第160話 格差社会

 ☆


 九条君たちと野営をしてから4日後の土曜日。

 俺は家で夏休みの課題・・を全て終わらせていた。

 高校生になったから、宿題を課題と言っても良いよね!

 まあ家で行い期限が明確なものなんかは宿題だから社会人になっても宿題っていうけど、なぜか課題というとカッコいい感が出る不思議。


 ここ数日の間、俺が何をしていたかというと、野営で騒動があった次の日は学校側へ知らせるために桃井先生への連絡と東三条家当主からの呼び出しでダンジョン攻略道のメンバー全員で東三条さんのお家へとお邪魔していた。


 そうそう、東三条家の話といえば、俺たち攻略道のメンバーの騒動の受け取り方と全く違って前回訪れたとき以上に護衛や使用人が慌ただしく殺気立っていた。


 俺たちは東三条家に向かうまでは割と和気あいあいとしていて、葉月さんは『昨日は疲れたね!』とか猪瀬さんは『ムチャクチャ訓練した気がするし!』だとか水戸君は『ヘイト敵意を僕に集めることができたら安定するのに』などと言っていて、喉元を過ぎればなんとやらといった感じだった。

 俺たちは多少の困難に慣れ過ぎたのかもしれない。

 特に七海さんに至っては、『今宵ちゃんは何で私たちのピンチがわかったのー?』と俺に聞いてきたので、今宵に俺が聞いた話……『なんかフラグが立ちそうで、キュピーンってなって潰さなきゃって飛び起きて急いだ!』と今宵が感覚のまま俺に話したことをそのまま伝えると、なぜか『フラグまでわかるの!? さすが今宵チェックだねー』とこちらも良く分からない話をするので、とりあえず『……そうだね』と答えておいた。


 まあピンチという意味では、11階層のトラップ部屋でカドゥルーに呼び出されたヴリトラとナーガ戦の方が俺たちにとっては何倍も窮地だったせいもあるだろう。

 だから、そこまで今回のことを深刻に考えていなかった俺たちを出迎えた東三条家(東三条さんを除く)面々の鬼気迫る感じに俺たちはビックリしたのだった。


 俺としては当主との面会でわかったことだが、東三条家では東三条さんが狙われたと考えていて、メンツを潰されたことで犯人を絶対に捕まえるとやっきになっていたようだった。


 俺は2年の九頭が絡んでいる場合は、東三条さんへの嫌がらせはあるかもしれないが、あの量の魔物を仕向けるというのは彼が東校の生徒で二年の1位であることからさすがにそこまではしないだろうという推測と、どちらかといえば今回の件は九頭が嫌がらせをしたい相手の東三条さんと俺たち……1-5クラスの生徒が一緒に野営をしていたことで九頭がそれをトワイライトの誰かに話をして九頭の思惑以上にトワイライトが外部生である俺たちをを狙ったのではないかという話をした。


 だから、東三条さんをメインで狙ったのではなく、俺たちの方をおもに狙ったのではないかということは一応伝えた。

 すると東三条さんのお父さんが、『ならばお前たちのせいで天音が!』と怒り始めた。

 それを聞いて今度は東三条さんが『私様のお友達になんて言い草!』と父親に説教を始めてしまい……。

 カオスかな?

 最終的にはどちらも落ち着きを取り戻し、俺たちに聞いた話から当主は護衛の人たちに指示を出してはいたが、東三条さんのお父さんって明らかに東三条さんが弱点だよね。

 もっと悪辣に東三条さんが狙われたら、冷静に対処できず失敗するんじゃないかと思う。


 そしてその後は東三条さんが、


 「せっかくお友達がウチにきてくれたのですから」


 と何故か屋上で皆で遊んだりしたのだが、俺たちの雰囲気と東三条家の雰囲気の差はそれはもうヒドイものだった。

 熨斗さんたちも花沢加奈かなさん……東三条さんのパーティのヒーラー兼お手伝いさん護衛だけを残してダンジョンでの捜査に駆り出されているらしく、大変だなぁと思いかけたが、俺にはあまり良い態度をとっていなかったなと思いだして、ご愁傷様と思っておいた。

 というか、ご愁傷様って傷を心配したり嘆き悲しむ意味があるのに、なぜか煽っているように感じるのって俺だけなのかな?


