第149話 男飯
6階層へと移動した俺たちはテントが張れそうな場所を探す。
「丘を越え~行こうよ ~剣を振りつ~つ♪」
今宵が野営をキャンプをしに行くみたいなノリで歌いながらフォレストウルフを処理して行く。
猪瀬さんのキャンプファイヤー発言の時も思ったが、注意をするかどうかで悩む。
常識的に考えてダンジョン内で気を抜き過ぎだろ! とは確かに思うんだが、ダンジョン内だからと言ってずっと気を張り詰めていてもただ疲れるだけで頭の固い対応に思うからだ。
ずっと気を張り詰めて疲れてしまって、逆にピンチになる事も真面目な日本人あるあるのように思う。
俺はそれらを踏まえ考えて――最終的に注意はしておくことにした。
「今宵、一応はダンジョン内なんだ。気は抜きすぎるなよ」
「わかってるよ、お兄ちゃん。余裕のある階層でも敵は魔獣だけじゃないからね!」
えぇ……。
そこまでの覚悟って言うか、理解をしていてノリノリで歌っていたの?
今宵の発言を聞いて、実際に襲われた事のあるマコト達は一度歩くのを止めて気を引き締め直していた。
俺たちはしばらくすると探索者もあまり来ないような場所で、野営をするのに適した見晴らしの良い平地を発見する。
「ここにするか」
「ほーい」
俺は皆にそう言うと、アイテムボックスから4人用テントと6~8人用テントを取り出しておいた。
「この時点で圧倒的に荷物分の楽をしていてキャンプのような件(ぼそ」
……キィちゃんが毒を吐いたがスルーする。
あれか? 今宵に注意をしたくせにキャンプっぽいって話か?
いやまあ俺も各自で荷物を持って移動をして、野営をするべきかは悩んだよ?
でも普段は日帰りだし、今回は今宵がダンジョン攻略道より先に野営がしたいっていうわがままからのことなので、ダンジョン内で睡眠が十分にとれて身体を休めることが出来るかどうかをまず見るべきと俺は考えたのだ。
枕が変わるだけで眠れないって人は多いみたいだからね。
「じゃあ男性組と女性組に分かれてテントを立てて見よう」
俺はそう言うと、聡と一緒にテントを立て始めた。
「今日は完全に覚える必要はないけど、最終的には各自一人でもテントが立てられるように覚えておかないとダメだぞー」
俺はインナーテントを広げながら、少し声を張り上げて今宵たちにも聞こえるように話す。
「聡、今回はドーム型テントだからまずはどの位置にポールをセットするかの確認をして、それから入口の確認だ」
俺はそう話しながらポールをセットする場所を見せて聡と確認をする。
その後にグランドシートを引っ張ると
「四隅にペグを打ち込む必要があるからそっちの2ヵ所を頼む」
「はい」
「そう言えばお兄ちゃん、この杭ってダンジョンに打ち込めるの? フィールドタイプの階層は地面的に問題がない気がするけど別の階層だと無理だよねー?」
今宵がもっともな疑問を聞いてきた。
「あー、そういう時の野営はこのペグ自体がある程度の重しになるから(ダンジョン用テントのペグは重たく作られている)打ち込まずに置くだけでも大丈夫だ。気になるなら四隅に荷物を置いたりして重しにするみたいかな」
「ほえー。あ! と言うか、テントを放置してたらダンジョンに吸収されちゃうんじゃ!?」
それな。
俺もそれが気になって来る前に調べたけど、ダンジョン用テントはそれ自体が魔道具になっていて魔石の粉が練り込まれていたり魔力を込める箇所が付けてあって、そこに魔力を込めると練り込まれた魔石や付けられている魔石が反応して5時間ほどは中に誰もいない状況でも、ダンジョンに吸収されないように作られた魔道具になっていた。
ただ、それ以上の時間で立てて置くには一気にそうすることが難しくなるようで、そのせいでダンジョン内に新しく建物を建てることはできないそうだ。
新しく建てると書いたのは、ダンジョンによっては内部に元々建物が建っていることもあってそれは吸収されないらしい。
「魔道具になってて、最近のテントは5時間くらいは中に人がいなくても吸収されないらしい。一応最後に付随している魔石に魔力が入っているかは確認な」
「ほえー。お兄ちゃんはしっかり調べてたんだねぇ」
「いや、今回はお前がやりたいって言ったんだからそのくらいは調べとけよ(怒」
「えへへ。お兄ちゃんに任せたら大丈夫かなって」
まあ今回は別にそれでも良いけどね。
インナーテントのスリーブにポールを押しながら通して入れる。
「聡、そっち側のポールを持ち上げるように立ち上げてくれ」
「わかりました」
俺と聡はポールを持ち上げてテントを立ち上げると、ポールを固定してフライシートもインナーテントに固定した後にロープをペグ打ちしてテントは完成した。
今宵たちを見ると、各人それぞれがポールについて一斉にテントを立ち上げる所のようだった。
「よし、こっちは出来たね」
「はい、もう少し難しいかと思ってました」
「あー、なんかドーム型は結構簡単に立てられるみたい。かかった時間も15分くらいかな?」
「ですね」
しばらく聡と話していると今宵たちから歓声が上がる。
「できたー!」
「わー! パチパチ!」
「やったー」
テントを設置しただけで5人でハイタッチをして回っていた。
「あいつら、エンジョイしすぎだろ」
「ハハハ」
テントを設置し終えた俺たちは、寝る順番や見張り役を決めて(俺は聡と)その後は時折やって来るフォレストウルフやブラックウルフを倒しながら、魔法の訓練をして時間を使う。
日も暮れて良い時間になると、俺は魔道具の焚火台を設置して火をつける。
「あ! お兄さん夜ご飯は何を作るの?」
桃香が俺が何やら始めたので気になって見に来たようだった。
「エビのアヒージョでも作ろうかなって」
「え!? お兄さん料理できるの!?」
驚いた桃香の声にみんなが集まってくる。
「あー、お兄ちゃんがモテ男子を目指して家で作れるようになったやつ~」
今宵が盛大に俺がなぜこの料理を作れるようになったのかを暴露する。
「いや、そんなことないぞ~。今宵の気のせいだぞ~」
「えー? でも『必見! これからの男は料理も出来ないとモテない!』とか言うテレビの特集を見た次の日に作り出したよね? しかもちょっとおしゃれな感じに言えるアヒージョ」
家族以外に料理が披露できる初めてのチャンスで暴露される黒歴史。
俺が無言でいると隣から肩を叩かれる。
振り向くと桃香が俺の肩を叩きながら、どうしようもないね と言うような雰囲気を出しながら首を横に振っていた。
「お兄さん、そういう下心で料理ダメ。絶対」
くっ。
ダメ。絶対。と言いながら薬物をした人だっているんだから、法律に違反をしていない料理を作るくらい別にいいじゃん!
俺はあとどれくらい切なくなればアオハルできるの?
俺は今宵と桃香をスルーすると、焚火台に大きめの
その後に皮をむいてワタを取ったエビを入れると、マッシュルームや鷹の爪、ブロッコリーを入れて最後に塩を少々かけると、エビのアヒージョが完成した。
ちなみに7人分なので結構な量になっている。
「じゃあご飯にするから集まってー」
「ねぇ、お兄ちゃん。オコなの?」
俺はアイテムボックスからコンビニで買っておいたおにぎりを取り出すと皆の前に置いた。
お米から炊くことも出来たけど、何日も野営するわけじゃないしね。
「好きなのを選んで食べてね」
俺はそう言うと、シーチキンのオニギリをそこから取った。
「どう思う?」
「矜お兄さんは怒ってると言うより恥ずかしいだけでは?」
「目指せモテ男子とか。クスクス」
今宵がさっちゃんとキィちゃんの二人とコソコソ話しているのだが、焚火台を囲んでいるから全員に聞こえているんだよなぁ。
「あ、このアヒージョ美味しいです矜一さん」
マコトが俺の料理を絶賛してくれる。
これだよ! こういうのが言ってほしくてテレビの言っていた通りに料理が作れるようになったんだよ!
「僕も作れるようになろうかな」
「うんうん、そうだろうそうだろう。聡、一緒に料理の勉強でもするか?」
「はい!」
晩御飯を食べ終えて匂いにつられた敵を暗闇の中の戦闘訓練として倒して腹ごなしを終えた俺たちは、さらに暗闇に対応するために見張りで組むメンバー同士に分かれてそれぞれが頭を使いながら暗闇に慣れるように訓練する。
21時になり時間的にも早朝から動くことを考えれば、このくらいで野営に入る方が良いだろう。
それぞれの見張り時間を確認して俺は2番目の見張り順となっていたので、一番手の見張りのキィちゃんとさっちゃんのコンビに声をかけ、テントへと入り睡眠をとるのだった。
「もし何かあったら全員にわかるように呼んで起こすように。じゃあ頑張って」
「「はーい」」
途中で見張りの交代をしてその後に今宵に引継ぎをして寝直してから、大きな問題が起きることもなく、6時を知らせるバイブ機能が震えて俺は起床する。
6階層は敵が弱いということもあって、それぞれが担当した見張りは特に問題がなかったようだ。
ただ、今回はそれぞれの見張り番の時には誰かしらが、気配察知や魔力感知、害意察知を持っていたので初めての夜戦でも戦えたように思う。
ダンジョン攻略道のメンバーや椿たちは察知系のスキルを多くが持ってはいない。
そのため、察知系のスキルを持っていないメンバー同士で組むメンツも多くなるだろう。
これって実は6階層でも結構危険なのでは?
