第134話 オスとメス

 俺たちはダンジョンに入り16階層へ一度飛ぶと17階層を目指す。


 「キィちゃんがゴーストに負けた時に、マコトがいてジョブスキルを使ったら魔力回路も回復したかな?」


 俺はマコトのジョブが治癒士で、そのジョブスキルに回復効果がある事は知っているのだが、傷だけではなく魔力の流れが阻害されたりしているものでも治せるのかが気になって聞いてみる。

 さっちゃんのスタミナポーションの効果もそうだけど、レアジョブのスキルは効果が一つだけでない可能性があった。


 「矜一お兄さんはまた私を揶揄からかって! どうせあの時にすぐ回避をしていれば攻撃をうけてませんでしたよーだ」


 くっ、揶揄ったわけではなく純粋にマコトのジョブスキルの効果が知りたかったんだが、揶揄ったと言われると自分の失態を思い出してもっと状況判断を上手くできるようにならないといけないと考えてしまう。


 まあ、その状況判断の一環でもマコトの治癒が魔力回路や……スタミナ、精神にすら影響を及ぼす可能性があるのならば、知っておくことで何かあった時の対応の一手になりえる。


 「さすがに試した事がないので……どうなんでしょうか? あっ ただ矜一さんのお父さん……恭也さんはやる気が出て来たと言っていました」


 それな。

 母さん曰く、可愛い女の子に回復してもらって鼻の下を伸ばしていたから、それでやる気が出たんでしょう? という皮肉を夕食の時に言われていたんだよなぁ。

 おっさんが事件を起こしたりするのを、テレビのニュースで見たりすると……俺も父さんを信じたいが、母さんの話が的を得ている可能性もあるから……。

 正直、俺が何もない時に回復をしてもらうのは、マコトのスキル発動のやり方的に問題になってしまう。


 「俺以外がダメージを受けたり疲れたりしたらマコトに一度回復をしてもらって、どんな効果があるかわかったら教えてほしい」


 俺は全員に向かってそう発言する。


 「え? 何でお兄ちゃん以外……? ってああ治癒の方法……」


 今宵がマコトの治癒の仕方に言及をするから、マコトが恥ずかしそうに下を向いてしまったじゃないか!


 「今ではこうやって話をしながらゴーストを倒せるようになったから、キィちゃんにもう一度攻撃を受けてもらうと言うのも微妙だよね」


 「さっちゃん!? 体の中が引き裂かれるような痛みと気持ち悪さがあるから二度目は嫌だよ!」


 ……あれそんなに痛かったんだ。

 そりゃあそうか。

 ヒールでは回復できなかったし、気を失うほどだもんね。

 今では笑い話にできるけど、一歩間違えばメンバーの命が失われていただけにダンジョンの怖さを思い出させる一件だった。

 17階層は初見になるので気を引き締めないといけないな、俺はそう思いながら進んでいると、17階層への魔法陣を発見するのだった。



 俺たちは魔法陣移動をして17階層へ足を踏み入れた。

 

 「私様の最大到達階層にこうも容易くきてしまうなんて」


 そう言えば、東三条さんを魔法陣転移で驚かせようと最大到達階層を聞いた時に17階層だって言っていたっけ。

 それなら初見の俺よりも、来たことがある東三条さんに説明をしてもらった方が良いかな?

 俺はそう思って東三条さんに説明をしてもらうことにした。


 「17階層は延々と続く広く天井の高さが見えないほど高い一本道の通路に、ガーゴイルとロックゴーレムが出てきますわ。13階層のリビングアーマーの硬さに空からの攻撃も加わると言った感じですわ。あの少し先に見える座っている羽のついた怪物の石像がガーゴイルで、一定距離まで近づくと動き出しますの。進んでいくとそこにロックゴーレムも加わる感じですわ」


 俺は東三条さんの説明を聞いて、少し先に両サイドで動かずにおかれている石像を見た。


 「また武器の耐久が気になる階層か。キィちゃんと東三条さん以外にはリザードマンやオークが持っていた剣を渡しておくよ」


 俺はそう言うと、アイテムボックスから敵から手に入れた武器を渡す。


 「私のハルバードが火を噴きますよ!」


 キィちゃんがやる気になっているが、すごくしくじりそうで怖い。


 「ガーゴイルは変化をすれば石像のような硬さはなく普通に切れますから、ロックゴーレムが出た時に武器を変ええるといいですわ」


 東三条さんのその言葉を聞いて、さっちゃん達は今宵特製の指輪型アイテムボックスに切れ味の悪い、モンスターから手に入れた武器をしまう。

 おお……。

 容量は少ないのにこういう時に便利だね。


 

 少し進むと一本道の両側に鎮座しているガーゴイルの石像が変化する。


 ギギッ


 バサバサッ


 変化をしたと思ったら、ガーゴイルは羽ばたいて上に舞い上がり、その後俺たちへ直進してくる。


 「くるぞ!」


 「雷遁らいとん稲光いなびかり!」 「フリーズ!」


 ……ガーゴイルの二匹はこちらに来る前に今宵と東三条さんによって瞬殺された。

 今宵のアレはちょっと魔力を多めに込めて見ましたヴァージョンだな。

 東三条さんのフリーズも俺が個人戦で受けたものより威力が数倍になっている気がするが……。


 「なるほど。これが魔力を込めて威力を変えるやり方……。さすが今宵ちゃん凄いですわ!」


 東三条さんは配信を見ていたせいか、やり方を今宵に聞いて自分のものとしているようだった。


 「え? いやいや。今宵ちゃん。私のハルバードが火を噴くって言ったとこだよね?  私のハルバードの出番だったよね!?」


 「あ、ごめん。ついやっちゃった。えへへ。でもこの威力で倒せることが分かったからキィちゃんは控えてて! 待ち構えていたぞ! って石から変化して襲ってくるのに一撃なんだよ、なんか面白いよね!」


 お、おもしろいかなぁ?


 「それであれば私様もやりますわ! 二人でやれるところまでやりますわよ!」


 「うん!」


 「えぇ~。私のハルバードが火……」


 今宵と東三条さんはそう言うと、17階層をガーゴイルを一撃で屠りながらずんずんと進んでいく。

 ちなみに俺はその後ろで、魔石をこそこそと回収している。


 それなりに進むと、ついにロックゴーレムが現れた。

 その横には2体のガーゴイルの石像もある。


 「キィちゃん出番だよ!」


 「えぇ~。明らかにデカいし、硬そうな敵を前に出番と言われても~」

 

 今宵にキィちゃん出番だよと言われてもキイちゃんの足は止まっている。


 「リビングアーマーみたいな硬い相手もいけるってハルバードにしたんだから~。見せ場でしょ!」


 「うーん。じゃあ頑張る!」


 キィちゃんはそう言うと、ハルバードを振り上げて進んでいく。

 そこへ石像から変化したガーゴイルが襲うが、


 「稲光!」 「フリーズ!」


 今宵と東三条さんの魔法でキィちゃんとロックゴーレムの一騎打ちに―――ってこれゴーストの時と同じような流れじゃん!

 俺はなにを悠長に見ていたのかと思いスキルを使った。


 「影残えいざん


 キィちゃんはすでに大きなロックゴーレムに対してジャンプし、ハルバードを振り下ろそうとしている。


 「よいしょー!」


 ゴンッ


 「硬っ あ、でもゴーレムの体が欠けてる!」


 キィちゃんはゴーレムにダメージを与えたことを喜んでいるが、ゴーレムは石なので痛みを感じることはなくこぶしを振りかぶっていた。


 「キィちゃん、攻撃をしたらすぐに下がる! 同じ所にとどまらないで!」


 俺はキイちゃんにそう言うと、ロックゴーレムが振り上げた拳をはじき返す。


 「あ、そうだった!」


 言われて気が付いたキィちゃんは一瞬距離をとり、ロックゴーレムが俺の方へ向いているのを確認すると、もう一度ハルバードを振るう。


 「りゃー!」


 ゴンッ


 「私たちも!」


 どうやらマコトとさっちゃんも参戦するようだ。


 ガンッ


 「硬い……。これ通じていますか……?」


 マコトとさっちゃんはモンスターから手に入れたぼろ剣でロックゴーレムを攻撃しているが、どうにも効いているとは思えない状況だった。


 キィちゃんのハルバードはロックゴーレムを削れているので、最終的には倒せると思うが時間が掛かりそうだなと考えていると、


 「もーぅ。お兄ちゃん、ゴーレムの倒し方って言ったら1つでしょ! オスをメスにすれば良いんだよ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! ニンニンッ!」


 今宵は、手をシュバババッとやって印を結んで九字切りをすると、影残を使って忍者っぽくこちらにやって来る。

 手の動きとかメチャメチャカッコいいけど、ゴーレムについてある文字ってオスではなくてヘブライ語でemethエメト……真実って意味で、その前の文字を消してmethメト……死って意味にすれば良いんだっけ?

 たしかにmethの方はメスって読めるかもしれないけどさぁ、それ英語だと覚せい剤って意味だからな? そもそもemethはオスではないよね。


 俺がそんなことを考えていると、今宵はすでにのゴーレムの周りを影残でまわって文字がないかと探している。

 良くあるのは額に書かれていたりするけど、そこにはないしそんな文字ある訳ないよなぁ。


 「あ、あった!」


 えぇ……、あるの?

 そんなの調べた情報になかったんだが?


 「Ninpo 奈落!」


 今宵はジャンプしてスキルを発動させたかと思うと、シュタっと降りる。


 「オン・アビラウンケン―――バザラド・シャコク」


 今宵は九字を切り力を高めた後に、九字の呪文を解く文言を唱えた。

 いつの間にかムチャクチャ本格的になっている件!


 俺もキャラ付けのために真言でも唱えてみるか?

 「オン アビラウンケン バザラダトバン!」……なんてね。

 って戦闘中に考える事ではなかったなと思いだすが、こうやって悠長に考え事をしているのには訳がある。

 今宵がNinpo奈落を使った後からゴーレムは動きを止めて、力を一切感じなくなっているのだ。


 サラサラサラ……


 そしてゴーレムは大きな音もなく足元から砂に変わり、魔石を残して消えたのだった。


 「ゴーレムを倒すのに苦戦して17階層を攻略できませんでしたのに、こんな攻略法が存在したのですのー!?」


 東三条さんの絶叫を聞いた今宵は、ニンジャっぽい九字の「烈」印のポーズで答えていた。


 九字の「烈」の印カッコいいよね。

 今宵が好きそうな印だなと俺は思いながら、東三条さんと今宵のやり取りを見守るのだった。

 

 



 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る