい九条君からの連絡方法が気になってしまって七海に質問する。
「あははー。端末だよー」
「あ、そうそう! くじ丸のパーティと言えば
どうやら女子連中は野営時にお互いに仲良くなったらしく、最近では連絡をとりあったりもしているらしかった。
「へぇ。椿の従魔の名前――椿?」
「ん? あおっちどしたん?」
矜一が猪瀬の会話から椿を思い浮かべたその瞬間、矜一の脳裏には椿が足の怪我をして一ノ瀬が必死にヒールをしている様子が浮かんだ。
そしてそれだけではなく、椿が心の底から絶望をしているそんな心情や怪我の痛みまでもが矜一に伝わる。
さらに矜一はその脳裏に浮かんだ光景から、今宵がトワイライトの連中にダンジョンの中で襲われた時のことをフラッシュバックする。
椿の感情や怪我の痛み、今宵が襲われたトワイライトのフラッシュバックから、矜一は一瞬意識が朦朧としてふらつく。
「あ、蒼月?」
ふらついた矜一を水戸が抱きかかえ矜一を真剣に覗き込む。
「……行かないと。椿が!」
「おい、蒼月!」
「蒼月君? どうしたのー?」
急に大声をあげた矜一に皆が目を丸くする中、水戸と七海は矜一に声をかける。
「七海さん! 先生には早退するって伝えておいて!」
矜一はそう言って出し抜けに教室の窓を開けると、なんとそこからグラウンドへと飛び出した。
丁度その頃、ギルドでは朧 幽全から救難信号が送られ、それがギルド内を騒がせていた。
その送られた情報から、彼らはガルーダを狩っていて不測の事態が起きたことが想定される。
12階層と言っても、このガルーダは30階層のボスと同程度の強さであり、Bランクに指定されているもののその最上位の強さを誇っている。
だから、挑戦をしに行って戻らないパーティは時々出るし、B級パーティであっても避けるような大物であるので、A級からの救難信号であっても不自然さは特にない。
ただ、朧幽全のパーティには佐藤良子という上空の敵に対して圧倒的な強さを誇る仲間がいることは広く知られていて、ガルーダを倒すのに連れて行っていないはずもないのだ。
それらを含めA級の救出に向かうならば、相応のメンバーを出さねばならない。
ギルド長はその判断から、国立第一東校の校長に連絡をとった。
東校の校長は東京ダンジョンで攻略が確認されている最高到達階層……38階層のレコードホルダーでもあり、テレポーターでもある。
さらには今現在であれば、東校には現役のA級である冴木大輔もいることから校長と冴木、そしてギルドでA級の力が既にあると言われているB級の間宮雫を含めた実力者を送れば救出に向かえるだけの戦力になると判断した。
東校にギルドからの連絡があってから1-5クラスの担任である冴木は校長からの緊急連絡を受けて、ホームルームを桃井に任せることになるのだが、桃井が教室に向かうと矜一が突然に椿の名前を叫んで窓から飛び出した話を聞いた。
桃井は校長と冴木からの話とクラスにいない九条たちや七海たちの視線から色々と察することは出来たのだが、それを話す訳にもいかない。
そのため、1-5クラスの女子の一部には矜一が椿の名前を叫んだ後に、窓から飛び出した行動を厨二病だけどロマンス派とその直前に矜一がふらついた時に水戸に抱き留められ見つめ合っていた事から矜一×水戸派、さらには攻略道の女性の誰かと矜一か水戸という派閥に分かれて応援をされることになるのだが、それはまた別の話である。
☆
俺は窓からグラウンドに飛び出ると、走りながら父さんに電話を掛けるが通じなかった。
時間的に既にマコト達とダンジョンへ入っているのだろう。
そうして、今度はヴリトラ戦の後で「次に何かあれば駆けつけるからね」と言っていた今宵を思い出す。
今回はどちらかと言えば、トワイライトとの抗争ではないかと思っているので、一度被害にあった今宵に伝えるのは躊躇ってしまう。
だけど、今宵の場合ならどんな時でも教えてほしいと言うだろうと思い直して電話をかけた。
プルルル プルルル
何度かコールをするが、今宵もどうやらキィちゃん達と遊びかダンジョンに行っているようで繋がらない。
「椿たちを救出する場合に、人手がほしかったけど仕方ない」
俺は脳裏に浮かんだ椿の絶望感からひっ迫した状況を想定して、
その後にシュテルンへとチェンジをすると、短距離転移を使ってダンジョン前へと転移した。
ダンジョン内に入ると俺は装着した指輪に意識を集中する。
「これは12階層かな?」
指輪から得られる感覚から、椿がいるのは恐らく12階層だろう。
短距離転移ではダンジョンの外から中へ、階層から階層の移動は無理なので、矜一は階層移動のために魔法陣まで短距離転移を使う。
そして12階層へ移動するともう一度指輪で方角を確認し、魔力が減ることを厭うことなく再び短距離転移を繰り返して椿の下へと急ぐのだった。
何十回目かの転移を終えた後、矜一の耳がある音を拾う。
「ウォォーン! ウォォーン!」
その音は、自分はここにいるぞ というような思いと共に何かを伝えるような、それでいて何かを護っているようなそんな不思議な鳴き声だった。
俺はその鳴き声に引きつけられるように転移をすると、金色の炎に燃やし尽くされながらも必死で吠え続けるアルコルと敵、そして少し離れた場所で椿を確認する。
椿以外のメンバーは見当たらないが、それは今考えることではないだろう。
「全てが……この時のためだったように思える。この指輪はこの時のために、椿を助けるためにあったのかもしれない。そしてカドゥルーとの遭遇とヴリトラ戦。あの時に得た畏怖耐性がなければ、立ち向かうことさえできなかったのかもしれない。全ては繋がっていたのか……」
俺はヴリトラ戦で得た剣をアイテムボックスから取り出すと、動けない椿へ攻撃をしようとする敵の近くに転移をして剣を振るのだった。
ガキンッ
俺が振るった剣は敵の爪によって弾かれるが、その爪は破壊される。
「なんだと!?」
驚きの声をあげた敵は一気に距離をとる。
俺はそれを確認して立てないようなそぶりを見せる椿にヒールを唱える。
「ヒール!」
しかし椿の反応は悪く、どうやら効果がないようだ。
「我が名はカルラ! 貴様は一体何者だ? それにその剣と……カドゥルーの気配……いやそれよりも別の何かの気配がするな? その女も付けているその指輪が原因か? しかし、その何の役にも立たない犬の覚醒までは面白かったが、更なる飛び入り参加は不快でしかないな」
「アルコルが何の役にも立っていないだって?」
俺はそう言うと椿が抱えている、もういないアルコルの魔石に向かって主人のために従魔としての役割を果たしたこと、そのお陰で自分が間に合ったことを伝えた。
「……矜一なの?」
俺のつけている指輪を見ながら、変装をしているせいか半信半疑で椿が俺に問いかける。
「うん。遅くなってごめん。でも、もう大丈夫だから」
俺は安心させるように椿にそう言うと、こちらの様子を伺っているカルラに振り返り名乗りをあげる。
「何者かと聞いたな? 俺は蒼月矜一。カルラ、お前を倒す者だ!」
俺はカルラにそう言うと、椿を背にカルラに対峙したのだった。
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