第140話 ダークサイドと共にある

 俺たちがダンジョン前の広場まで歩いていると、声をかけられる。

 それまでも俺たちを見て何か話している人たちは多くいて、服装のせいかなとスルーをしていたのだが、違ったようだった。


 「アステルちゃん、アステリズムチャンネル見てます! 今日の配信も応援しています!」


 「アステル可愛い。握手して下さい!」


 「「アステルだ!!」」


 一人の声掛けを皮切りに俺たち……と言うか今宵が囲まれて声をかけられたり写真を撮られたりしていた。

 正直ダンジョン前広場がいつも以上に込み合っていて凄いことになっているのだが、え? これもしかして皆今宵を見に来たの?

 確かに配信の告知はしておいたのだが……まさかね?


 ちなみに現在のアステリズムチャンネルのフォロワーは350万人を超えていたりする。

 イオリさんも19万人のフォロワーだったものが、58万人になっていてなぜか俺にお礼が来ていた。

 なんでもガラドク蛇に噛まれたところがめちゃくちゃバズったらしかった。

 イオリさんも19万人で有名MeTuber扱いだったので、350万人だとこうなるのかな?

 矜侍さんの『諸行無常チャンネル』のフォロワーが現在4億人を超えていることに比べればミジンコだけどね。


 今宵も調子に乗って反復横跳びを高速で披露して残像を見せたりして楽しんでいるが……、さすがにそろそろダンジョンに入りたい。

 と言うのも、ダンジョン前広場に来てからたった数百メートルを歩くだけでも30分以上かかっているのだ。

 ヴェネチアンマスクをしている今の俺なら、たとえ陰キャだとしても気にせずにあの今宵を囲む輪に入って行ける!


 「ちょっとごめん~。そろそろダンジョンに入るので道を開けてくださーい」


 俺は今宵の傍まで行くと、今宵に握手を求めたりしている人たちに割って入って声をかける。


 「スタッフ邪魔すぎ」


 「スタッフさん、アステルちゃんを撮っているので画面に入らないでもらえます?」


 「スタッフぅ~」


 ……酷くね? ぐすん。

 最初はハブられていたキィちゃんとさっちゃんは今はなぜか今宵と一緒に撮影に入って写されているのに、俺はスタッフで画面に入らないで下さいって……。

 しかも最後ギャグを言ったやつ誰だよ!? 古いよ!

 まあ俺がそう聞こえただけで、普通にスタッフぅ~って呼んだだけだとは思うけどね。

 ラーメン つけ麺 僕スタベン控え~。

 仮面 覆面 僕ゴメン御役御免

 

 「てかあれシュテルンじゃね?」


 「は? ないない。シュテルンさまがあんなにオーラがないわけないでしょ」


 俺に気がついたカップルの男がいたが、その男の彼女にソッコーで否定される。

 オーラがないって……。

 面倒だから関りにならないように気配を消しているんだよ!


 俺はそれならばと、アイテムボックスからダースベイタ―卿のマスクを取り出すとそれを被った。

 これは初めにMeTubeのLIVE放送をしようとした時に、顔を隠せるということでマントと合わせればコスプレをした感じでバレないだろうと買っておいたものだ。

 今なら剣も魔力で色ライトセイバーを付けられるし、クマ耳にさえ目を瞑れば色は全体がダーク系でなりきりプレイが可能だ。


 「任免にんめん(MeTuber)から 罷免ひめん(スタベン)で 僕、暗黒面 シュゴー」


 

 「ヤバイ人いる! スタッフぅ―がなんか切れた!」


 「シュゴー シュゴー 言ってるぞ!」


 ダークサイドに落ちた俺を見て今宵のファンは道を開ける。

 モーゼの十戒か何かかな?

 俺はこれ幸いと三人に移動を促すとその割れた道を通ってダンジョンへと入るのだった。

 

 

 俺のマスクの衝撃で割れていた道は、俺たちがダンジョンに入る直前に正気に戻った人々によって元に戻っていく。

 ゲートである程度は人が撒けたとはいえ、ダンジョン前に集まる人々だ。

 探索者の資格持ちもかなりいて、また同じように囲まれる前に俺たちは1階層の魔法陣へとダッシュしてその後18階層へと飛んだのだった。



 俺はすでにダークサイドのマスクを外しているが、誰もその事に触れて来ない。

 いきなりシュゴーシュゴー言い出したのはさすがに今宵たちでも衝撃だったのかもしれない。



 「今宵のお友達はどこかな~?」


 俺の行動を無かった事にした今宵がサーバルキャットを探そうとし始める。

 まあ、今の今宵は黒猫だもんね。


 「ってかそんな事より配信を始めるぞ」


 「ほーい」


 「ついに私のハルバードが全国デビューしますね!」


 「あわわわわっ」


 キィちゃんは自分じゃなくてハルバード推しなのかよ!

 ってさっちゃんは大丈夫か?

 まあテンパってる姿もバズりそうだし良いか。



 「みなさん、おはこんばんは。アステリズムチャンネルのシュテルンです」


 「みなさんおはこんにちは! アステルだよっ!」


 「今回は前回のアステルに引き続き、さらに二人の出演者を紹介します。まずはこちら!」


 俺はそう言うとキィシンちゃんの方を向くにカメラを向ける


 「みなさん、シンだぴょん!」


 「「……」」


 ウサギの外套を着たキィちゃんは頭に両手をのせてうさ耳を表現しながら自己紹介をするが、盛大に滑ってしまった。

 こ、これはどうしたら?

 生LIVEなのでチャットの反応を見てフォローをしようと見てみるが、既に同時接続数同接は100万人を超えていて早すぎてまともに見ることは出来なかった。

 身体能力が強化されている俺で見えない速度って凄いよね。

 キィちゃんが挨拶をしてから数秒、場が凍ってしまったことからキィちゃんがプルプルし始めた。

 俺は急ぎさっちゃんファーナへカメラを移動する。

 

 「そして~もう一人はこちら!」


 「やぁみんな! はじめまして。ファーナだちゅ~! よろしくね ハハッ!」


 さっちゃんはテンパった状態からネズミーランドのキャラクターの挨拶を真似て、さらにはキィちゃんの自己紹介と同じくネズミ―の外套を着ているからか、語尾にちゅーを付けて自己紹介をする。

 もはや大惨事! 放送事故ですよ!!

 いやこいつらはあんなに出たい出たいと言って出演したのに、まさかの登場回でこれですよ!

 ハッ そうだ、こういう時は今宵だ。

 今宵なら何とかしてくれる!

 俺は期待を込めて今宵を見るカメラを向ける

 今宵は一度大きく任せて頷くと、自信満々に言い放った。


 「はい、ということで今日はこの四人でLIVE配信をして行こうと思います。がおー!」


 ……まさかの猛獣のがおーポーズ。

 ネコ科だからそれをしたのか!?

 でもなんか『がおーのポーズ』可愛いな?

 俺はチャットを見ると、前回の今宵が時を止めた『すとっぷぅ』と同じようにチャット欄が見事に停止していた。

 前回の同接人数5万人でもチャットが流れるのは早かったが、その20倍の人数でも時を止められるの!?

 マジでコイツの時間停止チャット停止能力は凄いな。

 そしてゆっくりと書き込まていき、そのすべてが『かわいい』の連呼だった。

 可愛いは正義、仕方ないね。


 「今回も僕は音声だけの出演ですが、画面は三人も華があるので問題ないでしょう。それでは今日は18階層を配信していきたいと思います」


 俺はそういうと三人を連れてサバンナを進むのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る