第159話 トワイライトと九条レン
☆☆☆
騒動から3日。
夜浪の息子である、九頭和茂が朧の過去を気にして独断でトワイライトのメンバーへと連絡をとり東校の外部生へと嫌がらせを提案したというのだ。
そしてその提案に乗って、トワイライトメンバーの
夜浪は自分の息子の提案であること、安城、本波、丹場にどうしてもやりたいという熱意があったことで、自分の息子が提案した策を実行するためにクランで保有している魔物寄せ器を使うことの許可を出したのだという。
「いや、なぜ独断で許可を出した? 確かに魔道具の使用は俺かお前の許可があれば持ち出せる。だが、魔物寄せ器が9つだと? 1つの値段が高い事もあるが、今聞いた策であれば1つもあれば十分だっただろう?」
朧は頭を抱えながら、夜浪を問いただす。
「それはそうなんだが、あの三人が自分たちだけで魔物寄せ器を使うのは初めてだったらしく、そのせいで持ち出せるだけ持ち出したそうで……」
朧は
九頭夜浪という男は朧よりも一回りほど年上で、トワイライトの様々な運営の実務の多くを取り仕切っているのだが、最近では独断専行も多くなってきていた。
今回の件に関しても、魔物おびき寄せ器を使ったことがないからといって、いきなり9つも使うようなことは
朧からすれば、間違いなくこの男が
しかしながら、それを
まず第一に、ダンジョン内で別の探索者に悪意を持って魔獣を押し付け襲わせる行為は重大な違反である。
しかもその相手が朧が何度か指導をした東校の生徒であり、実行した安城、本波、丹場もまた、一度は彼らを指導する立場で同行して探索をしたことがあった。
そして力が上位の者が指導するべき立場の者を襲ったということが世間に判明すれば、トワイライトはクランとしての信用がなくなり終わることになるだろう。
さらにはそこから外部生に対する嫌がらせをクランメンバーが毎年しているということも芋づる式にバレてしまうかもしれない。
糾弾をすることで上位クランから犯罪者になるメンバーが出ようものなら、クランの責任者としても終わりであった。
第二に、既に事態は大騒動となっていて、ギルドと東三条家が威信をかけて調査をしており夜浪の息子と安城、本波、丹場の三人は、朧が独自に調べた情報ではすでにどちらからも目をつけられていた。
誰の入れ知恵があったのかはしらないが、特に東三条家からはトワイライトそのものへ疑いの目が向けられていると感じた。
ただし、夜浪の息子と安城、本波、丹場の四人は九条レンとそのパーティメンバーの男どもから、『四人には世話になっているからそんなことはするはずがない!』と襲われた本人たちから擁護が続出したことで容疑者から外れつつあるようではあった。
しかも、運の良いこと……と言って良いかはわからないが、魔物寄せ器で集められた魔獣の餌食になったと思われる行方不明者の中にC級の実力者が含まれていた。
そしてその男が6階層で行方不明になる直前に、身内が東三条家グループから解雇されていたらしく、そのことにたいして根に持っていて、絶対に仕返しをしてやると息巻いていたという情報が複数からあがっていた。
一つ数百万もする魔物寄せ器を9つも手に入れることができるレベルの実力者。
ウチのメンバーもその条件を満たしていたが、九条レンたちの擁護や騒動前の行方不明のC級探索者の話もあって、ギルドでは恐らくその行方不明のC級の男が実行犯だろうと推定されはじめていた。
そして第三に、トワイライト内でこの話を知っているのが、報告を受けた朧と副マスターの夜浪、そして実行犯の安城、本波、丹場だけだというのが、夜浪のいうトワイライト内だけの話にして終わらせましょうという提案なのだろう。
その終着点として、魔物寄せ器の使い方に慣れていなくて起きてしまったミスということで、朧が握り潰してしまえば、この問題はなかったということになるわけだ。
「事態が発覚すればクランが終了するだけでなく東三条家にも睨まれ、まともに活動をすることが危うくなるか……。これほどの偶然が重なってギルドと東三条家の威信をかけた調査から逃れられる可能性が高いなら仕方がないか。わかった」
朧は自分のパーティと夜浪のパーティだけなら東三条家から睨まれようとも対応できると思ってはいるが、それ以外のクランメンバーを悪評で路頭に迷わせるわけも行かず、苦汁の決断で夜浪の悪計に同意をするのだった。
「良い判断ですマスター朧。それでは俺はギルドの方へ行方不明の探索者が犯人だという工作を追加でしてきましょう」
朧は夜浪のその言葉を聞いて顔を顰めるが、無言で同意をする。
朧は夜浪がクランハウスからギルドへと向うのを確認すると、九条レンへと連絡をとり今回のお礼を兼ねて探索の支援をすることを約束したのだった。
そして次の日、大騒動にしてはたった4日という早さで犯人は行方不明のC級だと思われるが、巻き込まれているなら死亡していると思われるために、被疑者不詳のまま捜査は打ち切られることとなる。
最後まで東三条家は安城、本波、丹場の三人が東三条家令嬢とその友人に対して嫌がらせをしたことがあり、それはギルドも知っているはずだと抵抗を見せてはいたが、夜浪の工作が効いたのか東三条家自体が恨まれることが多いことを自覚をしているためかこちらの言い分が通ることとなったのだ。
