第114話 リビングアーマー

 「じゃあ俺たちもダンジョンに入ろうか」


 東三条さんとマコトとの契約を終えた俺は、みんなをダンジョンに促した。


 今日の朝に東三条さんのダンジョン最大到達階数を聞いた所、17階層らしく俺たちよりもかなり先に進んでいることが判明している。

 そこで東三条さんだったら鏡君たちとチームを組んでいるのかと思い、日曜日に俺たちと探索をしていいのかと東三条さんに尋ねると、どうやら彼女は東三条家の護衛とダンジョンに潜っているようで俺たちの方に来ることは問題ないそうだった。


 そして東三条さんが言うには、東三条さんと一緒に潜る人たちの中で俺も知っている人もいるという。

 誰だろうと思って聞いてみると、送り迎えで会ったことのある運転手の二人がそうらしかった。


 そう言えば運転手の人はどちらもかなりの強さを感じたので、東三条さんを守る上でも連携を深めているのかもしれない。


 俺はあえて何階層まで行こうと言う話をせずに1階層の魔法陣まで到着すると、みんなを見渡す。


 すると今宵は期待した目で『ていっ』としてキィちゃんとさっちゃんもそれに続く。

 今宵のあの期待の目は絶対にイオリさんの時の階層移動のことを思い出して、東三条さんを驚かせようって感じだな。


 俺も実は東三条さんが驚く顔を見てみたいので、魔法陣で階層を飛べることを言っていない。

 今宵たち三人は確実にわかってると思うし、マコトにも13階層の話はしているので東三条さんが契約を結んだとこもあって13階層へ行くということはわかっているだろう。


 俺は飛ぶ確認を込めてマコトをみる。

 するとマコトは今宵たちのポーズを見たせいか、電車の駅員さんの敬礼ポーズより少し手のひらをこちらに向けた可愛らしいポーズをとった。


 そして俺は最後に東三条さんを見ると……、クッ……。


 ……他の女性陣を見て東三条さんもポーズを真似たのか。

 テレビで昔の特撮映像が流れていた時のウルトラマンのポーズ……両手の人差し指と中指をおでこに当てるポーズをしていた。


 父さんが働きマンっていうドラマでもこのポーズを見たなとか確か言っていたが、なぜか東三条さんはそのポーズを恥ずかしそうにやっているのだ!


 敬礼ポーズならもうほぼ今宵のポーズと同じなので理解ができるが、どうして東三条さんは両手でしかも二本指で額から光線を出すようなポーズにしちゃったの!?


 こっちが階層移動で驚かせようとしたのにまさか先におどろ……笑かされそうになるなんて! 

 俺は一生懸命に心を静めて13階層をイメージして魔法陣転移を使ったのだった。


 

 13階層に飛んだ俺はイオリさんのような反応を期待して東三条さんを見る。

 しかし東三条さんは一切驚いている様子もなく普通に階層転移を受け入れていた。どういうことなの!?


 ああ……、契約のスクロールでも驚いてなかったけど、東三条さんがいつも探索するあの運転手さんたちの中の誰かが空間魔法を使えるのか? 

 そう考えると驚かないことにも辻褄があうなと俺は納得した。


 しかし東三条家ってどれだけ凄いんだろう。

 空間魔法はいつだったかは忘れたけれど、矜侍さん曰く(自分たちを除けば)かなりレアと言っていた。


 「13階層はここではリビングアーマーが出ますから、敵の耐久が高くて攻略するには少し時間が掛かりますわ。光の攻撃魔法が使えればかなり楽になりましてよ」


 お嬢様のアタフタする姿を見たかったのか、その説明を聞いて今宵がスンッとなった。


 13階層から俺たちは未体験ということも東三条さんには話していたからなのか、東三条さんは周りを見るとすぐにこの階層の説明をしてくれた。


 しかし光魔法の話の時にチラリとこちらを見たことや外套の話を含めると、やはり東三条さんは俺たちの配信のことに気づいていたのかな? 

