第155話 元一位、一位を頼る

 ☆☆☆


 時間を思い思いに過ごした2つのパーティは、最初の夜番の七海と葉月の時間を過ぎ、既に2番目の一ノ瀬葵と十六夜椿の夜番の終了時間を迎えていた。


 「ねぇ、椿。あと10分くらいでレンたちと見張りの交代だけどどうする?」


 葵は自分たちの夜番の時間がもうすぐ終わるというところで隣で一緒に見張りをしていた椿に話しかけた。

 椿は矜一からもらった薪の残りをキャンプファイヤーにくべながら、葵の話の意味を悟って答える。


 「そうだな、交代時間の1時を5分過ぎたら呼びに行こうか。こういう交代の時間はしっかりとした方が良いと思うけど、男子が寝てるかもしれない所に呼びに行くのは少し躊躇ってしまう」


 「そうだよね。まあレンと海斗はしっかりしてるから大丈夫だとは思うけど」


 この時、矜一はテントで横になりながらも瞑想をして、体の休息をとってはいたが起きていた。

 その理由は、最初の七海と葉月のペアは気配察知などの察知系を持っていない事と二人が初めての野営ということもあって、もしも何かが起こった時に即座に対応できるようにしていたのだった。

 その後、七海と葉月から葵と椿に夜番の交代をしたのだが、この二人のペアも夜の戦闘にはなれていると聞いてはいたが、察知系を持っていない事やまた少ないと言っても、魔獣が出ないわけでもないのでこの二人の次の夜番である九条レンたち3人の番になるまでは起きておこうと決めて、こうして周囲の魔獣の気配を探りながら瞑想をしていたというわけだ。


 矜一はレンの番になる5分ほど前からレンと堂島海斗が起きたことを察知して、交代は順調に行われるであろうことが分かり安心する。

 レンたちの見張りの時間帯は1時から3時と一番きついだろう時間帯ではあったが、3人ということや榎本という気配察知スキルをもったメンバーがいて人数も今までより一人多くなることを考えると、自分が警戒をするのはここまでで良いだろうという判断を下す。

 


 「どう? 問題なかった?」


 レンは1時少し前にテントから出ると、夜番をしている二人へ話しかける。


 「大丈夫。1回シロダイショウが近くに来ていたから倒したくらいかな」


 レンの言葉に葵はそう返した。


 「うー。眠いわ。葵と椿はおつかれさん」


 最後にテントから出て来た榎本がキャンプファイヤー前にやって来ると、彼らは簡単な引継ぎを済ませてレンたちは周囲の警戒を、葵たちは自分たちのテントへと入り就寝した。

 矜一はそれらを確認した後にもう一度テントの周囲を気配察知で確認すると、警戒網の端には相変わらずウルフ系がいてそれなりの数に増えてはいるようではあったが、こちらに来る感じは一切なく何故か逆方向へ魔獣の意識が向いているようだった。

 21時頃に一度探索者のパーティがこちらの野営地近くに来ていたことを矜一は察知していたが、キャンプファイヤーの火が見えたのかそのパーティはこちらを迂回して移動した以外、人の気配もなかった。


 「問題は無さそうだな……」


 矜一は隣の水戸を気にして小声でそう呟くと、3時からの自分の夜番までの2時間だけ睡眠をとることに決めて目を瞑り意識を手放すのだった。



 

 見張りをレンたちが請け負ってから30分、榎本は魔獣の気配を感じて二人に報告する。


 「ん? こっちに来そうなウルフが3匹くらいいるけどどないする? 数分でここまで来そうや」


 「ここだと皆が起きてしまうかもしれない。打って出よう。海斗と榎本で行ってくれる? こっちの警戒も必要だろうし」


 「わかった」


 「はいな」


 レンたちは軽く話し合うと即座に動き、海斗と榎本でウルフを倒しに行った。


 「榎本一匹任せる! アイスブレット!」


 「はいよ」


 榎本は返事と共にウルフを倒すと、魔法剣を出現させる声を聞いた。


 「アイスソード」


 ギャン


 「海斗のそれええよな~、魔法使いなのに氷の剣が作れるとか」


 「強度がないから強い敵には魔力の問題で通じないし、東三条さんの氷結魔法の下位互換みたいに言われるけどな」


 「あ~、東三条さんはしゃあないやろ。別格やで」


 「まあな。よし、魔石も回収したから戻るぞ」


 「ほいよ。ってか周囲には結構ウルフがいるみたいやな。今日は少ないって聞いてたよりも戦闘が多くなるかもしれんで」


 「そうか。ならそれもレンに伝えておこう」


 海斗と榎本はブラックウルフ3匹を倒すと、急いで野営地へと戻り周りにウルフ系が少しだけ集まっていることを伝えるのだった。


 そこからさらに30分が経過し午前2時になると、野営地の周りでは少し状況が変わって来ていた。

 一度戦闘が起きてからは10分に一度ほどの戦闘があり、計4回のウルフ系の集団と戦っていたレンたち3人ではあるが、徐々に戦闘の回数が増え、ついに野営地でウルフを迎え撃つことになる。