まあ……事実は東三条家のご令嬢を狙ったものではなく外部生を狙ったものであり、結局東三条家の威信をかけた調査も間違ってはいるのだが、犯人については正解をしているのが怖い所だなと朧は思うのだった。
九条レンは朧から連絡を受けて歓喜していた。
初の野営で窮地に陥ってから2日は、疲労を癒すこととギルドの捜査やそのための聞き取りもあってレンのパーティはダンジョン探索を休みにしていた。
そして今日は椿の従魔……フォレストウルフのアルコルがどういうことができるのかということを調べるために今日は朝から2時間ほどダンジョンへと入ったのだが、ダンジョンに入る前に東三条家の護衛に絡まれたこともあって、探索から戻ってもその時のことを思い出すとテンションが下がっていた。
レンたちは東三条家からは娘が直接その騒動に関わっていたせいか聞き取りなどを受けることもなかったのだが、今日はダンジョンに入る所でこちらに気が付いた東三条家の護衛……確か仙道という人がこちらに向かって急に威圧をしてきたのだった。
そして座間という人もまた、レンたちの力不足のせいでウチのお嬢が危機に陥ったというような話を舌打ちをしながら話して来た。
さらには無言で沢城
リーダーの
その後に少し話をしてからレンたちはダンジョン内へと入ったのだが、熨斗以外の彼らのこちらの力が足りなかったせいで東三条さんに迷惑がかかったという態度にイラつくのだ。
「僕たちだって被害者だろ!」
レンにしたって初の野営であのような事態になって死を覚悟したし、全員で助かるために全力を尽くしたのだ。
実際は、仙道や座間、芽里の行動はレンたちだからというものではなく、ここ数日にダンジョンへ入るものすべてに対して行っていた行動であったのだが、探索を休みにしていたレンからすれば知る由もなく、イチャモンをつけられたと感じて嫌だった。
ダンジョン内では椿のアルコルが榎本より早く敵を察知することが分かったり、戦闘でも今回は3階層までではあったのだが、ゴブリンを寄せつけることもなく倒せることがわかった。
モフモフを撫でたりしても怒ることもなかったので、また今回のような出来事が起きたらという怖さがダンジョンへ入る前にはあったのだが、それに対する恐怖や緊張感もアルコルは随分と和らげくれた。
レンへ朧から連絡が来たのは2時間ほどの探索を終えて、東校の寮へ戻って今後の探索の予定を考えていた時だった。
実はダンジョン攻略道とは夏休み前に、夏休みの前半で野営の訓練を二度ほど一緒にしようと約束していた。
だけど今回はこういった事態になって、その予定がギルドや東三条家の調査結果を聞いてから、もう一度あらためて予定を立て直そうという話に変わっていたのだが、今朝の出来事である。
同じ被害者であるレンたちのパーティに向けて東三条家の護衛の向ける目……。
たしかに、ダンジョン攻略道のメンバーがいなければ……もっと言えば東三条さんがいなければ、レンたちは早期に魔獣の群れに殺されていたのかもしれない。
でも、ギルドで聞き取り調査をされていた時に聞いたのは、その東三条さんが狙われた可能性があるというものだった。
ならば、レンたちが襲われたのは彼女がいたからという可能性の方が高いのだ。
そして先ほどの朧からの情報と提案。
今回の騒動はやはり東三条家令嬢を狙った犯行で、有力なC級冒険者が自分たちの設置した魔物寄せ器によって全滅をしており、犯人は既に死亡しているということを教えてもらった。
そして更には、野営訓練が満足にできなかっただろうから、朧のパーティと三羽烏の三人のパーティ計六人がレンたちのパーティと野営訓練を一緒にしてくれるという提案があったのだ。
A級とC級のパーティから一人ずつ見張りを出すので、普段の2倍の警戒網とそこにレンたちの夜番を含めた安全な野営の訓練を提案してくれた。
しかもレンたちの今現在でいけるフィールド階層で一番上の12階という提案を受け、レンはすぐさまそれを了承したのだった。
「夏休みはダンジョン三昧をする予定で、しょっぱなから予定が崩れてどうなることかと思ったけど、運が向いてきた。攻略道との野営は中止にして朧さんたちに教えてもらおう」
レンは東三条さんが狙われたという話を朧から聞き、彼女が所属するダンジョン攻略道との野営は、犯人が既に死んでいたとしても不安があったこともたしかだった。
そこに、A級とC級のパーティが自分たちに付き添ってくれて、しかも12階層を探索して野営の訓練も出来るという幸運に自分たちのパーティの成長を期待せずにはいられない。
「蒼月君や水戸君、攻略道のメンバーは全員が凄かった。それでも……1-5クラスの1位は僕でなければいけない。そもそもアステルに見合う男になるには5クラスなんかでは足りない」
レンはそう呟くと、パーティメンバーへと連絡をとった後で、攻略道の部長である七海にも2回目の野営は中止にしたいという旨の連絡を送るのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
本文外。
前半は三人称一元視点(朧)、後半が三人称一元(九条)視点ですが、
メリーさんについては、わざと「さん」を付けています。
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
東三条
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます