第118話 父さんな……。
特にこれといったこともなく、今週の学校登校を終えた花の金曜日。
家に帰ると父さんが既に帰っていて、まだ帰ってきていない今宵が学校から帰宅したら家族会議を開くからリビングに集まるようにという話をされた。
あ、
父さんが子供の頃に流行っていた言葉だそうで、死語だろと思っていたら最近テレビで特集されていて驚いた。
何でも死語になりつつあった言葉なそうなんだが、アメリカで
ちなみにTGIFはそのまま「ティージーアイエフ」と言って使うらしく、神様ありがとう、金曜日です! という文章の頭文字をそれぞれとった略語だそうだ。
FriYAYはアメリカでも最近SNSを中心に見られるようになった表現で、Friday(金曜日)と
古い言葉もこうやって回帰するんだなぁ。
「ただいまー」
そんなバカなことを部屋で考えていると、今宵が帰ってきたようなので俺は部屋をでてリビングに向かう。
「おかえり。父さんが家族会議するって。聞いた?」
「あ、お兄ちゃんただいまー。うん、今聞いたとこー。着替えてすぐ行くね」
俺は今宵とすれ違いに言葉を交わすとリビングに入った。
するとそこには、テーブルの上に両肘を立てて口元で手を組むポーズをした司令官スタイルの父さんが……いなかった。
「父さん、俺たちを待つ間に疲れたんだろうけど、組んだ手の上に顎を乗せていたら、深刻な事態を前にした司令官ポーズになってないよ?」
「きょ、矜一。もう降りて来たのか。矜一が入って来る前には戻そうと思っていたんだけどな。テイク2を要求する! もう一度リビングに入って来てくれ」
俺は父さんのその言葉を聞いて父さんの隣に座っている母さんを見ると、『ヤレヤレ、仕方がないから聞いてあげなさい』と無言なのに言っているように思えて、俺は一度リビングから出て入りなおすのだった。
するとそこには、テーブルの上に両肘を立てて口元で手を組むポーズをした司令官スタイルの父さんが、深刻そうな表情で座っていて無言を貫いていた。恐らくこのまま今宵を待つのだろう。
「おまたせ! ってお兄ちゃん、お父さんのアレ何してるの? 司令官ゴッコ?(ゴショ」
「なんか大事な話がある前振りじゃないか? きっと童心に戻ったんだよ」
「あ、そうなんだ。自分たちの子供を前に童心に戻るってどうなんだろうね?」
ゴホンッ!
俺たちがコソコソと父さんをディスっていると、それに耐えかねた父さんが一度咳払いをして俺たちの会話を終わらせる。
どうやらこれから本題に入るようだ。
「えー、皆に集まってもらったのは他でもない。この度……蒼月
バーン! と父さんは仕事を辞めたことを言い放ち、母さんはハァとため息を吐いた。
「まさか……お父さん、お兄ちゃんがお父さんより稼ぐようになったからってニートになろうって言うんじゃ!?」
いや今宵よ。
父さんも空間魔法を使えるし、既に俺たち家族は全員レベル20。
父さんと母さんはこの間試験を受けて探索者ランクCになったと言っていたし、普通に探索者として専業で行くってことだろう?
まあ今宵ならわかってて言っているはずだけどね。
「でも父さん、たしか一流企業の総合商社で一番の出世頭だとか言って自慢していたのに辞めて良いの?」
中学のいつだったか忘れたけど、課長に昇進して同年代で一番の出世頭になったと夕食の時に祝い酒を飲みながら俺と今宵に自慢してきていたんだよなぁ。
「そんな昔の話は忘れた! いやな? 父さんは総合商社に勤めていただろう? 総合商社って言うのは、あらゆる産業のあらゆる商品・サービスを取り扱っているんだが、その伝手を使って起業する事にしたんだ。だいたい、魔石はギルドランクを上げるためにもギルドに納品することは必要だが、オーク肉や毛皮、他の素材なんかは自分たちで売れるのなら中間マージンを取られることもない。それに家族全員がアイテムボックスを使えるのに、表立って使えているのは矜一だけだ。自分たちの会社ならオーク肉をとり放題、売り放題なんだ!」
どーん!
という効果音を感じるくらいに、父さんは一息に捲し立てて勤めていた会社を辞めた理由を俺たちに説明した。
アイテムボックスに関しては俺も表立って使えている訳ではないけどね。
「お父さん凄い! 社長さんになっちゃうんだね!」
さっきまでニートになるの? と言っていたとは思えないテンションで、演技ではなく本気で今宵は興奮している。
まあ、社長って響きがカッコいいよね。
でも家族でやるなら個人事業だろうから、今宵が思っている大企業のテレビで見る社長のようなセレブな感じは今後も父さんはならないと思うぞ。
「そうだろうそうだろう。うははは! 辞める前に有給も消化するから父さんな、2週間は一足早い夏休みなんだ! いやー、会社には結構前から話していたんだけどな、俺が抜ける事で困らないようにしっかりと引継ぎをしたりオーク肉を売る話を上司と相談していたりしたら遅くなってしまったよ」
父さんが凄いのかダメなのかわからない有給の話を俺たちにして自慢する。
ただ、『俺、会社辞めます!』っていきなり辞表を提出したんじゃなくて安心はしたかな?
俺たちは意見を出し合い途中に夕食を挟みながらも、今後の蒼月家の未来のことで白熱した話し合いは続いて、夜が更けて行くのだった。
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