第136話 サバリパーク

 18階層に足を踏み入れた俺たちは、6,12階層と同じような環境型タイプの階層に興奮する。

 東京ダンジョンは全ての階層が攻略されている訳ではないが、現在確認されている36階層(魔法陣は発見されておらず攻略中)までであれば6階層ごとにこう言った環境型になっていることが判明している。


 「おおーすごーい。最初はサバンナ草原でその次がジャングル、その後に平原があるって言ってたっけー?」


 今宵が家でまだ行っていない階層の話を聞いてきたときに、俺が話した事を思い出したのか確認してくる。


 「私様わたくしさまもこの階層は初めてですけれど、環境型はいつも通り広いですわね」


 俺はとりあえず知っている情報を皆に話す。


 「この18階層は攻略者に『サバリパーク』と呼ばれていて、サバンナやジャングル、平原にいる魔獣は地球にいる動物の姿だけど、大きさは地球の動物より大きくさらに凶暴になっているらしいよ。サバンナにはサーバルキャット、ジャングルにはジャガーとサイ、平原にはライオンとバイソンだね」


 「サバンナにはサーバルキャットというネコ科の魔獣ですか。見た目はダンジョンの外にいるサーバルキャットを大きくして凶暴と言われても、可愛い印象やモデルのような体型としか想像がつきません」


 サバンナに出現する魔獣の名前を聞いてマコトが印象を語った。

 

 「時間的にここを攻略するのは難しそうだからどうする?」


 俺は18階層の広さから明日も学校がある事を考えると、19階層への魔法陣まで到達することは不可能と考えた。

 いやまあ、夜の22時だとかそのくらいまで探索を続けるならもちろん可能だけどね?


 「じゃあジャングル地方まで行ってジャガーさんとサイさんに会ったら戻ろっか」


 今宵がジャングルまで行った後に引き返そうというけど、ジャングル地方・・ってなんだよ。

 あとジャガーさんとサイさんって友達フレンズか何かかな?


 「今宵ちゃん、ジャングルを舐めてはいけませんわ! ジュマンジではジャガーやサイの群れはかなり危険でしたもの」


 東三条さんのそのジャングルの情報って映画だよね?

 何年か前に上映していたのは知っているけど、見てないんだよなぁ。


 「天音ちゃん、あれ見たの? 良いなー。今宵も見たかったのに誰も見に連れて行ってくれなかったんだよね」


 今宵はそう言いながら、俺をチラチラと連れて行ってくれなかったと言うところでこちらを見てくる。

 ええ……? 

 上映してた時にコイツ、行きたいとかアピールしてたっけ? 

 してない気がするんだけどなぁ。

 というか、お前も東三条さんを猪瀬さんみたく天音ちゃん呼びなの?


 「あ! それでしたら私様はブルーレイを購入していますから持っていますわ。今宵ちゃん今度みにいらっしゃいな」

 

 DVDではなくブルーレイっていう所がなんかお嬢様っぽい。


 「ほんと!? 行く行く!」


 「「今宵ちゃんが行くなら私たちも!」」


 「もちろんいいですわよ」


 「「やったー!」」


 四人で盛り上がっているのは良いけど、マコトが一人寂しそうだろ!

 今宵たちは陽キャだから全く気が付いていないけど、陰キャの俺にはわかる!

 マコトは話に入りたくてもタイミングを逃してしまって、輪の中に入れていない状態だ。

 俺は1年先輩なので仕方がないなとマコトを気遣って声をかけた。


 「四人は東三条さんで映画を見るみたいだけど、その時は俺たちも映画でも見に行く? これから上映となると、キング〇ムかコ〇ンかな?」


 「えっ え!? わたすが矜一さんと映画……!?」


 「うんうん。俺もずっと映画とかは見に行っていないから行きたいし」


 「そ、それなら……」


 俺はマコトと話していると、先ほどまで四人でキャッキャしていた今宵たちが一切しゃべってない事に気が付いてそちらをみると……、


 ヒィッ


 四人全員が何故かこちらを凝視していた。


 「な、なんだ? どうした急にこっちを見て」


 「お兄ちゃんダンジョンの中でナンパとか危険だと思わないの?」


 えぇ……? 

