第129話 発端


 最近の俺たちは一度部室に集まって、全員が揃ってからダンジョンに向かっている。


 「ピッ」


 俺は部室のセキュリティに端末をかざすと、鍵が開いた事を確認して中に入る。

 そう、水戸君が部室に武器を置いておきたいと言う話をしたところ案の定、桃井先生が帰宅する時には鍵をかけるので、自分が帰宅した後は部室を使うことを禁止と騒いでいた。


 俺たちは各自に鍵を持って戸締りをしますからと言っても、「サービス残業がー」とか「学校の施設なのに合鍵を生徒に持たせられるわけがないでしょぉ」と反論を受けることになった。

 たしかに前者のサービス残業はーというのは無視するとしても、生徒が合鍵を持って自由に先生の仕事場(部室)に出入りするのは管理の問題からも良くないと思われて、水戸君は武器置き場をギルドから部室に変更できない事を嘆いていた。


 そこでその話を聞いた東三条さんが、「ロッカーを使えないと言うのも不便ですわね」と言う話をして、なんと学校の端末とセキュリティをリンクさせた装置を設置することになったのだ。

 それにより、何時何分に誰が入退室したかが機械に記録され、端末をかざす事で出入りが可能となった。

 

 ちなみに、桃井先生の仕事場にもセキュリティ端末が付けられている。

 そこには俺たちは入ることが出来ないようになっていて、仕事場の機密を守れる事になったので部員は部室に出入り自由という話になったのだ。


 水戸君たちがロッカーから武器を取り出していると、桃井先生が話しかけて来る。


 「さ、蒼月君。ダンジョンに行くわよぉ!」


 俺と契約をして俺たちの秘密を知った桃井先生は、話を聞いただけでは半信半疑であった。

 ただ、契約魔法を俺が使えていたのでダンジョンで転移や戦う所を見たいと言われ一緒にダンジョンに行った結果……、自分も強くなって稼ぐことが出来ると確信したと言って、それ以来は俺たちについて来て顧問っぽいことをしている。


 「桃井先生、ダンジョンパーティの関係で先生が入ると7人目になって効率が落ちるって言いましたよね?」


 「な、何よ何よぉ。私だって顧問なんだからついて行くわよぉ!」


 しかしステータスの運が実際には何に関係があるのかはわかりにくいが、俺の場合は少しのズレでタイミングが悪くなることが多すぎる。

 この桃井先生がやる気を出した話にしても、もっと前なら顧問として俺を除くメンバーを率いてダンジョンに潜ってくれていれば、猪瀬さんや水戸君はもっと早くにレベル6の壁を超えていたはずだ。


 現状では猪瀬さんたちはパワーレベリングを済まし、11階層のトラップ部屋で大量の魔獣と動き方や連携の仕方を練習している所で、それと同時にダンジョンパーティの人数オーバーで経験値効率を落とすのは微妙なのだ。


 いや、指導と言う面で見れば桃井先生はC級の探索者で教員免許もあり、純粋な魔獣を倒す経験値より、訓練の経験が積めることを考えれば悪くはなさそうに思えた。

 でも……、桃井先生教え方が下手だったんだよなぁ。

 知識はたしかにある。

 でも説明の仕方が論理的より直感的に話すので、わかりにくいのだ。


 最近は今宵たちも中3組で放課後にダンジョンに潜っていて、ちょうど6人なので桃井先生の入る余地がない。

 そこで一度父さんと母さんと桃井先生の3人で組んでもらってダンジョンに潜ってもらった所、戻ってきた桃井先生はそれはもうビクビクしていてチワワ先生になっていた。


 桃井先生がダンジョンから戻って来た時に「お金は儲かるけどこれは違うわぁ。ひぃぃ」って言っていたけど、何かあったの? と夕食のときに両親に聞くと、母さんが話し出す。

 話を聞くと、「ちょい悪、渋いわぁ」とか言って父さんに付きまとったので、母さんが少し脅したらしいのだ。

 桃井先生の普段の言動を聞いていると、想像ができてしまうのが悲しいね。

 

 そうこうしていると、東三条さんが部室にやって来たことからみんなでダンジョンに移動する。


 俺は魔法陣転移で全員を11階層に送ると、最近は自分の時間がとれていなかったので一人でレベル上げでもしようかとみんなに声をかけた。


 「この人数だとダンジョンパーティ的に1人余るから俺はソロでレベ上げをしてくるよ」


 「あ、それでしたら私様も行きますわ。連携や多数との闘いの訓練と言っても、戦力過多なのは間違いがないですわ。指導には桃井先生もいますし、いいですわよね?」


 ふむ。

 まあ東三条さんや俺は11階層の敵はもう幾らいても殲滅できてしまうので、二人が抜けると言うのは妥当な判断かな?


