第113話 信用と信頼

 次の日の日曜日。

 俺たちは両親を含めた何時ものメンバーでダンジョン前に一度集まってメンバー分けを済ませている。


 昨日は俺と七海さん、猪瀬さんでダンジョン探索部と階層の競争をしたことなどから土曜日にダンジョン攻略道のメンバーが集まった結果、日曜日も一緒に攻略しようと言う話になった。


 だけど、俺は休日はいつも妹と組んでいるパーティでダンジョン攻略をしているからという理由で不参加を表明した。


 水戸君と猪瀬さんはレベル6になってはやく壁を突破したいということもあり、1日中潜れる日曜日は貴重だ。

 そのため今日は七海さんと葉月さんはダンジョン攻略道のメンバーと潜る事になってダンジョン内部へ既に出発している。


 両親たちも二人で先に出発していて今日の俺のメンバーは……、


 「マコトは本当に一人だけこっちで良かったの?」


 「はい。桃香と聡からは色々矜一さんに教えてもらってこいって。あと一人だとオークの分配も……もらえるだろうしって」


 桃香と聡の二人は今日は1日中ビッグマウスの狩りをして稼ぐことを選択したようだった。

 オークの話はアイテムボックスがある俺とチームを組むと分配が高くなるからという桃香の冗談だ。

 一人じゃないと分配しないなんてことはないからね。


 残りは……、今宵とキィちゃんとさっちゃん。

 そしてなぜかダンジョン攻略道のメンバーの方に行かなかった東三条さんが今回の俺のチームに加わることとなった。


 ダンジョン前で今宵と東三条さんが向かい合った時には、なぜか俺には今宵が子猫に見えてしまってフシャー! と東三条さんを威嚇しているように見えた。

 対する東三条さんにはトラ……の幻視を一瞬見たが、すぐに「アス……、妹ちゃん可愛いですわ!」と言って今宵に抱き着いていた。


 そしてその後はなにやら二人でコソコソと話しだして、「私様わたくしさまはペカチュウの外套が欲しいですわ」とか言っていたんだが……まさかね?


 そう言った経緯もあって、今日も俺たちのチームが一番最後にダンジョンへ入ることとなっている。



 「お兄ちゃん。大丈夫だとは思うけど、一応契約のスクロールを使ってくれる?」


 考えごとをしていると、今宵が東三条さんへ契約のスクロールを使う方が良いと言う。

 使わない場合は階層転移やアイテムボックスが使えなくなるので行ける階層が限定されてしまうが、東三条さんはそんな訳の分からない契約を受けてくれるだろうか?


 俺は断られた場合は昨日と同じようなマラソンをして階層移動するしかないな、と思いながら東三条さんに話をした。


 「東三条さん、悪いんだけど俺たちのチームって言うか、仲間には周りに秘密にしたいことが結構あって、その秘密を守るために俺たちと契約を結んでほしいんだけど……お願いできるかな?」


 「もちろんですわ」


 俺の提案に東三条さんはそれ以上の説明を求めてくることもなく、あっさりと承諾をする。

 それならばと俺は契約のスクロールを取り出してスクロールを使い、東三条さんと契約をすることに成功した。


 「では私様たちもダンジョンに行きましょう」


 えぇ? 反応そんななの? 

 イオリさんの時とかすごくビックリしていたのに!? 

 もしかしたら名家の人たちって日常的にこういう契約をしているのかな? 

