第146話 目指せ1クラス!

 今日は水戸君との訓練から3日後の7月15日、日曜日。

 金・土曜日は水戸君との訓練がダンジョン攻略道のメンバーにバレてしまって一緒に19階層まで行って攻略をしたのだが、今度は今宵から「みんなで野営をするのがズルい」ということを言われる。


 そこで俺の家族枠で攻略道と九条君との合同野営に参加するか? と今宵に聞いたのだが、参加メンバーやどの階層で野営をする予定だとかを話しているうちに自分たちが主体で野営をしたいと言い出した。


 途中「クズたちとは嫌」と今宵が言ったように聞こえたが、九条の聞き間違いだよね?

 今宵はそんな言葉を使わないからね。

 話した事も無い上級生と一緒に野営はたしかに嫌だろう。

 さらにはその話を聞いていた父さんが、それならウチ蒼月家中学三年生組キィさちとマコトたちで練習がてらでやろうかと提案する。


 今宵はその提案も「大人がいるのはお兄ちゃんたちの野営と違う」と言って両親が来ることを拒み、父さんも安全性を考えれば一度は大人として付き添いたいと言って言い争った挙句……父さんは言い負かされて完敗した。


 えぇ……?

 そこ言い負けて良いところだったの?

 最後は普通に今宵に「気をつけろよ」と言って俺と中三組の野営を許可する始末だった。


 そして今宵の「お兄ちゃんたちが野営をする前に先に野営したい」と言う言葉から月曜日が海の日で祝日ということもあって今日から一泊二日のダンジョン探索を中学三年生組とすることになったのだった。


 ちなみに攻略道のメンバーは、19階層へ行ける指輪を今宵から渡された桃井先生が引率をして日・祝日と19階層を探索するらしい。

 父さんと母さんは18階層で毛皮と角、そしてバイソンの肉も高値で売れるらしくそれらを取りにいくと言ってすでに出発している。


 

 

 「お待たせしました。矜お兄さん」


 ダンジョン前の広場で俺たちが集まっていると、野営に行くメンバーの最後の一人、さっちゃんが親御さんと一緒に到着する。


 「矜一君。娘を頼むよ」


 「はい」


 「ダンジョンが絶対に安全と言う所ではないということも理解はしているが、君なら任せられると思って娘を預けるんだ。頼んだよ」


 さっちゃんと共に見送りに来たさっちゃんの父親が、俺に娘を頼むと最初の返答が簡素すぎたためか念押しをされる。

 確かに大事なことに対して「はい」と言う返事だけでは気になるかもしれない。

 俺はしっかりと相手の目を見ながら2度目の返答をする。


 「はい。安全に配慮して無事に野営を終えるように努力します」


 「ちょっと、お父さん。恥ずかしいから止めて!」


 「はは。じゃあ佐知さち、気をつけるんだぞ」


 「はーい」


 

 安全には気を付けるが、やはりダンジョン内で一泊と言うのは色々な意味でご両親も心配なのだろうと思う。


 「じゃあ行くよ」


 俺はさっちゃんのお父さんにペコリと頭を下げると皆を促してダンジョンの中へと入るのだった。


 

 「今日の日程だが、まずは19階層に飛んでそこから16時くらいまでは行けるとこまでを目指す。その後は6階層に戻って野営の準備だね」


 俺は一階層をゆっくりと歩きながらみんなへと今日の予定を話していく。

 マコト達も父さんに連れられて19階層までは行けるようになっていたために、今日はそこから探索予定だ。

 野営を6階層に戻ってするのは、フィールドタイプ(6階、12階、18階など)以外の階層では昼と夜の区別が特に無くたまに薄暗くなったりするだけで夜はない。

 それに対してフィールドタイプの階層では、どういうわけかダンジョン外とほぼ同じ時間帯で階層の明るさが変わり夜が訪れるのだ。


 初めての野営ということもあり、フィールドタイプの階層としては敵が一番弱い6階層で全員がまず索敵などの役割を交代しながら野営訓練をすることになっている。



 

 19階層に飛んだ俺たちは順調にゴブリンジェネラルの小隊を倒して進んでいく。

 ちなみに今回は合計が7人なことから俺は単独のダンジョンパーティとなっていて経験値的なものから手出しを殆どしないようにしている。

 学年も俺だけ1年上なので引率だね。


 「あ! あっちに天音ちゃん達がいるみたい!」


 今宵が魔力感知でダンジョン攻略道のメンバーがいると言う。


 「挨拶してから先に進もうか」


 俺はそう言うと、東三条さんたちがいる方向へと向かった。

 俺と水戸君が訓練をしたことがバレた日、水戸君は攻略道のメンバーに「強くなりたい、九条君たちに負けたくない」と言う話を攻略道のメンバーに部室で熱く語った。

 それに共感を受けた皆は、今日も朝早くからダンジョンへと来ているようだった。

 東三条さんなんかは「その意気やよし!」と言って2年時は1クラスで会いましょうと鼓舞していた。

 その時の東三条さんが扇子を持っていれば、口元で開いて「おーっほっほほ」とでも言いそうだった。

 今度プレゼントしようかな?


 

 「猪瀬さん、レンジャーを回りこませないように動きなさい! 水戸君が横から狙われないように牽制して!」


 俺たちが近づくにつれて声が聞こえてくる。

 桃井先生が声を張り上げて指揮をとっているようだ。

 部室で水戸君の話を桃井先生も聞いていたのだけれど、サービス残業と言う文句も言わず今日もちゃんと来て指導をしてくれているみたいで良かった。


 猪瀬さんがゴブリンレンジャーを牽制していた所を葉月さんが倒し、ゴブリンジェネラルも東三条さんと七海さんで倒して戦闘が終了した事を受けて俺は声をかける。


 「調子はどう?」


 「あ、あおっち! 先生がなんか怖い!」 「みなさん、ごきげんよう」 「お、蒼月」 「「おはよー(!)」」


 「それは貴女が注意を怠るからでしょぉ!」



 俺たちはそれぞれ挨拶を交わし少し話し合うと先に進むことにした。


 「じゃあ俺たちはもう行くよ。頑張ってね」


 「里香ちゃん、全体をこう、ボォーッと見るんだよっ!」


 いや今宵よ。

 アドバイスのつもりだろうが、ぼぉーッと見るは言葉としてダメだろ?

 猪瀬さんだとなんか勘違いしそう。


 「今宵ちゃん。全体を俯瞰してみるってことだね。わかったし!」


 「そうそう、そんな感じ!」


 わかるのかよ!!


 「今宵、もう行くぞ」


 「ほーい、じゃあみんな頑張ってねー」


 俺たちはそう言ってダンジョン攻略道のメンバーと別れると先を進み、20階層へと足を踏み入れたのだった。


 


 

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