 「2方向からウルフ系! 3匹と4匹の集団や。これはちょっと分かれて倒しに行ったら、ここの本拠地がガラ空きになるで。どないする?」


 「物音は余り立てたくなかったけど、仕方がない。いずれは仲間が戦闘をしていても余ほどのことがなければ寝られるようにならないとダメだしね。迎え撃つ!」


 「「了解」」


 野営地の見張りをゼロにする訳にはいかないレンは、すぐさまそこで迎え撃つことに決定する。

 榎本から敵の来る方向を指定された海斗は、フォレストウルフを確認すると魔法を放ち一匹を処理した。

 その後に残りの二匹をレンと榎本が切り捨てると、すぐさま逆方向へと翻し次の4匹を迎え撃つ。


 「僕が2、二人はそれぞれ残りを頼む」


 レンはそう二人に指示すると、向かってくる2匹のフォレストウルフを上手い足運びで一匹ずつ袈裟切りにした。

 堂本と榎本もできるだけ物音を立てないで仲間を起こさないように配慮しながら敵を倒した。


 「やっぱり数が多いと一匹一匹が弱くても難しい。まあさすがにこれで少しは余裕がでただろ」


 「ウルフ系は移動速度が速いのも難点だな」


 「す、すまん。二人とも。あと2.3分で12匹……いやおかしい。その後も無数に来てる。囲まれとるで!」


 榎本が12匹と言葉を発したと同時に、レンはピクリと眉を上げ、夜番という自分の役割が果たせなかったことに歯ぎしりすると、すぐに矜一の寝ているテントへと向かった。


 「蒼月君、水戸君! 済まない。どうやら僕たちだけでは対応しきれない数みたいだ。恥ずかしさをおして頼む。手伝ってくれないか!」




 「んん? 呼ばれてる?」


 矜一は誰かに呼ばれた気がしてまどろみの中で目を覚ます。

 遅くまで周囲を警戒していたせいか、イマイチすぐに意識がはっきりとしない頭を振った。


 「――――頼む、手伝ってくれないか!」


 矜一は自分を呼んでいるのが九条君の声だと判別すると、言葉の内容に不穏な予感を覚えた。

 なぜなら九条君が簡単に自分に助けを求めるような性格ではない事を知っているからだ。

 そのことを考えて、矜一は即座に気配察知で周囲を広く警戒する。


 「!?」


 矜一は無数の魔獣に囲まれている状況を察知して飛び起き、九条君が助けを求めた理由を把握した。


 「水戸君! 囲まれてる!」


 「ん……、蒼月?」


 「あと1、2分もしたら、第一陣の魔獣が来る。その後も凄い数だ!」


 矜一は声をあげて隣で寝ていた水戸を起こすと、状況を簡単に説明してテントを飛び出した。


 「ああ、蒼月君。済まないウルフ系が12匹も――」


 「違う! その後ろにも何十匹と来てる! すぐに皆を起こそう。間に合わなくなる。九条君は椿たちを起こしてくれ!」


 矜一はレンにそう言うと、七海さんたちが寝ているテントに行くと声と威圧を使って皆を起こす。

 レンを見ると彼も椿たちを起こしたようだ。


 「蒼月、囲まれてるって?」


 水戸はテントの中に荷物を置いたままのようではあったが、剣と盾を装備して戦闘面では完全装備となっていた。

 矜一はそれを見ると、即座にテントをアイテムボックスに収納する。


 「囲まれてる。しかも凄い数がどんどんこっちに向かって来てる。東三条さん! 皆が装備を整えて出たらテントを収納して!」


 矜一は水戸に簡潔に状況説明をすると、矜一の威圧で飛び起きた東三条さんに指示をした。

 攻略道の女性陣も既にテントの中で装備を整え始めているようだった。

 矜一が味方に威圧を使う状況という一点で、ただ事ではないということは既に攻略道の全員が理解しているようであった。

 椿と一ノ瀬も起きたようだが状況の把握やテントの収納で、もう少し時間がかかりそうだと判断する。


 「水戸君、九条君、ここを頼む。九条君は椿にテントをたたむ様に指示を。俺はテントの向こう側を間引いてくる」


 矜一はそう言うと、すぐさまテントの向こう側へと走るのだった。



 ☆


 俺は野営地から離れ皆から見えない所まで移動をすると、影残を使ってフォレストウルフやブラックウルフを処理して回る。


 「しかしすごい数だ。スタンピードでも起きているのか? それにしては動きが俺たちの野営地近くを目指しているのは何故なのだろう。スタンピードというよりはモンスターパレード魔獣の行進だな」