 それならそっち方面から知っているので驚かないっていう線もあるのかもしれない。


 「リビングアーマーって響きがもう強そうです」


 マコトがこの階層にでるのがリビングアーマーと聞いてそんなことを呟いた。


 「たしかに。東三条さんの話だと耐久も高いみたいだから、遭遇したらまず俺が戦ってみるからみんなは援護して」


 「え~。今宵もやりたい~!」


 ……ミノタウロスを倒した時のことを考えれば俺より攻撃力がかなり高そうなのでやらせてみてもいいが……、簡単に倒す可能性があるので最初はどんな敵か見るためにもやはり俺が戦った方が良いように思う。


 あ、そうそう。

 魔力制御のレベルは俺と今宵は同じで俺も魔法に魔力を多く籠めると威力が上がることは確かめている。

 ただし、稲光ほどの出力は出なかったので、ミノタウロスを俺が倒すにはおそらく2撃以上必要そうだった。


 「んー、今宵だと絶対最初から全力攻撃だろ? 手加減しろって言う意味じゃなくて、こうなんていうのか最初に出会う敵は全力で対応するけど、様子を見ながら少しでも簡単な倒し方を探したりしてみたいんだよ」


 「そんなことないし!? でもお兄ちゃんがそこまで言うなら仕方ないなー」


 今宵はしぶしぶと言う感じで初戦は俺に任せてくれるようだ。


 「みんなもそれで良いよね?」


 俺はそう言ってみんなをみると、


 「もちろんですわ」 「「「はい」」」」


 という返事が聞けたので、13階層の探索を始めた。


 

 しばらくすると気配察知に反応があったので、そこに向かとリビングアーマーを発見した。


 「ほぇー。ちょーカッコいい~」


 今宵がリビングアーマーを見てそんなことを言っている。

 実際、俺もそう思う。西洋の騎士が着るような甲冑がそこには浮かんでいたからだ。


 「よし、やるぞ!」


 俺はそう言うと、リビングアーマーに剣で攻撃を加えた。


 ガンッ


 かなりの力を込めて切りかかったのだが剣が弾かれる。


 「これは……こっちの剣の耐久が持たないんじゃ?」


 恐らく1,2匹であれば問題はないとは思うが、この階層を抜けるためにはもっと多くのリビングアーマーと戦うということを想定すれば、刃がかけることは容易に想像ができた。


 俺は少しでも剣の耐久を上げるために、剣に魔力を纏わせながらリビングアーマーと切り結ぶ。

 何回か切り結んだ末に俺はリビングアーマーを倒すことに成功した。


 「ふう。強くなると言われる11階層ではほとんど変わらなかったけど、急にこの階層から敵が強くなったな」


 俺は戦った感想を言いながらみんなに手ごたえや戦い方の話をした。


 「あの耐久だと剣が持たなそうです。私のはまだ学校のレンタル品を貸してもらっているので、矜一さんどうしたらいいでしょう?」


 マコトは借り物の剣が壊れるのは困ると俺に聞いてくる。

 たしかにこれだとほぼ確実に進めば刃がかける……。

 どうすべきかと考えていると、ハッとリザードマンたちと対戦した時に相手が持っていた剣を大量に回収していた事を思い出した。


 「リビングアーマーにはリザードマンから回収した剣を使おう」


 俺はそういうと、みんなに剣を渡した。

 リザードマンの剣は切れ味がかなり悪いが、リビングアーマーの相手では切るというより叩くと言う様な表現の方が合っている。

 だからこの回収した剣を使って、折れたらまた別の剣を使えば自分たちの剣の耐久を落とすことなく進んで行けると気付いたわけだ。


 「今日使っているのはリビングアーマーでも斬れる魔剣なので私様わたくしさまは大丈夫ですわ」


 俺が東三条さんにも剣を渡そうとすると、使っているのが魔剣だからと言って断られた。

 って持ってるその剣は魔剣だったの!? 

 俺が階層転移で東三条さんを驚かせようとした罰なのか、逆に驚かされてしまって恥ずかしい顔を東三条さんへと晒すのだった。


 

 

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