 「うん。一度ハイオークを狩って卸してから、もう一度ダンジョンに戻って探索をしたいんだけどそれでもいい?」


 「もちろんですわ!」


 


 俺と東三条さんはみんなと別れてハイオークを合計で9匹倒し、先に企業買取へ俺のアイテムボックス分の3匹を卸してからギルドの買取所へやって来た。


 そうそう、蒼月家ではハイオークを狩りまくり今では全員がオークが3匹入るマジックバッグを所持していた(今宵の2匹入るバッグは下取りに出した)

 それらを見た東三条さんも同じ容量のマジックバッグを購入して、最近では東三条さんもハイオークを時々卸しているそうだった。



 「おいおい、学生がマジックバッグなんて持ってるぞ! しかも中身はハイオークが3匹! 親に買ってもらったマジックバッグとハイオークでギルドの貢献値稼ぎですかぁ~?」


 俺たちがハイオークを卸し、ダンジョンへ戻ろうとしているとふいに声がかけられる。

 俺たちはそれを無視して移動しようとするが……、


 「おいおい、つれない事をするなよ」


 そう言いながら、3人の集団に回り込まれてしまった。


 「は~。人に話しかけられているのに、無視をするとかまともなマナーを教えてもらっていないのか? さすがは成金、ほしいものは買い与えて教育はせずってか?」


 「「あはは」」


 なんだこいつら。

 何か違和感があるんだよな。

 俺たちに絡んで来たこともそうだけど、普通マジックバッグを持っていてハイオークを卸したところも見ているのに、最初からマジックバッグを買ってもらったかのような話しぶりだった。


 俺たちは今、東校の制服を着ているから普通に考えれば、その獲物は自分たちで倒したものだと思うだろう。

 たしかに二人で6匹のハイオークは多いと思うかもしれないが……。

 だけど、何かが引っかかる。

 俺はそう思い周囲を見渡すと、こちらを見ている東校の制服を着た男が目に入った。


 「東三条さん、あの人を知ってる?」


 俺は気になった事を東三条さんに聞いてみた。


 「え? あ、あれはたしか2年生の……対人戦の学年ランキング1位だった人かしら? 総合ランキング入りをした時に挑まれて戦った気がしますわ」


 挑んで戦ったはずの2年生で1位の人は、東三条さんに忘れかけられていた。

 しかし話を聞いて思ったが、そうなるとあいつがこいつ等をけしかけた?

 

 「おいおい、俺らを前にして乳繰り合うなよ」


 「ち、乳繰り合うですって!? わ、私様と蒼月君が乳繰り合う……」


 東三条さんは男の一人の発言を聞いて、独り言のように「私様が乳繰り合う……」を連呼してポンコツ化してしまった。


 そうこうするうちに、男の一人が東三条さんに近寄ろうとしたので俺は一歩前にでて東三条さんの前に立つ。


 「おいおい、良いカッコしようとして無理をすんなよ」


 「そちらこそ、学生に絡んで恥ずかしくないんですか? あ、もしかして東校を昔受けて不合格だったとか? たしかに頭が悪そう……」


 「テメー! 女の前でカッコつけたいからって、何度も無礼が許されると思うなよ!」


 「ハッ、可愛がってやるよ。そこまで言うんだ。逃げないだろうな?」


 「おいおい、どうせ内心はビビりまくっているんだぞ。脅してやるなよ。でもまあ、ボコボコにはするけどな」


 「「「あはは」」」」



 三人の男たちはそう言うと、俺をギルドの地下訓練場へ連行して行った。

 東三条さんをチラリとみると、ぶつぶつ言いながらもついて来てはいるようだった。


 「というか、女を残して逃げられないからってついてきたのは頑張ったとは思うが、マジで俺らのことをしらないのか? ギルドでも最近は有名になったと思うんだけど俺たちもまだまだか?」


 「トワイライトの三羽烏さんばがらすと呼ばれている安城あんじょう本波ほんなみ 丹場たんばとは俺たちのことだ。よく覚えておけ。ほらよ!」


 トワイライトだって?