 すでに数十匹の魔獣を倒しているが一向に減る気配がなく、むしろこちらにやって来る数はどんどんと増えていた。


 俺は気配察知を使いながら、目の前に見えるウルフ系を倒すだけで手いっぱいの状況になっていく。


 「手数が足りなさすぎる。ん? なんだ? 今でさえ異常な敵の数なのに一か所に魔獣がひしめいている?」


 ひっきりなしに襲ってくるほどの敵に対応していた俺は、気配察知でさらに異常な数の魔獣が集まっている場所を発見する。


 「あれだけ密集をしていれば、魔法で多くを片付けることが出来るけど……、気になるな」


 俺は魔獣を倒しながら、そのひしめくほどの魔獣がいる場所へと向かう。


 「16階層のレイス部屋より敵が圧倒的に多い件……。ん、なんだあれは」


 俺はレイスが大部屋で仲間を呼んでレイスやゴーストが無限湧きする16階層よりも圧倒的に多い敵を倒しながら辟易していると、魔獣が集中していた場所の中心に煙が上がっている何かを発見した。


 「これは魔道具か? っとファイヤーボール! この煙に魔獣がおびき寄せられている? 置かれたのは何時だ? 魔獣が集まっている量がおかしいし、恐らくこれ一つでもないだろう。この効果が切れる境に俺たちの野営地がある感じだな。だから当初は俺たちの所には魔獣がいなくて、溢れたと同時に野営地が魔獣に発見されて襲われていると言うことか……」


 俺は見つけた魔道具をアイテムボックスに収納してから、状況を推理しながら敵の処理を続行する。

 思考加速を使ってはいても、少しでも余裕を持たせるために倒した後の残り火を恐れて戦う手を休めることができるかも、との判断からファイヤーボールを使って対処をしてみるが、魔獣の量があまりに多く変化はほとんど見られない。


 「怪しいと思うやつらは6階層に降りて来た時について来ていたパーティと……あの時はキャンプファイヤーを見て迂回したと思ったが、21時ごろに近くに来たパーティだな。いや、どちらも同じパーティの可能性があるのか? しかしこんな事をする動機が……」


 俺は一度、野営地へ戻ってこのことを話そうかと考える。

 しかし、今回見つけた魔道具で集まった魔獣は凡そ100~150匹程度、そこからあふれた個体を含めて200くらいとあたりをつけているが、たった一つでこんなにも集まるものだろうか?

 もし、もっと遠くにも同じ魔道具があり、こちらへ魔獣が誘導されていて野営地の周りに置かれていたとしたら……。


 俺はブルりと体を震わせる。

 

 「早めにこの魔道具を対処しないと、攻略道のメンバーや椿たちでももしかして危ない?」


 俺はそう考えなおして、野営地よりさらに離れて魔獣が多くなっていると思われる所へ向かって走り出す。

 全力で15分ほど敵を倒し、魔道具を探しながら移動しているともう一つ魔道具を発見した。


 「これ以上先には魔獣の感じからしてなさそうかな?」


 俺は魔獣の密度から階層魔法陣へこれ以上近い方向には魔物よせの魔道具はないと判断して、最初に魔道具を見つけたところに戻って来ていた。


 「野営地は恐らく何百というウルフ系が襲っているはずだ。でも……攻略道のメンバーならきっと大丈夫。椿たちも心配だが、昨日の12階層までを見る限りではあっちのパーティも問題がないはず。野営地へ向かう魔獣とその根源を対処する方が先だろう。でないと無限に野営地で戦うことになってしまう」


 俺はそう判断すると、漠然と6階層に俺たちが来た時に後ろについて来ていたパーティが辿っただろう場所を想像して野営地を迂回しながら、魔物寄せ器を探すために移動するのだった。





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 本文外。

 ☆☆☆(三人称)

 ☆(一人称)

 それ以外の☆数や記号、改行多数は場面転換などです。

 わかりやすいように一応の説明です。

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