第133話 密かに決まっていたクラン名

 次の日の木曜日の放課後。

 今日の俺は今宵とその仲間たちとマコト、そして東三条さんとダンジョン前にやってきている。

 マコトだけこちらに来ているのは、桃香と聡の二人はもっぱらクラン……父さんたちの手伝いをしているからだ。

 

 そこで何故か俺のパーティに空きがある時には、マコトを入れてやってくれと桃香がニヤニヤしながら言い、横で聞いていたマコトは桃香が俺に迷惑をかけるのが恥ずかしいのかうつむいて顔を赤くしていた。

 

 マコトがパーティにいるのは全然迷惑ではないので、すぐに承諾したけどね?

 その時は聡も何故か頑張れ! ってマコトを応援していたけど、お前も父さんたちの仕事を頑張れよ。

 いやまあ聡は大丈夫だとは思うけど、桃香はチョイチョイ手を抜きそう。

 父さんが許さないとは思うけど。


 あ、そうそう父さんたちが作った会社とクランの名前が決まったよ。

 会社はなんと株式会社で父さんは基本事項を決めたりするので一時期かなり忙しくしていた。

 ちなみに俺の家族全員が役員になっていたりする。

 

 父さんが会社用の印鑑を4つくらい用意していたので、そんなにいるの? と聞いたら代表者印だとか銀行印だとかいろいろあるそうだ。

 その時に会社の社員バッジも決めていて、蒼を三日月……月で囲んだようなマークにしていた。

 蒼月家の自己主張強いな!?


 そのバッジを桃香たち三人はなぜかすでにいつも付けていたりする。

 なんでも、ダンジョンが出来て中学生(満13歳)からダンジョンに入れて収入を得ることができるようになったのに、それ以外ではいまだに規制をされているのはおかしいということになって労働基準法が改正されたのだそうだ。

 その改正によって満13歳以上であれば、保護者の承認があれば就職が可能となった。


 中学生や高校生の場合は在学している学校の認可も必要なんだけど、矜侍さんが任せとけって言って認可が必要そうな所は全部まわっといたとかで大丈夫になったらしい。

 東校の校長は知り合いだから、一番楽だったそうだ(バレ防止の契約的な意味で)

 あのマフィア校長とは知り合いだったんですね。


 なぜ矜侍さんがそこまで手伝ってくれたかというのにも、もちろん訳がある。

 キィちゃんやさっちゃん、マコト達の保護者に話をしに父さんが行った後に、俺のことも話題になって、矜侍さんに恩を受けているのに一度もお礼を親として言っていないのは筋が通せていなくて良くない! と言い始め「興味がない」という矜侍さんにしぶしぶ両親に会ってもらったのだ。


 その時に父さんがクランや会社を作る話題も出て、名前が決まらないという話になった。

 そこで矜侍さんが、それなら会社名は矜一や今宵が配信で星の名前を付けていることから、星が輝く夜『星月夜starry night』を会社名にして、「人はそれぞれ主役と言える。だから”星を守る騎士の集まる場所”と言う意味で、クラン名は『星空の騎士starry knight』なんてどうだ?」と言う提案があった。


 俺はその提案にどっちも「スターリーナイト」と英語で読むことから、わかりにくくないですか? と言ったのだが、矜侍さんはここは日本で普通は『星月夜』と「星空の騎士」としか読まないが、少し考えて英訳したら読みが同じだって気が付くのが良いんじゃないか! なんて言うのだ。


 そしてなぜかその言葉に感化をされた厨二厨三年生の今宵が洒落が効いていてカッコいいと言い出し、それにしようと駄々をこねて結局会社名とクラン名は『星月夜』と『星空の騎士』に決まった。

 

 まあ俺も英語読みが似ていなければ中二病を罹患しているので、カッコいいとは思っていたのは内緒だ。

 矜侍さんが帰り際に、「お前は一度欠けたを守ることはできるかな?」なんて意味深なことを言って去っていったが……、たまに良く分からない事を呟くけど、きっといつもの神秘的な師匠ムーブを演じるプレイの一環だろうと思う。



 「蒼月君? 急に立ち止まって動かないですけれど、どうかなさいましたの? 今日は17階層に行くのでしょう? 私様も出演するのですから、下見は必須事項です」


 ……んん!? 私様も出演する……?

 そう言えば、今宵からペカチュウの外套を渡された時にそれを着てニコニコしながらこれで私様も……とか言っていたよね。

 ただ、東三条さんには言わなければいけない事がある……。

 

 矜持さんによるライブカメラの魔改造で配信を見た人は俺たちの正体が何故か分からないようになってはいるが、なんでも東三条家は俺や俺の家族と距離が近くなりすぎたために、護衛を含めて効果が効きにくいというか違和感を覚えてしまうらしいのだ。


 そこへ東三条さんが出演してしまうと、さすがにバレる可能性が物凄く高くなるらしく……財閥を一つ傀儡にするのは容易いが、お前矜一はそれ望まないだろう?

 なんてとんでもないことを言っていたのだ。

 俺たちっていうか、世間からすれば東三条家なんて怖い筆頭なのに矜侍さんから見れば一般人と同じ程度のようだった。


 「あー、東三条さんには悪いんだけど、東三条さんは出演できないよ」


 ガビーン! と言う令嬢がしてはいけない顔を東三条さんがする。

 今宵も俺が今まで特に何も言っていなかったので、東三条さんは出演すると思っていたのか意外な表情をしている。


 「当たり前ですよ! ちょっとステータス偽装を覚えたからと言って、ポッと出が私たちと同時に出演なんてありえません」


 「うんうん!」


 キィちゃんとさっちゃんがここぞとばかりに毒を吐く。

 仲良くなったらこの子たちは急に毒を吐くようになるんだよなぁ。

 そう言えばこの二人の出演問題もあったな……。


 「な、何故ですの? 今宵ちゃんからはステータス偽装を覚えれば、私様なら大丈夫だと聞いていましたのに」


 なんだと!?

 今宵のやつめ、また勝手にそんな約束をして。

 俺はそう思って今宵を見ると、今宵は明後日の方向を向いて吹けない口笛を吹いていた。

 ……お前のその誤魔化す時の口笛、いつも音が出ていないからな?


 そこで俺は矜侍さんから聞いた話を東三条さんに話す。


 「お父様や護衛たちが……。それならば、私様にしたように契約をすれば良いのではありませんこと?」


 東三条さんのお父さんに俺が契約魔法……、いやないな。

 そもそも承諾をしてくれないだろうし。


 「うーん、なんでも今の俺が使えるものよりかなり強力な傀ら……奴れ……、俺が扱えるレベルよりも高くないと、関わる人達の規模が多くなりすぎて難しいらしいんだよね」


 たしかに、東三条さんが顔や体型を隠して出演をしたとしても、私様とか言っちゃった時点で東三条家どころか東校の人にもバレそうだよね。


 「そ、そんなー」


 「あ、出荷された!」


 ガックリとうな垂れた東三条さんに、さっちゃんがブタさん出荷ネタをまた……。

 

 「東三条さんの出演はそれらの問題が解決してからだね」


 俺はそう言うと、うな垂れる東三条さんに追い打ちをかけて場を締めるのだった。




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