挿話 ギルド受付 間宮雫の日記帳②

挿話です。時系列は主人公の父親がクランを作る前となっています。

お気をつけ下さい。

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―― 間宮雫視点 ――



 最近ギルドで話題の集団がいる。

 その話題の中心人物は、初めは特に話題にもならない普通の探索者だった。

 普通と言っても、探索者を育成する国立高校に通う日本でもトップレベルの高校生、国立第一東高等学校の生徒さんではあった。


 ただ、第一東校の外部入学組らしく、探索者としてダンジョンに潜ることもした事がない初心者だった。

 しかも難関高校に入学できる実力がありながら1階層でビッグマウスばかりを狩って稼ぐスタイルで、変わった奴もいるものだなと解体所の男性職員が噂をしていたのが始まりだったと思う。


 その東校の生徒がゴールデンウィーク辺りを境にして、突如としてビッグマウス狩りを止めて上の階層の魔石を大量に納入し始めたという。

 ただ、その生徒はビッグマウス狩りをする前……、登録した直後にも上の階層の魔石を持って来ていた事が探索者協会ギルドの調べでわかっていて、元々上の階層に行くことは出来たが、資金を稼ぐことに特化してビッグマウス狩りをしていたのだろうという話になっていた。


 その後に、先輩職員が自分たちが就職した頃に伝説的な攻略をした二人の話をしているのを聞き、さらにはその息子がビッグマウス狩りをしていた生徒だということもわかった。

 その生徒が初めて探索者協会に来た時に、私が対応した蒼月君であったことが判明した時には二重にビックリしたものだった。


 だから、ある程度多くの魔石を持ち込んできても伝説の二人の息子でしかも国立高校の生徒だったので、期待の新人というよりもそのくらいはできるんだろうという見方にシフトしていく。

 

 蒼月君は妹さんともよくダンジョンに行くようになり、彼らの家族によるギルドへの貢献は多少ギルドで話題になっているトワイライトの三羽烏さんばがらすとは比べるべくもない程だった。


 そもそもトワイライトはどちらかと言えば素行が悪い方が有名なのだが、その悪い噂は聞いても実際にはその証拠をつかむことができないので、妬みによる誹謗中傷ではないかというギルド職員もいるにはいたが……。


 今では蒼月君の集団は10人を超えていて、飛ぶ鳥を落とす勢いで魔石によるギルド貢献値を稼いでいるのだが、塩漬けになっているクエストを受けてもらえないだろうかと思う。

 彼ら彼女らであれば、達成できそうなものも多いのだ。




 「雫ー? 明日は休日だと思うけど、C級昇格の試験を受けたい人たちがいるんだけど、今は試験官が色々と出払っていて任せられる可能性があるのが貴女だけなのだけれど、受けてもらえないかしら? 何でもクランを作るから早めにC級になりたいそうなのよね」


 休憩所で考え事をしていると、同僚から声がかけられる。

 急ぎなら対応はしてあげたいけど、久々の休日……。


 「あ、相手は先輩たちがいつも噂しているあの二人よ」


 !?

 先輩たちが噂している二人ってことは、蒼月君のご両親!?

 そうとわかると面倒だった休日出勤の依頼も、別にしても良いかなという気持ちになって来る。


 本当はこういう気持ちで動いてはダメとは思うのだが、私だって人間で探索者協会に初めて来たときに対応したり、協会の講習で蒼月君の性格の良さを知っていれば、その御両親なら手助けしたいと思ってしまう。

 そもそも休日出勤で、断っても良い話なのでこちらのやる気で判断しても問題ないだろう。


 「C級昇格試験ってことはダンジョン11階層から15階層の魔物を倒せるかどうかか、ミノタウロスを倒すことになると思うけど、二人で本当に倒せるという判断でこっちに回したのー?」


