第141話 ライオンさんの出番が……。
サバンナをしばらく歩くと、今宵がサーバルキャットを見つけて前回と同じように回避対決をし始めた。
いや、前回よりも少し動きが遅く紙一重で回避している。
ライブ放送映えを狙っているのか?
そしてしばらく戦闘を楽しんだかと思うと、スピードをあげてサーバルキャットに近接すると何と打撃を加え始めた。
そのダメージによって完全に動きが停止したサーバルキャットを最後に蹴りで少しだけ上に蹴り上げると、さっちゃんが颯爽と四肢を切り落としてそれと同時に今宵を超えてジャンプをしていたキィちゃんがハルバードでサーバルキャットの首を切り落とす。
そして最後は3人でこちらに向かって戦隊物の決めポーズをした。
「「「いえーい!」」」
今宵の先天性スキルは『武術全般』なので体術に移行しても不思議ではないが、こいつら絶対に打ち合わせをしてただろ。
「彼女たちには18階層の魔獣も問題がないようです」
俺はそう言うと配信を続けながら先に進む。
それから何匹かのサーバルキャットを倒すと、俺たちはジャングルの前に到着したのだった。
「実はここからは初めての探索です。僕も魔獣の対応や状況確認でトークが上手くできないかもしれないです。それを踏まえて見てくださいね」
俺はそう言うと三人に指示を飛ばす。
「警戒を
俺がそう言うと、
「右よーし! (さっ」
「左よーし! (キィ」
「仲良し! (今宵」
今宵が二人の後に仲良しと言うと、三人で戦隊もののポーズをとった。
「はぁ? お前らさぁ (怒」
俺は三人のコントがさすがに度が過ぎていると感じて注意する。
「おに……じゃなくてシュテルン! 話せばわかる!」
「「話せばわかる!!」」
……こいつ等すごくね?
まさかの注意しろから~の『話せばわかる』だよ。
しかもたぶんツ
「も、問答無用!」
しーん
あ、あれ? 確か話せばわかる→問答無用と言われて
ノッたらスルーするって酷くない?
大体、犬養毅って無茶苦茶すごい人だからな? たぶん。
ゴホンッ
「えー、三人はふざけているように見えますが、実際はスキルで警戒をしています」
俺は一応フォローしておく。
「ジャガーはスキルを抜けてくる可能性だってあるんだ。目視も怠るなよ」
「「「はーい」」」
一応おざなりになった注意もしておく。
うっそうとしたジャングルを進むと、気配察知に反応があったのでそちらに移動する。
目視できるはずの距離にまで近づいているがジャングルと同化しているのか気配がある場所を見ても良く分からない。
「あの辺にいるはずだよ」
今宵の声にキィちゃんとさっちゃんがジャガーのいる場所を見るがイマイチ分かっていないようだ。
「わからん……。全然わからん。アステル本当にいるのー?」
キィちゃんは目視で判断できないようだ。
「うん。こっちにもすでに気が付いていて知らずに近づくと襲ってくると思う」
「じゃあ石でも投げてみようよ。シュテルン、石を出して下さい」
さっちゃんが俺に投石を要求してきたので、俺はアイテムボックスから投石用の石を取り出して渡す。
「いっくよー! やー!」
さっちゃんが投げた石はジャガーがいるあたりに一直線に投げ込まれた。
ガサッ
!?
「来るぞ!」
「はやい! けど、サーバルちゃんと同じくらいかな?」
ジャガーの変則的な突撃を受けて俺たちは散開する。
柔軟性に富んでいて俺に攻撃を仕掛けたと思ったら、今宵の方へ。
そしてそれも避けられたと思ったら、キィちゃんの方へ。
「くっ 避けきれない。それなら!」
キィちゃんはハルバードを盾にしてジャガーの攻撃を耐える。
「今!」
キィちゃんの叫びにさっちゃんがジャガーの横腹に剣を突き刺した。
「ふぅ~。何とかなりそうな感じですね」
ジャガーを仕留めたさっちゃんがジャガーと対戦した感想を言う。
「ガラドクヘビも対応が難しいけど、ジャガーはそれよりだいぶ距離があっても攻撃範囲内っぽいから気をつけて」
「瞬発力とその対応距離が違うね。ガラドク蛇とは。ガラドク蛇はキシャァァ! の後にビヨーンって感じだけど、ジャガーさんはガォー! の後にガブリって感じ」
俺がジャガー戦の考察を話すと今宵もそれに同意する。
でも今宵の表現は単に魔獣の行動を擬音で言っているだけだと思う。
だいたい、そのジャガーさんと次の平原のライオンで今宵は同じ表現を使いそう。
それから俺たちは進みながら、ジャガーを発見しては倒していく。
稀に黒いジャガーもいて影になっている所では見つけにくいが、気配察知や魔力察知がなくても、目が光ることからそれで判断が可能かもしれない。
ジャングル内を移動していると水場を発見する。
そこにはジャングル内でもう一種類いるサイが水浴びをしていた。
「お、サイがいるな。こっちには気づいていても全然警戒していないな。サイは耐久とパワーに優れているみたいだから一気に倒そう」
「すっごーい。大きーい」
さっちゃんがサイの大きさに驚いている。
ちなみに恐らくシロサイと思われるその個体は7メートルほどの巨体だ。
