第147話 人ならざる者

 20階層へ足を踏み入れた直後に俺はこの階層の説明をする。


 「20階層にはボス部屋があるんだが、10階層とは違ってそこに到達するまでにレッサーヴァンパイアとスケルトンナイトが出現する。スケルトンナイトの方は様々な武器を持ち、鎧を装備していてスキルも使ってくる点が要注意かな。レッサーヴァンパイアの方は回復力が高く空を飛べるが、そこまで早くない。吸血されると吸血された人物の能力も使えるようになるみたいなんだが、血を吸ってる間に倒せるらしい……。資料では割と戦闘力についてはネタ扱いされてた。ただ、一番の問題が見た目で、目が赤い以外は人と同じような容姿らしい。だから倒せない探索者やトラウマになる事もあるらしいから、無理そうな場合は申告してね。最初の遭遇は俺が倒すよ。今宵、もしもの時のために援護を頼む」


 「はーい」


 ちなみに20階層はボス部屋があっても野営をしたりしてボスを待つ探索者はほとんどいない。

 理由としてはレッサーヴァンパイアが人に似すぎていて気を抜いているとかなり近づかれるまで気が付けなかったり、スケルトンナイトはスキルを使うので見張り役が一人や二人の場合では負けることも多いらしく、休むことが出来ないので10階層のようなボスの湧きを待つ人がいないと調べた限りでは書かれていた。

 と言うかミノタウロスは湧きが10時間だったが、ヴァンパイアは5時間なそうなので1日に何度もボスを周回することも可能かもしれない。


 

 考え事をしていると気配察知が反応する。

 武器を手にしている感じがあるので、どうやら最初の遭遇はスケルトンナイトのようだ。


 「スケルトンナイトが来たみたい。今宵、援護を頼む」


 「ほーい」


 俺は他のメンバーの参考になるようにスキルを使わずにスケルトンナイトに接近する。


 !?


 スケルトンナイトが攻撃の動作をとったと思ったら、槍のスキル・スティングが放たれた。

 俺はそれを回避すると、スケルトンナイトを覆っている鎧の隙間を狙って剣を振り下ろす。

 肩から肘にかけては鎧で覆われていることもなく、まずは槍を持っている方の腕を切り落とした。

 続いて四肢と首を落とし、復活する可能性があるのでスケルトンナイトから魔石を抜くと戦闘を終了する。


 「ふぅ。今後はスキルを使う敵も多くなるだろうから、ここは良い訓練になるかも」


 「今宵ちゃんならともかくアタイ達じゃ一人では無理そう」


 桃香が俺の戦闘を見て感想を言う。


 「むむぅ。私のハルバードならいけるはず! 次は私がやりますよ!」


 一人で倒せるのが俺と今宵くらいと言う言葉に反応したキィちゃんが一人で戦闘をすると立候補する。

 キィちゃんだとやられそうなイメージが……。


 「最初はお前ら6人で対応をして、慣れたら対応人数を減らしていく感じでやろう」


 リスクを冒す必要はないために、俺は俺を除く全員での戦闘を指示する。


 「っと、次はレッサーヴァンパイアみたいだな。もう一度俺がやるよ。今宵?」


 「ほーい、サー! Let'sサー! サポートは任せて!」


 サー! レッサー! ってなんだよ。

 軍隊式の挨拶とレッサーをかけたんだろうが、発音がレッツだぞ。

 はい、一緒にやりましょうって意味なら……もしかして3つの意味をかぶせたの?

 俺はとりあえず今宵の良く分からない返答をスルーする。

 しばらくするとレッサーヴァンパイアが姿を現した。


 「これは……目の色と少し青白いかな? と言う以外は人に見えちゃいますね……」


 マコトがレッサーヴァンパイアを見て話す。

 これはたしかに見た目を気にしすぎると抵抗感が凄いかもしれない。

 ただ、俺がここで躊躇をするわけにはいかないので気合を入れる。


 「行くぞ!」


 俺はそう声を発すると、先ほどと同じように近づいた。

 相手は素手で攻撃を仕掛けてくるが、スティングよりも圧倒的に遅く……確かに弱くはないが、ハイオークやリザードマンと大差はなく武器を持っていないので対応もしやすい。

 見た目の禁忌感きんきかんを除けば弱い部類に入るだろう。

 俺はそう考察しながら、レッサーヴァンパイアを切り伏せた。


 「20階層の敵と言う意味ではかなり弱いけど、攻撃することに慣れられるかどうかだな」


 「あ、お兄ちゃん。もう一匹くるみたい。 次は今宵がやるね!」


 俺がレッサーヴァンパイアの講評をしているとすぐに次のレッサーヴァンパイアが近くに来たようで今宵が対応すると言う。

 そしてレッサーヴァンパイアが見えた瞬間に影残を使い……首をスパーンと切り落とした。

 躊躇なしなの!?


