第137話 合同野営提案

 朝学校に登校すると、自分の席に着く前に九条君たちが話している声が聞こえてくる。


 「夏休みは日帰りじゃなくてダンジョンの中で野営をして階層を進みたいよな」


 「野営ならテントも揃えなきゃだね!」


 九条君と一ノ瀬さんが話しているが……、え? 同じテントで寝泊まりするの?

 そ、それはどうかな~。

 俺は良くないと思うよ!

 そんなことを考えながら、猪瀬さんたちに挨拶をして席に座った。


 「あおっち~、あたしたちは夏休みどうするん~?」


 猪瀬さんにも九条君たちの会話は聞こえているので、その流れでダンジョン攻略道は夏休みはどうするのか気になったようだ。


 「それは……夏休みの部活と言えばやっぱり合宿でしょ」


 「なんかそれっぽい! ならさ、あたしらもテントで野営してキャンプファイヤーとかしようよ!」


 おおっ! なんだかすごく楽しそうだぞ!

 

 「野営だと見張りもいるし、男子・・女子・・に分かれてテントを買った方が良いね」


 俺は男子と女子で別れてと言う所を強調して少し大きめの声で話す。


 「あ、そっか~。そこまで気が回ってなかったけど、あおっちやミトミトと同じテントだとシャワーとかも浴びられないから体を拭いたりする時に気になるし、寝る時に、匂いとか気になるかも!」


 猪瀬さんナイスアシストだ!

 うんうん、やはり健全にテントはわかれていないとね。

 猪瀬さんの意見を聞いた一ノ瀬さんも、『匂い……』と呟いて男女で別れて野営する事を提案していた。


 「矜一、ダンジョン攻略道も……その合宿をするなら、私たちと一緒に行かないか? み、見張りが必要なら一つのパーティでは重荷に思う」


 俺はビックリして少し体をズラして椿をみる。

 そのままだとすぐ後ろには葉月さんがいるので椿は見えないんだよね。

 まさか椿の方から一緒にダンジョンへ潜ろうと言う話が出るとは思わなかった。

 しかもキャンプですよ! 夏休み早く来ないかな!


 「つ、椿!? いや蒼月君たちは部活動なんだから、顧問の先生とかもいるんじゃないのか? 僕たちは攻略道のメンバーではないからさすがに無理じゃないかな」


 九条君が部活のメンバーで合宿するのだから、顧問もいて部員ではない場合は一緒に野営をするのは無理だろうと言う話をする。

 というか、桃井先生のことなんて考えていなかったよ。

 たしかに部活というてい・・で合宿をするなら、顧問の桃井先生もいないとおかしくなるか。


 「くじ丸あたしたちと野営するの嫌なん?」


 「い、いやそう言う訳じゃなくてね。部活動での合宿だと僕たちは部外者だから……」


 「でもレン。ワイは椿の案に賛成や! 攻略道のメンバーって言うなら、七海さんや葉月さん、さらには東三条さんも参加するってことやで!」


 榎本君が凄く不純な動機っぽい理由を語った。

 いや、女子の名前だけしか言わないとかコイツ大丈夫か?

 俺は気になって椿を見ると、椿は苦笑していた。


 「それなら放課後にでも桃井先生に聞いてみるー?」


 七海さんのその一言で、俺たちと九条君の合同野営計画の話は桃井先生の返答待ちということになったのだった。




 

 放課後。

 俺たちはクラスで朝に話した事を桃井先生を交えて部室で話をする。


 「貴方達、野営を舐めすぎよぉ。その九条君たちは野営の練習が今後ダンジョンを潜っていくうえで必要だけどぉ、貴方達が話しているのは遊びの延長上のような話じゃない。12階層以上を攻略するとなると野営は必須だけど、ダンジョン攻略道は魔法陣転移があるから必要ないし、だいたいどこで野営をするつもりなのよぉ。初めは6階層辺りで慣れてからじゃないとそのパーティ危ないわよぉ。そのパーティは危ないけど、貴方達はそんな下位層での野営なんていまさら無駄じゃないのぉ」


 桃井先生が割とまともなことを言う。

 でも九条君のパーティが危険ならやはり俺たちも一緒にいた方が良いのでは?


 「でも先生、九条君のパーティが危険であるなら俺たちが付いていた方が良いのではないですか?」


 「あのねぇ蒼月君。そんなものはそのパーティの自己責任だし、他の子から聞く限りだと貴方は椿って子がいるから一緒に野営したいと言っているだけでしょぉ? 先生そう言う不純な気持ちは良くないと思うわぁ」


 不純の塊の先生からダメ出しをされる。


 「蒼月君の婚約者……彼女はまだ弱いようですから、強くなりましたら個人戦で決着をつける必要がありますわね。お父様からは倒せるときに遠慮はするなと言われておりますが、それは私様の矜持自尊心が許しませんわ」


 東三条さん!? 婚約者ではないって説明したはずだよね!?

 大体決着とか、お父様の話だとかその訳が分からない話はなんなの!?


 「いや……婚約者ではないから……」


 「蒼月君が気になるのでしたら、熨斗のしたちと一緒に行かせてもいいですわ」


 「いや、だからそういう話というよりも、普通にクラスメイトと一緒にダンジョン攻略をしようぜって話だから。俺の話は関係ないからっ! それに見下されている5クラス全体の力が上がるのは良いことだと思う」

 

 俺はここぞとばかりに熱弁をふるった。


 「蒼月君がそこまで言うなら、一緒に行けばいいと思うわぁ。でもそれはダンジョン攻略道とは別で行きなさいな。貴方たちの合宿なら私も顧問としてついて行くけどぉ。関係ない人たちはお断りよぉ。だいたいその子たちじゃ私がついて行っても弱い所に行くから稼ぎにならないでしょぉ(ぼそ」


 「僕は良いとおもったんだが、みんな厳しいね」


 ミトミト―! さすが男の友情だね!


 「じゃあ水戸君は一緒してくれる? こちら側の人数が少なかったら今宵たちでも呼ぶからさ」


 「もちろん。僕も今は蒼月のお陰でだいぶ強くなれたけど、この部活に入れていなかったら九条たちと同じかそれ以下だったはずだしね」


 「ちょ、ちょっと水戸君。私様は行かないとは言っていませんのよ」


 「うんうん! 私たちは野営をする必要がないと言っても経験は必要だし、その場合は最初は低い階層でするだろうから一緒で良いと思う!」


 水戸君が参加を表明すると東三条さんも行かないとは言っていないと言い出し、葉月さんも同意する。

 それを聞いた猪瀬さんもあたしもキャンプファイヤーするし! と言い、結局はダンジョン攻略道のメンバーを巻き込むこととなったのだった。



 「青春ねぇ」


 野営をすると決めたことで青春を過ぎた女性教諭の呟いた言葉は、わちゃわちゃと話す皆には聞こえることは無く、必要なものの話で盛り上がるのだった。


 



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