 さっきまで映画の話で盛り上がっていたのは君たちだよね!?

 どういうことなの!?


 「な ナンパ……。矜一さんがわたすわたしを……?」


 今宵の言葉を受けてマコトまで勘違いをし始めたじゃないか。


 「いや、今宵たちが四人で遊ぶ約束をしているのにマコトだけ輪に入れていなかったから、俺と映画に行こうって誘っただけだぞ。ナンパでは決してない」


 「そ、そうですよね。私なんかをナンパしても」


 いや、そういう意味でもないんだがその言葉を否定するとナンパをしていた事になってしまうし困ったな。


 「ナンパというより普通に友人なんだから遊びの誘いだよ」


 俺は何とかダンジョン内でナンパをするようなチャラい男ではないと言う意味を込めて言葉を発した。


 「でしたら、その映画に私様も行きますわ。お二方とも友人ですもの。であるならば、私様も行くのがまた道理ですわ」


 久々のジャイアニズム東三条論が出て来たな。


 「あ、今宵も行く!」


 「「今宵ちゃん!?」」


 盛大に裏切った今宵に対してキィちゃんとさっちゃんが声をあげた。


 「いやお前らは同じ日にジュマンジ見るんだろ」


 「それでしたら、蒼月君もマコトさんもウチへ見にくればよいのですわ。そしてまた別の日に全員で映画を見に行きましょう」


 「うんうん! それなら今宵もオッケーだよ!」


 今宵は遊べたら何でもいいだけだろ……。

 俺たちは結局東三条家へブルーレイを見に行く約束と映画を見に行く約束をするのだった。


 「ってか時間がないんだからもう行くぞ」


 「はーい」


  俺たちは話を終わらせるとサバンナを進んでいく。


 「あ! サーバルキャット発見! かわい……ってデカっ!」


 サーバルキャットを目視した今宵が、少し遠くに見えた時は映像で見る普通のサーバルキャットに見えて可愛いと言おうとしたが、魔獣側もこちらの気配に気が付いて素早く近づいてくるにつれて可愛らしい姿とは程遠い大きさで対面することになるのだった。


 「素早いな。来るぞ!」


 俺たちはサーバルキャットからひと塊で狙われないように散開して攻撃を躱すと、それぞれが武器で前後左右から攻撃を加えた。


 「早い!?」


 こちらも相手の攻撃を躱すがサーバルキャットもこちらの攻撃を躱す。

 そんな戦いを続けていたのだが、今回狙われた東三条さんは勝負を決めるべくかわさない事に決めたような構えをとった。


 「アイスシールド!」


 飛びかかったサーバルキャットの眼前に東三条さんはシールドを作ると、サーバルキャットはさすがにそれをかわすことが出来なかったようでぶつかり動きが止まった。


 「たぁ!」


 ドサリッ


 そこへキィちゃんのハルバードがサーバルキャットの首を切り飛ばし……戦闘は終了した。

 

 「これジャングルまで行くのは中止だな。ジャガーがもしこのレベルの素早さで障害物の中を襲って来るなら、広いここで慣れておいた方が良い」


 「そうですわね……。これだけの人数が揃っていて無傷とは言え、かなり手こずったのは間違いありませんわ」


 その後、俺たちはジャングルまで行くのを止めてサーバルキャットと何度も戦いその素早さに慣れることに成功したのだった。

 

 ちなみに、サーバルキャットの毛皮はかなり高いらしく納品クエストもあるらしかったが誰も剥ぎ取りたがらず、俺もハイオークの値段よりも売値としては安かったのでアイテムボックスに入れることはなかった。

 剥ぎ取りをすればハイオークよりは場所も取らずかなりの高利益にはなりそうだったが、、、

 ライトノベルで語られる異世界であれば解体と同じく問題はないのだろうが、現代では直接剥ぎ取ると言う行為に躊躇いもあって見送ることにしたのだ。


 今宵は今宵でどちらが攻撃を避け続けられるのか!? なんて言って、サーバルキャットと一対一で回避の勝負を始めてしまい……。


 『たーのしー!』


 最後に今宵がそう言葉を発してサーバルキャットとの勝負を決めたのを区切りとして、俺たちはダンジョンを後にするのだった。


 

 



 

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