 「今宵、すごいな。躊躇とかなかったのか?」


 「え? だって魔力感知で明らかに人ではないんだから気にならないよね?」


 「お、おお……。まあ魔力で見るとそうかもな?」


 確かに見た目ではなく魔力や別の見方で敵を見るなら気にはならないのかもしれない。


 「あ、また。レッサー君が来る。なんか沢山だね!」


 すぐにまた次のレッサーヴァンパイアが来たようで……。


 「次は僕がやります!」


 いつもは声を上げない聡がそう宣言をすると、レッサーヴァンパイアに向かっていった。

 

 「スラッシュ!」


 聡は相手からの攻撃を躱すとスラッシュを放ち、レッサーヴァンパイアを倒すのだった。

 

 「大丈夫か? 敵の強さと言う意味ではなく気持ち的にどう?」


 俺は見た目が人の魔物を殺した聡の心理が気になって心理状態を問う。


 「矜一さん大丈夫です。僕の害意察知が反応していて倒すべき相手とわかるので」


 なるほど。

 聡もスキル関係でレッサーヴァンパイアを乗り越えたか。

 聡は倒した時の話をマコトや桃香に話している。

 さっちゃんもレッサーヴァンパイアの見た目が気になっていたようだけど、聡の話を聞いてやる気になっているようだ。

 もしかして聡はこれを狙って率先してレッサーヴァンパイアを攻撃したのか?


 俺や今宵が倒すのはそういうものと思われがちだが、普段は寡黙な聡が率先して人に良く似たレッサーヴァンパイアを倒すことで、他のみんなの意識を変えようと思ったのかもしれない。

 聡もトワイライトの3人組と戦った時に悔しい思いをしているし、害意を向けてくる相手であれば人に似ていたとしても倒す必要があるということを皆に見せたかったのだろう。

 聡が精神的にも成長していることが分かる一面を見られて良かった。



 俺たちはその後、それぞれがスケルトンナイトやレッサーヴァンパイアと戦ってスキルを撃ってくる相手との対戦や見た目で攻撃をしにくい敵との対戦を繰り返す。


 途中に昼休憩をはさんだ時には、さっちゃんとマコトはレッサーヴァンパイアを倒したせいか食欲不振に陥っていたが、今宵やキィちゃん、桃香たち姉弟のフォローを受けてなんとか昼食をとっていた。


 

 俺たちは昼食後にしばらくレッサーヴァンパイアとスケルトンナイトとの戦闘を繰り返し、ある程度慣れたこともあってボス部屋の前までやってきた。

 6階層に戻るにはまだ暗くなるまでに時間があったので、ボスを倒すのに時間がかかっても問題ないだろうと言う判断からだった。


 「20階層のボスはヴァンパイア。見た目がネックだけど何回も倒したから行けるよね? レッサーと付いてないだけあって飛ぶ速度も速くなっているらしく、特殊能力として念動力サイコキネシスを使ってくる。動けなくされたり、物を飛ばしてくる可能性があるから気を付けて。動けなくされた場合は魔力を体内で回してその力を上回れば解除できる。それが出来ない場合は力づくで動くしかないみたいだけど、俺たちはみんなできるはずだ。後は爪が刃物と同じくらいの切れ味で稀に蝙蝠こうもりに変化するらしいが……。その場合は噛みつかれないように注意かな」


 そう言って俺は20階層のボスを説明すると皆を見渡す。

 皆の表情を見ると、特に問題もなさそうだ。


 「よし、今回はさすがに俺も戦闘に参加するからレイドパーティを組むね」


 俺はそう言って今宵たちのパーティとレイドパーティを組むと、ボス部屋の扉を開くのだった。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

本文外にステータスが載せられている回を下記に列挙しておきます。

過去の主人公たちのステータスが気になる場合の検索にお役立てください。

本文外でステータス表記がある回は127話の後の『登場人物紹介』の回の最後にも載せて今後も随時更新します。

ステータス表記あり回

2話、23話、24話、30話、34話、39話、51話、55話、61話、66話、93話、97話、105話、117話、119話、125話、128話、145話

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