第116話 バーゲスト

 14階層へ足を踏み入れた俺たちは周りを警戒しながら進む。

 この階層はヘルハウンド……黒く大きな体躯に赤い目をした大型犬と、その上位種であるバーゲストが出没する。


 バーゲストは基本的な見た目はヘルハウンドと同じだが、それよりさらに大きく力や素早さといった能力も一回り上だ。

 また人間を殺して食べた個体は首のない人の姿になることも確認されていて、その個体を発見した場合には討伐の後にギルドに性別や服装などの情報をできるだけ申告する事が推奨されている。


 なお、腕を齧られたとか死にかけるまで攻撃を受けただけでは人の姿になることがないために、その姿の個体がいる場合には確実に誰かの生命が失われていることを意味しているそうだ。


 「この階層はヘルハウンドとその上位種が出る。6階層のブラックウルフとフォレストウルフを早く強くしたと思って対処しよう」


 俺は14階層の魔獣の特徴をみんなに軽く説明しながら先を進んでいく。


 しばらくすると気配察知に反応があった。


 「二匹発見。約200m。一匹は俺が対応する。もう一匹は東三条さんお願いできる?」


 「もちろんですわ」


 俺たちは対応を話し合い、少し進むと相手もこちらを察知したのか一気にスピードを上げて迫ってくる。


 「これは結構早いな。他のみんなも抜けられる可能性があるから警戒をお願い!」


 俺は後ろに控えている4人にそう言うと剣で一閃する。

 ヘルハウンドは横腹を切り裂かれても一撃で倒されることはなく、こちらへ噛みつこうとしてきたためにその口へ剣を突き刺し絶命させた。


 東三条さんの方を見るとそちらも倒し終わっているようだった。

 俺は魔石をヘルハウンドから取ると、先ほどの戦闘について話す。


 「一撃で仕留めるつもりだったけど、少しだけズラされてダメだった。13階層といい急に本当に敵が強くなった気がする」


 「13階層は敵の耐久力、14階層は素早さ特化ですわ。もちろん1撃の攻撃力も強いのですけど」


 しかしこうなってくるとタンク……盾持ちで攻撃を防いでくれる人がパーティーに一人はほしい所だが、俺たちはここにいない仲間を含めて見事に盾持ちがゼロだった。

 というかウチのクラスでも盾持ちって1-4クラスとの対戦の時にはみなかったような?


 「これだと盾持ちがほしいね。5クラスだと誰もいなかったんだけど、1クラスだといたりする?」


 俺は自分の所属するクラスに盾を持って対戦をしていた人を見なかったので、1クラスはどうなのか東三条さんに聞いてみる。


 「大盾もしくは盾を持っている人はチームに一人はいるとは聞いていますわ。ただ……常に持っている訳ではなくて、行く階層で変えるらしいですわ」


 「なるほど」

 

 1クラスはキチンとチームで分担作業ができているらしい。

 そう考えると俺たちのパーティーは固定ではないし分担を明確にしていない。


 しかし俺たちだと父さんや俺、そして聡くらいしか攻撃を受けるという役割ができそうなイメージがない。

 キィちゃんも戦士に職業を変えればできるのか?


 まあ、攻撃は受けずにかわして攻撃特化でも良い気がするが……この件については帰ったら父さんと相談だな。


 「じゃあ次は今宵が一人で、キィちゃんとさっちゃん、マコトは3人でやってみて」


 「おー!」 


 今宵は勢いよく返事をすると、横にササッと反復横跳びをして残像を作り気合十分のようだった。


 「がんばります」


 対してマコトは少し緊張していたが気合をいれ、キィちゃんとさっちゃんは無言で頷いた。



 俺の気配察知はかなりの広範囲を察知できるようになっているので、できるだけヘルハウンドが二匹の所を探して倒していく。


 全員が複数回ヘルハウンドと対戦する頃には俺と今宵は一撃で倒せるようになっていて、そのタイミングや力の入れ方をマコト達に教え3人も上手く連携して立ち回り2匹が相手でも倒せるようになっていた。


 ちなみに東三条さんは最初から一撃だったが、それでもいつもはパーティで倒すので1対1で魔獣に対応することは少ないらしく、自分の上達を実感していたようだった。


 

 「お兄ちゃん!?」


 今宵が魔獣に反応して俺に声を掛ける。

 3匹こちらに向かってくる中で一匹の気配は今までよりかなり大きい。

 恐らくバーゲストだろう。


 「魔獣3! 一匹はバーゲストだと思う。念の為にバーゲストは俺と今宵と東三条さんで対応! 残りの2匹を3人でよろしく」


 「うん!」 「わかりましたわ!」 「「「はい!」」」


 「来るぞ!」


 一際ひときわ大きな黒い塊が襲い掛かってくる。

 俺はその攻撃を避けるが、すぐに相手が移動したために攻撃を加えることができなかった。


 「Ninpo 奈落!」


 今宵がNinpoを使う。

 バーゲストの足元に落とし穴ができる。

 が、それをバーゲストは感知してかわした。

 そこへそれを見越していた今宵の雷撃を伴ったスラッシュがバーゲストにさく裂する。


 今宵のそれはバーゲストに大ダメージを与えるが、それでも倒すことはできずバーゲストはそのまま今宵に向かう。


 「私様わたくしさまが3人の中で一番弱いと思って狙わなかったのでしたら失敗ですわね。ダブルスラッシュ!!」


 今宵に向かったバーゲストの無防備な横腹に東三条さんのダブルスラッシュが決まる。

 バーゲストは倒れて動かなくなったので、今度は倒せたようだった。

 俺はそれを確認してマコト達を見ると、マコト達もちょうどヘルハウンドを倒しきった所のようだった。


 てか俺は避けただけで今回は何もできなかった。

 一人でも倒せるとは思うが、14階層までの敵でミノタウロスと並んで一番苦戦する事は間違いないだろう。


 「お疲れ」


 俺はみんなに声を掛ける。


 「結構強かった~!」


 今宵は戦闘が楽しめた~、といってウッキウキだ。

 俺は気持ちを引き締めないといけないと感じたのに、今宵からすれば余裕だったのか? 

 まあ……避けられた時点でダメージまで負うかと言われれば負わない気はするが、結構緊張したんだが?


 「さすがですわ! バーゲストに無傷で完勝するのは私様がチームで潜っている時でもなかったですのに、初戦で対応するなんて凄いですわ!」


 東三条さんがバーゲスト戦の俺たちを称賛している。

 というか止めを刺したのは東三条さんなので貴女が凄いですわ。



 俺たちはさらにその後にヘルハウンドと何度も対戦をして戦闘に慣れてから、オークを狩りに一度階層を変えてダンジョンを後にするのだった。


 ちなみにバーゲストが出現するのは結構レアなことらしく、1日中14階層を探索しても出会わないこともあるらしかった。


 もう何度か対戦をしておきたかったが感知にも引っかからなかったので、存在自体がいなかったのかもしれない。

 久々に手ごたえを感じたダンジョン探索に満足した俺たちは魔石やオークをギルドと企業買取に卸すと帰路についたのだった。

 


 

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