 それから今日までの間は、東三条家とギルドが騒がしいので自粛をするついでにこの時間を有効活用しようということになった。

 俺たちは学校の課題を早く終わらせようという話をして、忙しそうに調査をしている東三条家へお邪魔をしては皆で課題をしたり映画をみたりした。

 ちなみに映画は前に約束をしていたこともあって中三組も呼んでいる。

 

 今宵は東三条家の大きさに、『ふぉぉお~。これが格差社会!』だとか言いながら興奮して、物々しい空気を一切気にすることなくキイちゃんとさっちゃんを誘ってマンションの各フロアを越えて一緒に探検をし始め……、兄の俺は東三条家の護衛や使用人さんからヒシヒシと冷たい視線を感じて居心地が悪かった。

 だいたい、『あれがお嬢様の……』とか何人もが俺を見て言うのだけど、その先を言わずにこちらが視線を向けるとそそくさと移動するのはお客にたいして良くないと思いますよ!


 後で戻って来た今宵の報告ではトレーニングルームの階層があるらしく、広いプールもあって梅雨の明けていない蒸し暑さからのせいか『入りたい、入りたい』と駄々をこねていた。

 それを聞いた東三条さんは『全身運動には良いかもしれませんわね。泳ぎたい場合は何時でも来て良いですわよ。コンシェルジュには伝えておきますね』と言った後に、部活で使うのもありかもしれませんわね……、という呟きを俺は聞き逃さなかった。

 俺はその呟きのせいで攻略道の女性陣の水着姿を想像し、『ゴクリ』と喉を鳴らすのだった。

 プールで訓練も良いかもしれないね!


 そんなこんなで九条君たちとの野営から4日が経ち、ちょうど俺が夏休みの課題を終えたところで、魔物寄せ器をおいた犯人は自分の魔道具に対応できずに既に亡くなっているだろうという連絡がギルドから回ってきたのだった。


 「ん? 電話? 誰だろう」


 ギルドから連絡を受けた後に俺の端末が振動をしていたので、見ると電話がかかって来ているようだった。


 「な、七海さん!? なんだろ。め、珍しいな。これはもしや遊びのお誘いなのでは?」


 最近では攻略道のメンバーとは端末でやり取りすることも増えたのだが、基本的には文字でのやり取りで女子からの電話に俺は動揺してしまう。

 今宵に見繕ってもらって服でも買いに……って早く電話にでなきゃ!


 『も、もしもし?』


 『あ、もしもし? 蒼月君ー? 昨日ぶりー、今時間あるー?』


 もちろん幾らでもありますとも!


 『あるある。さっき学校の課題を全部終わらせたところで暇してた。どこか遊――』


 『お、はやい! 私も今日中には課題は終わるかなー。あ! それで電話をした理由なんだけど、九条君たちとの2回目の野営は中止になったよー』


 どこか遊びにでも行く? と聞こうとした俺の声に被せて、七海さんは課題の話の方に食いつかれてしまわれましたぞ。

 なんという戦略ミスを俺は犯してしまったんだ。

 

 『え? そうなの? まあ、あんなことがあれば普通はすぐに野営の訓練をする気にはなれないか』


 『そうみたい。ギルドからの連絡はきたー? 一応は今回のトラブルは終結を見たようだし、私たちの野営はどうするー?』


 七海さんから聞くところによると、女性陣は九条君たちのパーティが暗闇の中でもうまく連携ができていたことが気になっていて、前回の野営で自分たちもかなり暗い所での戦闘がつかめて来ていたので、早めにもう一度野営の訓練をしたいらしかった。


 俺たちは詳細を話しあって攻略道のメンバーに連絡をとると、みんなダンジョン探索に飢えていた。

 そして普通じゃない俺たちは、次の日から6階層でもう一度野営訓練をするという話に決まったのだった。


 ちなみに、安全を配慮して東三条家からは熨斗さんたち、うちの両親、桃井先生が監督としてついて来ることになった。

 そして中三組もなぜか一緒に野営に参加をすることに決まる。

 俺は東三条家の熨斗さんたちだけは、きっとずっとピリピリしながらムチャクチャ周囲を警戒する中で俺たちは野営をするんだろうなーと漠然と思いながら急いで野営の準備にとりかかるのだった。


 




―――――――――――――――――――――――――――――――――

花沢加奈 「お、お嬢様がボッチじゃなくなって……(目頭を押さえる」

東三条  「ぼ、す、素敵なご友人たちですわ(赤面」


中三組……仲間全員の時は中二の聡も含みます。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る