それに気が付いた俺は、最悪寝たふりをしながら気配察知で状況確認をして徹夜をするべきかと考えるのだった。
俺は聡に声を掛け起こしてからテントから出ると、最後に見張りを始めた今宵と桃香、マコトに挨拶をする。
「おはよう。問題ないよね?」
「あ、お兄ちゃんおはよー。6階層だしねー。全然問題なかった!」
「お兄さんおはよ。今宵ちゃんは暗視を持ってるから良いよな」
「おはようございます、矜一さん。桃香だって気配察知を持っているでしょう」
「まぁねー。でも今宵ちゃんが気配察知や暗視の覚え方を教えてくれたしマコトも覚えられるよ」
「そうだと良いけど」
どうやら、夜中に今宵が見張りの最中もそれなりにスキルの話をしているようだ。
「うー、眠いです」
さっちゃんがゴソゴソとテントから出てきて眠いと言っている。
さっちゃんに続いてキィちゃんも起きて来た。
俺たちは全員が起きて揃ったことを確認すると、テントをしまって今日の予定を話し合う。
「まずは湧いてる20階層のボスを俺を除く6人で倒したら、20階層で訓練かな。それで昼前にもう一度ボスを倒して、野営の疲れもあるだろうから今日は帰ろうか」
「「「はーい」」」
俺たちは昼前まで予定通りに訓練をして最後にボスを倒すと、俺と今宵以外はレベルが何度か上がって5人全員がレベル21を超える。
今宵が「宝箱さんがドロップしない……」と嘆いていたが、5人が壁を超えてそれぞれにスキルや魔法を覚えた。
特に桃香と聡以外は空間魔法が選べるようになっていたのは幸運だろう。
俺たちは充実した2日間をすごして、探索を終えダンジョンを後にするのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本文外。
作中にあるピクニックの歌詞はパブリックドメインです(著作権消滅)
以下7人のステータスです。
<名前>:蒼月 矜一
<job> :魔法剣士
<ステータス>
LV : 25
力 :B
魔力 :B
耐久 :B
敏捷 :B
知力 :C
運 :D
魔法 :生活魔法6、基本属性魔法(火2・水2・風2・土2・光3(UP)・闇2・無2)、回復魔法2、空間魔法3、契約魔法
スキル:剣術4、体術3、槍術、杖術、危険察知3、気配察知3、気配遮断2(UP)、空間把握3(UP)、魔力制御3、ステータス偽装2、孤独耐性、暗視、身体強化2、思考加速、疲労耐性、魔力感知(NEW)、畏怖耐性(NEW)
<名前>:蒼月 今宵
<job> :
<ステータス>
LV : 25
力 :C
魔力 :C
耐久 :B
敏捷 :B
知力 :B
運 :B
魔法 :空間魔法3(UP) 生活魔法5(UP)、付与
スキル:武術全般4(UP)、
<名前>:綾瀬 季依
<job> :戦士(change)
<ステータス>
LV : 22
力 :C
魔力 :D
耐久 :D
敏捷 :C
知力 :C
運 :D
魔法 :生活魔法5(UP)、空間魔法(NEW)
スキル:身体強化、剛力、ステータス偽装、魔力感知
<名前>:琴坂 佐知
<job> :聖水士
<ステータス>
LV : 22
力 :D
魔力 :C
耐久 :D
敏捷 :C
知力 :C
運 :D
魔法 :生活魔法6(UP)、基本属性魔法(火・水・風・土・光・闇・無)、空間魔法(NEW)
スキル:身体強化、ステータス偽装、魔力制御(NEW)
<名前>:星野 真
<job> :治癒士
<ステータス>
LV : 21
力 :D
魔力 :C
耐久 :D
敏捷 :D
知力 :C
運 :E
魔法 :生活魔法5、空間魔法(NEW)
スキル:恐怖耐性、ステータス偽装(NEW)、身体強化(NEW)、魔力制御(NEW)
<名前>:桐島 桃香
<job> :スカウト
<ステータス>
LV : 21
力 :E
魔力 :D
耐久 :D
敏捷 :B
知力 :D
運 :D
魔法 :生活魔法5
スキル:気配察知、ステータス偽装(NEW)、身体強化(NEW) 身軽(NEW)
<名前>:桐島 聡
<job> :剣士
<ステータス>
LV : 21
力 :C
魔力 :E
耐久 :C
敏捷 :D
知力 :D
運 :D
魔法 :生活魔法(NEW)
スキル:身体強化、害意察知、ステータス偽装(NEW)、勇気(NEW)
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