動物の方のシロサイが3.2メートルから4.2メートルと言われているので、魔獣になると大体二倍くらいの大きさになるようだ。
「じゃあ、アステルにまっかせなサーイ! 一撃必殺! Ninpō 稲光!」
今宵がそう言うと、どーん と言う音と共に落雷がサイに落ちてどうやら一撃で倒したようだ。
「角は高価らしい」
俺がそう言うと、今宵はサササッと一瞬で倒したサイの元へ移動するとスパーンっと角を切り落とす。
なんだか密猟をしている気分だよ。
ちなみにジャングルにはシロサイとクロサイがいるのだが、どちらも白くもないし黒くもない。
どちらも灰色で、見分けるには口の形と大きさで見分けることになるようだ。
シロサイのメスより小さいのがクロサイだ。
とは言っても、魔獣になっているのでどちらもデカいんだけどね。
サイの角を回収した俺たちはさらに進んでついにサバリパークの残り3分の1、平原地方へと足を踏み入れた。
「ここにはバイソンとライオンがいるからそれぞれ対戦してみよう」
「っておに……シュテルン、さっきから普通に探索しちゃってるよ!」
俺は今宵にそう言われてLIVE配信をしていたことを思い出す。
シュテルンなりきりプレイをしていたので、会話は問題ないはずだが視聴者を全く意識していなかったので見てくれている人が減っているかもしれないと、急いで画面確認をした。
確認をすると、同接人数は減るどころか150万人にまで増えている。
「みなさん、すみません。普通に探索してしまっていました。折角なんでここで一度スパチャを読みたいと思います。って遡るのヤバいですね。多すぎる……。これ全部遡れるのか? っと大丈夫でした。配信前の待機の時に既に送ってくれている方がいますね。ありがとうございます。では読み上げて行きます」
『10000円:これで送れているのでしょうか』
「送れています。ありがとうございます」
『10000円:ウチの者が1日に送れる金額は5万円だから、1度に送ると1回しかチャットが出来ないと言っていましたわ』
「連続で同じ人ですね。
『10000円:はじまりましたわ!』
『10000円:私様もいたはずですのに』
んん……?
『10000円:アステルちゃんの服可愛いですわ』
俺は同じ人から5回連続で送られているスパチャを読む。
アズマさん じゃなくて、これ
東三条さんじゃねーか!
教えた奴だれだよ! ウチの者……ってどうせ仙道さんか坐間さんだろ!
「おに……シュテルンこのスパチャって」
おい、今宵よ。
それ以上は言ってはダメだ!
「ん……。ほらアステル。笑顔で手でも振っておけ。それ以上は(この件)ダメだ」
俺は今宵に目を向けると目線で会話をする。
察した今宵はカメラに向かって笑顔で手を振った。
「では続けて読んでいきますね」
『360円:新キャラ二人来たー!』
「はい、シンとファーナです。応援してあげてください」
俺はそう言うと、二人にカメラを向ける。
キィちゃんはハルバードを構えて、さっちゃんはすまし顔でポーズをとっている。
『1919円:アステルGOGO』
『15040円:アステルいこーよ』
『8585円:アステルぱこぱこ』
『19419円:アステルいくよ?―イく!』
「最初
俺は4545円を禁止にして安心しすぎていたのかもしれない。
ゴーゴーって日本語だと行く行くだし、
金額で言葉遊び止めよ―よ。
「えー……、今後は1919円、15040円、8585円、19419円も読みません」
俺はそう言うと次のスパチャを読み上げる。
『240円:いきなり18階層!?』
『500円:13階層から17階層はどこへ? 見逃し!?』
『360円:新人いるのに18階層でワロタ』
18階層チョイスは今宵が18階層を探索できなくて不完全燃焼だって駄々をこねたから今回は18階層にしたんだが、順番に階層を上がる方が良かったか?
「いきなり、18階層に飛んだのはダメでしたかね? 次回13階層から配信したいと思います」
俺はその後もスパチャを読み続けて行くが、読んでいる最中にも当然スパチャが送られてくる為にキリがなかった。
これは探索中に読める量ではないな。
読んでいるだけで時間がどんどんと過ぎて行く。
敵がいない事を確認して読み始めていたのだが、魔獣の気配も近づいてきていることから俺はスパチャ読みを切り上げることにした。
「チャットが流れるのが早すぎるのでスパチャだけでもと思いましたが、それもあまりに量が多すぎるのでここで読み上げを停止します。そうですね……スパチャにつきましては後で全て読ませいただきます。今後は配信中はスパチャ、普通のチャットのどちらも目に留まったら配信中に読み上げるかもしれない程度と思ってくれたら助かります」
俺はそう宣言すると、平原フィールドを進むように三人を促した。
「少し時間をとられすぎたので、移動速度をあげて行きたいと思います」
俺はそう言って三人を追いかけるが、チャットに一瞬目をやると、『シュテルンが後ろから追いかけていると三人のお尻ばかりを見ていてエロい』と書き込まれていた。
いや見てねーよ! 俺の目線=カメラ目線なんだから、普通に全体を見ていることはわかるだろ!