 俺はそのクラン名を聞いて一気に警戒心を高める。

 男たちは自分たちが有名と思っているのか、勝手に自己紹介をした後に、俺に木刀を雑に投げて渡してくる。

 俺はそれを拾い男の正面に歩いて行き、剣を構える。


 「安城あんじょうさんに、本波ほんなみさんに、丹場たんばさんね。うん、覚えたよ。あん・ぽん・たん の三人組ってね」


 「テメェ―!! 東校と言うだけで、外部入学の雑魚が調子に乗る。反吐が出るよ。足腰が立たなくなるまでは覚悟しろ!」


 男はそう言うと、自分の持つ木刀を俺に振り下ろして来た。


 俺はそれをギリギリで交わすと、相手の体勢が崩れたところに後ろから木刀で足を思い切り叩いた。


 「ぐぇっ」


 男が倒れて蛙のような声をあげると、一人に任せてニヤニヤしていただけの二人が突然後ろから襲い掛かって来る。


 「「スラッシュ!!」」


 (身体強化アビリティライズ


 俺は後ろの両側からスキルを使われた事で、そのままではかわせないと判断をしてアビリティライズの魔法を使う。

 正直な所……、こいつらは結構強い。

 東三条さんのレベルを知っていて、それを倒せる相手という……レベルだけを見た場合はそういうチョイスな絶妙な強さと言える。


 俺は身体強化の相乗効果で超反応をして向きを変えると、左右から打たれているスラッシュに対応して斬撃を放った。


 「ダブルスラッシュ」


 完全な死角からの攻撃に対応された事で、相手は一瞬の隙ができる。

 そこを俺は見逃さず二人を相手に木刀で滅多打ちにする。


 「ぐふっ、や、止め……」


 過去の俺であればこんな事はできなかった。

 だけど、ある程度は差を見せつけておかないと、何度でもトラブルに巻き込まれるだろう。


 「テメー! ダブルスラッシュ!!」


 最初の男が起き上がったようだ。

 気配でわかっていたとはいえ、声をあげて攻撃をしようとする時点でステータスのゴリ押しだ。

 たしかに、レベル20くらいの強さはあるのかもしれないし東三条さんと俺が戦った時であったなら、もう少しだけは苦戦したかもしれない相手ではあった。

 でもそれだけだ。

 俺も東三条さんも成長しているから、同じくらいのレベルであってもその差は歴然としていた。


 「パリィ!」


 同じダブルスラッシュでも打ち消すことはできるが、木刀ということもあって攻撃スキルを何度も使うと木刀が砕け散る可能性があった。

 だから俺は別の剣術レベルが上がったことで覚える防御の技を使って、相手の攻撃を弾き返した。

 これなら剣同士が当たることなく、スキルの効果ではじき返すことができるのだ。


 (影残えいざん


 俺は相手の剣撃を弾き返すと同時に、今宵が祖であるスキルの影残えいざんを使って一瞬で相手の後ろへ回り込むと、こちらも先ほどの二人と同じように滅多打ちにし、動かなくなったところで俺は攻撃を止めるのだった。


 「お前たち何をしている!」


 3人がうずくまっているのを見たギルド職員がこちらへやって来る。

 ああ、あの二年生が呼んだのか。

 というか俺が前に可愛がられた時には、スルーされたんだけどなぁ。

 俺はそう思いながらこの状況をどうやって乗り切ろうかと考えていると、


 「何をしているかどうか問うのはこちらでしょう! 無頼ぶらいやからが私様たちに絡み、暴行を働こうとしたのです! こちらがやり返せたから良かったものですが、もしそうでなければ貴方達ギルド職員の怠慢ですわ。信用ができないというのならば、買取場前の監視カメラを確認しなさい!」


 ポンコツ化していたはずの東三条さんが、毅然と俺の状況を説明してくれている。

 しかし状況は3人が伸びていてこちらは無傷だ。

 ギルド職員も一歩も引かず、東三条さんはこれは家の者を呼ぶ必要があるかもしれませんわねと言い始めた。


 騒ぎを聞き、さらに駆けつけてきたギルド職員の中に、お互いに自己紹介をした間柄の間宮雫まみや しずくさんがいるのを発見した。

 俺は雫さんに事の経緯を話すと、東三条さんの言う監視カメラの確認もすることとなった結果、先に絡まれたのがこちらだという証明ができて解放されることとなるのだった。


 「トワイライトに逆らったこと……、覚えておけよ(ボソッ」


 俺たちがギルドを出ようとした瞬間に俺が倒した3人のうちの一人が小声でそう発言する。

 ……トワイライト。

 マコト達を襲ったクランもたしかそこだったはずだ。

 俺は……あんぽんたん(安本丹)にギルドで絡まれた事を、あとで皆に伝えて注意を促す必要があるなと思いながら、東三条さんと共にダンジョンへと戻るのだった。


 


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