第154話 ですわフラグ製造機
☆☆☆
夕食を済ませた矜一たちは、焚火台を片付けると就寝を予定している21時まではそれぞれが訓練をしたり話し合ったりして、パーティの垣根なくキャンプファイヤー周りで行動していた。
「しかし本当に魔獣がこないねー。夜間の戦闘にもう少し慣れておきたかったんだけどなー」
「本当だよね! 夕食の匂いで最低でもウルフ系は襲ってくると思ったのにパッタリだもん」
一番初めに
「確かに少ない気がするけど、どうなんだろう」
「6階層はよくこの時間帯に探索の帰りで通るけど、ここまで少ないのは初めてかな? でも普段もそこまでいないからこんなものって気もするよね」
十六夜椿と一ノ瀬葵は家に帰るのが遅く22時くらいの帰宅も多いために、当然のことながら夜の6階層を経験している。
そしてその時も6階層を抜ける間にする戦闘はそれほど多くはなかったために、こんなものだろうと判断していた。
ただ一つ違いがあるとするならば、今回野営をしている場所は階層の魔法陣と魔法陣を繋ぐ通路からは大きく外れていてかなり遠いという程度だった。
「え? 十六夜さんと一ノ瀬さんってそんなに遅くまでダンジョンに潜っているのー?」
「もちろん。まあ、ウチは少し遅い気はするけど、大体のパーティはこんなものだとレンに聞いたよ」
「うんうん、帰ってから宿題をしたりするのがほんと大変だよねー。でもオークでマジックバッグを買う話を聞いて、あたし達でも出来そうって思ったのはちょうど往復でそのくらいだからだよ」
ダンジョン攻略道では18時付近になると帰るという認識があったために、七海は自分たちと九条たちのパーティの違いに驚いていた。
ダンジョン攻略道では遅くとも20時には家に戻っているし、そもそも6階層や12階層といった夜になるフィールドタイプの階層には魔法陣転移があるために足を踏み入れることもなかった。
葵と椿が当たり前のように家に戻るのは22時くらいという話を聞いて七海と葉月は戦慄していた。
「もしかして蒼月君ってホワイトー?(ぼそ」
「そうかも。だって18時過ぎたら夕食に間に合わないとか桃井先生にも言ってたし。それで蒼月君がいなくても18時くらいで桃井先生も帰るようになったよね。残業しなくて良いってのが本音かもしれないけど(ぼそ」
「え? 矜一がどうしたの?」
九条レンたちのパーティのブラックさを目の辺りにして、これは言えないと小声で話す七海と葉月の声に椿が反応する。
「えっ……蒼月君はやさしいなーって」
「そうそう! (マジックバッグ貰えそうだし!)」
「ああ、矜一は昔からそうだった。――私だってレベルを上げろというのを無視されなければ……」
「そう言えば、椿って蒼月君と幼馴染だったよね! その話も聞きたいかも」
「「あ、その話は結構ですー(!)」」
「「え!?」」
「いやー、本人がいない所で聞くのも悪いかなーって」
「それはたしかにそうかもしれない」
「うーん。それなら仕方ないかな? 聞きたかったのになぁ」
彼女たちがキャンプファイヤー前で語らいをしているその頃、矜一を含めた他のダンジョン攻略道のメンバーはというと、もう少し遠くを周回して安全確認をしていた。
「しかし本当に敵が少ないですわね」
「魔獣と言っても狼だから寝ている……とか?」
「その可能性はたしかにあるけど……。でも蛇系、シロダイショウやブルースネークは茂みに少ないながらもいるし、トレントの確認もあったよね。ウルフ系だけいないって言うのがね。気配察知だと察知できるギリギリくらいの所で何匹かのウルフ系っぽい反応はあるんだけど。東三条さんは直感で何か感じない?」
「それなんですけど、どうやら私様……蒼月君が近くにいると直感の反応が良くないのですわ」
「え? 俺がいると? どういうこと?」
「あー、それあたしも何となくわかるかも? 直感は持ってないけど、あおっちがいると何とかなりそう感が半端ないし!」
「それですわ! そも6階層程度で100や200の魔獣が襲ってきたところで……私様たちは暗視を持っていませんから……まあ多少は効率が落ちるかもしれませんが、それでも負けることはないでしょう。そこに別パーティと蒼月君がいるのです。恐らくそれが私様のスキルに影響をしている気がしますわ」
「九条君たちは夜間戦闘に慣れているようだったから、僕ももう少し慣れておきたかったけど、蒼月がいるだけでウルフ系は「くぅーん」って尻尾を丸めそうだし仕方がないか」
「いや、なんだよそれ。威圧もしてないし!」
「「あはは」」
「(ふふふ、楽しいですわ! これがお友達とのお泊り会ですのね!)」
「あまちー楽しそう!」
魔獣が矜一を見ただけで怯えそうという話を
そのツッコミを聞いた他の3人は笑い、声を出さずとも笑顔の東三条をみた猪瀬は友人が笑っていることでさらに楽しくなって東三条の腕をとって声をかけるのだった。
彼らは彼らで魔獣が少ないことを気にはしながらも、この階層では安全であるという自負があるために野営を楽しんでいた。
そしてもう一方の九条レンたち3人はというと……、
「なあ、海斗。本当にこんなんで魔法耐性が上がるんかいな」
「海斗。僕も三人で座りながら円になって手を繋いで座禅を組むのは少し恥ずかしいんだけど……」
堂島海斗を中心として座禅をしながら他の二人と手を繋いで、海斗の魔力を流されていたのだった。
少し離れているとはいえ、九条レンも榎本もキャンプファイヤー付近で談笑をしている女子たちをチラ見しながら、自分たちは男同士で手を繋いでいるこの状況を恥ずかしがっていた。
「蒼月が自信をもって言っていたからな。それに近くにいた攻略道のメンバーも頷いていたから確かなはずだ」
「いや、情報源が蒼月なんかーい!」
海斗から情報源を聞いた榎本は盛大に突っ込む。
「ああ。だが七海さんや東三条さんもしているらしいぞ?」
「てか、なんでそれを先に言えへんのや!」
榎本は海斗から七海と東三条も同じ事をしていると聞くと、即座に海斗から手を放し七海たちの所へと突撃する。
「七海さーん! 魔力を体内で回す方法をおしえてーや」
榎本はそう言うと、ルパンのような動きで飛びこむ……ことはしなかったが、いきなり七海の手を取って顔を見た後にあからさまに目線を下げて胸をガン見した。
「ちょっと榎本君やめて? 後、そんなに胸を見てくる人に教える訳がないでしょー。触らないでね」
「榎本君! 七海さんが嫌がっているだろう!」
「ちょっと榎本君? 女子会に近寄らないでくれる?」
七海は榎本をやんわりと離すと口調は柔らかいのだが明確に拒絶し、椿は注意をして葵には近寄らないように言われる。
葉月に関しては声をかけるのも嫌なようで、屑を見る目を榎本に向けるのだった。
「う。じょ、冗談やがな」
女子4人の威圧を受けた榎本はスゴスゴと逃げ帰り、帰った先でもレンと海斗の説教を受けるハメになるのだった。
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