風評被害が酷いな。
「あ、シュテルン。バイソンが砂煙をあげて来てるよ!」
今宵はそう言うと、俺と一緒に買いに行った一切使っていなかった外套を取り出すとバイソンの前に駆け出した。
「オーレ!」
闘牛士の真似をし始めた今宵は黒いマントを
たしか、牛は色を見極められないので実は色の赤で興奮しているのではなく、布の動きが興奮させていると聞いた事がある。
色の濃淡はわかるだろうから、黒いマントでも問題はないのかもしれない。
と言うか、ミノタウロスまでとはいかないがこのバイソンも5、6メートルはあるので非常に大きい。
チャットに目をやり頑張って眼球を素早く上下させてみると、どうやら今宵を応援して盛り上がっているようだった。
今ならスロットのリールが一周約0.8秒でまわっているらしいのだが、止まって見えるんじゃないかと思う。
「アステル、視聴者も応援してくれているみたいだぞ」
俺がそう今宵に声をかけると、今宵は手を上げてバイソンの攻撃をヒラヒラと避けたり飛んだりしながら剣でダメージを加えて行く。
たまにバイソンを飛び越えて一捻り加えてアクロバットしている。
そしてそれを繰り返し、バイソンの動きが鈍くなったところで首を一閃して切り落とす。
テンションの上がった今宵は俺の方を向くと自分の親指を顔に向け、
「ヒーヤイ オーレ!」
と叫ぶのだった。
ヒーヤイってなんだ? そして最後オーレ! は掛け声と
「アステルは身軽なのでバイソンの攻撃を躱してアクロバティックな動きをしましたが、かなり危険です。皆さんは真似しないで下さいね!」
正直俺にはスキルを使わずに出来ない動きだったので、LIVEを見ている人たちが真似をして怪我をしないように注意しておく。
動画配信で『アステルを真似てみた』とかしようとして惨事になっても困るからね。
スパチャは『8888円』がたくさん送られている。
拍手かな?
その後は俺以外の三人でバイソンを倒しながら進むが、ライオンに出会うことはなく、19階層への魔法陣近くまでやってきた。
「おー。違う反応があるー」
「「え? なになに?」」
今宵の声に反応したキィちゃんとさっちゃんが何があったのか聞いている。
「えー、どうやら19階層へ向かう魔法陣の前にライオンがいるようですね。バイソンとは違う気配を感じます」
俺はそう言ってチャットを見る。
なになに、
『3150円:カメラマンに徹するシュテルンは最高です』
……。
「シュテルンの~ちょっと良いとこ見て見たい~!」
「はい はい は~い!」
俺がスパチャを読んだ声に反応したキィちゃんが囃し立て、さっちゃんが手を叩きながらハイハイハーイ! と合いの手を入れている。
いやライオンまでは少し距離あるからさぁ、ここでコールされても……。
まあでもカメラマンと言われるのもシャクなのでちょっとイイとこ魅せとくか。
「はい、ではコールを受けたのでシュテルン行きまーす」
俺はそう言うと、距離があるのでライオン前に転移する。
俺が目の前に現れたライオンは即座に対応しようとするが、俺はヴリトラから手に入れた剣を構えると全力で振り下ろす。
ザンッ!
これぞボスと言う風貌のオスのライオンであったが、何か行動をする前に真っ二つとなって死に絶えるのだった。
「あー! 終わってる!」
「倒すとこ見られなかった」
「すごーい!」
遅れて今宵、キィちゃん、さっちゃんが俺のとこまでやって来る。
てか見ていないのにすごーい! って煽りかな?
俺はそう思いながら今日の配信はここまでだなと思い、締めの挨拶をすることにした。
「はい。如何だったでしょうか? 今日の配信はここまでにします。もし、この配信が少しでも面白いと思ったら、お気に入り登録と星評価をお願いします」
俺はそう言って今宵を見る。
「面白くなくてもチャンネル登録と高評価をよろしくね!」
「「よろしくね!」」
俺は今宵とキィちゃん、さっちゃんがカメラに向かって手を振っている所を映すと配信を終えるのだった。
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本文外。犬養さんの説明なので読まなくても大丈夫です。↓
犬養毅(いぬかいつよし 第29代総理大臣)
正直、「話せばわかる」→「撃たれて死んだ」と言う認識しかなかったんですが、ちゃんと調べると、実際に賊に自分が発砲されても「話し合おう」→「タバコでもどうだ? 話しをしよう」と言う。
さらに後続の賊が来て「問答無用、撃て!」と2回目にフルボッコ銃撃を浴びても撃たれて倒れた後に助けに来た女中に「あいつら呼んで来い。話しをしよう」と言う。
医者に運ばれて自分の状態を聞いて「弾の3分の2が外れていて、(3発命中)まともに銃も撃てんのか」と言って最終的に衰弱死とか犬養さんマジパない。
銃を向けてくる相手に話し合おう→無意味っていうネタでよく見るけど、実際は言った本人は本物の度胸があって凄かった件。(5・15事件)
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