 昇格テストに何人以上必要という様な人数の決まりはないのだが、通常であればC級昇格の試験は5~6人が集まって受けることが一般的だ。

 なぜなら試験内容は1人で受けても6人で受けても同じで、当然のことながら多数で受ける方が受かりやすいのだ。


 ただ、職員の判断で少ない人数でも攻略が可能と判断された場合には、ソロや二人であっても昇格試験をすることになっている。

 二人で試験を受けるということは二人でも11階層以上を攻略できるという判断をしてこちらに回した事になるが、念のために私はその事を確認する。


 「倒せる判断っていうか、16階層の魔石が大量に納品されているのよね……。レイスを含めてゴーストはそれはもうどうやったら集められるの? という数だから、これで人数を集めて下さいというのもね?」


 「二人でそれだけ集めた感じ?」

 「二人の時もあれば、話題の集団で集めたとして納品していることもあるみたいね」


 なるほど。

 戦えない二人を守りながら11階層は私でもきついが、戦えるのであれば私自体は11階層は問題がないので、そこでどの程度戦えるのかを判断して進むか戻るか決めれば良いか。


 「それなら受けて良いわよ。朝からよね?」

 「相手の希望は朝8時からね。時間はこちらから指定できるわよ」

 「それなら移動に時間もかかるから、8時で大丈夫よ」


 私はそう言って、試験官をすることを承諾するのだった。





 次の日の午前8時。

 挨拶を済ませた私たちはダンジョンを進む。

 蒼月君のお父さんからどの程度の移動速度で進んで良いのかを聞かれたので、自分がB級であることを話し、こちらは気にせずに好きな速度で大丈夫ということを伝える。


 

 「間宮さんがウチの矜一が初めて探索者協会に来た時に対応してくれたの? それはありがとう」


 「はい、初めは何もわからなかったようで、探索者の活動の仕方やダンジョンゲートでの端末の使い方なんかをお話しさせていただきました」


 「矜一は迷惑をかけてないかしら?」


 「私は試験官をしたりする事もあるので受付にはあまり出られずギルドでのことはわからないのですが、協会の講習を受けに来られた時にはバスで妊婦の方に席を譲っていたのを見て感心しましたよ」


 「まぁ。矜一はそんな事をしていたんですね。ウチではそのことは話してないから家の外での矜一の話が聞けて新鮮だわ」


 私たちは暢気に会話をしているように見えて……、実はかなりの速度でダンジョン内を移動している。

 正直に言えばC級の移動速度どころではなく、2時間が過ぎたところで9階層に足を踏み入れていた。

 恐らくこのままいけば、3時間程度で11階層に着けるはずだ。

 それだけの速度であるのに、この二人からは余裕が感じられて私が初めにこちらを気にせずに進んでくれてよいと言ったことに対しても、気を使いながら様子を見ながら進んでくれている印象を受ける。


 ハッキリ言ってこの速度で移動しながら魔獣を倒している時点で私の中ではC級は合格なのだが……、試験内容は11階層以上の魔物と対峙しての評価であるので、それを見るまでは合格させられないことが残念だった。




 「よっと」


 蒼月君のお父さんはそう言うと、12階層のガラドクヘビを一刀する。

 3時間ほどで11階層に到着してからは、移動速度をかなり落として魔獣を倒しながら進み、二人は何の問題もなく12階層へと移動して気配を察知することが難しいガラドクヘビも簡単に倒している。


 「さすがに13階層にいくには12階層は広すぎるので、ここまでで十分です。帰りの内容も試験に影響はしますが、今の所では昇格をさせない理由がないですね」


 「そうですか。クランを作るのには少しでもギルドランクが高い方が有利なのでよかったです」


 「登録料や手続きの方法が変わるので、C級にはなっておきたいですよね」


 「そうなんだよな」


 私たちはたった3人しかいないにも関わらず、和気あいあいと会話をし帰路につくのだった。



 私も……公立第二東高等学校の卒業生としては、異例のランク昇格と言われて鳴り物入りで探索者協会に就職することが出来た。

 しかし本物の伝説は違うということを知る機会が持てたことは、良い経験になった一日だったように思う。

 

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