 漏れたらダメな話とか多そうだから。


 「ま、待ってください! 矜一さん私にもそれを使ってくれませんか?」


 東三条さんが初めて俺たちのメンバーとダンジョンに行くとは思えないほど慣れた感じでダンジョンへ行こうとした時に、なぜかマコトが契約のスクロールを自分にも使ってほしいと言い出した。


 いや、矜侍さんからもらったスクロールは残り一つだし今更マコトに使う意味が……。

 それにマコト達3人に使うなら一番に桃香に使いたいし、その次に使うなら姉弟の関係性を突かれた場合に問題になりそうな聡に使いたい。


 正直なところマコトの場合は、二度も命を救われたことを重く受け止めすぎていて(1度目が命に関わっていたかどうかは不明だが)何かあれば命を捨てて俺を優先しそうな感じがあるので、スクロールを使う必要性を感じないのだ。


 「お兄ちゃん、使ってあげたら?」


 少しのあいだ悩んでいると、今宵が使ってあげれば良いと言う。

 でも使う意味がないし、自分から何かを話せなくなりたいとかってマコトはドMかなにかなの!?


 「いや、でもな。いまさら使う必要性を感じないんだけど?」


 「うーん、マコトちゃんはお兄ちゃんを裏切らないって信用してほしいんだよ」


 いやいや、信頼してるし。

 今宵がそういうってことは、マコトのことを信頼していないと思うような行動を俺がとったってことだろうか?


 「信頼しているから使わなくて大丈夫だよ」


 「それでも使ってほしいんです」


 ……これドM確定だわ。


 「お兄ちゃん? なんか勘違いしてない? マコトちゃんが言いたいのは、お互いが信頼しているってわかっていても形がほしいってことなんだよ」


 おかしいな? 

 俺の理解力が足りないのか今宵の言っている意味がイマイチ……。

 信頼しているのに形がほしいってどういうことだろう?


 「今宵ちゃん、矜一お兄さんは鈍感なんだからその説明じゃわかんないでしょー」


 キィちゃんがなぜか俺をディスってくる。

 鈍感とか関係ないよね? 

 これはあれか? 男は理論的に考えるけど、女性は感情を優先するって話のやつか? 

 それで俺が理解できていない??


 「矜お兄さん、今宵ちゃんが言いたいのはこういう事です。例えば何か嬉しいことを誰かにしてもらうとします。本当に嬉しくて、その嬉しいことをしてくれた相手に心からありがとうと言って言葉で伝えたとします。でも、その相手にはどれだけ自分が嬉しかったかありがたい気持ちか、ということは伝わりにくいですよね。そこで、何か物を渡しながらありがとうと言えばそれだけ(物の価値分は)の気持ちが伝わりますよね。そういうことです」


 ん-? わかるようなわからないような。

 俺が困っていると、今宵がこれだ! という顔をした。


 「お兄ちゃん! お兄ちゃんがもし誰かに結婚を申し込むとするよね。その時に結婚してください! だけを言うより婚約指輪や花束を一緒に渡す方が気持ちが伝わるでしょ? そういうことだよ!」


 いや、さっちゃんの話の時からそういう意味で気持ちが伝わるってことはわかってたよ? 

 ただ、契約のスクロールの話に当てはめるとイマイチ……。

 まあ確かに契約をすれば俺たちの不利になるようなことは話せなくなるので、信頼という目に見えないものではなくて契約したという形が残るのはたしかに重要かもしれない。


 「じゃあマコトにも。俺や矜侍さんが話してはダメだと思うことや話す事で仲間が不利になると思われることを話せなくなる契約を受けますか?」


 「はい!」


 マコトが返事をすると契約のスクロールは魔法陣を描いて消えた。

 しかしこれで次の壁を超えたら契約のスクロールか契約の魔法が直接つかえるものが出た場合は優先的に覚える必要が出て来てしまった。

 それらの魔法はずっと覚えようと努力はしているのだが、今の所は自力習得にはいったっていない。


 「今宵ちゃん。じゃあ私は矜一さんと同じクマさんの外套で(ゴショ」


 「えー。みんなバラバラだから片耳を白にしてパンダで良いー?」


 ……、いや配信には出させないからね!

  俺は今宵たちの内緒話……もとい何となく聞こえるくらいで話されている会話に対して、そう心に誓うのだった。


 




――――――――――――――――――――――――――――

謎の露天商:「その時に持っていた自分の全財産を使い指輪を求めても……、人の心というものは移ろいゆく……」

 

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