第148話 吸血鬼

 俺たちは扉を開けて20階層のボス部屋へと侵入する。

 全員が入った所でヴァンパイア(男)がこちらに視線を向けると戦闘態勢をとった。

 ヴァンパイアはマントを装備していて中世の貴族のような格好だ。


 「おー、想像通りの吸血鬼!」


 今宵がヴァンパイアの見た目に声をあげる。

 20階層はどうやら戦闘を開始するまでに少し余裕があるらしい。

 ヴァンパイアって貴族っぽいから余裕を見せているのかな?


 ボス部屋もそうなのだが、ダンジョンでは階層が変わった直後やボス部屋に侵入した直後に魔獣が待ち受けていたり、不意打ちをするという行動は今の所確認されていない。

 政府によれば、確実とは言えないがダンジョン内では何らかの行動原理が働いていて、階層移動直後とボス部屋への侵入直後には即攻撃はされないだろうという見解が発表されている。

 とは言っても入った直後に即攻撃を受けないと言うだけで、敵がこちらを確認すると移動して襲ってくるので攻撃を受けないとされている時間は極短時間ではある。

 ミノタウロスなんかはすぐに咆哮をあげて威圧をしてきたりするしね。


 「まずは俺から!」


 俺たちはヴァンパイアと対峙すると、俺から先制攻撃を仕掛ける。

 調べた限りではヴァンパイアは俺や今宵ならそれほど苦にならないようであったので、他のメンバーが戦えるかどうかを見るためにも様子見の一撃だ。

 上段から剣を振るとヴァンパイアはそれを避ける。


 『ここ!』


 そこへ今宵が小太刀でさらに攻撃を仕掛けると、ヴァンパイアはなんと爪で今宵からの攻撃を弾くことに成功する。


 「こっちも!」


 今宵の次はマコトが逆側から斬りつけるがそれも弾かれる。


 そこから、さらに聡の攻撃とキィちゃん、桃香の3人とまさに波状攻撃のような連続攻撃を加えるが全てヴァンパイアの爪によって弾かれた。


 「みんな下がって! ファイヤーボール!」


 さっちゃんが覚えた属性魔法で後ろから攻撃を放つ。

 ヴァンパイアはそれを見て空中へと回避した。

 ヴァンパイアが空中に上がった事を確認した今宵がアイテムボックスから苦無クナイを3本取り出すと3本同時にヴァンパイアへと投げつける。


 あの攻撃アニメとかで見るやつだ!

 何故か俺はちょっとだけ興奮して今宵をみると、指の間に上手く挟むことが出来たせいか少しドヤ顔をして満足そうにしていた。


 空中へ逃げたにも関わらず3本の苦無は真ん中以外は少しだけ左右にズレていて回避がしにくいようにされているために、真ん中の1本を弾いた後にヴァンパイアは仕方なく空中から降りてくる。

 ここで俺が決めることもできるが……、チラリと聡を見ると既に攻撃態勢に入っているために任せることにする。


 「スラッシュ!」


 !?


 聡の放ったスラッシュはヴァンパイアが3匹の蝙蝠こうもりになる事で回避され、そのままその蝙蝠は桃香とキィちゃん、さっちゃんへと向かう。


 「噛まれるなよ!」


 俺が指示を飛ばすと、キィちゃんが重そうなハルバードを軽々と抱えて振り下ろし1匹の蝙蝠は切り潰された。


 桃香の方も蝙蝠の噛みつきを避けた後に剣で倒すことに成功。


 最後の1匹は……さっちゃんが魔法を放った後に少しだけ気を抜いていたこともあって避ける事には成功してはいるが、追撃を受けていた。


 俺は咄嗟にダンジョンに入る前のさっちゃんの父親とのやり取りを思い出し……、


 「ウインドカッター!」


 横から魔法を唱えて最後の蝙蝠を倒すとヴァンパイアとの戦闘が終了するのだった。


 「おつかれー、なんか弱かったねー」


 今宵がヴァンパイア戦を弱かったと言い切って捨てる。

 まあ……通常のパーティならレベル21以上が5~6人で対応する部屋だけどな?

 俺と今宵以外はまだレベル20にもなっていなかったはずだけど、対応自体は問題なく倒せそうだった。

 最後の俺のウインドカッターにしても俺が攻撃をしなくてもさっちゃんでも対応できたはずだしね。


 「あ、レベルが上がった」


 「「私も」」

 

 「アタイも」


 「僕もです」


 どうやら俺と今宵以外はレベルも上がったようだ。

 俺と今宵はレベル25から上がらなくなっているが、階層としては十分にレベルが上がるはずの所であるので単に次にレベルに必要な経験値的なものが足りてないだけだろうと思っている。


 「さっちゃん、魔法を放った後は少し場所を変えながら次の行動をどうするか考えないと。少し気を抜いてたよね」


 俺は一応気になった所を注意しておく。


 「あそこで蝙蝠になるとは思ってなくて……、気を付けます」


 「うんうん。まあ今宵もフォローに行ける態勢だったし、さっちゃんも対応自体は出来てたけど積み重ねだから」


 「はい」



 「ボスなのに魔石だけかー。だから20階層って人が少ないのかな?」


 俺がヴァンパイアの魔石を拾っていると今宵がボス部屋にしてはドロップ品がショボイと嘆いていた。

 まあこの魔石もミノタウロスが10万くらいを考えればそれ以上で安くはないんだけど、通常のパーティが20階層で探索をして帰る場合は1~2泊は必要なのでそれを考えるとかなり実入りは少ないかもしれない。


 「でもギルドの情報だと20階層以上のボス部屋からはボスを倒した後に極まれに宝箱がドロップするらしいぞ」


 かなり確率は低いそうだが、たしかギルドの資料にそう書かれていたので俺は今宵にそれを話す。


 「え!? 宝箱!? 次に湧くの何時だろ!」


 宝箱につられた今宵はドロップしょっぱいね発言がなかったかのようにワクワクした表情で聞いてくる。


 「湧き時間は5時間って書かれてたかな。でも今日はもう6階層に戻って野営の準備をしよう」


 「えー。仕方ないかー」


 俺たちはそんな話をしながら魔法陣に乗ると6階層へ移動するのだった。

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